今日 この頃(2020.6.13日作)
かつて 若かりし頃
しばしば 眼や耳にした
あの人 が 亡くなった
この人 が 亡くなった
歳月を経て 今 眼や耳にするのは
消え逝く命の消息 訃報
そうか 人生 百年時代 かつては
五十年 七十年 八十年 と 言われ
今では人の一生も 百年
一世紀が語られるようになった--
とは言え 誰しも 人の老いゆく その歳月の
経過 過ぎ行く歳月に 抗う事は
出来ない 不可能
過ぎ行く歳月 その長い経過を経て
衰えゆく身 肉体の兆候は 日毎
深くなるのみ 再び あの肉体の 心の 精神の
輝いていた時代 あの日々に
戻る事は 出来ない 年に一度
新年の挨拶 年賀状が 今年は来ない
電話をしても通じない 便りの途切れた そんな折り
ふと 心に浮かぶのは もしや・・・・・
不吉な想い 厭な 想像 もはや 人の生の
長い歳月を経て来た今 その途上に浮かぶのは
負の想いのみ 輝く人生 その想いの
浮かび来る事は ない 人生 その
長い歳月を経て来て 今 そんな
歳になった 年代になった と 思う
今日 この頃
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報復(8)
一点はピンクやブルーの色彩の絵で、公園の木陰に憩う人々の姿が淡い詩情を込めて描かれていた。
律子は自分の部屋へ掛ける積りでいた。
あとの一点は、舞台の書き割りのようなカッチリとした街並みの絵だった。
義人が気に入り、「川辺」の本社の応接室に掛けるのだと言った。
その後で銀座の街に出て画廊を廻り、オランダの十七世紀の風景画を一点、購入した。その絵は自宅の応接室に掛ける事で二人の意見が一致した。
午後四時近くにホテルへ帰った後、シャワーを浴びたりなどしてくつろいだ時間を過ごした。
午後五時になると、義人は一足先に独りでロビーへ降りて行った。
「水野が早く来たりして、待たせると悪いから先に行ってるよ」
「わたしも、着替えてすぐに行きますから」
律子はそう言って鏡に向かった。
午後五時半少し前に律子は自宅へ電話をした。
家政婦の野間さんが出ると、子供達を呼んでくれるように頼んだ。
勝人が電話に出た。
律子は、明日帰る予定だけど、お土産は何が欲しいのか、と聞いた。
「美っちゃんとよく相談して、あと十分ぐらいしたら、ここへ電話をしなさい。うちのパパだけど、札幌の川辺義人を呼んで下さいって言えば分るから」
律子はそう言ってホテルのフロントの電話番号を教え、急ぐ用事があるからと言って電話を切った。
五時半になると律子は部屋を出た。
水野益臣とどんな顔をして会ったらいいのかと思うと、さすがに緊張した。
エレベーターを降り、ロビーへ向かう間の、毛足の深い絨毯を踏みしめる足元が覚束なかった。
広いロビーへ出ると、大勢の人の中に義人と水野の姿を探した。
右手の喫茶部になったほぼ真ん中辺りのテーブルで、煙草の煙りを立ち昇らせている義人の姿がまず眼に入った。
続いてすぐに、丸いテーブルを三等分に切った一角に横顔を見せている男の姿を見て、水野益臣だと分かった。
テレビの画面で何度か見ているせいか、十何年ぶりかで会う印象はなかった。
陽に焼けた水野の顔は、テレビの画面で見るよりは引き締まった感じがしていて、好ましくさえ思えた。
薄茶の上着に黄色いシャツを着て、胸元をループタイで飾っていた。
義人との長い空白期間を置いての再会が水野にも嬉しいのか、二人は共に楽し気な笑顔を見せていた。急き込むように言葉を遣り取りしている姿が、いかにも幼馴染らしく見えた。
律子は暫くは足を止めたまま、そんな二人の姿を見守っていたが、背筋に力を入れると意を決して二人の方へ歩いて行った。まるで、舞台へ向かう役者のようだ、と律子は自分を思った。
水野の前に立った時、律子は驚く程に冷静だった。部屋を出る時の不安な胸騒ぎもなく、足元の覚束なさもなくなっていた。
義人が先ず律子に気付いて言った。
「ああ、来た、来た」
水野はその声に促されたように側面を見せていた顔を律子の方へ向けた。
