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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

ビデオ感想 「ハワイ・マレー沖海戦」 1942年日本映画 監督:山本嘉次郎

2008-03-02 14:29:14 | ビデオ・DVD・テレビ放映での鑑賞
太平洋戦争真っ直中の1942年度のキネマ旬報ベスト10の第一位作品。ちなみに同年のキネ旬第2位は小津安二郎の「父ありき」。
1941年12月8日の真珠湾攻撃と翌9日のマレー沖でのイギリス艦隊との戦いを描いた、定番国策映画。「父ありき」を差し置いてこれが第1位になるあたりに当時のキネマ旬報誌の方向性が伺える(責められることではないが)。
監督は山本嘉次郎。黒澤明が助監督時代にもっとも世話になり、もっとも大きい影響を与えた黒澤の師匠。

内容は予科練に志願入隊した青年が、訓練の中で不屈の精神を学び、やがて戦闘機乗りとして真珠湾攻撃に参加し、一方で主人公のあこがれの戦闘機乗りのお兄さんはマレー沖海戦に参加する、というもの。
語られるのはひたすらに精神の尊さ。戦略も作戦も兵器の性能も戦闘訓練の内容もほとんど語られない。訓練シーンは精神を鍛える「相撲」「ボート」「ランニング」といったものばかりで、飛行訓練や爆撃訓練の模様はほとんどない。
とはいえ、悪天候により発見困難と思われたマレー沖の英国艦隊を不屈の精神ゆえについに発見するということで物語上は「精神=勝利」という図式がきれいに成立している。
訓練シーンでもしごき、体罰、など過酷な描写は何もなく、訓練シーンでも戦闘シーンでも一滴の血も描かれない。(もちろんそんなもの描いたら検閲でカットされるにきまっているのだが)
また真珠湾攻撃が宣戦布告の前に行われたことも一切触れられない。
汚れの全くない、処女の戦争映画とでも言おうか。
主人公の郷里の女の子・原節子の「晩春」や「東京物語」と同じ清純な笑顔もこの映画の処女性を強調しているようだ。
精神論だけでは何にもならないということを日本が学ぶのはこの映画の3年後である。

もう少し別の観方をする。円谷英二の特撮スペクタクル映画としてみれば、真珠湾の攻撃シーンもマレー沖の英国艦隊との交戦シーンも大迫力。むろんミニチュアだなとは判るのだけど巨大なセットの中で爆発炎上する戦艦群という映像には間違いなくカタルシスが溢れる。

*****
ちなみに後年、黒澤が企画に携わった日米合作の真珠湾攻撃を描いた「トラトラトラ」では、真珠湾と地形の似た鹿児島湾での戦闘訓練や、水深の足りない湾内で魚雷攻撃を行うための方策に頭を悩ますシーンがあったり、また宣戦布告と同時に攻撃を行おうとするが宣戦布告の受理が遅れてしまう様などが描かれ、はるかに論理的に納得のいくストーリーとなっている。
「ハワイ・マレー沖海戦」にもあったアメリカ艦船のシルエットあてクイズシーンもより面白くなって再現されており、黒澤は師匠の戦争映画を相当強く意識していたと思われる。(ただし黒澤は精神的疲労など様々な理由で企画から降ろされてしまう)

*****
うんちくついでに、1944年にアメリカで「東京上空30秒」という、初の東京空襲を描いた映画が作られている。(「パールハーバー」の終盤の展開はこの映画にかなり似ている)
この映画では空襲作戦を成功させるためのトレーニングの過程が緻密に描かれる。爆撃機を空母のごく短い滑走距離で離陸させる訓練など。「けっしてあきらめない」みたいな精神論は前面にはでてこない(むしろ「パールハーバー」の終盤の方が精神論を高々と謳いあげている)。
そして攻撃を前に爆撃機隊のパイロットが「別に日本人は嫌いじゃない。むしろ好きだ。」などと語り、戦争の不条理さがやんわりと訴えられたりもする。
空襲シーンの特撮も円谷に全く引けをとらない迫力。
何より根幹となるストーリーは主人公のパイロットと、国で彼の帰還を待つ妻のラブストーリーであり、命からがら帰国した主人公が妻と再会するシーンでは思わず涙ぐんでしまうほどで、ラブストーリーとしてよくまとまっている。監督は「心の旅路」などロマンス映画を得意とするマービン・ルロイで、脚本はのちにアカ狩りに抵抗しハリウッドを追われるドルトン・トランボである。

同じ戦時下の戦争映画でありながら一に精神二に精神の日本と、作戦をじっくり描き人間ドラマも重視するアメリカ。「ハワイ・マレー沖海戦」と「東京上空30秒」この二作だけでくらべたら映画でも日本はアメリカに完敗であると思う。余裕あるよねアメリカ。

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