遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(539) 小説 <青い館>の女(28) 他 闇の中

2025-03-16 12:34:53 | 小説
             闇の中(2025.3.4日作)



 生きる事は
 一寸先は闇の中 歩いて行く事
 今この瞬間 そしてまた
 明日という時の中 自身の身に
 何が起こるか 誰にも分からない
 それでも人は 歩いて行かねばならない
 今日も 明日も また明日も
 歩くという事 生きる事
 その中で 人は せめて 自身を照らす
 一つの明かり 一つの星を心に持ちたい
 一寸先は闇の中 今この時 
 今日という日を生きる糧として
 金色輝く一つの星 希望という名の
 一つの星を心に持つ それだけで
 ただ それだけで 一寸先は闇の中
 明日に向かって歩いて行く その足下が
 明るくなるだろう
 一寸先は闇の中 明日の事は
 誰にも分からない その中で
 心に点した一つの明かり 金色輝く希望の星
 それを頼りに今日もまた 今この時
 今日という日を歩いて行く
 生きて行く




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(28)



 
 
 義父が亡くなり、会長に就任してからのわたしはもう、専用電話を持ち歩く事もなくなった。
 それは頸木から解き放された様な解放感をわたしにもたらした。
 その上、丁度この頃、わたしは体調の不良にも悩む様になっていた。
 専用電話の放棄はそんなわたしの、仕事の第一線からの無言の引退宣言とも言える様な事だった。
 幸いと言うべきか、<マキモト>の株式の大半を握っていて絶対的議決権を持つ現在、九匹の猫と暮らす為にお手伝いさんを雇い、一人暮らしをしている義母とわたしの妻がわたしを社長の座から降ろして息子に未来を託し、社長の座を与えてわたしを会長職へと押し上げたのだった。
 社長を辞め、お飾りと言ってもいい様な会長職に就任した事に付いては、体調不良もあってむしろ肩の荷を下ろした様な解放感をさえ覚えたものだったが、それでもわたしはこの時、結局、わたしは何時まで経っても牧本家に於いては外様の存在でしかないのだ、と言う思いを強くしていた。ーーーー
 わたしが扉を開けた公衆電話の中は、如何にも漁港に面した場所を思わせて染み付いた魚の匂いがしていた。
 加奈子の電話番号は覚えていた。
 電話はすぐに繋がった。
「はい、加奈子ですぅ」
 加奈子は答えたが、その声には何か困惑した様な気配さえが感じられて、先程見せた明るさが無かった。
 わたしはだが、半分怒りに任せた感情でそんな仔細に拘る気分にもなれないままに、
「一体、何やってるんだよ。今、何処に居るんだ」
 と怒鳴っていた。
 受話器を通した向こうからは明らかに、加奈子の緊張した気配が伝わって来た。
「御免なさい。今、家に居るんだけどぉ、外に出られないんですよぉ。変な男がうろうろしていてぇ」
 今にも泣き出しそうな声で加奈子は言った。
「変な男 ?」
 わたしは思わず口にしていた。
 同時に不安が心を過ぎった。
 厭な事に巻き込まれるのでは ?
 最も恐れている事だった。
 たとえ、偽名を使っていても、もし、この事が新聞記事になったり、テレビ、ラジオ等で大々的に報じられたりした時には、身元などは簡単に判明してしまうだろう。
 加奈子が生きている世界が多少、如何わしいとも言える夜の世界だっただけに、わたしの脳裡にはその背後に居る存在が黒い影となって大きく浮かび上がった。
 何かの罠に掛かったのでは ?
 恐怖が身体の中を走った。
 そんな思いの中でわたしは極力冷静さを保って、
「どんな男なの。その男は ? 知らない男なの」
 と聞いていた。
「知らないんですよぉ。だけどぉ、何時もぉわたしの後を付けて来るんですよぉ」
 加奈子は半分泣き出しそうな声で言った。
「その男が ?」
 この時になって漸くわたしは、加奈子に対する疑念が払拭出来て静かな声で聞いた。
「そうなんですよぉ」
 加奈子は言った。
 と言う事は、今流行りのストーカーという事か ?
「若いの ? その男は」
 わたしは軽い緊張感と共に聞いた。
「若いんですよぉ、二十四、五歳かと思うんですけどぉ」
 困惑と不安の入り混じった声の、今にも泣き出し兼ねない表情を言葉に滲ませて加奈子は言った。
 わたしはそれ等の事から想像して、加奈子の言葉に嘘は無いという思いを抱いて早くも逃げの姿勢を自身の裡に感じ取っていた。
 厄介な事には巻き込まりたくない。
 同時に軽い疑念をも抱いた。
 この前会った時はそんな事は一言も口にしなかった。
 わたしから逃げる為の口実ではないか ?
 だが、加奈子はわたしと直接に会う事によって店で得る収入よりも遥かに多くの現金を手にする事が出来るのだ、と考えるとまんざら嘘でも無いのでは、という気もして来た。
 わたしは不可解な思いを抱いたまま聞いた。
「その男は何時も、そうして居るの」
「よく分からないんだけどぉ、わたしが仕事から帰って来たりするとぉ、居たりするんですぉ」
「ずっと前からそうだったの ?」
「何時からかは分からないんだけどぉ、この所、しつっこいんですよぉ」
「今も其処に居るの ?」
「そうなんですよぉ。樹の陰に隠れてるんですよぉ。それでぇ、わたしの部屋を見てるんですよぉ」
 加奈子の言葉の中に男の姿が浮かんで見えて来る気がした。
 それでもわたしは男の存在を無視する様に、
「男になんかは知らん顔をして、そのまま出て来る事は出来ないの ?」
 と聞いた。
「でもぉ、怖いんですよぉ。わたし前にぃ、腕を掴まれて服を破られた事があるんですよぉ。だからぁ、怖いんですよぉ」
「その男に ?」
「そうなんですよぉ」
 この時、初めてわたしは緊張感を覚えた。
 その緊張感と共に言った。
「じゃあ、これから、わたしが君の部屋へ行こうか ?  何気ない顔をして行けば男には解からないだろう」
 真相を確かめてみたい気持ちと共に、何故かその時、その事に対する強い執着心を覚えていた。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                有難う御座います
               春の気配一杯 ブログ記事を拝見していますと
               なんとなく心が浮き立って来ますが今日のこちらは寒く
               雨で冬の気配 憂鬱です
                行ったり来たりの気紛れ天気 ヴィヴァルディの四季の様な
               心弾む陽射しが欲しいものです
                ブログには春一杯の景色 北国の春 ダーカーポ 早春賦
               早春賦は中田喜直の父 中田章の曲ですね
               森繁久彌の知床旅情の元歌と言ってもいいと思います
               出だしの部分などは全く同じです
                それにしても何事に於いても良いものは人の心を捉え
               何時までも後世に残ります
                フリオ イグレシアス 懐かしいです
               日本にも来ましたね
                ブログ画面の様な春の気配 待ち望むばかりです
               不安定な天気 どうぞ御身体にお気を付け下さい
               わたくしは血圧が低いものですから 低気圧が来ると覿面に
               体調に響いて来ます それでどうと言う事は無いのですがーー
               有難う御座いました

                  

 
                  albi-france様

                
                  有難う御座います
                 厄祓い なんとまあ 生意気な と愛情を込めて言いたくなります
                 犬にも厄祓いがあるのですかね
                 たとえペットと言えども 愛玩する者に取っては
                 大切な行事なのでしょうか
                 でも 初めて聞きました
                  相変わらずの美食 どうぞ 食べ過ぎには御注意を
                 わたくしは以前 大腸がん手術をしましたので 
                 今は専ら 野菜が主食と言ってもいい様な食事をしています
                 勿論 タンパク質 適度な油分の補給にも注意をしています
                 お蔭で現在 体調はほぼ完璧です
                  どうぞ 過食 美食には御弔意を !
                 年齢と共に代謝は悪くなって来る
                 日頃 実感している事です
                  小梅ちゃんのあの物欲し気な眼差し 以前にも書きましたが
                 人間の眼差しと全く変わりません 
                  " 愛さずにはいられない " 
                 その気持ちが良く伝わって来る画面です
                 こうして画面で見ているだけで楽しくなって来ます
                  有難う御座いました
                  
 
       
 


 







































遺す言葉(538)小説 <青い館>の女(27) 他 神は心

2025-03-09 13:05:36 | 小説
             神は心(2025.2.24日作)



 神は誰の心にも存在する
 愚かな人間は その神が見えない故に
 悪事を重ね 蛮行を繰り返す
 世界各国 各地 様々 存在する神 教会
 何々教 何々宗派 その中に神は
 存在しない
 跪いての祈りなど 神は
 必要とはしない
 それ等の行為の総ては
 教会宗教 宗派の宣伝行為 押し付け行事 権威付け
 神は心 人の心の中にのみ
 存在し得る
 人が人として 真実の道を歩む その指標 
 心の支え 心の糧として 自身が心の裡に 育む存在 神 
 全知全能神など 何処にも居ない
 教会 宗派の中に 神など存在しない
 神は心 人 その人自身の真摯な心の裡にのみ存在し
 存在し得る  




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(27) 




 加奈子はだが、それには、
「あっ、大丈夫ですよぉ、いいですよぉ」
 と言って、乗り気な様子を見せた。
 わたしの気持ちを損なう事を恐れている様にも受け取れた。
「店は休めるの ?」
 加奈子の立場を思って聞いた。
「ええ、大丈夫でよぉ」
 加奈子は言って、既に気持ちの整理も出来ていたらしかった。
「そう。じゃあ、また、この前の場所で待っていて呉れないかな」
 わたしは言った。
「やっぱり、九時頃までに行ってればいいんですかぁ」
 迷いの感じられない声で加奈子は言った。
「そうだね。その頃がいい」
 わたしは言って受話器を置くと途端に、激しい嫌悪感に襲われて気分が滅入った。
 仕事も何もそっち除けで、まだ幼い孫と言ってもいい様な女を相手に愚にも付かない電話をしている ! 
 自分の行為の愚かさ浅はかを思うと気持ちが沈んだ。
 わたしはそのまま受話器の傍を離れるとベッドに行って身体を投げ出した。
 何も考えたくなかった。
 沈み込んだ暗い気持ちだけが身体全体を包んでいた。
 このまま何も考えずに眠りたい。
 頭の下に両手を組んで眼を閉じた。

 眼を醒ました時には七時に近かった。
 五階の部屋から見下ろす海岸通りの街灯には尽く灯が入っていた。
 入浴を済ませてからトーストの軽い食事をした。
 気分は相変わらず優れなかった。
 加奈子との約束の場所まではタクシーで行けば十二、三分の距離だった。
 行かなければ行かないで済む事だったが、空虚な気分のままに行かないと決断する気にもなれなかった。
 約束の場所に着いた時には九時を少し過ぎていた。
 加奈子は来ているものと思ったが何処にも姿が無かった。
 どうしたのだろう ?
 微かな疑問と共に、何かの事情で遅れたのかと思いながら、そのまま待つ気になった。
 海から吹いて来る風が思いの外、冷たかった。
 腕組みをして思わず首をすくめた。
 少しして街灯の灯りで腕時計を見ると15分が過ぎていた。
 依然として加奈子は姿を見せなかった。
 この時になって初めて不安な思いと共に疑念を抱いた。
 騙されたのか ?
 電話をしたあの時、加奈子はしつこい男から逃げる為に体よく口裏を合わせただけなのか ?
 加奈子の秘かにほくそ笑む様子が脳裡に浮かんだ。
 年甲斐もなく、助平な親父ったらありゃしない。いい気味だ !
 そんな思いが頭を過ぎって激しい屈辱感に襲われた。
 自分自身の滑稽さと惨めさが全身を包んだ。
 再び腕時計に眼を遣ると九時半を過ぎていた。
 帰ろう、と思った。
 こんな所で、来るのか来ないのか分からない女を待っていても仕方が無い。
 わたしは歩き出した。
 何故か気持ちは軽かった。
 齢はもゆかない女に見事に騙された、という思いはあっても、これで総てがさっぱりすると思うと、愚かな行為への諦めもつく気がした。
<サロン・青い館>を訪ねる事も、もう無いだろう。
 北の街の海辺に面した海岸通りには行き交う車の姿も無かった。
 当然の事ながらタクシーの姿も無かった。
 街灯の灯りを頼りに公園の柵に沿って歩いて行くと漁港への入り口に出た。
 この前と同じ様に漁港には数々の漁船が暗い夜の中、影を見せていたがやはり人影は無かった。 
 その時、思い掛けなく漁港の入り口を入ってすぐ近くの場所に、一台の公衆電話ボックスが在るのが眼に入った。
 大きく枝を広げた暗い樹の下に立つ、極くありふれた電話ボックスが何故かその時、わたしの心を捉えた。
 瞬間的に思っていた。
 そうだ、あれでもう一度電話をして文句の一つも言ってやろう。
 復讐心のみが強かった。
 そのまま電話ボックスに向かった。
 普段、わたしは携帯電話を持ち歩かなかった。
 電話をわたしは嫌っていた。
 電話には良い思い出が無かった。
 義父が健在だった頃にはわたしも携帯電話を持ち歩いていた。
 義父からのものを始め、至る所で様々な連絡を受けていた。
 地方へ出た折りにはしばしば夜間でも受けた。
 概して義父からのものが多かったが、義父は自分の思い通りに事が進まない時には、何時でも何処でも所かまわず電話をして来た。
 わたしに取っては理不尽と思える事でも義父は怒りをぶちまけて来た。
「おい、正月用の数の子がまだ入ってないぞ。一体、何遣ってるんだ。さっさと送らせなければ駄目じゃないか。今、売らないで何時売るんだ」
 わたしが数の子などには関係のない山間部の地方を廻っている時でも、そんな電話が掛かって来た。
 それらの事で義父自身が関わっている事もしばしばあった。
 自身の思い通りに行かない時に限って不満をわたしにぶっつけて来るのだ。
 わたしはそれでもなお、義父の機嫌を損ねる事を嫌って、翌日には義父に連絡出来る様にと夜中の電話を担当者に掛けたりした。
 担当者に取っては当然の事ながら迷惑な深夜の電話で、受話器の向こうからは不機嫌な声が帰って来た。
 電話に抱く生理的とも言える嫌悪感は、そうした義父の度重なる怒声や部下達のそれとはない不機嫌な声音によって形成されて来たのだった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               albi-france様

                
                有難う御座います
               小梅ちゃん 何度か見て見馴れているはずなのに
               また新たに眼にすると思わず笑いが出てしまうのは何故でしょう
               あの澄まし顔がなんとも言えずに笑いを誘います
               こちらの気持ちを理解している様にも見えて来ます                    
                前にも書きましたがこれでは愛玩せずにはいらません
               はたから見てもその気持ち 充分理解出来ます
               旅のお供の重要なパートナーですね   
               最近はペットを連れての旅行にも理解が進んでいる様です
               嬉しい限りではないでしょうか
                どうぞ 大事にして上げて下さい
               有難う御座いました
                次回の小梅ちゃん どの様な表情を見せてくれるのでしょう
 


