個人的評価: ■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]
完全復活の石井隆監督。物語序盤で女刑事が主人公のなんでも代行屋の前科を調べて17年前の事件の概要を説明してくれる。つまり94年の「ヌードの夜」のあらすじ解説になるのだが、ああそんな話だったっけと記憶を呼び戻すのに役立つ親切な配慮だが、同時にあれからもう17年もたつのか・・・と感慨深いものがある。
90年代、まだ若かった私は石井隆の映画に接しても嫌悪の方が強く感じられた。
長まわしでレイプや殺人シーンを延々と映すその演出が悪趣味に感じられた。けれども狭い空間でカメラも俳優に近づき数分間憎悪の表情を浮かべ続ける俳優たちの姿を、目を逸らすことなく撮り続けることで、キャラクターたちの感情はびりびり伝わる。逃げ場のない撮り方により俳優たちも追い込まれるのか男も女も必死の形相にな。観ているこちらも殺されるか犯罪に加担するかのどちらかを迫られているような強迫観念を抱く。そんな追い込まれた女と男の濃密世界はやはり記憶に深く刻まれる。取り憑かれたように石井監督作品を探しては観た。
「死んでもいい」も「GONIN」も「GONIN 2」もVシネとかも面白かった。
けれどゼロ年代の石井隆は正直惹かれなかった。「花と蛇」も逃げ場のない濃密さや嫌悪されるのも厭わない演出はたしかに石井節と言えるものではあったけれど、上映時間のほとんどが女が嬲りものにされるだけで、逃げて終わりでは感動のしようがなかった。
そしてあの石井隆の最高傑作と信じて疑わない「ヌードの夜」の続編が、前作と同じく竹中直人主演で戻ってきたとなれば観ない手はなかった。
いきなり殺人場面から幕を開け、血まみれになりながら証拠隠滅をはかる母と娘二人の場面へと続く。
殺し、血や臓器、近親相姦、暴力とセックス、それらをリズミカルにテンポよくギャグをちりばめながら描く軽薄さはない。長まわしはもちろん一つ一つのシーンがやたら長い、テンポという点ではきわめて悪い、執拗なほどギトギトな演出。
ぽん引きにいいようにボコられる主人公、何かに怯えていて時々みっともないくらい卑屈になるヒロイン、ヒロインに溺れる主人公、そしてクライマックスで延々続く殺害場面。90年代の作品よりもさらに嫌悪感を増して、みっともなくうす汚くかっこ悪く情けないキャラたちと、閉塞感と恐怖感。いまやこの嫌悪感がむしろ心地よく感じられる。
それでいて妙に長い主人公と女刑事とのラストシーンに漂う安息感はなんだろう。陰気で生きるエネルギーを感じさせないぼろ布のようになった主人公に女刑事が食べ物を持ってくる場面が、何度も何度も繰り返される。安らぎのシーンですら執拗に繰り返す姿勢を貫き、食べるという行為と窓から差し込む柔らかな光でもって生気を表現する。惰性で生きてきた主人公が初めてアクティブに生きることを選択して映画は終わる。人生は憎しみも悲しみも苦しみもあるけれど、それでも人は生きていかねばならないとラストは語っていた。
石井映画でやたらと画面に洗われる雨。単に雨が好きだからというだけでなく映画に必要不可欠なパーツとしてフル活用されている。今回も雨はキャラたちの涙を代弁し、汚れたものを洗い流すシャワーのようでもあるが、顔にはり付く髪やビダビタになった服などは場末の不潔さをより際立たせ、濃密な映像に湿度の高い印象も与えるなど、いろんな意味で演出と一体化して映画を膨らませている。
脚本運びも90年代のころのキレの良さが帰ってきたようだ。
女刑事がGPSで主人公を追跡することを、単に物語を終息させるための伏線とするのではなく、ヒロインにスタンガン以上に凶悪な拳銃という凶器を与え、終わりかけた物語をさらにヒートアップさせるための伏線として使っていたところがすごいと思った。
男と女の情と欲と憎しみと愛情をこれだけ濃く深く描ける監督が世界に何人いるだろう。
テンポの悪さや感情移入不可能な母娘たちの言動はもちろんこの映画の欠点なのだけれど、石井隆なりの映画表現を突き詰めた結果なのだから、欠点も嫌悪も含めてこの映画を愛したい。
DVD化されたら「ヌードの夜」と続けて楽しみたい。体力の要る二部作だが。
********
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください
この企画が講談社のセオリームックシリーズ「映画のセオリー」という雑誌に掲載されました。2010年12月15日発行。880円
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
