ウ~ッ、寒い!私、寒さにはめっぽう弱いのよ。少しでも暖かい場所を探して、うろうろ
と部屋の中を歩きまわる日が続いているの。アラッ?飼い主夫婦はお出かけかしら・・・
妻:まだ迷ってるの?待ち合わせ時刻に遅れるわよ。
夫:もう少し待って。マフラーはこっちのほうがいいかな~。ねえ、どう思う?
全身が映る大きな鏡の前で、ご主人のマフラー選びが難航中。この鏡、初めて見たと
きはビックリしたわ。自分の姿が映ってるなんて思いもよらないものだから、仲間がもう
一匹この部屋にいるのだと勘違いしたものよ。
私の仕草を真似するのが上手だわ・・なんてね。
だけど、飼い主夫婦を観察しているうちに、「あ~、これは真ん前にあるものを、そのま
ま映してるんだな」って納得したの。
妻:アメリちゃん、これから新年会に出かけるわ。これからどんどん冷え込んでくるみた
いよ。電気ジュ-タンの片面だけは暖かくしておくから、ここにいてね。
そう言って、私を暖かいジュータンの上に座らせたの。ア~ァ、行っちゃった。またお留
守番か。暖かいこの場所から動きたくないし、なんだか退屈だな~。
しばらく経って、体の向きを変えた時、鏡が目に入ったの。いつものように鏡には私の姿
が映っていたわ。でも、行儀よく座って手招きをしているのよ。
「アレッ?私は寝そべっているのに、なぜ座って手招きをしてるの?それに、体の色がい
つもとは違うみたい。これは私じゃないわ。」思わず周りを見回したわ。
だけど、何もいない。鏡の裏側に回ってみたけど、やっぱり何もいない。もう一度、鏡を
見ると手招きしている者がいる。不審な奴が部屋に侵入したに違いないわ。
「先手必勝、攻撃は最大の防御だ!」と思い、鏡に向かって突撃したの。何かをフワ~っ
と通り抜けたような感覚がしたあと、私は鏡で見た不審な相手のすぐ横にいたの。
まじまじと顔を見ると、キリッとしてて、いい感じ。ステキ!
彼は何かを確認するかのようにチラッと私を見たあと、急に歩き出したの。後ろ姿も堂々
としていてカッコイ~イ。まるで王子様みたい。私は思わず、あとをついて行ったわ。
かなり長い距離を歩いたような気がしたから、声をかけてみたの。
「ずいぶん長く歩きましたよ。一体、どこまで行くのですか?元のお部屋に戻れます
か?」
ところが、何も答えてくれないの。寡黙なことは美徳かもしれないけれど、返事ぐらいし
てくれてもいいのにね。それに振り向きもしないのよ。
歩きすぎて喉がカラカラになった私が、いささか不機嫌になった時、ポトン、ポトンと音
がしたの。見慣れた水道の蛇口のようなものがあって、落ちてきた水滴を王子様が優雅
にペロリと舐めたの。私も首を伸ばして、次の一滴が落ちてくるのを待ったわ。
ようやく落ちてきた水を舐めたら、すっごく美味しかった!王子様と交互に水を飲んでる
と、とても幸せな気分になったの。ア~、楽しい!このままずっと・・・と思ったとたん、
王子様は再び歩きだしたわ。
「また歩くんですか?どこまで行くのか教えてくださいよ。」
再び沈黙が続く中、まっすぐな道をどんどん歩いたわ。私が「もう歩くのはイヤ!」って
思ったとき、見たことのある大きな鏡が目の前に突然現れたのよ。
王子様が右手を上げたから、私もマネしたわ。すると鏡に映ったネコたちも同じように手
を上げたの。4匹のネコが手を上げたり、下げたりして愉快に遊んでいたその時、
妻:ただいま~。アメリちゃん、寒くなかった?
夫:アレッ、いつものように玄関まで出迎えてくれないのかな・・・
その声を聞いた途端、王子様は突然、鏡に向かって思いっきりジャンプしたの。
「置いて行かれてなるものか!」と、私も渾身の力をこめて鏡に突進したわ。さっきと
同じようにフワ~っとした感覚のあと、勢い余って転がっちゃった。
周囲を見回すといつもと同じ景色。自分のお部屋に戻って来たようね。
「王子様はどこ?」って見回したけど、どこにもいないのよ。
妻:あら、アメリちゃん、雑誌の上に座って何をしてるの?
夫:これはネコ特集の雑誌だぞ。退屈しのぎに写真でも眺めていたのかな~
「エッ、雑誌?」言われて気付いたんだけど、確かに私は雑誌の上にいたわ。
しかも、そのページには、さっきまで一緒だった私の王子様が手招きしている写真が
あったの。もしかしたら、夢を見ていたのかな~。
もう少し王子様と楽しい時間を過ごしたかったのに、これからっていう時に、なんで
二人が帰ってくるのよ。もっとゆっくり出かけていてくれれば良かったのに・・・
夫:アメリ、ご機嫌ナナメかい?いつもなら
ジャレついてくるのに、今日は変だな。
当たり前でしょ。王子様との初デートを邪魔されたんだもの。不機嫌になって当然よ。
ネェ、皆さんもそう思わない?