                
                 takeziisan様


                  何時も有難う御座います
                 今回も楽しませて戴きました
                 雪景色 昨夜は暖かいこの地方でも薄っすらと積もる程度に
                 雪が降りました
                 今朝はもう全く影も形もなく朝日の輝く朝を迎えました
                 NHKテレビでは今朝 新潟県の雪深い地方の番組を放送していました
                 雪国に生きる人々の寒さに負けない逞しさ
                 雪景色の美しさ 何時も見入ってしまいます
                 寒さを除けば憧ればかりが膨れ上がります
                  三頭山 これもNHK番組 三頭山ではありませんが
                 毎週 百低山番組を見ています
                 NHK番組でも詰まらない番組は見ないのですが
                 地方の景色や人々の地道な暮らしを描いた番組は
                 拾ってよく見ています
                  母への手紙 お母様の御写真 いいですねえ
                 自身の母親の姿も思い出しました あの当時の生活が蘇ります
                 ブログの中でもお書きになっておられますが
                 みんな遠い思い出です
                  ねえちゃ かあちゃ ねえちゃん かあちゃん
                 寒い地方ではそうやって口を開くのまで節約しているんだ
                 などと冗談めかして聞いた事がありますが
                 やはり北国地方の発音ですね
                 面白いです わたくしは東北地方の方言は好きです
                 柔らかさがあります
                 地元 関東の言葉のきつさとは雲泥の差です
                  なごり雪 懐かしい曲 当時は余り関心を払わなかったのですが
                 テレビで当時の楽曲の販売コマーシャルで様々な楽曲の一端を耳にした時 
                 ああ あの頃には 案外 好い歌があったのだなあ
                 などと思いました 今聴いても良い歌が沢山有ります
                 これも一つの財産ですが やはり遠い思い出の中のものです
                  有難う御座いました 



                        
                 
 
 
 
 
 
 


 
 








             
 



























遺す言葉(537)小説  <青い館>の女(26) 他 独裁者

2025-03-02 12:35:53 | 小説
               独裁者(2025.2.25日年



 
 一国の指導的立場に立つ人間に取って
 独裁といてう言葉程 魅力に充ちた響きを持つ言葉は無い
 故に ロシアのプーチンの如き 何万もの
 人の命を無為に奪って 恥じる事も 心を痛める事も無い
 人非人  愚劣極まる人間に同調して恥じない
 愚かな指導的立場に立つ人間達が この地球上
 東西南北 世界各地に無数に出現 存在する
 この悲劇的現実 混迷を深める世界
 世界は人 一人一人のもの
 愚かで卑劣な
 独裁者達のものでは無い


 独裁者==自分の欲望以外に他を見る事の出来ない低能者 愚か者

 
    




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(26)



 
 
 それでもわたしはまた春が来て、北の街を訪れた時には加奈子に会おうとするだろう。
 彼女に依って得られるものが束の間の充足感であっても、それを求めて行くだろう。
 それのみが今のわたしに取っては、生きている実感を与えて呉れるものだった。
 その加奈子は、このまま何カ月も電話をしないでいるわたしに対してどの様な思いを抱いているだろうか ?
 今度会った時には、なんて言うだろう ?
 不機嫌に冷たくあしらうのだろうか ?
 それとも、口では体裁の良い事を言って置きながら、いい歳をして助平な奴ったらありゃしない、と軽蔑しているのだろうか ?
 わたしはだが、そうして浮かんで来る様々な思いの中でもなお、加奈子に電話をしてみようという気にはならなかった。
 彼女がたとえ、どの様な思いを抱いていようともそれはそれでいい、思い煩っても仕方のない事だ、と心に決めていた。
 

            
             四


 
 わたしが久し振りに足を運んだ北の街は、テレビが春の訪れを伝えていた四月も半ばを過ぎた季節の中にあった。
 三月末の支店長会議で新営業年度の経営方針が打ち出されていて、新たな指示の必要は無かったのだが、わたしの支店廻りがまた始まっていた。
 北の街では何時もの様に海岸ホテルに宿泊した。
 ほぼ五カ月振りに見る北の街は季節の違いを除いて外に変わりはなくて、わたし自身もこれ程までに、と思える様な懐かしさに捉われていた。
 海岸ホテルに落ち着くと東京に居る時とは比べ物にならない程の身近に加奈子の存在を感じた。
 電話をすれば直ぐにも会えるのだ、という思いがその存在を身近なものにしていたのに違いなかった。
 わたしはなんとなく増して来る明るい気分と共に、取り敢えず、仕事を済ませてから加奈子に電話をしようと、心の裡で呟いていた。
 その日、午後八時過ぎにまだ事務所に居るはずの支店長に電話をした。
「今日、午後に着いたので明日、そっちへ行くよ」
「はい、分かりました」
 支店長は言った。
「どうだい、お客さんの動きは ?」
 支店長の声は暗かった。
「良くありません。やっぱり、消費税を上げた事が直に響いてますねえ」
「四月の入学関係も駄目か ?」
「多少の動きはありましたけど、期待していた程ではなかったですねえ。この辺りは大都会と違って子供の数も限られていますから」
 わたしは「まあ、頑張ってみてくれよ」と言って電話を切った。
 翌日、わたしは午前十時過ぎに店に顔を出し売り場を廻り、その後、支店長や川本部長に会ったりして午後三時過ぎまでを過ごした。
「空港までお送りさせましょうか」
 わたしが帰り支度を始めると支店長は気を利かせて言った。
 わたしがホテルからすぐに東京へ帰るものと思っていたのだ。
「いや、いいよ。ホテルで少し休んでから帰るので、後はタクシーで駅まで行ってそこから空港までは電車で行くから」 
 支店長はわたしが心臓疾患を患っている事は知っていた。
「そうですか」
 なんの疑念も挟まなかった。
 ホテルまで送ってくれた車はすぐに帰した。
 部屋へ入るとソファーに身体を埋めた。
 今年初めての仕事が無事に終わった解放感からか、途端に思わぬ疲労感を覚えていた。
 背凭れに頭を寄せ掛けると眼を瞑った。
 暫くは何も考えずにいたが気分が収まって来るとふと加奈子の存在に思いが走って、何時、電話をしようか、と考えた。
 腕時計に眼をやると間もなく五時になろうとしていた。
 この時間ならまだ、加奈子は部屋に居るだろう。
 いざ電話をするとなると気持ちが引けた。
 五カ月を超える空白期間が加奈子の気持ちをどの様に変えているのか、読み切れなかった。
 電話の向こうの不機嫌な加奈子の声を想像すると躊躇われた。
 厭な思いはしたくない。
 それでもこのまま電話をしない事にも、悔いの残る思いがした。
 意を決して受話器を取った。
 四度目か五度目かの着信音で電話が繋がった。
「はぁい、加奈子ですぅ」
 無邪気とも言える屈託の無い声が聞こえて来た。
 何時も遣り取りしている相手からの電話だと思っている様子が窺えた。
 加奈子のそんな気楽さに対してわたしの気分もまた、解きほぐされていた。
「しばらく。 三城だよ」
 親しみを込めた口調で穏やかに言った。
「ああ、三城さん・・・」
 加奈子にはだが、予想外の事らしかった。
 息を呑む様に言って言葉を切った。
 その様子が加奈子の驚きを顕わしている様に思えて一瞬の戸惑いを覚えた。
 その心の揺らぎを隠してわたしは言った。
「年末年始の仕事に追われていてなかなか来られなかったんだ。久し振りに来たので電話をしてみたんだけど、どうだろう ? 都合が悪いかな」
「・・・・・」
 加奈子はわたしの言葉に思いも掛けない事を聞いた様に一瞬、言葉を呑むといった気配を感じさて黙っていたが、やがて、
「別にぃ、大丈夫ですぉ」 
 と、ボソボソした口調で答えた。
 その口調に加奈子の迷いが感じられる気がして、
「もし、都合が悪ければ明日でもいいんだ」
 と言い訳をする様に言っていた。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





                albi-france様

                 有難う御座います
                小梅ちゃん 過去の作品も見せて戴きました
                それにしても やっぱり笑ってしまいます
                いやぁ 可愛いです 何回も書く様ですが
                全く 人間の子供と変わらなく見えて来てこれでは
                絵を撮りたくなるのも無理はないと思ったりしています
                 それにしても相変わらずの日常のお楽しみ 羨ましい限りですが
                今年の寒さの中 何処へ出る気にもなれませんでした
                漸く見えて来た春の兆し また六甲の山の景色なども
                拝見出来たらと思います
                 あるやん・・・しょっちゅうです
                あれ、今此処に置いたのに・・・
                今まで当たり前の事が当たり前ではなくなって来る年齢
                日々 今までより一層 注意深く物事を見る様になりました
                美しい風景 楽しませて戴いております
                 有難う御座いました



                
                takeziisan様


                 有難う御座います
                花々の写真 楽しませて戴きました
                蒼空に映える白梅にメジロ 河津桜の見事さ
                こちらの公園はまだ冬枯れの景色そのままです
                 それにしても今年の雪 雪国育ちの方々はどの様に
                御覧になっているのでしょうか 自分達に取っては
                当たり前の景色 ?
                 それにしても雪国に生きる方々の真摯に生きる姿には
                何時も感動を覚えます また雪国への憧れみたいなものも
                心の隅にはあるのですが その寒さを思うと引く気持ちもあります
                温暖な地域に育った人間には無理ーー
                 川柳 相変わらず傑作揃い 良くお作りになります
                そうだ そうだ うふふっ いや 楽しいです
                これからも傑作 お待ちしております 
                「キエン セラ」ロス パンチョス
                懐かしいですね 懐かしさの余り 当時を思い出して瞼が熱くなりました
               やはり パンチョスが良いですね
                ペレス プラードはあのトランペットの響きに魅了されます 
               パンチョスにしてもプラードにしても 日常
               何気なく耳にしていた事を思うと なんと贅沢なという気持ちになって来ます
               これも前回書きました 総ては遠い過去の思い出です
               今の雑音の様な音楽は聴く気にもなりません
                有難う御座いました

                


             




             
























 
   
 

遺す言葉(536)小説 <青い館>の女(25) 他 雪の中

2025-02-23 13:15:41 | 小説
             雪の中(2025.2.22日作)



 凍て付く空 寒気の帯
 寒気の針が 人の
 身体を刺す 心を刺す
 荒れ狂う猛獣 狂獣
 冬の生き物 暴れ者
 白い結晶 雪
 雪一面の白い世界 この国 北国の
 何時にも増しての 厳しく 寒い冬景色
 それでも人は その中 今日も生きている
 冬の生き物 贈り物 寒気の猛獣 狂獣
 白い結晶 雪と闘い 跳ね除けながら
 日毎 夜毎 厚さを増し 重さを増し 
 日々の生活 人の生きる術を脅かす
 自然の猛威 暴挙の中を 今日も人々
 多くの人々 人達が 生きている
 生きている 生きている 生きるという事
 厳しく過酷な現実 その世界 それでも 
 笑顔を見せて耐え抜きながら 今日もまた
 多くの人々 人達が 真摯に生きている
 生きる 生きるという事 真摯に生きる その姿 
 その逞しさ 美しさ 
 雪は今日もまた
 降り続く




          ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



             
            <青い館>の女(25)



 
 各営業所とも年末商戦で普段の月より成績を上げていたが、昨年同期と比べると明らかに伸び悩みの傾向が見えていた。
 世間の不況風を真面に受けているという事だ。
 何処かの支店に限って不振が目立つというのであれば、電話で問い質す作業も必要だったが、総ての支店に於いて同じ様な傾向が見られる以上、何処の支店長をどうのという訳にもゆかなかった。
 その後、社長室に電話をしてみた。
 社長は午後三時過ぎでないと帰りません、という返事だった。
 息子は東京、奥多摩地区に物になりそうな物件があるという事で動き廻っていた。
 その息子が四時過ぎになってわたしの室へ顔を出した。
「電話があったんだって ?」
「おお、帰って来たのか。何、用事って程の事じゃないんだ」
 息子はわたしの四角い大きな机の向こう側の椅子に座るとすぐに、煙草を取り出して火を点けた。
 その姿が何時も義父の姿を思い起こさせた。
 息子がM農産販売を切った事を思い浮かべながらわたしは、総てが義父にそっくりだ、と改めて思った。
 息子がM農産販売を切った影響は今のところ顕著に表れてはいなかった。
 その分、仕入れ担当部長の中園は品揃えに苦労していた。
 M農産販売では各規格毎にきちんと揃えて出荷してくれていたのだったが、市場での寄せ集めとなるとなかなかそうはゆかなかった。それだけ仕入れ担当部には負担が掛かった。
 その上、品物自体の不足に見舞われる事もしばしばあった。
 息子はそれでも、それらの事情を口実に営業成績の落ちる事を認めなかった。
「それが、あんた達の仕事だろう。それ位の事が出来ないんなら仕入れ担当部なんてのは要らないんだよ」
 もし、わたしだったら、仕入れ担当部の反対を押し切ってまで断行した事柄に、それ程の強い態度で臨む事は出来なかっただろう。
「お坊ちゃん育ちで、苦労を知らないからね」
 古い社員の間からは、そんな陰口も聞こえて来た。
 そればかりではなかった。
 あらゆる行動規範が義父の生き写しだった。
 わたしは何時も彼の遣り方に義父の面影を見ている。
「どうだ、物になりそうか ?」
 奥多摩地区の物件を聞いてみた。
「まだ、なんとも言えないけど、商売的には良い環境だと思うよ。よくあんな良い物件が残っていたと思うよ」
 息子は明らかに乗り気になっていた。
「それはそうと、あっちはどうなっている ? それを聞いてみようと思ったんだ」
 わたしは同時並行で行われている地方物件、北の街の中古車販売の件に付いて聞いてみた。
 息子はこの件に関しては顔を曇らせた。
「なかなか好い相手が居ないんだよ。何しろ、こっちはずぶの素人だし、やたらに手の内を明かしてお株を取られてしまったんじゃあ、何んにもならないからねえ」
 息子は言った。
「手は廻してあるのか ?」
「いろいろ様子は聞いてるんだけど、どういだろうなあ。部品屋にも当たってみてはいるんだけど」
 突然、鳩尾の辺りに大きく突き上げて来る痛みと脈拍の乱れを感じてわたしは、思わず顔をしかめて右手を添えた。
「どうしたの。具合が悪いの ?」
 それに気付いた息子は煙草を持っていた右手を宙に浮かして凍り付いた様な顔で聞いた。
「いや、なんでもない。突然、ドキンと来たのでびっくりした」
 一瞬のうちに治まった心臓の異変に安堵を覚えながらわたしは静かに言った。
「相変わらず、具合いは良くないの ?」
 わたしの病状を知る息子はそれでも不安気だった。
「いや、この所、安定しているんだけど、昨夜、飯倉さんのパーティーで少し飲み過ぎたのが良くなかったのかも知れない」
「昨夜は大盛況だったみたいだね」
 母親に聞いたのだろうか、息子は言った。
「うん、賑やかだった」
 わたしは醒めた口調で答えた。
 今のわたしに取っては総ての事が遠い世界の出来事にしか思えない。
 わたしを襲ったばかりの不安定な病状に怯え続ける日常、その中ではあらゆる物事が暗い影の下、黒く浮かび上がって見えて来るだけだった。
「それにしても、年末商戦は余り期待出来ないなあ」
 わたしは話題を変えて言った。
「かなり厳しい」
 息子も状況は把握していた様だった。
 クリスマスが過ぎると店舗の商品構成は即座に年末年始に向けて変えられた。
 本部からの指示に基ずくものだったが、地域によって店頭に並べられる商品は違っていた。
 総て地元の裁量に任せてあったが、店長の手腕が問われる処でもあった。
 わたしは北の街の夜に灯を点す<サロン・青い館>の加奈子を時々思い出した。
 それで心を乱される事は無かった。
 当分、北の街へ行く事は無いだろうと決めて思い出す加奈子は、雑誌の中の写真に見る女達の様に遠い存在にしか思えなかった。
 北の街では束の間、彼女によって心の空虚を埋めていたがそれも遠く離れて東京で顧みる時、年甲斐もない好色、としか言い様のない行為に思えて来てまた新たな自己嫌悪に陥った。




