遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(508) 小説 希望(32) 他 語らない

2024-07-28 11:46:05 | 小説
 .          語らない(2023.9.7日作)



 
 真に物事を知る人
 物事の根源を見詰める人は
 寡黙だ 多くを語らない
 語れないのだ
 言葉を失う
 言葉では語り尽くせない 闇が
 物事の深部には存在する
 多くを語り 能弁な人間は 得てして
 物事の表層
 現象しか見ていない


           
            閃き


 ヒラメキ
 一瞬の閃き ふと閃いた
 ヒラメキとは 日頃の 
 日常体験 経験 その
 積み重ねの中から生まれるもの
 何も無い所から 閃きは
 生まれない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(32)





<川辺時計宝飾店>と白地に黒く書かれた看板が通りを隔てて斜(はす)向かいに見えて来た。
 灰色の鎧戸にも同じ文字が見える。
「あの店だな」
 鳥越が言った。
「うん」
 北川が気負い込んだ様子の力のこもった声で返事をした。
「だけっど、随分明るいなあ。大丈夫かよ」
 鳥越が街灯の明かりを気にして言った。
 四つ角それぞれに思い掛けない明るさで街灯が明かりを点していた。
 昼間と見間違うばかりだった。
「大丈夫だよ。店の裏っ側へ廻るんだ」
 北川は確信に満ちた口調で言った。
 四つ角に出た。
 宝飾店は対角にあった。
 四方が見通せた。 
 どの通りにもスズランの花形を思わせる街灯が白い柔らかな光りを放って立ち並んでいた。
「あの紳士服店の裏っ側の方から入(へえ)るんだ」
 それぞれがビルの建物の陰に身を寄せて身体を隠した姿勢で北川が言った。
 対角線に位置する距離は二十五、六メートルかと思われた。
「どうやって入(へ)える ?」
 鳥越が言った。
「脇に小っちぇ通用口があっから、そっから入えって行って裏口のインターホンを押すんだ。そっで起きて来たら、警察だけっど店の様子がおかしいから表の戸を開けてくれとか何とか言ってさ。紳士服の店も表は店舗で、夜は人が居ねえから見られたり聞かれたりする心配えは無えと思うんだ」
 鳥越は黙って頷いた。
「どうしょう。戸を開けさせるまで、誰か表で見張っていた方がいいんじゃねえか。もし、人が通ったりしたらヤバイからよう」
 北川が言った。
「そうだなあ」
 鳥越もすぐに同意した。それからすぐに、
「俺が見てるよ。そっで、ヤバイと思ったら口笛で合図するよ」
 と自分で見張り役を買って出た。
「じゃあ、俺とお前(め)えで行こう」
 北川が修二に言った。

