茨城県は「ごぼう」の生産量が全国2位です。この事実が、ごぼうの地味な性格と相まって
あまり知られていないのが残念です。日本のごぼう生産の9割を占める品種が「滝野川ごぼ
う」です。そのため、普通にごぼうと言えばこの滝野川ごぼう及びその派生品種をさします。
県内では霞ヶ浦の東に広がる行方市、鉾田市での栽培が多く、市町村レベルでは全国1位の
生産量を誇ります。ここで主に栽培されている、やわらかい白肌が特徴の「柳川理想」は滝
野川ごぼうの派生品種です。他にも、各農家のこだわりの派生品種が栽培されています。
この地域でごぼうの本格栽培が始まったのは、昭和30~40年ごろだといいます。ここは、関
東ローム層の水はけのよい赤土の火山灰土壌なのに、適度な保水力があります。又、筑波お
ろしの風で、土壌は常に渇いた環境にあり、ごぼう栽培には好条件の適地になっているので
す。ですから、ここで育ったごぼうの成分は凝縮され、美味しいごぼうに育つのです。そし
て、香りが豊かで、質がいいと評判は上々。関東圏と東北を中心に広く出荷されています。
茨城県のごぼうのシーズンは9月~翌年2月と言われていて、この秋から冬にかけて取れるご
ぼうは完熟させると長く保存出来るという特質を持っています。美味しいごぼうとは瑞々し
いかどうかが決め手です。スーパーに並んでいるごぼうは形が均一化して並んでいますが、
実際には長さや形が不均一でも味のほうはまったく変わらないので、購入される際はそこま
で神経質になって選ぶ必要はありません。今回は茨城県が誇る地味~いな根菜の「ごぼう」
を紹介します。
<ごぼうの歴史>
ごぼうはキク科ゴボウ属に属し、畑で栽培される多年草です。日本では根菜として栽培され、
長く肥大した根の部分を食用とします。長い間、ごぼうを食べるのは世界でも日本・韓国・
台湾ぐらいといわれてきましたが、近年では他のアジア諸国そして、欧米でも「gobo」の名
で流通しているそうです。ごぼうは縄文時代に中国から日本に伝わったといわれています。
中国では、解毒、解熱、鎮咳などの治療にごぼうが使われていたため、日本でも中国と同じ
く薬用としてのみ用いられていました。しかし宮廷料理の献立にごぼうが用いられたとの記
載があることから、平安時代後期には食用とされていたようです。
<ごぼうの生産量ランキング>
1位は青森県(37.6%)で断トツ、2位茨城県(9.9%)、3位北海道(9.1%)などで多く栽培され、ト
ップの3道県で全国生産量の57%をしめています。一方、堀川ごぼう(京都)、宇陀金ごぼう
(奈良県)、立川ごぼう(福島県会津坂下町及び塩川町周辺)など、地域伝統の品種も各地
で栽培されています。
<ごぼうの品種>
ごぼうの品種は、寒く、土が柔らかい地域の東日本・北海道で栽培されてきた長根種そして、
暖かく、土が硬い地域の西日本・九州で栽培されてきた短根種に分けられてきましたが、今
では各地の気候風土にあった品種が数多く誕生しています。
(1)細長い「長根種」・・・播種後150日で長さ80~100cmになります。
- 滝野川ごぼう:普通に「ごぼう」といえば、この滝野川ごぼうのことです。東京都北区
滝野川地域で栽培されたことから名づけられました。旬の滝野川ごぼう
は、香りがよく、歯ごたえがしゃきしゃきとしています。 - 柳川理想:滝川ごぼうの派生品種。ごぼう生産量全国1位、2位の青森県、茨城県で多く
栽培されている品種です。やや早生の品種で柔らかくて色白のごぼうです。
密植ができるので人気。 - 常盤大長:信州の伝統野菜です。す(空洞)の入りが遅く、肉付きのよいのが魅力です。
- 渡辺早生:滝野川ごぼうの早堀り用を目的として作られた品種。70cmほどの長さで収
穫します。香りがよく肉質がやわらかいごぼうです。
(2)細く短い「短根種」・・・・播種後、70~90日で30~40cmになります.