               takeziisan様


                
                奥様の御介護にお忙しい中
               駄文にお眼をお通し戴き有難う御座います
                編笠山 遠い思い出に
               そうですね われわれの年齢になると総てが遠い思い出になってしまいます
               寂しい限りです
                でも 思い出があるという事は良い事かも知れません
               それだけ人生が豊かだったという事なのかもしれませんから          
                豪雪 今回 ちょうど雪にまつわる文章を書いてみました
                腰痛 わたくしも以前 神経痛を持っていたのですが
               自己流体操を続けているうちに何時の間にか治っていました
               今は寒い中でも出る事がありません
               水泳は是非 続けた方がいいのではと思います
               高齢になると体を動かさないとそれだけ堅くなってしまう様です
               動く事が一番の高齢対策だと思います
                大根 今回はきれいな大根
               前回の大根を見た時 ふと こんな言葉が浮かびました
               「大根は 千両役者 形(かた)自在」
               大根役者ではなかった
                「慕情」「ある愛の詩」
               映像 メロディー 共に記憶に刻み込まれています
               寒さの厳しい中 どうぞ御身体に気を付けて
               これからも素晴らしい映像の数々をお送り下さい
                有難う御座いました



           

                                                    albi-france様


                有難う御座います
              六甲に近い処にお住まいとの事 毎日 自然の環境を眼にしながら1日を終わる
              素晴らしい事だと思います
              日々 家々の屋根だけしか眼に入らない街中に生きる人間に取っては
              羨ましい限りです
              時々 東北地方などへ旅行をする事があるのですが
              車の窓などから雄大な山々の連なりが眼に入って来ると
              ほっと心が洗われる様な思いを抱きます
              日々 自宅の窓からそんな自然 六甲の山々を見ながら1日を終わる
              なんと贅沢な事か という思いです
               贅沢なと言えば お友達との会食 余り外で食べ事の無いわたくしには
              今 街中でどんな料理が流行っているのかも知りません
              そうやってお友達などとの会食を楽しむ心の余裕 豊かさ
              これもまた羨ましい限りです
               でもどうぞ 過食には御注意を !
              小梅ちゃん 相変わらず何故か笑ってしまいます
              まるで人間の幼い子供の様です 表情がいいですね
               有難う御座いました
               



  
                                      


                































遺す言葉(535)小説 <青い館>の女(24) 他 トルストイの言葉ほか

2025-02-16 11:25:54 | 小説
             トルストイの言葉ほか(2025.1.18日作)


 
 知識は手段であって目的ではない
 トルストイは言っている
 得た知識を何に使うか
 知識を有効に使う事によって知識が生きる
 実行を伴わない知識は死んだ知識
 物知り顔にペラペラ喋り 知識を誇っても
 その知識を使う事を知らない人間は
 知識のない人間


 人は他者から自分に取って良い事をされた時には
 それが当然の事の様に受け止めるが
 悪い事をされた時には
 大袈裟にその悪事を吹聴 批難する


 文章を書く事は
 それを読む人の心の中に絵を描く事
 文筆家は画家
 文字でそれを読む人の心の中に絵を描いている
 文字を読む
 人の心の中に鮮明に絵が浮かび上がる時
 名文だと言える
 長たらしく 派手に飾り立てた言葉など必要ない
 名文はたった一言 たった一行の中に
 豊かな絵を浮かび上がらせるだけの力を持っている




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(24) 



 
 
 それにしても、教授がこんな風に妻と親し気にしているのはどういう事だろう ?
 何か魂胆でもあるのだろうか ?
 それとも単なる顔馴染みというだけの事なのか ?
 もし、教授が今でも昔の面影を残していて、とても還暦を過ぎたとは思えない妻の美貌に魅せられているのだとすれば、愚かな事だ。
 妻は単なる人形、気位の高い人形でしかない。
 木偶の感情しか持ち合わせていない石にしか過ぎないのだ。
 それとも教授は牧本家の財力に眼を付けているのだろうか ?
 財力にかけてはこの会場にはもっと大物が一杯居るだろうに。
 あるいは二人は既に深い関係にあるのか ?
 だが、それらの事も今のわたしに取っては、どうでもいい事であった。
 もし、教授が妻との関係を深めたいのなら深めればいい。
 今のわたしに取ってはそれもまた、遠い世界のわたしには関係の無い事の様に思えて来るのだ。
 折よく、エッセイストだか作家だか、これもまたテレビによく顔を出している相川早紀子がのっぺりした顔立ちのテレビタレントらしき男と連れ立って来て、教授とわたしの妻を捕まえた。
 わたしはその隙に彼等の傍を離れた。
 バーティーが終わりに近付く頃、妻とわたしは飯倉夫妻の傍へ行き、挨拶をしてから会場を後にした。
 酒が入る事を考慮して車を置いて来たわたし達はホテルの前でタクシーを拾った。
 妻は座席に身体を埋めると早速、文句を言って来た。
「いったい、何やってるのよ。会場の隅にポッネンとしていて見っともないって言ったら、ありやしないわ。どうしてもっと積極的に自分を売り込まなかったの。飯倉さんのパーティーなんて、財界のお偉方と御近付きになるのにこんないい機会はないじゃないの。それをまるで世をすねたみたいに会場の隅で一人しょんぼりしているんだから、話しにも何もならないわ」
 わたしは疲れていた。
 妻が言う様に誰と話しをしなかった訳ではなかった。わたしはわたしなりに数多くの人達と挨拶を交わし、勧められるままに水割りウイスキーのグラスを空けていたのだ。
 たいして酒に強くはないわたしはそんな事もあって、体調の不良と共にタクシーの座席に身体を埋めると同時に軽い酔いと、何時もより速い心臓の鼓動を意識して不安に捉われた。
 その不安を押し殺してわたしは言った。
「誰とも話しをしなかった訳じゃないさ。それなりに必要と思える人にはちゃんと挨拶して置いたさ」 
 妻はわたしのそんな言い訳めいた言葉にも耳を貸さなかった。
「とにかく、孝臣はまだ若いんだし、幾らマキモトの社長だって言ったって、あなたがちゃんと手を貸して遣らなければ駄目なんですよ」
「奴の事は心配しなくて大丈夫さ。俺より余程、しっかりした仕事をしている」
 普段、彼の仕事ぶりを眼にしているわたしは本音を言った。 
「何時もこうなんだから」
 妻は勿論、そんなわたしの言い訳めいた言葉には耳を貸さなかった。
 如何にも不満気な口調で呟くと座席の後ろに頭を持たせ掛けて眼を瞑った。
 わたしはそんな妻を見て、お前が付いていれば大丈夫さ、と胸の中で呟いたが、無論、言葉には出さなかった。
 タクシーは渋滞に巻き込まれていた。
「何かあったのかしら ?」 
 妻は不安気に外を見て言った。
「この通りは何時も混むんですよ」
 タクシーの運転手もうんざりした口調で言った。
 わたしは気分の優れないままに眼を閉じていた。
 外の渋滞に眼を向ける気にもなれなかった。
 そんなわたしの眼を閉じた世界には改めて、パーティー会場の華やかな雰囲気とその中に居た人々の煌びやかで艶やかな姿が浮んで来た。 
 にこやかな笑顔を振り撒きながら、得意満面でいた誰彼の姿が思い出された。
 わたしはそんな人達の姿を思い浮かべながら、優れない気分と共に思わず心の中で、みんなスノッブだ ! 俗物だ ! と呟いていた。
 その夜、わたしは自宅へ帰ると酔いに焙り出された様に意識を覆って来る倦怠感と疲労感で、風呂に入る事も面倒臭くなってすぐに寝室に向かった。
 妻は機嫌が良かった。
 我が家の家事一切を取り仕切って二十年近くなる、早くに夫を亡くして来年一月三日で六十八歳になるハルさんを捕まえ、パーティーの華やかだった様子を得意気に聞かせていた。
 翌日、わたしはそれでも二日酔いもなく会社へ出る事が出来た。
 何時もの通り、昨夜の内に送られて来た営業報告書の数字を仔細に読み解く作業を続けた。




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                albi-france様

       
                 有難う御座います
                ブログ記事拝見しますと とても日常の生活を楽しんでいる御様子
                羨ましい限りです 西にお住まいなのでしょうか
                関東に住み 西はさっぱり不案内ですので その日常の御様子が
                何か新鮮な気がします
                この狭い日本に居ながら 
                 元々 地方の方々の生活を拝見するのが好きで
                滅多に見ないテレビでもそのような番組にはよく眼を通しています
                また地方の御様子をお伝え下さい
                 小梅ちゃん 何故か 相変わらず笑ってしまいます
                良いですね 純真な眼差しが
                 つまらない文章にお眼をお通し戴き
                有難う御座います







































遺す言葉(534)小説 <青い館>の女<23> 他 大切な事

2025-02-09 12:45:54 | 小説
             大切な事(2025.1.28日作)



 人が生きる上で最も大切な事
 今日より明日を もっと 
 良く生きようとする 心
 それでも人は しばしば 明日をもっと
 良く生きようとして
 悲惨なものにしてしまう
 欲望に捉われる人間の業その結果
 人は 人が持つ二つの心 良心 欲望
 その 良心に従い真摯に生きる その時にのみ
 明日は約束される 
 人が持つ欲望 
 欲望は底なしの 泥沼
 一度踏みいれた足を引き抜く事の難しさ 困難さ
 歩く毎に足は深みにはまつてゆく



     全智全能の神など存在しない
     宗教上の神が人間の苦難 苦境を救う事は出来ない
     究極に於いて人の苦難 苦境を救い得る力を持つ存在は
     人の持つ善意 心と行動でしかない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(23)



「惣治さんの奥さんか ?」
「そうよ、御長男の奥さん」
「それならそうと、早く招待状を出さなければ歳の暮れだし、みんな予定を組んじゃうだろうになあ。それこそ御歴々が集まるのだろうから」
 わたしは不満を重ねて言った。
「あなたがそこまで心配する必要は無いのよ」
 妻はわたしの不満だらけの口調に匙を投げた様に言った。

 都内の有名ホテルで行われた飯倉肇夫妻の結婚六十周年を祝うダイヤモンド婚は盛大なものだった。
<スパーマキモト>の存在など意に留める人など居ないであろうと思われる程に、著名な企業を代表する著名な人々が夫人同伴で顔を揃えた。
 政治家もまた然りだった。
 売り出し中の若手を始め、元大臣なども何人か顔を見せていて、未だ衰えぬ飯倉肇の影響力を誇示している様に見えた。
 金屏風を背にして一段高い場所の椅子に座った飯倉肇夫妻はひどく小柄で、彼はまるで好々爺に見えた。
 政治の世界で今なお、噂される影響力を持つ人の様にはとても思えなかった。
 以前にはわたしも何度か挨拶だけはした事があって、恰幅の良い身体から滲み出る迫力に圧倒される思いを抱いた記憶があるが、今ではそんな気配も見えなくてそれも歳のせいかも知れなかった。
 式は二部形式になっていた。
 一部では祝辞や様々な挨拶が型通りに行われて、それが済むと次の間に移っての立食パーティーになった。
 わたしの妻は濃紫のイブニングドレスに豪華な洋蘭の花飾りという装いで出席していたが、芸能界から有名女優達も数多く出席している中でも彼女の華やかさは引けを取らなかった。
 還暦を過ぎてやや太り気味に見える体躯からは貫録さえもが滲み出ていて、胸元を露出した衣装も不自然ではなかった。
 わたしは妻の衣装に合わせてのタキシード着用だった。
 普段、着馴れないせいもあって一足歩くのにもぎごちなさが伴った。
 パーティーへの出席自体に乗り気ではなかったわたしは、体調への不安と共にウイスキーの水割りグラスを手に、自ずと会場の片隅でぽつんとしている時間が多くなった。
 その中で次第に増して来る疲労感と共に益々厭世的な気分に陥り、こぼれる様な笑顔で談笑する煌びやかな衣装の人々に皮肉な眼差しを向けて眺めていた。
 それにしても・・・・と、わたしは思った。
 妻と二人、小さな結婚式や祝事にはこれまでも何度か出席していたが、これ程大きなパーティーには出た事の無いわたしには妻の顔の広さが驚きだった。
 経済界の御歴々は無論の事、芸能人や大学教授といった人達ともまるで古い知己ででもあるかの様に親し気に言葉を交わしていて、それが少しも不自然ではなかった。
 妻はせっせと出歩いていた陰で、こうした人達との人脈も抜かりなく築いていたのだろうか ?
 それが<スーパーマキモト>の経営にどれだけ寄与していたかとなると、わたしには判断出来ない事であったが、義父の顔の広かった事もあって、多分、いろいろな方面で力になっているのだろう。
 妻が遠くから手招きした。
 わたしが人と人の間をすり抜けて行くと、妻は傍に居た五十歳がらみの男をわたしに紹介した。
「こちらの方、T農産大学の浅川教授よ。流通関係が御専門だから御見知り置き戴いて何かと御相談に乗って戴いたらいいわ」
 浅川教授はテレビのおふざけ番組などにもよく出ていて、わたしは顔だけは知っていた。
「浅川です。どうぞ宜しく」
 教授は右手を差し伸べ、今どき、怪しげな商人でさえ見せないであろう様な、ひどく下卑た感じのする愛想笑いを浮かべて如才なく言った。
「マキモトの会長で、わたしの連れ合いです」
 妻はわたしを教授に紹介した。
「牧本です」
 名刺を差し出しわたしは、極力、不機嫌さを抑えた笑顔で丁寧に挨拶した。 
 この教授にわたしは日頃から好感を持っていなかった。
 愚にも付かないおふざけ番組の中で、なんの取り柄もないタレント達に迎合してふざけ合っている姿をしばしば眼にしていた。
 大学教授らしい品位の欠けらもないそんな姿にわたしは、こんな教授に講義を受けている様では学生達が勉強する事もなく遊び惚けているのも無理の無い事だと思っていた。
 わたしはだが、長年、妻や義父の下で頭を抑え付けられ続けて来た哀れな男の習性で、教授に抱いている日頃の不満も包み隠して愛想笑いを浮かべ、挨拶したのだった。
 教授はわたしが差し出した名刺を受け取ると、一瞥もくれずに右手の中で丸め、
「済みません。わたし、名刺を持っていないものですから」
 と、妙に冷ややかに見える例の笑顔で言った。
 恐らく教授は、その抜け目の無さで素早くわたしと妻との力関係を見抜いていたのだ。
 わたしが牧本家では取るに足りない存在でしかないと値踏みしていたのだ。
 実際に教授が名刺を持っていようがいまいが、わたしにはどうでもいい事ではあったが。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                パソコン この厄介者無ければ今の時代不便
              なんとか最低限の知識で使用はしていても変わる度に四苦八苦 
              つくづく時代遅れの身を感じる始末 それでも敢えて
              新しさに挑もうという気にもなれません
              まあ 必要なものだけに使えればいいと諦めています
               今年でサポート終了との事 さあ どうしよう
              また思案投げ首 その時はその時 腹を括るり仕方がありません
               立春になってのこの寒さ それでもこの地方は雪も無く なんと過ごし易い事かと
              雪に埋もれる地方の景色を見る度に思わぬ感謝の気持ちさえ湧いて来ます
              勿論 この地方でも景色は冬枯れ 公園の木々は葉を落とし枯れ木の色
              ただ 春よ来い 早く来い と願う気持ちのみです
              そんな中でのロウバイ 鮮やかな黄色 無論 この地方でも見られます
               アオジ メジロ共に懐かしい名前です
               白菜漬け 羨ましい限り
              自分好みの味付け自在 なんと贅沢な事か 
              農家の方々 漁業の方々 地方のなんとはない生活を映したテレビの番組を見るのを
              下らない番組群の中で唯一楽しみにしているのですが
              見る度にその豊かさに羨望の眼差しを向けて見ています
              今年の野菜のバカ高さ 羨ましい限りです
               いずれにしても去年から今年 日々 生きて行く事の息苦しさ困難さを
              日毎感じています
               この寒さもあと少し どうぞ御身体を大切に
              有難う御座いまし



