Dream Gate ( 中野 浚次のブログ )   

本日はようこそ開いてくださいました!お芝居のことグルメを語ります!


          

美輪明宏ワールド      『 黒蜥蜴 』

2008-06-24 | 演劇

もし、あなたが友人のバースデーパーティに招かれたとします。会場に入ると卓上

に飾られた巨大で華麗なデコレーション・ケーキが、きっとあなたの目を奪うでしょう。

でも、よく見るとケーキのまわりに、いっぱい蛆虫が巣食っています。

さあ!それを見てあなたならどうしますか?

舞台『黒蜥蜴』とは、そんなお芝居なんです。

江戸川乱歩の探偵小説(死語ですよね)から三島由紀夫が自由奔放に翻案。三島好

みの歌舞伎の手法をふんだんにとりいれて、退廃味を、デカダンスを強調 して耽美

世界、美的恐怖恋愛劇に仕立てた舞台です。


今回で何度目の再演になるのでしょうか。

初演こそ見逃 しましたが、今までに8~9回 は観ています。

断っておきますが、美輪明宏のファンでも、おっかけでもありません。


『黒蜥蜴』の舞台を観ると、色もシェリーより薄く、香りの高い、きりっとした辛

口の白ワインを飲んでいるような、気持ちがスカッとするというか、ある種の懐か

しさと、心の落ち着きをもたらしてくれます。


パッケージされた商品だけに囲まれている現代。常に「快楽」と「快適」という

"ぬるま湯”に浸っている現代。それを失うまいとすればするほど、日常は平板で、

浅くなっていきます。

だからこそ、美への偏執的なまでの憧れと、思い入れがあるのではないでしょうか。
 
主人公黒蜥蜴は、美への執着がおそろしいほど強い。

だからといって、ブランドモノを次々と漁る現代女性とはちがう。

黒蜥蜴は単に美しいものを手に入れることではなく、美そのものと交わることなん

です。つまり彼女が求めるのは、自分の眼にかなった、自分にふさわしい美術品だ

けでした。


皮肉なものです。彼女の前にあらわれたのは、美術品ではなく、切れ味の鋭い、気

品と感性の持ち主である、一人の青年でした。明智小五郎です。

悲劇のはじまりです。

 
明智:あなたの御一家はますます栄え、次から次へと、贋物の宝石を売り買いして、この世の春を謳歌なさるでしょう。

岩瀬:え?贋物の宝石だと?

明智:ええ、本物の宝石は、もう死んでしまったからです。

一枚の絵のような幕切れです。



世界でもっとも美しいのは、宝石類や美術品などの物質ではなく、人の心、つまり

愛であることを、暗示してくれています。

美輪明宏の噴出する悲劇的感性で、観客のこころをわしずかみにするという壮麗な

テクニックは圧巻です。


だから、美輪ワールドに魅かれて、懲りもせず劇場へと歩が向くのです。

                       2008・6・20 
                      梅田芸術劇場・メインホール所見


                      
                      
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