- もりあざみ(山ごぼう):アザミの一種で,山野に生え,栽培もされる太さが小指ほど
の山ごぼうです。長さは30~40cm。みそ漬けにして食べることが多いです。 - 新ごぼう:滝野川ごぼうの派生品種で、育ちが早いものを「新ごぼう」といいます。
若採りなので柔らかく、アクが少ないのが特徴です。色が白く、直径1.5cm、
長さ30cmの細いごぼうです。柳川鍋に欠かせない食材で、主に九州地方で
栽培されています。新ごぼうは冬ではなく4月~6月頃が美味しい旬です。 - ごぼ丹:30㎝ほどの持ち帰るのに便利な短形ごぼう。アクが少ない。丹後(現在の京
都府北部)が産地。
(3)太短根種・・・100日ほどで長さ35~45cmになります。
- 堀川ごぼう:京都の伝統野菜のひとつ。長さ50cm前後、直径6~8cmの短くて太いごぼう
です。栽培途中に横向きに植え替えるという独特の方法によって、太いごぼうに
育ちます。堀川ごぼうは、先端がタコの足のように枝分かれしており、中心部に
空洞があることが特徴です。 - 大浦ごぼう:千葉県匝瑳市大浦地区の特産品。長さ60cm程度、直径10cm前後のごぼうで
す。この極太サイズは希少な品種です。中が空洞になっていて、そこに肉を詰め
て煮込んだり、精進料理にも利用されます。
(4)葉ごぼう:根の部分だけでなく、葉や茎まで丸ごと食べられるごぼう。福井県坂井市の
「越前白茎ごぼう」や大阪府八尾市の「八尾若ごぼう」などの品種が有名です。
程よい苦みのある葉はおひたしや天ぷらがオススメ。茎は「ふき」に似た独特
の風味があり、根とともにきんぴらや炒め煮にして食べられています。
<ごぼうの旬の時期>
1年中販売されているごぼうですが、ごぼうには様々な種類があり、種類ごとに旬の時期は異な
ります。
- 一般的なごぼうの旬は秋〜冬:滝野川ごぼうのような、長さが1mくらいになる長根種は、
春頃に種まきをし、秋から冬にかけて収穫します。ですから、ごぼうは10~12月くら
いの晩秋から冬が旬の時期となります。年間を通して流通していますが、12月が最も
出荷量が多いです。旬の時期のごぼうは、香りがよく、しゃきしゃきとした独特の歯
ごたえで、旨みも多い。この旨みは皮の部分に多く含まれているので、皮をむかずに
食べるといいです。
- 新ごぼうの旬は夏:秋に植えたごぼうを若取りしたものを新ごぼうや春ごぼうと呼びます。
新ごぼうの旬は夏で冬や秋に収穫したごぼうに比べて食感がやわらかく、香りも強く
なく上品なのが特徴です。新ごぼうは固いごぼうや香りが強いごぼうが苦手という方
におすすめの種類です。
- 葉ごぼうの旬は春:主に関西で食べられる葉ごぼうは若ごぼうとも呼ばれ、その名に相応
しく春が旬の季節となります。葉ごぼうは緑色で葉・茎・根も食べられる種類で一般
的なごぼうとは全くイメージが異なります。主産地は大阪府や香川県なので、関西以
外の方にはあまり馴染みが無い野菜ですね。
ごぼうは季節によって様々な種類が流通しているので、味わいの違いを試してみるのも楽しいで
すよ。
<覚えておきたいごぼうの豆知識>
1. ごぼうの選び方
(1)よりまっすぐなもの、(2)太さが均一なもの、(3)ひげ根が少ないもの
ごぼうの食物繊維は多いですが、野菜の中で特に多いわけではありません。しかし、不溶性食物
繊維と、水溶性食物繊維のバランスがいいのが特徴です。不溶性の食物繊維は、腸内の老廃物を