               albi-france

                有難う御座います
               小梅ちゃん ぬいぐるみに見えて ちょこっと坐った姿は
               人間の子供の様にも見えて思わず笑ってしまいます
               これではなかなか手放す事は出来ませんね
               わたくしは昔 亀やオウムを飼った事がありますが
               死なれた時の痛みが大きくて 以来 生き物は飼っていません
               それでも このような写真を見ると改めてその人の気持ちが分かって来ます
               どうぞ 大切にして下さい
                焼き立てパン 子供の頃 焼き立てのアンパンを食べた事がありますが
               あの時のなんとも言えぬ旨さは以来 経験した事がありません
               毎日の食卓に焼き立てパン わたくしの昼食は乾いた食パン二枚
               羨ましい限りです それでもパン好きの人間
               なんとなく満足しています
                中身は大人になれず 幾つになっても同じ事
               でも それが若さの秘密かも知れません
                有難う御座いました
              
               

              

              




               


























    
 
 
 
 

遺す言葉(533) 小説 <青い館>の女(22) 他 名目よりも実質

2025-02-02 12:22:56 | 小説
             名目よりも実質(2025.1.13日作)



 
 名目に眼を奪われるな
 実質に眼を向ける
 名目だけは一流 立派
 実質 実態 中身は空っぽ 空虚
 政治 経済 学術 宗教
 あらゆる分野 総てに於いて
 現状 名目優先
 教会宗教に惑わされるな
 自己保身だけの専制君主に惑わされるな
 借り物論文 借り物文章に惑わされるな
 貴ぶべきものは実質 実質優先
 名目 名前だけは一流 実質二の次
 豪華絢爛 名声下 口先説教だけの教会宗教
 それよりも
 小さな村 小さな町 小さな組織
 互いが互いを助け合い 手を差し延べ合って
 労わり 寄り添い生きている
 名もなき小さな村 小さな町の小さな組織
 その行動力 実行力
 名声 名目よりも実質 実質優先 実際行動
 その姿 その姿勢
 人が人としてこの世を生きる その上で
 最も尊く美しく 忘れてならない真実 その姿
 名目よりも実質 実質優先 実質第一 実際行動
 人が人としてこの世を生きる
 決して忘れてならない真実 
 その姿




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(22)





「今のところ、それ程心配するには及びません。心筋梗塞の方は落ち着いていますよ。但し、無茶だけはしないで下さい」
 七十歳がらみの町医者だったが、毎月欠かさずに診察を受けている斎藤医師は言った。
 かつて東京の著名な大学病院で様々な大手術に腕を振るった経験のある、小柄で坊主頭の見事な斎藤医師は、わたしを脅かすのを面白がっていたが最後には決まって「まあ、心配するには及びません。大した事はないですよ」と言うのが口癖だった。
 わたしはこの、眼鏡の奥の柔和な眼差しと楽観的な口調で話しを締め括り、不安を解消してくれる医師を信頼していた。
 女性の方は控えた方がいいですね、と冗談交じりの口調で言ったのもこの医師だった。
 無論、わたしは加奈子との事は話さなかった。
 話す必要もない様に思えた。
 大きく乱れる脈拍も加奈子との事が直接の原因ではないのだ。
 寒さが、季節の移り変わりがわたしの肉体に影響し、わたしの肉体がそれに付いて行く事が出来なくなっているだけの事だった。
 この病気を意識する様になってからは毎年の事だった。
 北の街では早くも雪が舞い始めていた。
 テレビの映像が北国の街の姿を映し出していた。
 わたしの北の街へ向かう意欲も東京でも増して来る寒さの中でしぼんでいた。
 寒さに凍る北の小さな街の雪に埋もれた海岸通りが眼に浮んだ。
<サロン 青い館>はその中でも灯を点しているのだろうか ?
 加奈子は雪に埋もれた白い街で相変わらず同じ様に生きているのだろうか ?
 わたしが東京へ帰ってから五十日が過ぎようとしていた。
 そろそろ北の街を訪れてもよい頃だったが迷いがあった。
 わたしが続ける支店廻りは冬の季節、この病気に苦しめられる様になって以来、何時も中止されていた。
 無論、体調を考えての事ではあったが、雪で足を阻まれる事への配慮もあった。
 それでこの季節、わたしは何時も冬籠りをする様に会長室で過ごす時間が多くなっていた。
 当然の事ながら、その間も各支店からの営業報告書は毎日送られて来ていて、営業状態の把握にはほとんど影響は無かった。
 冬が終わり春になればまた、わたしの支店廻りが始まる事を知っている支店長達が手を抜く事もなかった。

「あなた、クリスマス・イブに予定は入っていないでしょう」
 十二月に入ってすぐだった。
 雨にたたられた日曜日で一日中わたしは、新聞や雑誌に眼を通しながら過ごしていた。
 午後六時を過ぎて夕食前の時間、居間に顔を出したわたしに今年出す年賀状の整理をしていた妻が顔を上げて言った。
「クリスマス・イブ ? なんで」
 クリスマス・イブなど、これまでのわたしには全く関係が無かった。
 社交好きな妻は一人でよく出歩いていたが、わたしはそんな妻を冷ややかな眼差しで見ていた。
「飯倉さんがダイヤモンド婚のお祝いをするんですって」
「飯倉さんって、飯倉肇さんか ?」
 わたしは聞き返した。
 暫く耳にしていない人の名前だった。
「ええ、そうよ。誰だと思って ?」
 妻はそんなわたしに不満気に言った。
 飯倉肇はかつて財界で華やかに活躍した人だったが、最近ではその名前を聞く事も少なくなっていた。
 政治に近いある部分ではその強大な財力故に今なお、政治家達を引き付けていて隠然たる力を保持しているという噂は時折り耳にはしていたが、表立って表面に出て来る事は殆どなかった。
 わたしの義父はそんな飯倉肇とは若い頃からの知り合いで、妻はその美貌ゆえに飯倉肇のお気に入りでもあった。
 自分に娘の居ない飯倉肇はわたしと結婚してからの妻をも、依然として自分の娘の様に可愛がっていた。
 その飯倉肇も既に九十歳を越えているはずだった。
「そのお祝いをクリスマス・イブにやるのか ?」
 わたしは妙な気分で聞き返した。
 クリスチャンでもない人間が何故、依りによってイブなんかに遣るのか ?
 妻はだが、わたしの不満気な口調に苛立ちを募らせた様子で言った。
「クリスマス・イブに遣ってはいけないって言う法はないでしょう。一年の終わりをイブと一緒に、忘年会なども兼ねて華やかなお祝いで締めようって言うんですもの、いい事じゃない」
「でも、年の瀬の忙しい時にわざわざ遣らなくてもいいだろうに。来年の暖かくなった時期に遣ればいいんだ」
「あなたんがそんな事を言ったって、あちら様で遣るって言うんですもの、しょうがないじゃない」
 妻は怒った口調で言った。
「まあ、それはそうだが」
 わたしは矛を収めるより仕方が無かった。
「予定はないんでしょう ?」
 妻は念を押す様に言った。
「別に予定はないが、どうしても出席しなければいけないのかなあ」
 煮え切らない口調でわたしは言った。
「それは出席しなければ悪いわよ。飯倉さんには散々お世話になってるんだし、ましてダイヤモンド婚だなんて、滅多にある事ではないんだから折角の御招待に二人で出席しなければ悪いわよ」
 わたしの体調を知っている妻は幾分、穏やかな口調になって言った。
「招待状は来ているのか ?」
 重い口調でわたしは聞いた。
「まだ来てないわ。そのうち来ると思うわ。昌代さんが言ってたから」




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 


                 
                 albi-france様

              
                 拙文にお眼をお通し戴き有難う御座いました
                時間的に余裕が無いので他の方々のブログ記事を拝見する事は
                余り無いのですが 先週 美しい写真に眼を引かれ
                思わず拝見しました
                今回も拝見させて戴きましたが 小梅ちゃん
                相変わらずの可愛さ 思わず声を掛けたくなる心境
                分かります
                食べ物の前でちょこんと座る姿 まるで人間の様に見えて来ます 
                思わず微笑みが漏れます
                 男の見境の無さ デコポン 笑いました  
                良い処にお住まいです 梅林の美しさ あの景色
                絶景です
                 なんと贅沢な日頃の食事 小梅ちゃんも欲しがるはずです
                有難う御座いました
               



                 takeziisanj様


                川柳 相変わらず面白く拝見せて戴きました
               わたくしとしては 祝う チャンス の中に面白いと思う作品を
               複数見ました
               やっばり川柳にはちょっとした皮肉が欲しいですね
               納得納得 この面白さが川柳でしょうか
                散歩AI 世の中AI時代 わたくしの一週間に一度計っている   
               体組成計にも計った後でメッセージが出ます
               今年四月で八十七歳ですが 肉体年齢七十一歳と出ます
               現在 取り立てて悪いところは無いのですが
               毎日の基礎的体操は欠かしていません
               取り敢えず後十年を目標にしています 
               出来れば百歳までと願っていますが
                水泳 お仲間と共に是非続けて下さい
               年老いたガールフレンドもまた楽しいではありませんか
                富士山 何時見ても心洗われます 河口湖湖畔で間近に見た姿を改めて
               思い出しました
               以前にも書きましたがわが家の屋上から見える方角と全く同じ   
               富士山でした 最近 噴火が取り沙汰されていますが
               あの姿が失われてしまうのは惜しいですね
               内心 俺の生きている間は噴火しないでくれ なんて思っています
                畑も冬枯れ 大根の思わぬ姿の面白さ 大根は大根役者ではなく
               千両役者です
                モズなど冬鳥 昔を懐かしく思い出しながら拝見しました
                有難う御座いました
 
 
 
                

 






































 
 
 
 






 
 



 

遺す言葉(532) 小説 <青い館>の女(21) 他 視点

2025-01-26 11:49:08 | 小説
              視点(2024.12.26日作)


 

 人は自分の視点でしか 
 物を見る事が出来ない
 自分の見た物が 唯一 真実と思い込む
 この世界には 他者の視点も存在する
 他者の視点 自分の視点
 異なる
 人それぞれ 異なる視点 異なる世界
 その真実
 繋ぎ得るものは人の心 精神性
 地球上 様々な生き物 動物達の中
 人だけが持つ心 精神性
 心と精神性 互いに張り巡らし 結び合う時
 生まれるものは巨大な一つの輪 一つの世界
 その時 初めて 人は人として その正道
 真実の道を歩む事が出来る
 自己の視点 他者の視点
 他者の視点を想像し得ない人間 人間以下
 一般的動物と異なる事は無い




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(21)