 街頭の防犯カメラを警戒して三人はそれぞれ別々に向こう側へ渡った。
 鳥越が最初に、今来た道を戻り、四つ角から遠く離れた場所で車道を横切り、向こう側へ渡った。
 続いて修二が北川に指示されるままに一旦、車道を渡り、鳥越とは反対の方角へ歩いてそこからまた、店舗のある側へ車道を渡った。
 最後に北川が店の前のこちら側の角から店舗のある角に向って歩いて行って向こうへ渡った。
 それぞれ各自がその場所から店舗を目差した。
 三人の距離が近付くと北川が修二を手招きして、店の裏側へ廻る様に指示をした。
 鳥越は店の横の道を渡って向こう側へ行き、別の建物の陰に身体を隠して大通りの様子を窺った。
 北川が鳥越の様子を確認してから修二の後を追った。
 北川は修二に追い着くとすぐに店の裏口に当たる狭い路地の前へ足を進めた。
 辺りの様子を見廻してから北川は先に立ってその路地に入った。
 修二も後に続いた。
 眼の前には丈の低い木製の柵があった。
 北川が上から手を延ばして内側の掛け鍵を外した。
 柵を開けて入ると建物の裏側、通用口の木製の扉が二、三歩先にあった。
 左側に押しボタンを備えたインターホンの通話口が見えた。
 北川が修二を振り返って、
「帽子を被れ」
 と言って、自分もポケットから黒い眼だし帽を取り出して被った。
 修二は無言のまま北川の言葉に従った。
 眼だし帽を被った北川は鼻と眼だけを覗かせていて、人相を見分ける事は出来なかった。
「いいか、表のドアを開ける様に言うから、ナイフを出して用意して置け」
 北川は言った。
 修二はその言葉に従ってポケットからナイフを取り出して右手に握った。
「表の戸が開いたら、すぐにナイフを開いて相手に突き付けんだ。見せるだけでいいかんな。その間に俺が眼出し帽を被せてロープで縛るから、俺と鳥越が仕事をしてる間はしっかりとロープを握って押さえてろよ。いいな」
 北川は力のこもった声で言った。
 修二は黙って二度、大きく頷いた。
 知らず知らずのうちに昂揚した気分に捉われていた。
 北川はインターホンのボタンを押した。
 暫く待っても返事は無かった。
 北川はまた押した。
 何度か押したが中からの返事は依然として無かった。
 真夜中の二時を過ぎた時刻だった。誰もが深い眠りの中に居るだろう。
 当然の事に違いなかった。
 北川はそれでも諦めずに何度も押して中からの返事を待った。
 返事は依然として無かった。
「駄目かなあ」
 次第に焦りの色が見えて来て北川は言った。
 その時だった。
「なんですか、誰ですか ?」
 不審に満ちた男のくぐもった声がインターホンを通して聞こえて来た。
 北川は途端にシメタ ! という風に頷いた。
「あのう、警察の者ですけど、店の前の様子がおかしいんです。ちょっと表のシャッターを開けてくれませんか。なんだか様子がおかしいんです」
 如何にも急を要する事の様に北川は、緊迫感に満ちた声で言った。
「警察 ?」
 驚きを含んだインターホンからの声が修二の耳にも届いた。
「はい。なんだかおかしいんです。表の戸を開けて下さい」
 相手を急かす様に北川は言った。
「ちょっと待って下さい。今すぐ開けます」
 不意を突かれた様子の、明らかに狼狽の気配を漂わせた声でインターホンの主は言った。




              
              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                
                takeziisan様


                 連日の猛暑 異常です 狂熱気候 気違いじみています
                さすがにクーラー使用との事 お尋ねしようと思っていたところです
                この暑さでも使用しないのか と
                 白黒写真 昭和三十九年 懐かしいですね
                 山小舎の灯 ラジオ歌謡 近江俊郎 歌声が蘇ります
                 くれゆくは白馬か 穂高はあかねよ 
                  それにしても山小屋の風景 良いですね
                 見ているだけで一日の登山に疲れた人達がやれやれ といった気分で腰を落ち着ける          
                 わたくしは山の経験は無いのですが 旅行に行った折りなどに覚える
                 あの感覚を通して想像が出来ます
                 山好きが虜になるのも分かる気がします
                  イノシシ 突然の豪雨 こちらでは一向に雨が降りません
                 よく話しをするのですが この地方は本当に環境的には
                 恵まれた地方です あちらで大雨 こちらで大災害
                 ただテレビで眼にするだけで みんな他人事の様な感覚で
                 実感が湧きません 以前にも書きましたが
                 苦労知らずのこの地方 だから偉い人が出ないんだと
                 地元の人達は言っています
                  ハワイアン スチールギター 大橋節夫 バッキー白片・・・・  
                 懐かしいですね ハワイアンブームがありましたね
                  映画「ひまわり」最後の場面の切なさ・・・
                 愛し合っていながらどうにもならない運命
                 愚かな戦争がもたらす悲惨さを抒情豊かに描いた
                 デ シーカの名作ですね
                 胸が痛くなります
                  今回もいろいろ楽しませて戴きました
                 有難う御座いました






                  桂蓮様


                 足が不調との事 どうぞ御大事にして下さい
               普段 何気なく出来る事が出来ない事のもどかしさ
               ほとんど 絶望的になりますよね まして楽しみにしている趣味
               なおさらだと思います       
                それにしてもバレーの練習の厳しさは傍目にも想像出来ます
               柔軟性に満ちた若い頃ならそれも苦にならないかも知れませんが
               ある程度 年齢を重ねると体が堅くなる 自分自身 この頃
               とみに実感している事ですが どうぞ 御無理をなさらない様にして下さい
               発表会も今年出来なければ来年 楽しみが来年に続くと思えば
               気持ちの切り替えも出来る事でしょうし それだけまた 
               楽しみの時間が増えると思えば 諦めもつく事でしょう  
               何事も陰陽 それこそお得意の禅の極意で
               陰を陽に変え 今日という日の今の自分を楽しみながら過ごす
               今は静養の時 そう考えて一日も早く元の元気な自分を取り戻して下さい 
                コメント 有難う御座いました













































