「だんだん」とは島根県出雲地方の方言で、”ありがとう”という意味だそうだ。
舞台『だんだん』は、この言葉に象徴される数奇な運命を背負った双子の愛と絆を描いた
物語である。
ご存知だろうが、人気を博したNHKの朝ドラの舞台版だ。
舞台になっているのは島根県松江と京都の祇園。
テレビドラマの舞台化は、得てして”ダイジェスト版になってしまい、筋を売るだけの舞台が
多い。
今回の舞台では、松江の「宍道湖」と、しじみ漁師の「田島家」の二つのセットに絞り、
京都・祇園の「花村」は物干し台だけにした。
しかも、テレビには登場しない"出雲の神様”という狂言回し役を新たに設けてドラマは
進行する。
まず、二つの点で感心した。
一つは、舞台いっぱいに飾られた田島家で演じられる人物のアンサンブルが見事である。
近頃忘れかけていた上質のホームドラマを見たようで心地良かった。
しじみ漁師の父(吉田栄作)、母親(古村比呂)、祖母(三林京子)に双子のひとり、
めぐみ(三倉茉奈)、弟の健太郎(木崎直人)の5人家族だが、説明的なセリフが多すぎる
印象があるにせよ、ほのぼのとしたあったか~いものが伝わってきた。
次は、作者の言う「舞台だからできること」の一端だろうが、下手にある祇園「花村」の物干し台
と、本舞台の「田島家」とは、歌舞伎の手法である「渡りぜりふ」をつかっての同時進行の手堅
さは、適切でみごとな演出である。
それと、注目したのが弟役の健太郎を演じた木崎直人(きのさき・なおと)くん(↑画像)。
「いるいる こうゆう高校生!!」
明朗で、快活で、存在感を充分に発揮している。
姉の出世の秘密や父親の過去を知って動揺を見せるところも、ことさら芝居らしい芝居をしな
い。
あくまでも自然体で、しかも等身大の演技に見ごたえがある。
次のチャレンジが楽しみだ。
双子姉妹も朝ドラのイメージをこわすことなく演じきった。
だが欠点も多い。
舞台に生活感がないことだ。
松江名物の”しじみ汁”や”しじみコロッケ”だの田島家の食卓に登場するだけで、生活の匂い
のカケラも伝わってこない。
こういう芝居では、生活のリアリティが大切である。
それに、どう見ても吉田栄作がシジミ漁師には見えない。
むしろ元ボクサーだったことの方が妙に説得性があるのが不思議といえば不思議。
日本一夕暮れが美しいといわれる宍道湖の抒情も出してほしかった。それが舞台に
厚味をあたえるのだから。
助演の石倉三郎、澤村郁子のソバ屋の夫婦は、さすがベテランだけに手堅い。
また、なが~いブログになってしまいました。
ここまでお付き合い下さった皆さんには、だんだん。