 
 今、此処でこうして居る自分は一体、どういう存在なのか ?
 自分の身に何があったのか ?
 身動き出来ない自分に対しての現実感が感じ取れなかった。
 あの社長室に居た自分と、今此処にこうして居る自分との間の深い溝。
 総てが空白の中にあった。
 自分が心臓発作で倒れ、病院に運び込まれたと理解したのは何日かが過ぎてからだった。
 あの激痛とそれに先立つ胸の締め付けられる様な圧迫感、受話器を握ったまま少しずつ増して来る痛痒感を頻りにワイシャツの上から擦っていた事が鮮明な記憶として甦る。
 現在に至る総てがそこから始まっていた。
 今でもふとした瞬間に襲って来る胸部の圧迫感と微かな痛みが瞬時にわたしを恐怖のどん底に落し入れる。
 気力を奪われ、暗然とした思いの中で屍としての自分をそこに見い出す。
 人生は終わった。
 呟きの中で恐怖との闘いのみが残された自分の人生の様に思えて来て絶望の淵に沈み込む。
 愚かな事だ !
 屍としての自分が一体何故、死の恐怖と闘わなければならないのだ 。
 死ぬ事がそんなに怖いのか ?
 何故、こんなにも死を恐れているのだろう ?
 この世の中に未練を残す何かが在るとでも言うのか ?
 何にも無い。 
 空虚が見えて来るだけだ。 
 それでいて、心の底から湧き上がって来る死への恐怖は一体、何処から来るのだろう ?
 何を意味しているのだろう ?
 既に明け方近かった。
 漁港の方からはなんの物音も聞こえて来なかった。
 まだ、漁船が出て行くには早い時刻なのだろうか ?
 それとも、総ての漁船が出てしまった後なのか ?
 わたしは深い眠りから醒めたばかりだった。
 加奈子は眼を醒ましていて目醒めたばかりのわたしと視線が合うと無邪気な笑顔を浮かべた。
 その表情が昨夜の加奈子を思い出させて愛しさを誘った。
 愛しさに誘われるままにわたしは加奈子の細い身体を抱き締める。
 加奈子はわたしの不可能な事は分かっていても、嫌がる素振りも見せずにわたしの為すがままに身を寄せて唇を合わせて来る。
 長い抱擁の後でわたしは加奈子の肉体を解き放す。
 加奈子は依然として嫌な表情一つ見せなかった。
 部屋を出る直前になって加奈子は二つ折りにしたバッグの中から小さな物を取り出してわたしの前で振って見せた。
「これ、要らなかった」 
 楽し気に笑いながら言った。
 わたしの知り尽くした"物"だった。
 わたしは笑顔で答えただけだった。
 港の遠い何処かで船のエンジンの弾ける音がしていた。
 それが幾つも響き合い、重なり合って長く続いた。
 ホテルを出るとまだ暗さを残した通りには頻りにトラックの行き交う姿が見られた。
 港の動き出した気配が伝わって来た。
 なかなか来ないタクシーを探しながら海岸ホテルの方角へ向かって二人で歩いた。
「これから、どうするの ?」
 加奈子に聞いた。
「家へ帰って寝ますよぉ」
 加奈子は当然の事の様に言った。
「家は近いの ?」
「近くはないけどぉ、そんなに遠いって言う事もないんですよぉ。歩いても行けるからぁ。この奥の方なんですけどぉ」
 左手の街並みの方角を指差して加奈子は言った。
 彼方に遠い山脈(やまなみ)が黒い影を作っているのが見えた。
「一人で住んでるの ?」
「そうですよぉ」
 加奈子は当然だ、という様に軽い非難を込めた口調で言った。
「誰か、友達と一緒に住んでるのかと思った」
 非難の口調に答える様にわたしは言った。
「でもぉ、一人の方がぁ気楽だしぃ」
 何となく沈み込んだ翳りのある口調で加奈子は言った。
 その沈み込んだ口調が何かしらの複雑な事情を想像させたが、それ以上に深く追求する気も起らなかった。
「今度また、こっちに来た時には会ってくれるかなあ」
 とだけわたしは言った。
「ええ、構わないですよぉ。今度みたいにまた電話をして貰えたらぁ、お店を休みますからぁ」
 加奈子は明るさを取り戻した口調で言った。
 その加奈子が手にしたバッグには先程わたしが渡した十万円が入っている。
 漸く一台のタクシーが遠くに姿を見せて来た。
 加奈子はそのタクシーを見ると、
「わたしは道が違うのでぇ、別の所で探しますからぁ」
 と言って足を止めた。
 昨夜、わたしが人目を警戒した事を覚えていたらしかった。
 わたしは加奈子を残して一人だけタクシーの来る方角へ向かって足を進めた。
 
 その日、ホテルへ帰ってから二時間程の睡眠を取った。
 その後、食事を済ませて帰路に着いた。
 東京へ帰ってからの日常には格別の変化も無かった。
 加奈子と会った事なども日常の雑務に追われる中で何時の間にか忘れられていた。
 季節は東京でも寒さに向かっていた。
 何時また変調を来すか分からない肉体が、依然として心を煩わせていた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                冬枯れの季節 散歩も楽ではない事だと想像出来ます  
               でも 身体は動かさなければ駄目 衰えるだけ
               昨日 ちょうどその様な文章を一篇纏めた所です
               近いうちにこの欄にも掲載する心算でいます
               何れにしても身体が動くうちが華 せいぜい頑張って下さい
                冬枯れ 頬白 懐かしい絵です 子供の頃が思わず蘇りました
               松林のまだ低い木々の間に「バッタン」を仕掛け
               捕ったものでした
                バッタン 竹と藁で編んだ縄を組み合わせて
               楕円形の小さな網を括り付け そこに鳥の好む餌を置き
               鳥が突くと網が倒れて鳥を捕獲する仕掛けです
                いろいろな鳥が居ましたが頬白は特に人気でした   
               寒さにも係わらずそうして冬枯れの野を歩き廻っていた事が思い出されます  
               懐かしい思い出です
                「じい散歩」ブログそのまま 面白い偶然ですね
               現代小説は読んでいませんので今どんな作家が居て 
               どんな作品が評判なのかも分かりません
               その意味でブログ内の小説案内は興味深く拝見しています
               何れにしても寒い季節 お身体にお気を付け下さい
                有難う御座いました

  



      


















































 
 
 
























          

遺す言葉(531) 小説 <青い館>の女(20) 他 忘れてならないもの

2025-01-19 12:15:43 | 小説
             忘れてならないもの(2024.12.16日作)



 
  命の終わり 死は
  常に身近 傍にある
  其処にも 此処にも
  一寸 一歩先は 誰にも分からない
  今 この時は 永遠ではない
  常に変わりゆく 今 この時
  人に出来る事は只今現在
  今を生きる 生きる事
  それでも人の命は日々 時々刻々
  失われて 逝く
  失われ逝く 人の命
  朝に生まれて 夕には沈む太陽
  沈む太陽 夕陽が今日も
  遠く彼方 山の端 海の向こう
  ビルの谷間に消えて行く
  沈む太陽 夕陽を見詰める
  日々の幸せ
  人が人としての命を全うする
  この尊さ 貴重さ 
  忘れてならないもの




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(20)



 
 
 片側二車線を持つ大通りに行き交う車の影は無かった。
 漁港に関連した仕事を持つ家が多いのだろうか、通りに面してそれらしい看板を掲げた二階建て、三階建ての家々も悉く鎧戸を降ろして静まり返っていた。
 公園は漁港に隣接して海に臨んだ場所にあった。
 加奈子が立っている辺りには大きな樹木が歩道の上にまで枝を延ばしていて、黒々とした影を作っていた。
 公園を囲んで作られた石垣の上には歩道に沿って整然とした連なりの柵が見られた。
 石畳みの歩道に早くも散り敷いた落ち葉が見えるのは此処が北国の故にか ?
 タクシーは加奈子の立っている前を通過して、なお進んだ。
 加奈子の姿を確認していながらわたしは、その前で車を停めさせる事を躊躇した。
 運転手に悟られるのを怖れた為だった。
 この狭い街では何処から噂が広がるか分からない。
 加奈子は暗闇に立ったまま不審気な様子で自分の前を走り去るタクシーを見詰めていたが、中の乗客がわたしだと認識していたのだろうか。
 加奈子の姿が小さくなった辺りで車を止めさせた。
 二枚の千円札を渡して釣りは受け取らなかった。
 タクシーはそのまま走り去った。
 その影が小さくなると加奈子の居る方へ戻って歩き始めた。
 暗闇の中で不審気に走り去るタクシーを見詰めていた加奈子もそれでわたしだと気付いて歩み寄って来た。
「タクシーがそのまま行っちゃったんでぇ、分からなかったのかってぇ心配したんですよぉ」
 加奈子は何故かホッとした様な笑顔と共に親し気に言った。
「運転手に知られると拙いと思ったんだ」
 わたしは言った。
「ホテルの前から乗ったんですかぁ」
「そう」
 加奈子はわたしの返事を聞くとそのまま先に立って歩き始めた。
「これから何処へ行くの ?」
 加奈子の背中に聞いた。
「歩いてもぉ七、八分の所ですからぁ、すぐ近くですよぉ」
 加奈子はなんの翳りも見せない声で言った。
「ホテル ?」
「はい」
 公園を囲む作が切れて漁港の入り口に出た。
 幾つか並ぶ建物の間から暗い海が鈍い光りのうねりを見せているのが見えた。
 桟橋に繋がれた小型漁船の一群が微かな波に小さく揺れて黒い影を作っていた。
 加奈子はその漁港を背にして四車線の通りを青信号で渡った。
「寒くないですかぁ」
 海から吹いて来る風が路上の枯れ葉を転がして過ぎて行った。
「うん、東京から比べたらずっと寒い。コートが欲しいぐらいだ」
 思わずそう言ったが、その寒さが改めてわたしの体調不良を意識さた。
 寒さの訪れ時期は何時も胸の圧迫感に怯えるのだ。
 呼吸と共に吸い込む寒気が直接心臓に触れて、その筋肉を収縮させるかの様に息の詰まる感覚に捉われる。
 その不安を隠してわたしは、加奈子が腕を絡ませて来るのに任せたまま歩いて行く。
 通りはやがてゆっくりと右に曲がって夜の中にポツンと明かりを点した<ホテル みなと>の白い看板が見えて来た。
「あそこ ?」
 わたしは聞いた。
「はい」
 加奈子は言った。

 ラブホテルと言うよりは連れ込み宿と言った趣の建物だった。
 誰とも顔を合わせずに部屋へ入れた事に安堵した。
 畳の部屋には低いベッドが置かれていた。
 傍の障子を開けると大きな鏡があった。
 突然映し出された自分の姿に狼狽した。
 慌てて視線を反らした先には浮世絵風に男女の絡みを描いた絵が掛けてあった。
 テレビがあった。
 点ければAVビデオの映像が流れるだろう事は想像出来た。
 浴室とトイレが次の間に在るのは部屋へ入るのと同時に眼に入った。
「こういう所へはよく来るの ?」
 自分の部屋へ帰ったかの様に落ち着き払っている加奈子を見て聞いた。
「あんまりは来ないけどぉ、時々はお客さんと来る事がありますよぉ」
 加奈子は悪びれる様子もなく言った。
 極めて自然なその態度が彼女達にはこんな行為も当たり前なのだろうか、と思わせた。
 その夜、わたしと加奈子は朝までの時間を過ごした。
 加奈子は店に居る時そのままに、疲れては眠り、また目覚めては愛撫を交わして揺蕩(たゆた)う様に眠りに入っていった。
 自分が不可能でいながらもなお執拗なわたしに加奈子は嫌な顔一つ見せなかった。
 わたし自身は少しずつ高まる昂揚感の中でも依然として、実際の行為は不可能だった。
 昂揚感と共に増して来る、胸元の締め付けられる様な感覚が過去にわたしを襲った発作の記憶を蘇らせて、わたしの意志の総てを奪って行く。
 意識を失い、自分が自分でいられなくなる事の恐怖。
 わたしの脳裡には病院の医師や看護師の白い衣服に囲まれて目醒めた時の記憶が今でも鮮明に焼き付いている。
 何故、俺はこんな所に居るんだ ?
 記憶が途切れていた。
 人工呼吸の器具を付けられ、ベッドに横たわっている自分が自分である事の感覚が掴めなかった。
 ついさっきまで社長室で電話の受話器を握っていた自分の姿しか思い浮かんで来なかった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


                コメント 有難う御座います 
               このところ記事も余り拝見出来ませんでしたので
               やはり体調不良か と思っていました
               お元気な御様子 何よりです
               相変わらず仲睦まじいパートナーの方との日々
               拝見する方も心暖かくなります
                御文章 久し振りに拝見しました
               英語は不案内なのでよく分かりませんが 日本の学校で習う英語は
               全く役にたたないと言われます やはり現地で実際に体験する
               その貴重さが和文の中に良く表れています
               面白く拝見しました
               御自身もそうして少しずつアメリカ人としての色彩を纏ってゆくのでしょうね
               どうぞ これからもお幸せな日々をお二人で紡いでいって下さい
                お忙しい中 コメント 有難う御座いました



                  takeziisan様


                 今年は何か弱気な姿勢がほの見える気がして
                ちょっと寂しい気がします
                どうぞ 弱気にならずに頑張って下さい 
                人間 気力を失くしたら終わりだと思います      
                 疾患などを抱える身とか いろいろ拝見してやはり
                不安は拭えないだろうなとは御推察出来ます
                お互い 老齢の身 日々の生活にお気を付け 
                これからも楽しいブログ続けて下さい
                  -四℃ この辺りではちよっと想像出来ません            
                それだけこの地方は気候的に恵まれ 温暖なのかなあ などと思っています     
                 白菜の黄色くなった写真 農家の方々の苦労が偲ばれます
                やれやれ 実感出来ます
                それにしてもこの頃の野菜の高い事 家計的には大痛手です
                お写真を拝見して改めて羨ましく なんと贅沢なと思います
                 ウルフムーン 「碧空」 楽しませて戴きました
                若い時代の一時期流行ったタンゴ 懐かしく聴きました     
                 コピー つまらない文章ですが何かお役にた立てる事があるとすれば
                嬉しい限りです
                何時もわたくしの実感を素直に記しています
                これからも楽しく拝見させて戴きます
                忙しい日常を過ごす中での束の間の安らぎです
                 有難う御座いました        

















遺す言葉(530) 小説 <青い館>の女 (19) 他 人ではなく命

2025-01-12 12:11:04 | 小説
             人ではなく命(2024.12.12日作)


               ( スタッフの皆様へ
              今年もお手数をお掛けしますが
              宜しくお願い致します )



 
 人を 一人の人間として見るのではなく
 一つの命として見る
 人を 人間として見る事によって
 国々 地域 環境毎に 差別が生まれる
 あの国 この国 あの地域 この地域
 この環境 あの環境
 命に差別は無い
 どの命も一つの命
 一つの命は 一度失われれば
 再び 戻る事は無い
 どの国 どの地域 どの環境に於いても
 同じ事 誰の命も命は一つ 一つだけ
 一度断たれた命の再び戻る事は無い
 命に優劣 差別は無い




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(19)