遺す言葉(507) 小説 希望(31) 他 生きるのだ

2024-07-21 12:17:59 | 小説
             生きるのだ(2024.7.14日作)



 
 生きるのだ
 生きなければならない
 今日一日 今 という時を生きる
 精一杯生きる
 明日という日は 無い
 明日は明日 今日は今日
 今 この時
 今 この時 今 出来る事は 何か ?
 より良く生きる 今日一日
 今日一日 今という時を生きる
 精一杯生きる 今 何が必要なのか ?
 総ては今という時
 命ある今日一日 明日は無い
 明日は明日 明日また 考える
 今を生きる 明日に続く
 今この時 今日一日を
 精一杯生きる
 人が出来る事 それだけ
 明日は明日 明日という日の
 保証は無い




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                       希望(31)



 

 銭湯から帰ると一時間近くが過ぎていた。
 Ⅰ時になったら出掛けよう。 
 時計を見ながら考えた。
 東境川小学校まではタクシーで二十分位掛かると北川は言っていた。
 タクシーが拾えない時の事を考えて少し早目に出た方がいい。
 街へ出る時に何時も穿いているジーパンを穿き薄手のジャンパーに着替えた。
 下はTシャツ一枚だった。
 ナイフは上着の内ポケットに入れた。
 ズシリとした重量感が胸元を圧迫してナイフの圧倒的な存在感を伝えて来た。
 <ブラックキャッツ>の頭(あたま)を遣る時の様な緊張感は無かった。
 殺傷が今回の目的ではない。
 ナイフをチラつかせて脅すだけでいいのだ。
 相手は年寄りの夫婦だと北川は言った。
 緊張を強いられる場面も無さそうに思えた。
 北川は目出し帽も用意して来ると言った。
 顔を見られる心配も無いだろう。
 店を出てから二百メートル程歩いてタクシーを拾った。
「東境川小学校の前まで」
 と言うと、運転手は「はい」とだけ答えた。
 少し白いものの交った髪の運転手は鏡の中では六十歳近くに見えた。
 運転手は車が動き出してからも無口だった。まだ子供じみた面影を残す少年がこんな真夜中に出歩いている訳を尋ねようともしなかった。
 修二はそんな運転手の様子を見るとかえって気になった。
 何か、怪しんでいるのではないか ?
 微かな不安に捉われた。と同時にふと、北川は重大な間違いを犯したのではないか、という思いに捉われた。
 三人の男達がこんな真夜中にそれぞれ、小学校を目差してタクシーを走らせている。
 この事実は時計宝飾店強盗がニュースになった時、警察に取っては重大な手掛かりになるのではないか ?
 宝石店は小学校の近くだという。
 三人の男達がその時刻、小学校へ向けてタクシーを走らせている。
   それぞれの運転手の証言によってタクシーを拾った場所が特定されれば、一気に捜査の範囲は狭められてしまう。しかも、境川のこちら側でそれぞれがタクシーを拾っている。
 急に不安になった。
 その不安と共に改めて鏡の中で運転手の表情を探った。
 運転手は夜の闇に視線を向けたままで、依然として表情に変化は見られなかった。 
 何故とはなしにホットするのと共に、運転手に声を掛けていた。
「境川からこっちへ来た事がないので、家へ帰るのに勝手が分からなくて困っちゃったですよ」
 運転手は前を見詰め、ハンドルを操作したまま、
「遊びに行ったの ?」
 と聞いた。
「はい」
 修二は素直な少年を装って答えた。
 運転手はそれ以上、何も言わなかった。
 運転手の穏やかな口調が安心感を誘った。
 やがて車はクロちゃんが死んだという橋に差し掛かり、渡った。
 修二が小学校の前でタクシーを降りた時、北川と鳥越の姿は無かった。
 まだ来てないのか、と思った。
 タクシーは修二を後に残したまま走り去った。
 タクシーの姿が見えなくなり、修二が校門の大きな石柱の方へ行こうとした時、その陰から北川と鳥越が姿を現わした。
「おうッ !」
 北川は右手を小さく挙げて言った。
 二人が揃っていた事で時間に遅れたのかと気になって腕時計に眼をやった。
 まだ、二時にはなっていなかった。
 辺りは深夜の気配に包まれていた。
 家々はことごとく灯りを消していた。
 通りには人影も無かった。
 校庭は夜の闇の中で静まり返っていた。
 無数の窓を持った校舎が黒い影を作って巨大な獣の様に横たわっていた。
 北川は早速、上着のポケットから目出し帽を取り出した。
「手袋は持って来たんだろう ?」
 鳥越に聞いた。
「うん」
 鳥越は頷いてすぐにポケットから取り出した。
「指紋を残しちゃまずいからな」
 北川は言った。
「俺は持って来ないよ」
 修二は言った。
「お前はいいよ。店の者にナイフを衝きつけて置けばいいんだから」
 北川は目出し帽を修二に差し出しながら言った。
 修二はなんとなく、自分が除け者にされた様で不満だった。
「ナイフは持って来たんだろう ?」
 北川は言った。
「うん」
 修二は頷いた。
「帽子は入(へえ)る直前に被るんだ。今から被って歩いていると、誰かに見られでもしたら怪しまれるかんな」
 北川は言って鳥越にも渡した。
「この二枚は爺さんと婆さんに後ろ向きに被せて見えねえ様にすんだ」
 手の中に残った二枚を小さく畳みながら北川は言った。
 鳥越はジャンパーの内ポケットから中太の白いローブを取り出した。
 店の者を縛る為の物だった。
 三人でそのまま人影のない通りを歩いて行った。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


