もう、目が覚めても、昼か、夜か、わからなくなっていた。というよりは、自分の所が、現実の洞穴なのか、それとも天国なのかが理解できなかった。山に入ってから何日経ったのか。宮本が死んでから何日経ったのか。食料が底をついてからどのくらい経ったのか。そして、・・・ジムが死んでから、どのくらいの時間が経っているのか。
・・・自殺だった。
彼が死んだのを知った後、私は、火を焚くために、ジムのリュックの中から燃えそうな物を掻き出していた。その中に、ジムが使っていた小さな医学書はあった。挿んであるしおりを見つけて、私は、この中に私がジムから聞き出せなかった全てがあるのだ、と思った。ジムが死んだ今、もう何も、怖いものは無かった。私は、何のためらいも無く、そのページを開いた。
大きな字で、「ASIATIC CHOLERA(真性コレラ)」と書いてあった。
そうか、ジム。そうだったのか。あの伴天連は、ただ単に病魔に侵されていただけだったのか。「アジア人の怒り(ASIATIC CHOLER)」と一字違いの「真性コレラ(ASIATIC CHOLERA)」に。だから山を下りなかったのか。これ以上被害者を出さないために。何の鎧も着けていない私たちに感染した、このちっぽけで恐ろしい菌を麓の村に持ち込まないために。・・・ふふっ、ジム、私を褒めてくれよ。最期まで君に従順だった私を。・・・自殺するほど責任を感じていたのなら、私もその時殺してくれればよかったのに。リーダーとして唯一の失敗だったな。ふふふっ。ジム、私も、もう、長くはないんだ。食料は無いし、菌にも侵されているし、その上、肩の傷が化膿してきている。心臓が近いから、すぐにダメになるよ。
・・・ふふっ、アジア人の怒り、か。・・・昔の人はうまいことを言ったものだな。・・・なぁ、ジム。・・・ふふっ、ふふふっ、・・・ふふふふっ・・・
―――これは、警告である。これを読んだ誰かが、必ず山を下りられるとは限らない。だが、これは、間違いなく、・・・警告なのだ。
私は、いや、ここで死んだ多くの人々は、この中で、この遺書を見つける者のいないことを、切に願っている。
これで、私の務めは終わった。さぁ、眠るとするか。
もう2度と、目覚めはしないだろう。
おやすみ、ジム。さよなら―――
追伸:その頃、麓の村では、また新しい言い伝えが生まれていた。
(おわり)
・お詫び:文中では、コレラにかかり、体温は上がっていますが、正しくは、体温は下がります。
・・・自殺だった。
彼が死んだのを知った後、私は、火を焚くために、ジムのリュックの中から燃えそうな物を掻き出していた。その中に、ジムが使っていた小さな医学書はあった。挿んであるしおりを見つけて、私は、この中に私がジムから聞き出せなかった全てがあるのだ、と思った。ジムが死んだ今、もう何も、怖いものは無かった。私は、何のためらいも無く、そのページを開いた。
大きな字で、「ASIATIC CHOLERA(真性コレラ)」と書いてあった。
そうか、ジム。そうだったのか。あの伴天連は、ただ単に病魔に侵されていただけだったのか。「アジア人の怒り(ASIATIC CHOLER)」と一字違いの「真性コレラ(ASIATIC CHOLERA)」に。だから山を下りなかったのか。これ以上被害者を出さないために。何の鎧も着けていない私たちに感染した、このちっぽけで恐ろしい菌を麓の村に持ち込まないために。・・・ふふっ、ジム、私を褒めてくれよ。最期まで君に従順だった私を。・・・自殺するほど責任を感じていたのなら、私もその時殺してくれればよかったのに。リーダーとして唯一の失敗だったな。ふふふっ。ジム、私も、もう、長くはないんだ。食料は無いし、菌にも侵されているし、その上、肩の傷が化膿してきている。心臓が近いから、すぐにダメになるよ。
・・・ふふっ、アジア人の怒り、か。・・・昔の人はうまいことを言ったものだな。・・・なぁ、ジム。・・・ふふっ、ふふふっ、・・・ふふふふっ・・・
―――これは、警告である。これを読んだ誰かが、必ず山を下りられるとは限らない。だが、これは、間違いなく、・・・警告なのだ。
私は、いや、ここで死んだ多くの人々は、この中で、この遺書を見つける者のいないことを、切に願っている。
これで、私の務めは終わった。さぁ、眠るとするか。
もう2度と、目覚めはしないだろう。
おやすみ、ジム。さよなら―――
追伸:その頃、麓の村では、また新しい言い伝えが生まれていた。
(おわり)
・お詫び:文中では、コレラにかかり、体温は上がっていますが、正しくは、体温は下がります。