 
 約束は生きていた。
 安堵感と共にわたしは、
「何時(なんじ)ごろ、何処で会えるのかなあ」
 と聞いた。
 わたしが自ら会う場所を指定するには、余りにこの街に付いての知識が乏しかった。
「ホテルでいいですかぁ」
 加奈子は言った。
「ホテル ?  何処の ?」 
 思わずたじろいだ。
 咄嗟に自分が今居るホテルが頭を過ぎった。
 この漁港街の小ささが意識の内にあった。
「ラブホテルなんですけどぉ、駄目ですかぁ」
 わたしのたじろぐ気配に気付いたのか、加奈子は躊躇いがちに言った。
「いや・・・、構わないよ」
 一先ずは落ち着きを取り戻してわたしは言った。
「じゃあ、時間なんですけどぉ、何時ごろがいいですかぁ」
 早速、加奈子は本題に入って明快な口調で言った。
 その口調が、仕事の打ち合わせでもしているかの様に拘りがなくてわたしは思わず笑い出しそうになった。
 お買い上げ、有難う御座います。お届けの時間は何時ごろが宜しいでしょうか・・・・
 そんな光景を思い描きながらわたしは、
「君は何時ごろがいいの ?」
 と聞いた。
「わたしの方はァ、お店の始まる時間が過ぎしまえば、何時でもいいですよぉ」
 相変わらず屈託の無い声で加奈子は言った。
「じゃあ、九時ではどうだろう ?」
 わたしは言って、突然、自分が今している事に対しての激しい嫌悪感に捉われた。
 俺は一体、こんな所で何をやってるんだ !
 自分が暗闇でごそごそ人目を避けて秘かに欲望を満たそうとしている、陰気で暗い若者の様に思えて来て惨めな思いと共に、受話器を置いてしまいたい衝動に駆られた。
 だが、受話器を置く事はなかった。
 その前に聞こえた受話器の向こうの加奈子の声がその衝動を抑えていた。
「九時ですかぁ、いいですよぉ。何処でぇ待ち合わせしますかぁ」
 加奈子は言った。 
「何処がいいのか、わたしには分からないけど」
 沈み込んだ気分のままにわたしは曖昧に言った。
「今、何処に居るんですかぁ、海岸ホテルですかぁ」
 加奈子は言った。
「そう」
 わたしは言って、ふと、不安になった。
 加奈子はわたしが居るホテルをズバリと指摘して来た。
 その思いが頭を過ぎると共に、この狭い北の街の中では総ての行動が人々の眼にはお見通しになってしまうのではないか ?
 だが、今更どうにもならない事だった。
 加奈子は、
「じゃあ、わたしが海岸ホテルまで迎えに行ってもいいてすよぉ」
 と言った。 
「いや、別の場所で会った方がいい」
 わたしは慌てて言った。
 加奈子がわたしの部屋へ来ると言ったのか、単に、迎えに来ると言っただけなのか、判断は出来なかったが、兎に角、このホテルからは出来るだけ遠い方がいいという防御の思いが先に立った。
「ホテルに近い処がいいですかぁ」
 加奈子は何故か、ホテルに拘った。
 わたしはその言葉と共に、何時だったか眼にした港の近くの公園を思い出していた。
 あの公園なら、夜の九時ともなればこの小さな港町では訪れる人も少ないのではないか ?
 安心感に満ちた思いと共にわたしは言った。
「ほら、港の近くに公園があったね、あの公園の入口で待っていてくれないか」
「港の方ですかぁ。でも、ホテルからは随分、遠くなりますよぉ」
 加奈子は不審気に言った。
「うん、構わないよ。タクシーで行くから」
 新店舗の前を通らなければならなかったが、タクシーで行くのなら人目に付く事もないだろう。
 店の閉店時間が九時なので、店員達の帰りの時間とかち合う事もないはずだ。
 それまでは、ホテルの部屋に籠っていよう。
 店長や川本部長はわたしが東京へ帰ったものと思っているだろう。
「じゃあ、わたし、それまでに行っていますぅ」
 加奈子は言った。
「ホテルはすぐ取れるの ?」
 わたしは聞いた。
「ええ、大丈夫ですぅ」
 加奈子は馴れた事の様に言った。

 タクシーが公園の入口に近付くと、街灯の灯りの切れた闇の中で、透かし見る様にしてこちらを見ている加奈子の姿が見えて来た。




              ーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                 コメント有難う御座いました
                今年 初めてのブログです
                昨年中はいろいろ楽しい記事 有難う御座いました
                今年も宜しくお願いします
                 冬枯れ 雪景色 何処も彼処も冬真っ最中
                我が家の近くの公園も冬枯れ景色 それはそれでまた
                異なった趣の美しさがあります
                 雪景色 心洗われる様な美しさですが
                雪国 地元の方々に取っては それどころではないよ と
                苦情の一言も言いたくなるのではないでしょうか
                地球温暖化と言われながらも今年は 雪が多い様で
                その御苦労が偲ばれます
                 百名山 有名ですが わたくしは今 テレビで放映されている
                百低山登頂番組を毎週楽しみにして観ています
                これぐらいの山なら登山経験なしの自分にも登れるかなぁ
                などと思ったりしています
                 水泳 公営プール 何よりです
                継続は力なり ブログもどうか お続け下さい
                何事も駄目だと思わったらそれで終わり
                八十代九十代 元気な方々はそれぞれ何か自分で遣る事を持っています
                一日を生きる それが大切だと思っています
                 川柳 今年も楽しみにしております
                 つもり違い十ヶ条初めて知りました
                いろいろ名言がありますが 短い言葉の中にすぱりと確信を突く
                下手な百行の文章より よほど心に響くものが有ります
                下手な鉄砲数撃ちゃ当たる 何事に於いても避けたいものです
                 今年もどうぞ 宜しくお願い致します
      























 

遺す言葉(529) 小説 <青い館>の女(18) 他 忘れてならないもの

2024-12-22 12:06:28 | 小説
           忘れてならないもの(2024.12.6日作)
     
                    (今年は今回を持って終わりにします
                    スタッフの皆様には大変お世話になりました
                    有難う御座いました
                    また 駄文にお眼をお通しした抱いた方々には改めて御礼申し上げます
                    有難う御座いました
                     なお 来年は一月十二日より掲載の予定です
                    宜しくお願い致します)


 
 命の終わり 死は
 常に身近 傍にある
 其処にも 此処にも
 一寸 一歩先は誰にも分からない
 今この時は 永遠ではない
 常に変わりゆく今この時
 人に出来る事は 只今現在
 今を生きる 生きる事
 それでも人の命は日々 時々刻々
 失われて逝く
 失われ逝く人の命
 朝に生まれて 夕には沈む太陽
 沈む太陽 夕陽が今日も
 遠く彼方 山の端 海の向こう ビルの谷間へ
 消えて逝く
 沈む太陽 夕陽を見詰める
 日々の幸せ
 人が人としての命を全うする
 この貴重さ 尊さ 人が決して
 忘れてはならないもの




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(18)




 
 わたしは近付いて来たタクシーのドアが開くと座席に身体を埋めて眼を閉じた。
 タクシーがゆっくりと動き出した。
 瞬間、まるで奈落の底へでも突き落とされて行く様な奇妙な感覚に捉われた。
 底知れず沈んでゆく重い気分の中でわたしはホテルへ帰ったらゆっくりと眠りたいとだけ考えていた。


               3


 東京へ帰った翌日、わたしは早速、本社の会長室で息子に会い、北の街に於ける新店舗の営業状況を報告した。
 日々、忙しい中でも各地の支店から送られて来る営業報告書に眼を通している息子は、当然の事ながら北の街での営業状態も把握していて、予想以上の数字が送られて来る事に満足していた。
「あの店長は、あの辺では遣り手で通ってるらしいけど、それにしても良く遣ってると思うよ」
 息子は言った。
「お前、聞いてなかったか ? 中古の車で好い商売が出来るんじゃないかって、店長は言ってた」
 わたしの気持ちの中ではまだ、手を染めた事のない分野への進出に決断出来ない気持ちもあって息子に聞いてみた。
「うん、聞いてる。ロシアの船員相手に好い商売が出来るんじゃないかって。だけど、この方面は全くの素人だし、すぐにどうこうっていう訳にはゆかないと思うんだ」
 息子も流石に今の時点でおいそれとは決断出来ない様子だった。
「まあ、遣るとなれば何処か、これまでの実績のある所と組んだ方が無難じゃないのかなあ」
 わたしは言った。
「店長も、今すぐにって言ってる訳ではないんでしょう」
「うん、考えて置いてくれとは言ってたが」
「俺もこの前会った時言われて、考えてみるとは言って置いたんだ」
「部品から入ってみるっていう手もあるんじゃないのか ? 電気製品は良く売れる様だし、車でも商売になればこれに越した事はないからなあ」
「一応、関係者には当たってみようとは考えてるんだ」
「それはそうと松田農産販売は切ったんだって ?」
 妻の口から聞いた事を息子に聞いてみた。
「うん、どうしてもひと月決済にしろって言うんで、代わりにその分の値引きが出来るかって聞いたら、それも無理だって言うんで、じゃあ、止めようって言ったんだ」
「それで品揃えは大丈夫か ?」
「うん、大田市場でなんとか揃えられるよ」
「産地直送の看板は外さなければならないだろう」
「それは大丈夫だよ。他にも産直の仕入れ先が無い訳ではないし、地方は地方でそれなりに遣っているので心配ないよ」
「仕入れ部長はなんて言ってる ?」
「中園は大丈夫だって言ってる」
 結局、わたしは中古車販売の事も松田農産販売の事も息子の決断に委ねた。
 息子は何れ、適切な判断を下すだろう。
 商才に掛けては息子は祖父に似て、わたしより上だというのが専らの評判だった。
 祖父似という点に不快感を抱いてもわたしは、その評判に悪い気はしなかった。
 彼の能力が築く世界が明るいものであろうと想像出来る事は、父親としてのわたしに取って悪かろうはずがない。
 幸い、彼の家庭も旨くいっている。
 結婚と同時にわたしと妻の居る谷中の家を出て、築地にマンションを購入した息子夫婦は現在、七歳の男の子と三歳の女の子の四人で暮らしている。
 息子の細君は聡明で性格も明るく、素直な女性だった。
 何かと矜持の高いわたしの妻とも旨く折り合っていて、わたしが今、心を煩わせなければならない事は何も無かった。
 わたしの肉体がもたらす死の不安と恐怖、それに絡んで来る心の中の空虚な感覚。
 わたしの心を覆う暗鬱は総てわたしの心自体が生み出す問題だった。
 今のわたしはただ、そんな世界を生きてゆくより他に出来ない。
 わたしが三度目に北の街を訪れたのは、ほぼ二カ月が過ぎてからだった。
 北の街の新店舗では総てが順調で、何も変わりはなかった。
 中古車販売の件での目立った進展はなかったが、それはそれで仕方が無かった。
 新規に事業を始めるとなるとおいそれという訳にはゆかない。
 店長もそれは承知の上の事で、殊更、何か言って来る事も無かった。
 無論、わたしの訪問は通常の日程に沿っての行動だった。
 それでも今回は特別な行事も無くて、東北地区から足を延ばしてその日のうちに東京へ帰る事も可能だったが、無論、そんな日程は組まなかった。
 東北地区の視察を済ませた後、午後遅くに北の街に入って海岸ホテルに部屋を取り、店には翌日顔を出す。
 当然の事ながら、わたしの頭の中には加奈子への思いがあった。
 ホテルに入ると午前一時過ぎに加奈子の携帯へ電話を入れた。
 或いは、この時間でも加奈子に「通し」の仕事があった場合は電話に出られないであろう事は分かっていた。
 それでもこんな時間以外には電話の出来る時間が無かったのだ。
 加奈子は、店での仕事中は出られないので、午後二時頃から五時頃の間に電話して貰えますかぁ、と言った。
 夜遅く仕事から帰った後、「午前中はほとんど寝ているので電話があっても分からないからぁ」
 わたしはその時には「うん、分かった」と言ったが、実はこの時間帯はわたしに取っては最も忙しい時間帯だった。
 店内視察を済ませた後、店長や川本部長との話し合いを持たなければならならなかった。 
 その話し合いにどれだけの時間を取られるのかも、その場になってみないと分からない事だった。
 それに気付いてわたしは危惧しながらも真夜中の電話をしたのだったが、加奈子は長い呼び出しの後、電話に出た。
「はい、佐々木です」
 加奈子は言った。
 こんな深夜の電話に対する明らかな不機嫌さの感じ取れる口調だった。
「御免、三城だよ」
 わたしは加奈子の不機嫌さをなだめる様に穏やかな声で素直に謝った。
 無論、三城は加奈子に伝えた偽名だった。
「ああ、三城さん・・・」
 加奈子は途端に声を和ませて言った。
「なんですかぁ、こんな時間にぃ」
 加奈子は言った。
「今、何処 ? 家に帰ってるの ?」
 わたしは言った。
「ええ、帰ってますよぉ」
 加奈子は言った。
「通しの仕事じゃないかと思って心配した」
 安堵感を滲ませた声でわたしは言った。
「今夜は暇だったんですはよぉ、それでぇ早く帰って来てぇ」
 加奈子は言った。
「さっきはなんだか、機嫌が悪そうな声だったので心配した」
 言わずもがなの冗談をわたしは口にしていた。
「こんな真夜中に誰かと思ってぇ」
 加奈子は言った。
 何故かくぐもった様な声の、何処かに歯切れの悪さを感じさせる言い方だった。
 そんな加奈子の普段とは異なる一面に思い掛けなく触れた気がしてわたしは戸惑った。
 それでもすぐに気分を立て直して、
「明日、約束出来るかなあ」
 と聞いた。
「明日ですかぁ、いいですよぉ。お店を休みますからぁ」
 加奈子は躊躇う様子も見せずに何時もの明るさを見せて言った。

   


             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様



                今年一年 有難う御座いました
               楽しい記事 何時も駄文にお眼をお通し戴く事
               改めて御礼申し上げます
                今年は今回で一応終了になります
               有難う御座いました
                「雪の降る町」の季節ですね
               速いものです
               年々 月日は加速度を増し足早に過ぎて行きます
               あっという間の一年でした
               「小さな日記」 
               実はこの曲 知りませんでした
               それを何時も聞いている唯一の歌番組「BS ニッポン 心のうた」
                 で聞いて初めて知りました 
               良い歌だなと思い パソコンで調べてもみました
               あの時代の歌は余り知らないのですが フォレスタが歌ういろいろな曲の中で
               時々 良さに気付かされる事があります
               何よりも 混声合唱団のフォレスタの皆さんがしっかりと基礎を身に付けていて
               正確に曲を表現してくれますので 歌の良さが直に伝わって来ます 
               記事で「小さな日記」の文字を拝見して何故か嬉しくなりました           
                今年 納めの川柳の数々 読む方々の心意気が伝わって来て
               何時 拝見しても楽しいものです
                ジャム 総て手造り この贅沢さ 羨ましい限りです
               でも 食べ過ぎて糖分過剰になりません様に
                いろいろ 有難う御座いました
               来年は二週目から始める心算で居ます
               どうぞ 良いお年をお迎え下さいませ
               



 




































  
 
 






遺す言葉(528) 小説 <青い館>の女(17) 他 神 及び 運命

2024-12-15 11:39:39 | 小説
             神 及び 運命(2024.12.10日作)



 
 神とは 人の心の中にあるもの
 人の哀しみ 苦悩を癒し 救う存在
 人 それぞれの心の中こそが
 神の住む場所
 宗教 宗派に基ずく神など
 宣伝の為の神でしかない
 人がこの世に存在する数だけ
 神は存在し得る 眼には見えない存在
 豪華絢爛 飾り立てたりなどしない
 草生(む)す道端 そこに置かれた
 何気ない一つの石にさえ
 その石が人の手で置かれたものである限り
 神は其処にも存在する