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完全復活の石井隆監督。物語序盤で女刑事が主人公のなんでも代行屋の前科を調べて17年前の事件の概要を説明してくれる。つまり94年の「ヌードの夜」のあらすじ解説になるのだが、ああそんな話だったっけと記憶を呼び戻すのに役立つ親切な配慮だが、同時にあれからもう17年もたつのか・・・と感慨深いものがある。
90年代、まだ若かった私は石井隆の映画に接しても嫌悪の方が強く感じられた。
長まわしでレイプや殺人シーンを延々と映すその演出が悪趣味に感じられた。けれども狭い空間でカメラも俳優に近づき数分間憎悪の表情を浮かべ続ける俳優たちの姿を、目を逸らすことなく撮り続けることで、キャラクターたちの感情はびりびり伝わる。逃げ場のない撮り方により俳優たちも追い込まれるのか男も女も必死の形相にな。観ているこちらも殺されるか犯罪に加担するかのどちらかを迫られているような強迫観念を抱く。そんな追い込まれた女と男の濃密世界はやはり記憶に深く刻まれる。取り憑かれたように石井監督作品を探しては観た。
「死んでもいい」も「GONIN」も「GONIN 2」もVシネとかも面白かった。
けれどゼロ年代の石井隆は正直惹かれなかった。「花と蛇」も逃げ場のない濃密さや嫌悪されるのも厭わない演出はたしかに石井節と言えるものではあったけれど、上映時間のほとんどが女が嬲りものにされるだけで、逃げて終わりでは感動のしようがなかった。
そしてあの石井隆の最高傑作と信じて疑わない「ヌードの夜」の続編が、前作と同じく竹中直人主演で戻ってきたとなれば観ない手はなかった。
いきなり殺人場面から幕を開け、血まみれになりながら証拠隠滅をはかる母と娘二人の場面へと続く。
殺し、血や臓器、近親相姦、暴力とセックス、それらをリズミカルにテンポよくギャグをちりばめながら描く軽薄さはない。長まわしはもちろん一つ一つのシーンがやたら長い、テンポという点ではきわめて悪い、執拗なほどギトギトな演出。
ぽん引きにいいようにボコられる主人公、何かに怯えていて時々みっともないくらい卑屈になるヒロイン、ヒロインに溺れる主人公、そしてクライマックスで延々続く殺害場面。90年代の作品よりもさらに嫌悪感を増して、みっともなくうす汚くかっこ悪く情けないキャラたちと、閉塞感と恐怖感。いまやこの嫌悪感がむしろ心地よく感じられる。
それでいて妙に長い主人公と女刑事とのラストシーンに漂う安息感はなんだろう。陰気で生きるエネルギーを感じさせないぼろ布のようになった主人公に女刑事が食べ物を持ってくる場面が、何度も何度も繰り返される。安らぎのシーンですら執拗に繰り返す姿勢を貫き、食べるという行為と窓から差し込む柔らかな光でもって生気を表現する。惰性で生きてきた主人公が初めてアクティブに生きることを選択して映画は終わる。人生は憎しみも悲しみも苦しみもあるけれど、それでも人は生きていかねばならないとラストは語っていた。
石井映画でやたらと画面に洗われる雨。単に雨が好きだからというだけでなく映画に必要不可欠なパーツとしてフル活用されている。今回も雨はキャラたちの涙を代弁し、汚れたものを洗い流すシャワーのようでもあるが、顔にはり付く髪やビダビタになった服などは場末の不潔さをより際立たせ、濃密な映像に湿度の高い印象も与えるなど、いろんな意味で演出と一体化して映画を膨らませている。
脚本運びも90年代のころのキレの良さが帰ってきたようだ。
女刑事がGPSで主人公を追跡することを、単に物語を終息させるための伏線とするのではなく、ヒロインにスタンガン以上に凶悪な拳銃という凶器を与え、終わりかけた物語をさらにヒートアップさせるための伏線として使っていたところがすごいと思った。
男と女の情と欲と憎しみと愛情をこれだけ濃く深く描ける監督が世界に何人いるだろう。
テンポの悪さや感情移入不可能な母娘たちの言動はもちろんこの映画の欠点なのだけれど、石井隆なりの映画表現を突き詰めた結果なのだから、欠点も嫌悪も含めてこの映画を愛したい。
DVD化されたら「ヌードの夜」と続けて楽しみたい。体力の要る二部作だが。
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ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
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