Anthony Hopkinsが最高齢で二度目のオスカーを獲得した映画。
記憶が混沌となってゆく高齢の父親と、その世話をする中年の娘。
先進国の高齢化社会では、おそらく大半の人が共感できる話だろう。腕時計がない、誰かが盗んだ、なんてことはよくあることで、クスッと笑ってしまう。だけど、痴呆の家族の介護を経験したことのない人にとっては、「なんだこれ?つまんねえ」で終わってしまう。TABIパパも、その一人だ。
Anthony Hopkinsが父親、Olivia Colmanが長女、他にもそうそうたる名優が周りを固め、それだけでも見る価値のある一品。フランスの劇作がオリジナルとなっているそうで、プロデューサーは主演はAnthony Hopkinsしかいない!と決めて彼だけに脚本を送り、彼が承諾しなかったら映画にしないくらいの覚悟だったとか。物語はラストをのぞき父親の視点で描かれる心理ドラマとなっている。だから、単純な頭の人にはなんのこっちゃ理解できずに終わってしまうかもしれない。
いわゆる「まだらボケ」というのは、こういう状態なんだと思う。少しずつ、なにかが変わっていく。治ることのない、終着駅への長い旅路。主人公の心理を表すために、インテリア・デザインが凝った仕組みになっている。初頭の老父の自宅から娘の住む家、そして老人施設の部屋まで、全て同じ建物の同じ部屋を使用し、インテリアや色を変えることによって主人公の心の変化を表現したのだそうだ。
元はかかっていた壁の絵が、いつの間にか消えてる。椅子がない。たくさんあった本棚の本は、どこへ行ったのか。そして最終的には、何の個性もない病室のような冷たい空間に置かれて動揺する老父。
色の使い方も絶妙で、ティールとマスタードイエローが娘の服やインテリアに印象的に使われている。そういったディティールに注目しながら観ると、さらにおもしろいと思う。
最後のシーンで、介護士の女性を前に泣くAnthony Hopkinsの演技は他には誰にも真似できないもの。実際に、撮影中にスタッフ全員が涙を流したのだそうだ。
オスカーにノミネートされていたのに、Anthony Hopkinsは「どうせ駄目だろう」と思い込んで受賞式には出ず、ウェールズの家で早めに寝ちゃったんだそうだ。さすが大物!