私はベッドに半身を起こしたまま、依然顔を上げようとしないボルマンの足元に、手に持っていた2cm程もある報告書を叩きつけた。彼は、パン!という乾いた音に肩をひくつかせ、背もたれの無いイスの上で体勢を斜めにしたが、転げ落ちるのだけは必死に堪えてやっと顔を上げた。彼が怯えて許しを請うている犬のような顔をしたので私は思わず噴き出した。
「なぜって、私は過労で倒れたのだろう?大事を取って君が私を入院させた。そうだろ?え、ボルマン?」
彼の目が、声を殺して笑っている私の顔を捕らえて放さなかった。
「ボルマン、何をそんなに怯えている?何か私に知られてはまずいことでもあるのか?」
私は、コメディアンのように、手の平を上にして肩をすくませた。
「ボルマン、言っておくが、私は何も知らない。何もな。私の体がどんな病魔に冒されているか、君とドクターが私を、私の体を何に利用しようとしているか、君たちが私の眠っている間に何を話していたか、何も・・・」
ボルマンは、ついに堪え切れずに、イスを倒して立ち上がった。
「私に敵対したハーシェルのことをばかな奴だとなじったのは確か君ではなかったか?」
ボルマンの拳がぶるぶると震えていた。
「君は、そうだ!君は我々を裏切った。だから!」
「だから、私が病に侵されて誰の手も煩わせずに死んでいくのを待っているわけか。ボルマン、君が勘違いしているようだから一言言っておく。君には私は殺せない。私のことを殺すことができるのは今では私だけだ。私は、私の意志で、私の命を断ち切る。」
彼の心には、ベッドに横たわったまま、骨と皮だけになった右手をすっと伸ばして彼の喉を掻っ切って殺す私の姿が浮かんでいるのかもしれない。
(つづく)
「なぜって、私は過労で倒れたのだろう?大事を取って君が私を入院させた。そうだろ?え、ボルマン?」
彼の目が、声を殺して笑っている私の顔を捕らえて放さなかった。
「ボルマン、何をそんなに怯えている?何か私に知られてはまずいことでもあるのか?」
私は、コメディアンのように、手の平を上にして肩をすくませた。
「ボルマン、言っておくが、私は何も知らない。何もな。私の体がどんな病魔に冒されているか、君とドクターが私を、私の体を何に利用しようとしているか、君たちが私の眠っている間に何を話していたか、何も・・・」
ボルマンは、ついに堪え切れずに、イスを倒して立ち上がった。
「私に敵対したハーシェルのことをばかな奴だとなじったのは確か君ではなかったか?」
ボルマンの拳がぶるぶると震えていた。
「君は、そうだ!君は我々を裏切った。だから!」
「だから、私が病に侵されて誰の手も煩わせずに死んでいくのを待っているわけか。ボルマン、君が勘違いしているようだから一言言っておく。君には私は殺せない。私のことを殺すことができるのは今では私だけだ。私は、私の意志で、私の命を断ち切る。」
彼の心には、ベッドに横たわったまま、骨と皮だけになった右手をすっと伸ばして彼の喉を掻っ切って殺す私の姿が浮かんでいるのかもしれない。
(つづく)