瞬間、水野は眼の前に起こった事が理解出来ないような顔をした。自分の眼を疑うかのようだった。
律子は微笑みも見せなかった。軽く会釈をしただけだった。同時に、水野の顔が苦痛にゆがみ、醜く引きつった。
義人は十数年ぶりで会った旧友と、少なくとも愛する妻を前にして得意気だった。
「ここに座れよ」
と、律子に視線を向けたまま言って、水野と律子の間に流れた微妙な雰囲気にも、水野の面に現れた顕著な変化にも気付かなかった。
律子は椅子を勧める義人の言葉に小さく頷きながら、テーブルの傍に立ったまま、
「初めまして。川辺義人の妻で御座います」
と、丁寧に頭げ、義人が紹介の労を取るより前に機先を制して言った。
水野は律子の挨拶にどのように応じたらいいのか戸惑う風で、しどろもどろの体だった。
律子はそんな水野のすっかり落ち着きを失くした態度に、今、自分が意図した事が眼の前でその通りに実現していると思うと、何かしら勝ち誇ったような気持ちと共に、優越感のような感情さえ覚えていた。
水野はそれでも、律子の挨拶にぎごちなく軽い会釈を返した。
妻の律子を見詰めていた義人が、そんな水野の挙動に気付いたのかどうかは律子にも分からなかった。律子はただ、落ち着いた様子で夫に勧められた椅子に少し気取って腰を下ろした。
「改めて紹介するよ。妻の律子。今度、東京へ出て来るのにも、おまえに会う事が条件の一つになっていたんだ」
普段には見る事も出来ないような気持ちの昂ぶりを幼馴染の前で見せている義人は、何も気付かないかのようで、面白そうに言った。
律子はそんな夫の、初めて見るいかにも嬉しそうな様子を眼の前にしながら一瞬、自分が義人に道化を演じさせているような気がして来て心が痛んだ。
律子は義人の行動力や、気持ちのおおらかさには普段から称賛の気持ちと共に、尊敬にも近いような念を抱いていた。何百人もの社員の頂点に立つ人だけに、人の心の機微にも通じていて、他人から嘲笑を受けるような鈍感さは義人にはなかた。
そんな義人が今、自分の妻というだけで、律子と幼馴染の前で無防備になっている。
律子は義人への申し訳なさと共に、義人を弁護してやりたい気持ちを覚えた。
「テレビでよく拝見するせいか、なんだか初めてお会いするような気がしませんわ」
律子は出来る限りの柔らかい微笑に自分の心の内を包んで言った。
水野の顔には思い掛けない紅潮が走った。
律子は瞬間的に、危機に直面した動物のように身構えた。
水野の口から何が飛び出して来るのか ?
水野の顔面の紅潮が怒りを表す事は明らかだった。
義人はその水野の表情をどのように受け取ったのだろう ?
だが、水野の顔からは、紅潮は一瞬の間に消えていた。
水野が自制したのかどうかは分からなかった。
その時、ロビーにアナウンスの声が流れた。
「札幌の川辺義人様、お電話が入っております。ロビー、フロントまでお越し下さいませ」
「あら、電話だわ」
律子はわざと驚いた表情を見せて言った。
「うん、なんだろう ?」
義人は無論、心当たりなどないと言った様子で応じた。
「事に依ると、子供達からかも知れないわ。東京のお土産に何がいいか、パパと相談してみなさいって言って置いたから」
律子は、如何にも幸福な家庭の主婦と言った表情と共に、穏やかな口調で言った。
「子供達 ? 困った奴らだなあ」
義人はまんざら不満でもないように苦笑いと共に言って、
「ちょっと、失礼するよ」
と水野に言い、席を立って行った。
水野は軽く頷いた。水野に取っても、義人が席を外す事は望む所に違いなかった。
律子は背中を見せて遠ざかってゆく義人を確認してから言った。
「どう ? 驚いて ?」
「なぜ、こんな事をしたんだ ?」
水野は義人がいなくなった事で、一気に昔を取り戻したかのように、怒りを含んだ厳しい口調で言った。
律子は慌てなかった。総てが思惑通りに進行していた。
「あなたに、今のわたしの幸福な姿を見て欲しかったのよ。北海道で"川辺"って言えば知らない人はないわ。わたしはそこのオーナーの妻なのよ。これ以上の幸福はないわ。人生って、皮肉なものね。何が幸運に繋がるか分からないわ」
