動物村では秋になると、大きな草シート張りを行ないます。村の存在が人間に見つから
ないようにするためです。これまでに人間がここを通ったことはありませんが、備えあれ
ば憂いなしですからね。
村の広場には数々の備品や食料を収蔵する穴があり、冬に向かって収納品が増えるの
で、それらを草シートで隠してカモフラージュするのです。
シートを広げたあとは、ほころびを修繕する作業が待っています。
3人組は今年が初参加です。
ミミ :ポン吉さん、コン太さん、しっかりとシートの把手(とって)を握るのよ。
合図が出たら、一斉に最初の目印の所まで走るんだから頑張ってね。
コン太:大丈夫だよ。ミミよりも力は強いし、早く走れるんだから、任せてよ。
ポン吉:おいおい、一人だけ早く走っちゃダメなんだよ。みんなが息を合わせて同じ速さ
で引っ張らないと上手くいかないと、説明を受けたばかりじゃないか。
それにしてもミミはずいぶん張り切ってるな。
ミミ :何をブツブツ話してるの?ほら、まだ把手をとっていないじゃない。早くとってよ。
コン太:それ、ミミのオヤジギャグかい?
ミミ :フン、そんなんじゃないわ。気合を入れていくわよ!
毎年使う大きな草シートが、前日から広場の端に置かれています。そこに集まった大人
たちに混じり、3人組も把手に手をかけて準備OKです。
一番目の目印まで一斉に引っ張り、ひと休憩。そして十番目の目印まで広げていくのです。
スタートの旗が上がりました。
ミミ :よいしょ、よいしょ、重い!遅れないように頑張らなくっちゃ。
コン太:これは重いぞ。でも頑張る。大人たちには負けないぞ。ヨイショ、ヨイショ。
ポン吉:オッと!足が滑った。転んじゃダメだ、頑張るぞ。ヨイショ、ヨイショ。
こうして草シートが広場を少しずつ覆い始め、完全に広げられると、誰が見ても、ここに
動物村の住民が集まる広場があるとは思えない状態になりました。
でも広げられた草シートはあちこちで草や葉が痛み、ほころびも目につきます。この修繕
のために、動物村の住民は夏場に草や葉やツルを集めていたのです。
さあ、修繕開始です。
ミミ :お母さんにしっかりと教えてもらったから大丈夫。この傷んだ葉を除いて新しい葉
を編み込むのよ。コン太さん、ポン吉さん、大丈夫?わからない時は聞いてね。
コン太:ミミはすっかりリーダー気分だな。
ポン吉:今朝の一番乗りはミミだったらしいよ。かなり張り切っているのは間違いないね。
あれ?この傷んだところにはどの葉を使えばいいのかな?
ミミ :コン太さんの後ろにある葉っぱがいいんじゃない?コン太さん渡してあげて。
コン太:はいはい、ミミの言うとおりにしますよ。
こうして、村の住民が総出でシートの修繕を始めました。
その時です。一陣の突風が広場を通り抜けました。草のシートはバタバタという音をたて
てあおられ、編みこんであるシートの草は抜け、集めておいた葉も舞い上がり、あちらこ
ちらに散ってしまいました。さあ、大変です!
風が通り過ぎたあとを見て、住民たちは呆然と立ちつくしてしまいました。
ミミ :スゴイ風だったネ。今、先頭に誰かがいたように見えたんだけど・・・
コン太:ウン、僕にも見えたよ。人間の子供みたいだったな。変な服を着ていたぞ。
ポン吉:やっぱりそうだよね。肩に袋を担いでいるように見えなかったかい?
風太郎:いや~、ゴメンゴメン。みんなの作業の邪魔をしちゃったようだね。
ミミ :誰?誰の声?どこにいるの?
コン太:ホラ、あそこだ!大きな木の枝に子どもが座っているよ。本当に袋を担いでる。
ポン吉:君は誰なの?なぜそんな高いところに座っているの?
風太郎:僕は風神の子、風太郎さ。まだ見習い中だから、突風船に乗って修行をして
いるんだ。君たちは仲良し3人組だろ?君たちのことをカッパの川太郎から聞い
て、君たちと話がしたくなったから、ここに来てみたんだよ。
ミミ :川太郎さんのことを知っているの?元気かな、会いたいな~。
コン太:それはそうと、今の強風は君が乗ってきた突風船が引き起こしたんだね。
ポン吉:ひどいじゃないか。夏から準備して集めた葉っぱがてんでんバラバラだ。どうし
てくれるんだよ。今は秋だから、もう丈夫な葉は手に入らないんだ。だから、
散らばった葉を皆でかき集めなければいけないんだぞ。
場所を考えて通ってくれよ。
風太郎:いやいや、本当に申し訳ない。みんなで作業中だとは知らなかったんだよ。
僕の失敗は僕自身が後始末をするから黙って見ていてくれたまえ。
それでは行くよ!
広場を囲んでいた木々がユラユラと揺れ始め、風は広場の中心に向かって吹き始め
ました。やがて、散らばっていた葉っぱが風に乗って舞い上がり、どんどん広場の中
央に集まり始めました。住民たちは何が起こったのかわかりません。
風に巻き上げられて、どんどん集まってくる葉っぱの柱をただ見つめるだけでした。
やがて、散らばっていた葉っぱがこんもりとしたひとかたまりの山のようになって集ま
ったその途端、風はピタッと止まったのです。一瞬、シーンと静まり返ったそのあとで、
誰からともなく大きな拍手が湧き起こりました。
ミミ :風太郎さんありがとう。これなら今日中にシートを修繕できるわ。
風太郎:せめてものお詫びのしるしだよ。みんなで力を合わせて、シートを直してね。
ポン吉:ネエ、風神の子って、もしかしたら風の精?
風太郎:そうとも言われているね。ホラホラ、みんなが作業を始めたよ。今日は忙しそ
うだからここでお別れだ。今度会ったときには、ゆっくりと話をしようね。
コン太:村の人たちには君が見えていないと思うし、君のことを話しても理解してもらえ
ないから、このまま黙っておくよ。
風太郎:アァ、それがいいね。それじゃ、またね。さようなら~
風太郎は呼び寄せた突風船に飛び乗り、担いだ袋を一気にふくらませて、手を振りな
がら遠ざかって行きました。3人組は新しい友だちの出現に大喜びです。
そして、次に風太郎に会う日が近いことを心から願ったのでした。