吸収して便と一緒に体外に排出してくれ、水溶性の食物繊維は、キレイになった腸内の善玉菌の
エサになります。ひげ根が少なく細いゴボウは、いい環境で育った証です。土壌の栄養が行き届
いているので、ひげ根が少なくなります。栄養が少ないと、栄養を集めるために、枝別れしたり、
ひげ根が増えます。
2.ごぼうの賢い食べ方
(1)皮をむいてはいけない:腸内の善玉菌(ビフィズス菌)を増やすクロロゲン酸が中心部分
の約2.5倍含まれています。
(2)生で切ってはダメ:ゴボウを生で切ると内部からクロロゲン酸を壊す酵素が出てきます。
加熱することで酵素を壊せます。切る前にレンジ(500Wで2分)すると、時短にもなって
クロロゲン酸の減少も防ぐことができます。
(3)あく抜きは不要:ごぼうを水につけてしまうと、クロロゲン酸が流れ出てしまいます。生
産者の方たちはあく抜きをしないそうです。
(4)においを消す効果があるので、肉や魚との相性が抜群です。
3.ごぼうの栄養素
多糖類のイヌリンや繊維質のセルロース、リグニンの含有量は、野菜の中でトップクラスです。
いずれも便秘の解消や腸内環境を整える効果が高いです。動脈硬化やがん予防にも有効といわれ
ています。また、水溶性食物繊維に属するイヌリンには、腸内のpHを低下させてミネラル成分
を可溶化し吸収を促進する作用や腸管機能を活性化する働きがあることが報告されています。ア
クの成分はポリフェノール類で、抗酸化作用があり、がんの予防や老化防止などが期待できます。
4.ごぼうの保存方法
泥付きのゴボウは、そのまま新聞紙に包み、冷暗所に保存しましょう。洗ってあるものはラップ
に包んで野菜室に入れます。さかがきにして冷凍しておいても便利です。
<ごぼうに関連する豆知識>
1. ごぼうの消費量ランキング:1位 秋田県・・5.13本、2位 佐賀県・・4.86本3位 岩手県・・
4.59本で生産量1位の青森県は10位でした。(2020年)
2.ごぼうの旬は年2回:年中出回っているごぼうには種類があり、旬の時期に違いがあります。
一般的なごぼうは晩秋から冬、若採りの新ごぼうは春から初夏が旬の時期です。つまり、
ごぼうには旬の時期が2回あるのです。この他にも、葉や茎も食べられる葉ごぼうもあり、
春が旬の時期です。これらのごぼうにはそれぞれの美味しさがあるので、旬の時期に味わ
ってみてください。
3.ごぼうの花:アザミにとてもよく似ています。ごぼうの花は、春に種が撒かれた場合、その
翌年の6月から7月頃に咲きます。このような、年をまたいで発芽から生殖までのサイクル
を終える植物を「多年草」と呼び、ごぼうはそれが2年間に渡るので「2年草」といいます。
4.乾燥させたごぼうの果実(種子)は漢方生薬:ごぼうの果実を乾燥させたものは,漢方薬と
して有名で,現在でも公式な薬として用いられています。「牛蒡子ゴボウシ」または「悪
実アクジツ(果実の形が悪く、釣り針状の刺が多いため)」と呼び、消炎,解毒,解熱,
排膿などの作用があり,駆風解毒散(さいこせいかんとう)、消風散(しょうふうさん)、
柴胡清肝湯(サイコセイカントウ)などに配合されています。
5.ごぼうは漢字で書くと「牛蒡」:こちらは、ごぼうのヒゲが牛のしっぽに似ているから、この
ような名前になったとされています。「蒡」は「フキ」のこと。ごぼうがフキに見た目が似
ていることからこのような漢字になりました。
6.「ごぼうのおかげ」は青森産と茨城産を使用している:ごぼう茶の「ごぼうのおかげ」は青森