 
 人にはそれぞれ
 持って生まれた運命がある
 人はその
 持って生まれた運命に翻弄されながら
 この世を生きている
 どの様な恵まれない運命を生きる人であれ
 その運命を誠実に生きている限り 他者は誰も
 その人を笑う事は出来ない また
 許される事ではない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(17)





「此処ではなんとなく落ち着かないんだ。まるで、こそこそ悪い事をしている様な気分になって来る。だから、今度からは別の場所で会う様にしてくれないか。わたしの方で電話をするから」
 わたしは加奈子の不安を解く様に穏やかな口調で言った。
 加奈子はそれでもまだ不安気な様子で、戸惑いと困惑の入り混じった顔で、
「でもぉ、お仕事でしているだけの事だしぃ」
 と呟く様に言った。
 わたしへの優しさも所詮は仕事の上での事で、心底から気を許している訳では無いのだ、と言っている様にも受け取れた。
 わたしはそんな加奈子の気持ちへの理解をしながらも、そこに批難の色合いの含まれていない事を読み取ると更に言葉を重ねていた。
「それは勿論、外でも仕事の心算で会ってくれればいいんだ。当然、それだけのものは払うし、そうすれば店へ払う分も含めて全部、君のものになるだろう。君に迷惑を掛ける様な事はしないから心配しなくていいよ」
 加奈子はそれで漸く、僅かながらも心を開いた様子だった。
「お店に払う分もくれるんですかぁ」
 と聞いて来た。
「そう」
 と言ってからわたしは、
「君たちはこの部屋へ来る五万円の中から幾らぐらい貰えるの ?」
 と聞いた。
 加奈子は躊躇う気配を見せたが、すぐに何時もの素直な加奈子に戻って、
「ひと月の成績でお給料が決まるからぁ、幾らっていう事は無いんですけどぉ」
 と言った。
「でも、衣装代や何かは引かれるんじゃないの ?」
 日頃の経験からわたしは、踏み込んだ質問をしていた。
「ええ、それは有るけどぉ」
 加奈子は言った。
「もし、外で会ってくれるんなら、店に払う分と一緒にもう少し上げてもいいよ。月に一度ぐらいになるかも知れないけど、来る時には電話をするから」
 加奈子の揺れている様に見える気持ちに重ねてわたしは言った。
 加奈子はそれで興味を持ったらしかった。
「幾らぐらい呉れるんですかぁ」
 と聞いて来た。
「十万円ではどうだろう ?」
 わたしは直截に言った。
「一回、十万円ですかぁ」
 予想外の金額だったらしく、加奈子は微かな驚きの表情を見せた。
「そう、十万円」
 わたしは言った。
 加奈子の驚く表情を見てもわたしの気持ちに迷いの生まれる事はなかった。
 その金額が安いのか高いのかは、わたしには分からなかった。
<サロン・青い館>で会ってもこの部屋へ来るだけで既に六万円を使っている。
 その事を考えればさして違いはない様に思えた。
 何れにしても、それが無駄金である事に違いは無くて、その金額を提示する事でかえってわたしの気持ちの中では鬱屈した思いが払拭される様な気がした。
「それでぇ、今までと同じ様にしていていいんですかぁ」
 加奈子は初めて興味を持った様に聞いて来た。
「勿論、同じでいい。だけど、前にも言った様にわたしは体調が思わしくないんで、なかなか思い通りにはゆかない。その事だけは承知をして置いて貰いたいんだ」
「そんな事、構わないけどぉ、それでぇ、こっちへ来た時には電話をしてくれるんですかぁ」
「もし、君が承知をしてくれさえすれば、電話をするよ。電話番号を教えて置いてくれれば」
「じゃあ、わたしの携帯の番号を書いて置くのでぇ、そこへ電話をして貰えますかぁ」
 加奈子は初めて乗り気な姿勢を見せて言った。
「うん、君の都合の好い様にすればいい。何時頃に掛ければいいのかも書いて」 
 わたしは言った。
「はい」
 何故わたしはその時、一人の若い女性の気持ちを引き付け得た喜びよりも、底が抜けてしまった様な深い空虚な思いを胸の奥に感じて居たのだろう。
 もう、わたしは、不思議な優しさでわたしの心を満たす一人の若い女に会う為に、いちいち夜の街にたむろする呼び込みの男達の冷笑的な視線を浴びる必要も無い。
 電話一本で何時でも好きな時に会えるのだ。
 それでいて、わたしの心の中に喜びの感情は湧いて来なかった。
 奇妙にも、人生にはぐれてしまった様な寂寥感だけがわたしの心を覆っていた。
 いったい、俺は何処へ行こうと言うのか ?
 こんな気持ちに陥るのは、加奈子の若さの所為(せい)だろうか ?
 これまでの数多くの女性関係の中でも初めて経験する感情だった。
 今のわたしに取ってはだが、何がどうであれ、そうする事でしか自分の気持ちを納得させる事が出来ないのもまた、事実だった。
 何も、深く考える必要は無い。
 気持ちの赴くままに生きればいいのだ。
 もう、残された時間は少ない。
 殊更、わたしが係わらなければならない仕事も無い。
 その夜、わたしは加奈子が小さな紙片に書いた携帯電話の番号と引き換えに五万円を渡した。
「これは、君が何時も親切にしてくれるお礼だ」
 加奈子はわたしの思い掛けない行動にも、今度は躊躇いを見せなかった。
「有難う御座いますぅ」
 と、丁寧に頭を下げて言った。

 再び、加奈子に送られて出た街並みは、夜明けの時刻にも係わらずまだ暗かった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               iakeziisan様


                寒くなって来ました
               冬の散歩 大変だと思います
               でも 二人揃っての歩き こんな幸せは無いと思います
               どうぞ 今の時を大切にして下さい
               奥様 それ程の影響は無いとの事 何よりです
               くれぐれも御大事にして下さい
                自然の景色は何時見てもいいものです 心が洗われます
               ですからテレビ等も他の番組はニュースを除いて
               余り見ないのですが自然を映した番組 地方の何気ない日常を描いた番組などは
               選んで見ています
                人々や自然の中の何気ない風景の中に宿る美しさ 尊さ  
               決して華やかなものでは無いのですが
               此処に人が生きるという事の本当の美しさが含まれていると思います
               造ったものでは無い美しさ 自然にしても人間生活にしても
               貴重なものだと思います
                ブログを拝見していて いろいろ考えさせられました 
               有難う御座いました
                川柳 入選作だけに そうだ そうだ 頷き 笑わせられます
               世界中の愚かな指導者達への皮肉も拝見してみたいものです      
                有難う御座いました







































 
 

遺す言葉(527) 小説 <青い館>の女(16) 他 尊敬

2024-12-08 11:55:27 | 小説
             
            尊敬(2024.11.2日作)



  
 人間を地位 名称 経歴で評価しない方がいい
 高い地位 著名な人 その者達が隠れた場所
 他者の眼の触れ得ぬ場所で悪事を重ね
 人を傷める(殺傷)事など よくある事だ
 人間に於ける正当 真の評価は
 各人 それぞれが その持ち場に於いて
 人が人として 如何に正しく 真摯に その道
 その本道を全うし得たかによって 
 評価されるべきもの
 職業 職種 経歴 名声 一切関係ない
 その道 その場に於ける本道 その道を誠実
 真摯に生きた人 その人こそが真に賞賛
 尊敬に値し得る人 と言える
 空虚なもの 地位 名声 経歴 それらに
 惑わされるな 他者の眼に触れ得ない
 人に隠れた場所で 
 人が人として果たすべき役割り
 その務めをしっかりと担い 果たし得た人
 その人こそが真に優れた人であり 賞賛され
 尊敬されて然るべき人と言い得る
 その人こそが真に立派な人




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(16)




 
 彼女に近付こうとする男達はなお絶えなかった。
 彼女に取っては、例え、それが社会人であったにしても、そんな男達の存在は学生時代から知り尽くしていた。今更、心を動かされる事もなくて、依然として強烈な個性の下、男達を近付け様ともしなかった。
 この頃の彼女は、既に男達を弄(もてあそ)ぶ事にも飽きたかの様に極めて親しい四、五人の女友達としか出歩く事が無くなっていた。
 わたしは今、思う。彼女がわたしを夫に選んだのは、わたしが何時も彼女の手の届く距離に居て、彼女の誇りを微塵も傷付ける事なく意のままに従っていたせいではないか、と。 
 確かにわたしのスキーの技術は彼女を魅了したかも知れなかった。
 しかし、それはわたし達の出会いの場では意味を持ったかも知れなかったが、それだけで彼女がわたしを生涯の伴侶として選んだとは思えなかった。
 何事にも厳しい態度で臨む彼女が、一時的な甘い感情に動かされるなどとは考えられなかった。
 恐らく彼女は、数多くいる彼女に近付こうとする男達の中から誰を選ぶにしても、自ら進んで心の裡を明かす事など屈辱以外の何ものでもない、と考えていたに違いない。
 その点、わたしなら、手軽な御用達的存在として重宝に思ったに違いない。
 彼女のブライドも傷付けられずに済む。
 わたし達はそうして、わたしの入社から六年目に結婚した。
 無論、彼女の口から出た事だった。
 現在、長男の孝臣は三十二歳になっている。
 わたしは初め、" その事"への妻の冷淡さに気付かなかった。
 女はみんなそんなものかと思っていた。
 怪しげな店へは何度も足を運んでいても、妻との経験がわたしに取っては初めての女性経験だった。
 結局、彼女は夫婦間に於いてもその強烈な矜持を解放する事が出来なかった。
 妻に取っては敗北とも言える姿態をわたしの前に晒す事が出来なかったのだ。
 何時でも妻は醒めた眼差しだけをわたしに向けていて、わたしだけが独り芝居を演じていた。
 息子が生まれるとその一人芝居にも幕が下ろされた。
 わたしはもう、お払い箱になっていた。
  初孫が男の子であった事への義父の信じられない様な喜びと共に、妻は極端にわたしを遠ざける様になっていた。
 わたしが求めるその度に不機嫌な妻の顔がわたしの眼の前にあった。
 わたしの外での行動がそうして頻度を増していった。
 わたしは妻に抱く不満の中で、その復讐でもあるかの様に殊更、わたしの行動を妻の前で匂わせた。
 馴染の芸者や、銀座の高級クラブ、バーのホステスなどの名刺や名前の入った贈り物などをわざと妻の眼に付く場所に置いたりした。
 妻はだが、そんなわたしの行動にも嫉妬という感情を知らないかの様に、決して心を乱す事が無かった。
 かつて彼女に近付こうとした男達に向けるのと同じ視線をわたしに向けるだけで、
「お客様が見えたらみっともないから、こんな物は自分の部屋へ仕舞ってた置いて頂戴」
 と、剣呑な口調で言うだけだった。
 恐らく妻はその時、明確に理解していたのだ。
 わたしがどれだけ外で遊んでいても、結局、妻に離婚を突き付ける事はないであろうと。
 事実、わたしの思いのうちには妻との離婚という考えは全く浮かんで来なかった。
 むしろ、彼女の前に自分の遊びを誇示しながらも、心の何処かでは離婚を怖れていたと言えるかも知れなかった。
 妻と別れてしまえば、会社に残る事も出来なくなるのではないか。
 会社では社長の娘婿という立場で、かなり優遇されていた。
 義父が持つワンマン的性格から、その経営に口を挟む事は出来なかったが、経歴の割には早くして営業本部長に引き上げられ、将来的には社長に、と誰もが見ていた。
 事実、わたしの意識の中にもそんな思いはあって、それだからこそ、不満の多いこんな生活にも耐えられるのだ、という気がしていた。
 無論、営業部長という地位から得られる高い報酬もその生活に執着させていた。
 当時、既に役員に就任していた妻の報酬と合わせると、わたしの多少の遊びも苦にならない程のものが約束されていた。
 決して豊かとは言えなかった生活の体験を持つわたしには、妻との多少の亀裂には眼をつぶっても、その生活を維持したいという思いが強かった。
 妻はそんなわたしの心の中などは疾うに見透かしていた。
 彼女から離婚を言い出さなかったのも、結局はわたしが、彼女の手の内で踊っている存在にしか過ぎないと見抜いていたからに他ならなかった
 わたしは妻に取っては、何時まで経ってもかつての彼女の取り巻き達の一人にしか過ぎなかった。
 わたし達が結婚する時、彼女の父はわたしの家の貧しさと家柄の違いを盾に反対した。
 妻はそれでも敢えてわたしの真面目さを強調して、彼女に言い寄る数多くの男達の中からわたしを選んでいた。
 わたしが何時まで経っても彼女のしもべであり続ける事を彼女はその時、早くも見抜いていたのだ。
 事実、わたしは現在までそんなしもべと言い得る立場に甘んじて来た。
 しかし、そんなしもべの役も牧元家の跡継ぎが出来てしまえばもう、終わりだった。
 牧本家の跡継ぎの息子は、仕事に掛けてはわたし以上の遣りてで通っている。
 その上、わたしは既に、快癒の見込みの無い病と共に人生の境界線をも眼の前にしている。
 心に浮かんで来るのは深い虚無の思いだけだった。
 彼方に見えて来るものは何も無い。
 絶望の深い淵が黒々と口を開けているのが見えて来る。 
 希望の光りは何処にも無い。
 そして今、北の小さな漁港街の如何わしい店の年若い女の何気ない言葉に心動かされている。
 その女に愛しさを覚える。
 この女との時間が何時までも続けばいいと考える。
 わたしは女に言う。
「今度からは、此処ではなくて別の場所で会える様にしてくれないかね」
 ベッドの上で毛布に包まり、わたしの手で小さな乳房を愛撫されていた加奈子の顔に一瞬、恐怖にも似た色が走った。
「別の場所って ?」
 加奈子は息を呑んだ様な気配と共に恐る恐る聞いて来た。
 わたしを見詰める眼に明らかに警戒の色が浮かんでいた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様    

      
                 お忙しい中 お眼をお通し戴き有難う御座います
                この地方もようやく冬らしい寒さになって来ました
                それでもやはり紅葉の美しさは見られません
                我が家の木々も紅葉は無く黄葉のまま散ってしまいました             
                何れにしても身体的には楽な冬です
                 シャコバサボテン見事です
                でも 何故 マンボ ?
                心の裡のなんとはない踊りだしたい気持ち ?
                理解出来る気もします
                 ピラカンサ サザンカ そんな季節ですね
                赤が眼に染みます 
                 ハクサイ 自家製梅酒 この贅沢 羨ましいです
                わたくしなどはもっぱら安物ウイスキーです              
                 それにしても鳥の胃袋 どうなっているのでしょう
                大きな獲物をまる飲み 人間ならひとたまりもありません
                野生に生きるものの強さでしょうか
                 スイミング終わり 歩く事に頼るのみ ?
                でも 身体は動かさないとーー
                 川柳のちょっと斜に構えた視点 何時読んでも楽しいです
                三ケ日ミカン 我が家にも今は物が入って空箱があります
                  有難う御座いました


















