              有難う御座います
             グランビーの夏 素晴らしい住環境ですね
             拝見していて羨ましくなります とにかくアメリカは広い
             それぞれ郡によって 州によって異なるのでしょうが        
             ニューヨークのような大都会もあれば広々とただ畑一面が広がる
             大農場もある かと思えば西部劇でよく眼にするディスヴァレーのような
             砂漠地帯もある とにかく島国日本から見るとその広さだけは憧れの的です
              バレーに限らず 何事も自身の感覚で覚える事
             感覚を身に付ける事ですね
             世間には口では立派な事を喋りまくっていても いざ その実践となると
             何も出来ない人間が大いものです
             理論より感覚 文章の中にも書いた事がありますが
             感覚の伴わない知識は本当の知識では無いという事です
             芸術に限らず 農業 漁業 林業 あらゆる分野に於いて          
             その仕事にたずさわる人達は総て日常から得た感覚で
             その作業を進めているのだと思います
             何事も頭で考えているうちは本物とは言えません
             小説を書く人がよく言います
             場面と出来事を設定してまず冒頭の文章を書く すると その文章に従って 
             あとは人物が勝手に動きだす
             また あの大天才ピカソが 一本の線を書くのに二十年もかかっのだ と言ったという事です
             総て本物は頭で覚えた知識では無く 肉体的感覚として身に付けているか という事ですね
             最新記事 面白く拝見しました
              日本でも中年の方々のバレー熱が盛んな様です
             どうぞ 頑張って下さい




                takeziisan様


                 今回も楽しませて戴きました
                思い出の写真 良いですね お子さん達の寝ている姿 机に向かっている姿
                良い写真です 過ぎ行く人生の中の貴重な一頁
                宝物だと思います 思わず目頭が熱くなりました  
                それにしても数々の思い出 豊かな人生だったのではないでしょうか
                 診察結果まずまず おめでとう御座います
                と 言うところでしょうか 一病息災 まだまだ大丈夫
                畑に出る力 歩く力 意欲がある限り心配御無用
                意欲が無くなった時が怖いですよね ブログへの意欲と共に
                頑張って下さい
                 数々の映画音楽 総て青春の一コマに刻み込まれています
                「旅情」のヘップバーンも良かったですね
                「真昼の決闘」 映画に流れる時間と実時間が一緒という事で
                当時 話題になりましたね                
                「シェーン、カムバック」あの少年の叫び声
                改めて懐かしく思い出します
                「五木の子守唄」東京へ出て間もなくの頃にはやった歌で
                映画にもなり 見ました
                何時聴いても哀しい歌です 貧しかった頃のこの国の姿が
                偲ばれます            
                あの藁屋根の風景 日本の原風景の様です
                しみじみとした思いに誘われます
                 イノシシ 相変わらず奮闘 イノシシ迷惑にも拘わらず
                自然の豊かさが羨ましく思われます
                 我が家の屋上菜園 キュウリ ピーマン
                豊作です                  
                 楽しい時間でした 有難う御座いました  







































