県の八甲田山の東に広がる十和田市・七戸町・東北町・三沢市・六ケ所村のごぼうと茨城県
行方市の関東ローム層の赤土で育ったごぼうの2つのごぼうを使用しています。
<ごぼう栽培の特徴>
ごぼう栽培には他の野菜栽培と大きく異なる点があります。それは、ごぼうが土中に1mの長さで真
っすぐに突き刺さって、抜かれてなるものかと頑張っていることです。こんなに長く土中に突き刺さ
っている野菜は他に「長いも」ぐらいですね。
「ごぼう抜き」という言葉がありますね、でも、実際は抜いて収穫するのは至難の業です。だから掘
り起こさなければいけないのです。1mの長さのごぼうを掘り起こすには大きな農耕用の機械が必要で
す。ごぼうの場合1mのものを掘り起こしますから、ほとんどの農耕機は大型です。その大型農耕機を
使うことで、作業効率を良くし、高い品質を保つています。
ごぼう栽培に使う農耕機を調べてみると、まず、農耕機の種類に驚かされます。肥料を与えるもの・
ごぼうを最適な長さで育てるために土を耕すもの・収穫したごぼうを重さによって分別できるもの、
その他様々な農機具を使用しています。そして、次に驚くのは各種農耕機の大きさです。動画で見る
と他の野菜収獲機と比べると圧倒する大きさです。値段のほうもかなりびっくりする値段です。こう
した大型機械で耕作しますから、ごぼう畑はとても広いです。ここが他の野菜と大きく違います。
当然雑草の除去も大変ですが、これも大型の機械で除草します。全てが大型ですから、各機械のメン
テナンスがとても大変です。大型農機具を使用するので人件費はもとよりその運転費用がかなりかか
ってしまいます。収穫用のコンテナも当然大型ですから、畑で作業中の遠景動画を見ると日本ではな
いような錯覚をおぼえす。(大げさかな!)
<行方市・鉾田市のごぼうの農作業>
ゴボウは春(3~4月)が最適栽培時期です。種を浅くまいて発芽したら何回か間引きながら苗を大き
くします。水やりは1日に1~2回、追肥は2週間おきに与えます。
(1)ごぼうの農作業は種蒔きをする前に畑を掘り起し、雑草を除去することから始まります。こう
して、いったん畑の状態をリセットさせてゼロの状態を作り、それから必要となる肥料を入れ
ていき、それか種を蒔き育てていくのです。この除草作業は大型農機具を使いますが、除草出
来ない箇所は手作業での除草になります。必ず種まきからスタートするのが鉄則です。
(2)種まき後は、間引きながら少しずつ株の間隔を広げていきます。日々の管理は水やりと追肥そ
して土寄せが主な作業になります。ごぼうが成長するのを待ちます。
(3)そして、ごぼうは葉と蔓が旺盛で、収穫の妨げになってしまうため蔓ははじめに切ってしまい
ます。そのあと、マルチをはがして収穫準備は完了です!
(4)収穫作業には、ハーベスタと呼ばれるごぼう収穫機を使います。収穫されたごぼうはメッシュ
コンテナに収納します。コンテナに入れる作業は手作業になります。この時点で腐っているも
のなどははじいていきます。
(5)そして、1本ずつ重量選別機に並べていきます。重さ別に機械で自動選別されます。ごぼうの
規格は長さも重要ですので、最終的には作業員が確認していきます。
(6)ここまで来て、ようやく箱に梱包して出荷準備です!サイズの短いものは加工用として出荷す
るため袋につめるようです。
是非、行方市・鉾田市の「ごぼう」をご賞味あれ!