竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

巻き込んで卒業証書はや古ぶ   福永耕二

2019-03-26 | 今日の季語




巻き込んで卒業証書はや古ぶ   福永耕二


時のめぐり合わせで、わたしは卒業式というものにあまり縁がありません。高校の卒業式は、式半ばで答辞を読む生徒(わたしの親友でした)が、「このような形式だけの式典をわれわれは拒否します」と声高々と読み上げ、舞台に多くの生徒がなだれ込み、そのまま式は中止になりました。時代は七十年安保をむかえようとしていました。そののち大学にはいったものの、連日のバリケード封鎖で、構内で勉強する時間もろくに持たないまま4年生になり、当然のことながら卒業式はありませんでした。学部の事務所へ行って、学生証を見せ、食券を受け取るように卒業証書をもらいました。実に、悲しくなるほどに簡単な儀式でした。式辞も、答辞もありません。高らかに鳴るピアノの音もありません。窓から見える大きな空もありません。薄暗い事務室で、学部事務員と会話を交わすこともなく、卒業証書を巻き込んで筒に入れて、そそくさと高田馬場駅行きのバスに乗り込みました。後に考えればその当時は、時代そのものの卒業であったのかもしれません。掲句、わたしの場合とは違い、卒業証書には、きれいに込められた思いがあるようです。証書はきつく巻き込むことによって、すでに細かな皺がよります。皺がよったのは証書だけではなく、それまでの日々でもあります。卒業した身を待っているのは、筒の中とはあきらかに違う世界です。「古ぶ」と、決然と言い放つことによって、これからの時間がさらにまぶしく、磨かれてゆくようです。『角川俳句大歳時記 春』(2006・角川書店)所載。(松下育男)


【卒業】 そつぎょう(・・ゲフ)
◇「卒業生」 ◇「卒業式」 ◇「卒業歌」 ◇「卒業証書」
学校の全課程を履修し終えること。小学校から大学まで、卒業式はいずれも3月末である。
例句 作者
口に出てわれから遠し卒業歌 石川桂郎
君に降り吾に降る雪卒業す 北澤瑞史
交換日記少し余して卒業す 黛 まどか
鉛筆に残りし歯形卒業す 古屋 元
波ふえて卒業の日の沖見えず 藤田湘子
下駄箱の別れそのまま卒業す 田口風子
山彦を山へかへして卒業す 遠藤若狭男
巻き込んで卒業証書もう古し 福永耕二
卒業の兄と来てゐる堤かな 芝不器男
校塔に鳩多き日や卒業す 中村草田男