 


遺す言葉(506) 小説 希望(30) 他 種を撒く

2024-07-14 12:29:06 | 小説
              種を撒く(2023.9.3日作)



 人が生きるという事は
 種を蒔く事
 人は皆 死に赴く存在 しかし
 その死が 人の生を無駄にするもの
 とは 言い切れない
 人は日々 生きるという行為の中で
 種を蒔いている 良い種 悪い種
 人の死後 その種は芽を出すだろう
 それが やがて 大きくなり
 それぞれの果実に結実する
 人の命はそうして 受け継がれ
 人はそうして後の世を生きている



           才能


 才能とは 人が持って生まれたもの
 金では買えない貴重品
 それでも才能は
 人格の貴賤に係わる事は無い
 才能豊かな人間でも 卑しい人間は
 何時(いつ)の時代
 どの場所にも居るものだ




            ーーーーーーーーーーーーーーーー
 




              希望(30)




「夜中の二時に侵入(へえる)んだ。三人は別行動で現場へ行く。これが境川から向こうっ側の略図だ。この、東境川小学校を目当てに行くと分かり易い。ナンバープレートを変えて俺達の車を使ってもいいんだけっど、用心の為に三人、別々にタクシーを使った方がいい。落ち合うのはこの小学校の門の所にしよう。この辺りは小っちぇ商店街で周りは住宅ばっかりだから、夜中の二時なら人の通る事もまず無えと思うんで、人目にも付きにくい。此処で落ち合ったらこっちの十字路へ出て右へ曲がるんだ。そっから百メートルばっかり歩くとまた十字路がある。時計屋はこの十字路の角だ。此処なんだ」
 北川は黒のボールペンで小さな丸印を書き込んだ。
「左隣りの此処が信用金庫で、右隣りの此処が紳士服の仕立て屋だ。この時計店は店構えは小っちぇけっど、老舗なんで品物は良いものが揃ってる。ショーケースの中だけでも一千万以上はあると思うよ。仕事が終わった後はまた、三人別行動で帰(け)えるんだ。気を付けねえといけねえのは、人通りが少ねえ通りだから、歩いている姿を見られねえ様にしなければいけねえって事だ。タクシーも拾わねえ方がいい。だけっど、こっちの市場町の方へ出てしまえば繁華街だし、タクシーを拾っても怪しまれる事はねえと思うよ」
「火曜日の夜に遣んだな」 
 鳥越が念を押した。
「修二の休みが水曜日だし、その方がいいだろう」
「明日・・・明後日か」
「うん」
「お前え、そっでいいのか」
 鳥越が修二に聞いた。
 修二は黙って頷いた。

