竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

しやがむとき女やさしき冬菫 上田五千石

2019-11-18 | 今日の季語


しやがむとき女やさしき冬菫 上田五千石

季語ではあるが、冬菫というスミレの品種はない。春に咲くスミレが、どうかすると晩冬に咲くこともあり、それを優雅に呼称したものである。もとより珍しいので、見つけた女性はしゃがみこんで見ている。そのしゃがむ仕草を、作者の五千石は女性「一般」のやさしさの顕れと見て、好もしく思っている。ところが、この句の存在を知ってか知らずか、池田澄子に「冬菫しゃがむつもりはないけれど」の一句がある。昨年だったか、両句の存在を知ったときに、思わず吹き出してしまった。こいつは、まるで意地の張り合いじゃないか……などと。五千石は他界されているので、わずかな知己の間柄(たった一度、テレビの俳句番組でご一緒しただけ)ではある池田さんに電話をかけて聞いてみようかなと思ったりしたのだが、やめた。これは両句とも、このままで置いておいたほうが面白かろうと、なんだかそんな気がしたからであった。人、それぞれでよい。詮索無用。人の「やさしさ」を感じる心にしても、しょせんは人それぞれの感じ方にしか依拠できないのだから。(清水哲男)

なかなか見ることの少ない冬の菫
これを見つけた女性がしゃがみこんで眺めている景なのだろう
その姿がやさしく見える
めったに見ない冬の菫にまったに見えなくなったやさしい女性への恋情のようだ
(小林たけし)

【冬菫】 ふゆすみれ
◇「寒菫」
スミレは春のシンボル的な草花であるが、暖かい野山の日だまりでは、春を待たずに芽を伸ばし咲いているスミレに出逢うことが出来る。小さな春の発見であるが、同時に健気さに対する感動もある。

例句 作者

冬すみれ本流は押す力充ち 齊藤美規
仮の世のほかに世のなし冬菫 倉橋羊村
わが齢わが愛しくて冬菫 富安風生
ふるきよきころのいろして冬すみれ 飯田龍太
天網は冬の菫の匂かな 飯島晴子