もう何十年にもなろうか。
いちどだけお茶席に招かれたことがある。
茶の心得などもち合せていないが、ごく内輪のお茶会だときいて、物珍しさもあって出かけることにした。
ちょうど庭のあちこちに斑雪が白々とみられた寒い日であった。
それでも茶室の障子ごしに見える庭の山茶花が、真っ赤に燃えていた。
まず、おきまりのお道具を拝見。
そしてお抹茶をいただくまでに、私の前に蓋付きの小さな椀がおかれた。
茶の作法は知らなくても、まず和菓子が出る「慣し」くらいは私も知っている。
ところが・・・そうではなかった。
出された小椀の、おもむろに蓋をとると2片の小餅の入った”ぜんざい”だった。
愕きもさることながら、”ぜんざい”の美味しかったこと・・・・。
のちに浅草の「梅園」、神田の「竹むら」、神楽坂の「橋善」と、東京中の甘味処を行脚してきたが、あのお茶席の”ぜんざい”に優る実感はなかった。
今日も寒い。
ふと思い立ったわけだが、かつての茶会に出た”ぜんざい”をつくってみたくなった。
”お抹茶”と”ぜんざい”はミスマッチかもしれない。
寒い夜の静けさのなかで、私は十数年前のお茶会の記憶を辿った。
こうした一興もまた、ひとときの「やすらぎ」をもたらしてくれたことだけは確かである。