 その夜、北川と鳥越が帰った後、修二は久し振りに鞄からナイフを取り出してみた。
 ナイフは血痕一つ残していなかった。
 ボタンを押してみた。
 刃(やいば)の素早い動きも依然として健在だった。
 見事な輝きも全く変わっていなかった。
 満足感と喜悦に包まれて再びナイフを鞄に納めた。
 同時に、<ブラックキャッツ>のリーダーを刺した時の記憶が蘇った。
 後味の良い記憶ではなかった。
 出来れば頭の中から払拭したかった。
 今度はナイフを使わなくてもいい、と北川は言った。
 その言葉を思い出しながら、両手を頭の後ろに組んで布団の上に寝転がると、この仕事が終わったら店を辞めようかと考えた。
 かなりの金が入ると北川は言った。
 意識の中にはマスターの存在があった。
 修二が此処に来て以来、マスターは常に優しくしてくれていた。そのマスターに対して、自分の取る行動の総てがマスターを裏切る様な行動だったとしか思えなかった。
 <ブラックキャッツ>のリーダーを刺した事、女将さんとの事、そして、今度の事もまた、もしもの場合にはマスターに迷惑が掛かる事になり兼ねないーー。
 女将さんの口からマスターと女将さんの関係を聞いて以来、修二の気持ちの中では、女将さんに対する思いが微妙に変化していた。
 以前は蔑みの眼でしか見られなかった女将さんに対して、別人を見る思いがしていた。
 女将さんの已むに已まれぬ気持ちーー、女将さんの哀しみもまた分かる気がした。
 マスターへの思いと共に女将さんへのそんな感情も絡んで来て修二は息苦しくなる程の感情に捉われた。
 いっそ、この店を辞めてしまえば、そんな苦しさからも逃げられる。
 北川の話しでは、少なくとも三百万円以上の金が入るという。それだけあればなんとか生活してゆけるだろう。
 それに、この街も出て、別の街へ行ってまた新しい仕事を探せばいい。
 火曜日、夜、修二は店の仕事が終わって二階へ上がると、すぐに鞄からナイフを取り出した。
 ボタンを押して刃を開き、再度の点検を試みた。
 再び刃を元に戻してテレビの上の丸い目覚まし時計に眼をやった。
 十一時を四十分程過ぎていた。
 これから午前二時までどの様に過ごそうか・・・・
 取り敢えず風呂へ行く事を考えた。
 午前中、豚骨の始末に追われて汗だくになり、肉汁や脂の匂いが染み付いていた。
 女将さんが今夜のうちに来る心配はまず無かった。
 その点では安心出来た。
 いずれにしても、この仕事が終わったら店を出るのだ、その思いは修二の気持ちの中では揺るぎの無いものになっていた。





             ーーーーーーーーーーーーーーーー




          
             takeziisan様


              
              有難う御座います
             今回も楽しませて戴きました
             山百合 満開ですね 以前にも書きましたが最も好きな花の一つです
             これ等の花が自然の中で見られる環境の素晴らしさ
             羨ましい限りです
             それにしても夏の花々 この猛暑の中で見事なものです 
             自然の逞しさでしょうか
             大きなサボテンの木の花 我が家の近所にもかつてありましたが
             その家の建て替えと共になくなりました
               健診 わたくしは今年も満点でした
             体組成計の診断では肉体年齢は七十一歳です
             一つでも何処か悪いと気分的に違います
             どうぞ お気を付けて下さい 良い結果を願っています
              様々な映画音楽 どれも耳に馴れたものばかりで懐かしいです
             甦る青春というところでしょうか
              むくげの季節 この季節の数少ない清涼感を運んで来てくれるものの一つです
              飲み会 続けて下さい 自分から年寄り仲間を宣言する必要はありませんよ 
              この年でもまだまだいけるぞ お前なんかには負けないよ 
              その気概でどうぞ
               吉川英治 名言 禅の思想に通じる言葉です
              有るけど無い
              無いけど有る
               来週 同じ様な意味の文章を掲載しようと思い
              整理を済ませたところです もし 宜しかったら
              お眼をお通し戴けたら と思います
               黒田節 赤坂小梅が太ったあの体で豪快に唄っていた姿を思い出します
              市丸 喜久丸 音丸 勝太郎 藤本二三吉 ラジオで馴染の名前です
              懐かしさばかりです 
               有難う御座いました 楽しませて戴きました
























































遺す言葉(505) 小説 希望(29) 他 一本の糸

2024-07-07 12:48:11 | 小説
            一本の糸(2024.6.22日作)



 一枚の布は 一本の  
 細い糸の 組み合わせ から生まれる
 それぞれに個性を持った 一本の糸
 その 細い 一本の糸が切れれば
 布はそこから 破綻してゆく
 それぞれに 個性を持った一本の細い糸 その糸が 
 不揃いであれば 美しい布は生まれない
 人の社会も同じ事
 人間一人一人が この世界
 世の中 社会を 構成する
 一人の人間の命が失われれば そこから
 家庭に 社会に 世界に 欠陥が生じる
 一人の人間が 社会の掟を破り
 勝手に行動すれば そこから秩序が乱れ
 世界が 社会が 家庭が 混乱する
 勝手気まま 自己顕示の 強い糸 強い人間
 一枚の布の美を損ない
 人間社会の秩序を損なう




