城山は正方形のテーブルの上に、一升瓶とコップを置き、こたつの中に膝を突っ込んで正座した。そして、自分の左側の場所に目をやった。以前、一度だけ、その席に水谷が座って、一緒に日本酒を飲んだことがあった。城山の記事の影響により、水谷と同じ悩みで苦しんでいる人々が結束し、“考える会”が発足した日の夜だった。城山は、その日、祝杯をあげるために、初めて、自分がいつも飲んでいるウィスキー以外の酒を買い、水谷を自宅に誘った。2人とも、会の発足を大人数で騒いで喜ぶよりも、それまでの戦いを想い起こしながら、静かに飲みたかったのだ。
しかし、2人とも、決して雄弁ではなかったため、その日水谷が、コップ一杯の日本酒を、2時間ほどかかってようやく飲み切り、帰って行ったことを覚えている。・・・その2時間、何を語るでもなかった水谷が、死んだ今になって、白い封筒の中に、10枚以上もの便箋に何かを雄弁に語っている。城山は、その日以来少しも減っていない日本酒をコップに注ぎ、一気に飲み干した。そしてもう一度、同じコップに酒を満たすと、今度は、かつて水谷が座った端に、コップを置いた。城山は、朝刊と一緒に床に放り投げてあった白い封筒の封を、切った。
「城山さん、私がこんなことになり、こんな形で全てを打ち明けることになったことを、あんたは驚いているだろう。あんたには、本当に世話になった。どれだけ礼を言っても、言い尽くせんくらいだ。それなのに、あんたに礼を言うどころか、私は、自ら命を絶とうとしている。・・・すまない、城山さん。私は、弱い人間だ。生きている間に、自分の口から、あんたに胸の内を見せることもできなかった。
私は、このことを全て、誰かに話し、その後も行き続けていけるほど、強い人間ではないんだ。許してくれ。あんたを1人にして行く私を、許してくれ。全て私の責任だということは、これからの私の告白を読んでくれれば、明白なはずだ。
(つづく)
しかし、2人とも、決して雄弁ではなかったため、その日水谷が、コップ一杯の日本酒を、2時間ほどかかってようやく飲み切り、帰って行ったことを覚えている。・・・その2時間、何を語るでもなかった水谷が、死んだ今になって、白い封筒の中に、10枚以上もの便箋に何かを雄弁に語っている。城山は、その日以来少しも減っていない日本酒をコップに注ぎ、一気に飲み干した。そしてもう一度、同じコップに酒を満たすと、今度は、かつて水谷が座った端に、コップを置いた。城山は、朝刊と一緒に床に放り投げてあった白い封筒の封を、切った。
「城山さん、私がこんなことになり、こんな形で全てを打ち明けることになったことを、あんたは驚いているだろう。あんたには、本当に世話になった。どれだけ礼を言っても、言い尽くせんくらいだ。それなのに、あんたに礼を言うどころか、私は、自ら命を絶とうとしている。・・・すまない、城山さん。私は、弱い人間だ。生きている間に、自分の口から、あんたに胸の内を見せることもできなかった。
私は、このことを全て、誰かに話し、その後も行き続けていけるほど、強い人間ではないんだ。許してくれ。あんたを1人にして行く私を、許してくれ。全て私の責任だということは、これからの私の告白を読んでくれれば、明白なはずだ。
(つづく)