遺す言葉(526) 小説 <青い館>の女(15) 他 人生の時

2024-12-01 11:22:57 | 小説
             人生の時(2024.9.12日作)



 
 人生の時は短い
 時間は夢の如くに過ぎて逝く
 八十六年余の歳月を生きて来て
 残された時間は今 僅か
 心に映る人の世の景色は総てが
 暗い色彩 死の影の下に 
 浮かび上がる
 輝く太陽 青春の時は
 遥か彼方 遠く過ぎ去り 
 思い出 郷愁のみが色濃く
 日常の時を彩る 


 
 老齢の人達が歳と共に信心深くなるのは
 死という逃れ得ない現実が日毎 年毎
 より身近に 自身の身に迫って来る事の為だ
 人は不安な心の下 眼には見えない何かに縋り
 頼りたくなる それが
 神 仏

 
 自身の心に誠実に生きる
 人の世の波は 自ずと
 自身の身に還って来る




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(15)




 
 
 そんな思いと共に、わたしが意を決して電話をする気になったのは、ある夜のダンボール工場でのアルバイト作業が終わってからの事だった。
 ふと、沸き上がる空虚な思いの中で抑え難いまでの彼女への思慕に捉われ、深夜近くの遅い時間帯にも係わらず追い立てられる様に公衆電話に向っていた。
「もし、うちの仕事でも良かったら、父に聞いてみて上げるわよ」
 そう言った彼女の言葉だけが頼りだった。
 夜の遅さを懸念した心配を余所に彼女はすぐに電話に出た。
「はい、牧本です」
 彼女は言った。
 その声を聞いただけで緊張した。
「あのう、スキー場でお世話になった柿田ですけど」
 速くなる胸の鼓動と共に半分、怯えた様な声で言っていた。
「なあんだ、柿田さん、どうしたのこんな遅い時間に」
 彼女は笑いを含んだ声で快活に言った。
 わたしがスキー場で与えた好印象はまだ有効な様だった。
 それでもわたしは、電話をした本当の理由を見透かされてしまいそうな気がしてしどろもどろのうちに、
「すいません。あのう、就職の事で相談に乗って貰えないかと思って」
 と言っていた。
「就職の事 ? まだ決まってないの ?」
 彼女は言った。
「はい」
「それにしても、なんでこんな時間に電話をして来たの ? 明日、掛けてくればよかったのに」
 彼女はわたしの唐突な行動を笑うかのように笑みの感じられる声で言った。 
「今まだアルバイトの仕事中なんですけど、明日、就職面接の予定があるんで、その前に電話をして聞こうと思って」
 わたしは息苦しくなる程の緊張感の中で言っていた。
「明日 ? 何時から」
 彼女はなんの疑いもない様に言った。
「午後の三時からなんです」
「午後三時 ? じゃあ、明日、午後十二時半までに銀座四丁目の和光の前に行ってなさいよ。わたし達は車で行くから」
 彼女は言った。
 ーーわたし達と彼女は言った。
 わたしは不審に思った。
 それでも聞き返す事は出来なかった。
 翌日、彼女は二人の取り巻きの女性仲間を伴ってベンツで現れた。
 わたしが和光の入口横にポツンと立っているのを見ると車の窓ガラスを開けて、
「今、車を置いて来るから」
 とわたしに声を掛け、また走り去って行った。
 程なくして取り巻きの二人と共に彼女が姿を見せた。
 わたし達はそのまま、近くにある高級果物店の二階にあるフルーツパーラーへ向かった。
 わたしに取っては初めて入る高級な雰囲気に満ちた店だった。
 それでなくても緊張していわたしの緊張度は一層高まった。
 彼女はそんなわたしを尻目に、如何にも馴れた様子の気軽さで二階への階段を先に立って上っ行った。
 わたしはその席で彼女が問い掛けるのに対して改めて、<スーパーマキモト>への就職が可能かどうか聞いてみた。
「いいわよ、父に聞いてみて上げるわよ」
 彼女は気抜けのする程簡単に請け合ったが、彼女に取っては総てが気軽な世間話しにしか過ぎない様に思われた。
「そうすればまた、あのスキー場へ行けるものね」
 二人の秘密でもあるかの様に彼女は悪戯っぽく言った。
 わたしはそんな彼女の言葉に就職への手掛かりを得た喜びよりも、再び、彼女の傍に居られるという思いの安堵に心充たされていた。
 そうして<スーパーマキモト>で働く様になった。
 わたしが大学を卒業するまでの間もアルバイトで、そこで働ける様に彼女は骨を折ってくれた。
 わたしと妻との年齢差は二歳だった。
 彼女と出会って二年目の冬、大学生活最後の年もわたし達は同じスキー場で彼女の取り巻き達と滑った。
 彼女の計画したままに<マキモト>のアルバイトも何日か休んで行った。
 妻が<マキモト>の本社で働く様になったのは、わたしより二年遅れの大学を卒業してからだった。
 わたしはその時、上野公園の近くの店舗で働いていた。
 当時の<マキモト>は都内に六店舗を持つだけの規模だったが、安売りを主体にしたチェーン店形式の販売方法はまだ目新しくて、商売仲間からは「安かろう悪かろうのマキモト」と酷評されながらも、順調に売上を伸ばしていた。
 それはだが、決して安かろう悪かろうの商売方法ではなかったのだ。
<札束で頬を張る> 義父の強引なまでの取引方法で得られる成果だった。
<マキモト>の本社は昔から現在の場所の御徒町にあった。
 上野とはすぐ近くの距離だったが、わたしと彼女はスキーの季節を除いては他にほとんど顔を合わせる事が無かった。
 わたしは一介の社員でしかなかったし、彼女は社員と言っても社長の娘だった。その存在感には雲泥の差があった。気楽に彼女を誘う雰囲気はわたしの気持ちの中には生まれて来なかった。
 わたしはそれでも、実に良く働いた。意識の中には常に彼女の存在があった。
 それがわたしの尻を叩いて仕事に専念させた。
 働きぶりが社内で噂になれば、自ずと彼女の耳にも届くだろう。
 その為にのみ働いた。
 その上、普段は滅多に会う機会は無くても、スキーの季節になれば必ず彼女から声が掛かって、その時には改めて彼女が身近に感じられてわたしの気持ちを一層昂ぶらせた。
 大学を卒業してからの彼女は以前程に取り巻き達を連れ歩く事もなくなっていた。
 殊に男子学生達は就職と共に、学生時代の遊び半分の気持ちは許されなくなっていて、次第に彼女とも疎遠になっていった。
 中には社会生活の厳しさを知るに連れ、彼女の理不尽とも言える行動の強引さに嫌気が差して自ら離れていく者達もいた。
 無論、彼女の美貌はなお衰える事は無くて何処でも男達の注目を集めていた。
 
 
 

 
 
 






















































遺す言葉(525) 小説 <青い館>の女(14) 他 雑感五題

2024-11-24 12:23:32 | 小説
              雑感五題(2023~2024年)


 1  人の心は水面に映る
   月の様にありたい
   水面に映る月は 波に揺れ
   縦横無尽に形を変える それでも
   月は 月として その存在を
   少しも失くしてない
   月は月として 常にそこにある

 2 「一念起これば魔界に落ちる」
   固定観念で物を見るーー
   真の姿が見えて来ない
   無の心 真っ新(さら)な心
   その心で見る時 初めて
   物事の真実 
   その姿が見えて来る
 
 3  主義が何んであろうと構わない だが 
   個人が個人として生きられない世の中  
   そんな世界は異常だ
   個人 一人一人の存在は
   世界を包む

 4  人間は自由な存在
   その自由は
   野放図な自由ではない 
   他者の存在に束縛される
   他者の存在を束縛する自由は
   自身の自由も束縛される
   人は人としての輪
   人と人との関係の中でしか
   生きられない

 5  人の世は
   束の間の夢 幻
   現実はただ 今
   此処に在るだけ




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(14)




 
 わたしが妻と出会ったのは、長野県にあるわたしの実家から左程遠くないスキー場での事であった。
 当時、上京していたわたしは、逼迫した生活の中で大学に通っていた。
 彼女と同じ大学ではなかったが、冬の間、雪国に育った者の特権を活かして彼女のスキー指導をする事になった。
 わたしが三年の時で、妻はその冬、五、六人の男子学生と三人か四人の女子学生と一緒に来ていた。
 無論、彼女は其処でも女王の様に振舞っていた。
 女子学生には金銭面で、男子学生には金銭面は無論の事、その美貌に依って。
 わたしもまた、その美貌と金銭面に魅了された一人だった。
 眼を見張る美貌、今では肥満度を増したその容姿の中に昔の面影を見る程度になっていたが、当時の妻にはその言葉が最も相応しかった。
 すれ違って彼女を振り返らない男性はまず居なかった。
 目鼻立ちの明確な、何処か日本人離れのした輪郭の中に純日本的な柔らかさが備わっていて、思わず人を振り返えらせるだけの美貌が形造られていた。
 初めて彼女を見た時、わたしは息を呑んだ事を今でもはっきりと覚えている。
 同時に自身の容姿への劣等感で顔を赤くしていた。
 妻はそれを見ていた。
 一体、妻は何故、数多く居る取り巻きの中からそんなわたしを選んでいたのだろう ?
 確かに当時のわたしは、卑屈とも言える程に彼女に傅(かしず)いていた。
 彼女の住む世界がわたしの眼には、別世界の様に見えていたものだった。
 彼女がわたしの住む東京の下宿の近くにある<スーパーマキモト>の娘である事はすぐに知れた。
 学生の身でありながら、最新型のベンツを乗り廻している事も取り巻き達の会話から知れた。
 一方、わたしの家は、山間の小さな村で季節の移り変わりと共に、自然に寄り添って生きている様な質素な家庭だった。
 わたしが東京へ出てからも、思い出として浮かんで来るのは何時も土まみれになって働いていた、今はこの世には居ない父母の姿と共に五人の兄姉が一塊になって寝起きしていた、茅葺屋根の古い佇まいの家だった。
 そこから兄や姉達は高校へ進学する事も無く、家を継いだ長兄を残してそれぞれが都会へ出て行った。
 一番下のわたしだけが、四人兄姉の援助を受けて高校への進学が出来た。
 大学へは自らの希望と努力で進学した。
 費用は総て、兄姉達からの借用という形を取っていた。
 その頃のわたしは多分、飢えた犬の様に浅ましかったに違いない。
 豊かな餌に有り付く為に尻尾を振って擦り寄って行く浅ましさ。
 今でもわたしは、やがて妻になる女に腰を低くして機嫌を取っていた当時の自分を、何かの折りにふと思い出して激しい嫌悪の感情と羞恥の心に捉われる。 
 勝手知ったスキー場でわたしは、他の取り巻き達の誰よりも得意になって彼女の為に働いていたのだ。
 妻はそれが総てでわたしと結婚したのだろうか ?
 いや、そんな事は無い。
 自尊心から、そう答えたい。
 それが総てで妻はわたしと結婚した訳では無いのだ !
 当時、わたしはスキーの技術に於いて中学生時代から、大学生にも引けを取らないと言われていた。
 事実、わたしはいろいろな競技会に出ては常に人目を引く成績を残していて、各方面からも注目されていた。
 大学進学に当たっては、スキーに依る特待生という話しもあったが、諸々の事情が絡んで不可能になっていた。
 それと共に大学へ進んでからのわたしは、次第に競技からも遠ざかり、日々の生活に追われるままにアルバイトの中でのみ、その技術を活かす様になっていた。
 わたしの滑りはそれでもなお、健在だった。
 たまたま、スキー場で知り合った妻がわたしの滑りに魅せられて、わたしがアルバイトの学生指導員だと知ると、
「来年もこのスキー場に居る ?」
 と聞いた。
 スキーの季節も終わる頃だった。
 わたしはだが、その日暮らしの生活の中で即答出来なかった。
 卒業を控えて就職活動もしなければならなかった。
「ちょっと、分かりません。来年は就職活動もあるんで」
 わたしは答えた。
「どんなお仕事をするの ?」
 彼女は言った。
「まだ、何も決まって無いんで、いろいろ当たってみてから決めようと思ってます」
 わたしは言った。
「そうなの。もし、うちの仕事でも良かったら、父に聞いてみて上げるわよ」
 彼女は軽い口調の何気ない様子で言った。 
 わたしが下宿近くのマキモトを利用している事は彼女も知っていた。
 その時わたしは、そんな言葉も軽い印象の口調と共に単なる社交辞令の様に受け取って、さして気にも留めないままでいた。
 その言葉がわたしの心の中で重みを持つ様になったのは、スキー場の季節も終わって彼女に会えなくなってからだった。
 類い稀な美貌を誇る「牧本由美子」の姿がわたしの脳裡から消えなくなっていた。
 しばしばわたしは、街中(まちなか)の人込みに後ろ姿の似た人を見ては後を追掛けた。
 新しい学年を迎えて学生生活も残り少なくなると急に、その生活の終わりと共に牧本由美子に会う機会も失われてしまうのかという思いに捉われて、居た堪れない焦燥感に捉われた。
 就職してしまえば、スキー場でのアルバイトも出来なくなるだろう。
 だからと言って、直接、彼女に自分の思いを打ち明ける勇気など無論、湧いて来なかった。
 彼女とわたしとの間には、余りに大きな生活環境の相違があった。
 わたしに取って彼女の生活は高嶺の花の生活と言えた。
 それでもなお、わたしの彼女に対する思いは収まる事が無かった。
 日を増す毎に彼女とスキー場で一緒に過ごした日々の記憶が大きく甦って来てわたしを苦しめた。




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                ちょっと寒くなりました
               早いものです 暑い暑いとこぼしていた日々が昨日の様な感じの中
               早 師走も間近 少しずつ寒さが身に沁みて来る様な季節に
               なってしまいました
                並木の紅葉 今年も色付きましたね
               こちらではまだ 紅葉らしい紅葉は見られません
               シャコバサボテンもまだです
                野菜の生育 それなりに農家の方々の手間も大変なんだなあと
               教えられます でも こうして画面を拝見しますと
               なんとなく 羨ましい景色に見えて来ます
               今年の野菜の値段の高さ 驚きと共に野菜を多く使用する身に取っては
               大変な負担感を覚えます
               その点でも このような画を拝見しますと羨ましさを覚えます
               何より その新鮮さは最大の魅力ではないでしょうか
               以前にも書きましたが 本当の豊かさとは何か
               つくづく考えさせられます
               総てが自分の思いのまま実践 実行出来る
               この農業という職業の素晴らしさ これ程 魅力的な仕事は 
               そう多くは無いのではないでしょうか
               改めて考えたりしています
               農業 とても魅力的な仕事だと思います
                奥様 リハビリ お二人揃っていればこその幸せ
               どうか お大事になさって下さい
                有難う御座いました