律子は精一杯の皮肉を込めて言った。
「川辺は俺達の事を知ってるのか ?」
「知らないわ。なぜ、いちいち、あの人に知らせなければならないの。あなたとの事は、わたしに取ってももう、はるか昔の事なのよ。今更思い出したくもないし、殊更知らせて、あの人を苦しめたりなどしたくはないわ」
水野は返す言葉に詰まったのか、顔を紅潮させ、怒りに満ちた表情で黙っていた。
「あの人は、とてもわたしを大切にしてくれるわ。わたしに取っても、あの人は大切な人なのよ。わたしは今、この恵まれた生活を大事にしたいと思うだけなの。今更、昔の傷を開いて見せて、この幸福を滅茶苦茶にしたくはないし、あの人を苦しめたくもないわ」
「もし、俺が喋ったらどうする ?」
水野は怒りに満ちた表情で言った。
「どうぞ、御自由に。あの人の前であなに会おうというのですもの、それ位の事は当然、頭の中に入れてあるわ。でも、昔のスキャンダルが表に出て困るのはどっちかしら。わたしは北海道の一都市に住む一人の主婦に過ぎないけど、それに比べてあなたは今、テレビで日本国中に顔を知られた人気者よ。もし、あなたが過去を表沙汰にしていいって言うんなら、わたしは三村明代さんに頼んで、それ相当の手を打つわ。あなたを徹底的に痛めつける心算よ。それに第一、あなたが川辺に喋ったとしても、あの人は恐らく、あなたの言葉よりもわたしの言葉を信じてくれるわ。もし、あなたの言う事を信じたとしても、わたしとあなたとの間にどのような経緯があったかを話せば、あの人は分かってくれると思うの。あの人はあなたのように、いい加減で、無責任な卑怯者ではないわ」
「なぜ、俺が卑怯者なんだ !」
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takeziisan様
今回もブログ 大変楽しく
拝見させて戴きました
健康診断 わたくしも24日に受けて来ました
今年はコロナの影響で一部 省略されたものもあります
今週 金曜日には結果を聞きに行きます
わたくしの大腸ガンもこの検査により見付ける事が出来
今では健康体です 但し 大腸の検査は毎年
続けています それにしても 結果の分かるのが
大支部遅いようですね わたくしの所では一週間も
あれば判明します
相変わらずの見事なお写真 霧の写真はいいですね
農作業、なんだかんだと言いながら とても楽しそうな
御様子が伺えます どうぞ これからも御報告
宜しくお願い致します 毎回 楽しく拝見させて
戴いております
桂蓮様
いつも御丁寧なコメント戴きまして
心より感謝申し上げます
恩師がお亡くなりになられたとの事
さぞ 御心痛の事と存じます 人の死
どんな遠い人の死でも心にさざ波を立て
痛みを生じさせるものですが 恩師の死となれば
なおの事だと思います どうぞ 桂蓮様 御自身の
心身共の御自愛をお忘れなさらない様
お気を付け下さいませ
御主人様との事 なんだかおのろけを聞かされている
ような気分になりました それにしても
お羨ましい限りです どうぞ 御主人様を
御大切にして上げて下さいませ これは男としての
わたくしからのお願いでもあります
「無」 この禅の基本 何事に於いても大切なものですね
無の心には鬼も住めないだろうし 鬼の住む心が
人間に様々 愚劣な行為を行わせているのでは
ないでしょうか この世を無と認識すれば
様々なものは無価値となり 自分の心に沿った
真実のみに生きる事が出来るようになるのでは
と思うのですが
わたくしの文章を大変お褒め下さいまして
誠に恐れ入ります ただ 自分の心の真実を
書いてゆきたいと思っているだけの事でして
お褒めに与るような事では御座いません
有難う御座います
ブログ 暫くお休みとの事 淋しくなりますが
以前お書きになられたものを追い追い
拝見させて頂きます ただ いつか申しましたように
英文に照らし合わせての勉強読書でして
一向に捗りません
ブログの再開 お待ちしております