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              希望(29)





「どうした 警察は ? 何も言って来ねえか」
 椅子に腰を下ろした北川にマスターは聞いた。
「ええ、まあね。チームの連中にまだ聞き廻っているみてえだけっど、どうって事はねえですよ」
 北川は自信に満ちて落ち着いた表情で言った。
「それより、マスター、頼みてえ事があんですけっど、聞いて貰えませんかね」
 北川は言った。
「なんだ ?」
 マスターは軽く答えた。
「宝石なんか捌けませんか」
「宝石 ? どんな宝石」
「指輪とかネックレスとか」
「持ってんのか ?」
 マスターは聞いた。
「いや、今、持ってる訳じゃねえんだけっど、ちよっと、金(かね)が欲しいんですよ」
「どっかへ侵入(へえん)のか?」
「ええ、まあ・・・・」
 北川は言葉を濁した。
「捌けねえ事はねえけど、でも、危ねえ橋は渡んねえ方がいいよ」
 マスターは諭す様に言った。
「それは分かってんだけっど、少し、金が欲しいもんで」
「何すんだ ?」
 腕組みしたままマスターは聞いた。
「ハーレーのでっけえのを買いてえんですよ」
 北川は言った。
「オートバイか ?」  
 マスターは軽い笑みを浮かべて言った。
「ええ」 
 北川は頷いた。
 マスターは里が知れた、という表情で軽い笑みを浮かべたまま何も言わなかった。
 北川はその様子をマスターの承諾と受け取ったらしかった。
 三日後、夜中の零時過ぎに修二を訪ねて来た。
 一人だった。
 十分程前に電話をして来ていた。
 来る理由は言わなかった。
 修二は、うっせえ奴だ、とだけ思った。
 多分、マスターに話していた事と関係があるのだろうと推測した。
  矢張り、その事で北川は訪ねて来た。
 時計、宝飾品店に押し入って、時計や宝飾品を奪う計画を修二に打ち明けた。
「店はブラックキャッツのエリアにあるんだ。だもんで、犯行の目くらましには都合がいい。普段、俺達があっちへ行かねえ事は警察もよく知ってるしな。それに俺の他には鳥越が来るだけだから、外に漏れる心配えもねえんだ。金は三人で山分けするよ。お前(め)えは何もしなくていいから、見張りだけしていてくれればいい。後の仕事は俺と鳥越ですっから」
 北川は最初から修二が受け入れるものと思っているらしかった。
「店は六十過ぎの親父と婆さんの二人でやってる小っちゃな店なんだけっど、物は良いものが揃ってる。それにバス通りからも離れてるし、夜は七時には閉めちゃうんだ」
 修二は黙って聞いていたが、気持ちは最初から離れていた。
 真っ先に浮かんだのは、マスターに対する思いだった。
 もし、何かがあった場合、マスターに二度も三度も迷惑を掛ける事になってしまう。
 北川が一息入れる様に修二から視線を外してポケットに手を入れ、煙草を取り出した時に修二は言った。
「でも、俺、そんな事したくないよ」
 その言葉に北川は耳を疑う様な表情を見せて、
「なんで ?」
 と、言った。
「前の事もあるし、それに店にも迷惑を掛けたくないから」
 修二はぼそりと言った。
「大丈夫だってば。店に迷惑を掛ける様な事はしねえよ。それに、マスターも品物は捌いてくれるって言うんだから」
「それとこれとは違うよ」
 修二は強い口調で言った。
「なんで ?」
 北川は不満そうな口振りでまた言った。
「いいか、お前えよう、考げえてもみろよ。もしもの事があった時、この前えの傷害事件はお前えがやったんだって言いふらす奴が出て来ねえとも限らねえぞ。今は俺達がみんなを抑えていて、何も言わねえ様にしてるんだけっど、俺や鳥越の抑えが無くなれば直ぐに喋る人間が出て来て、たちまちお前えは警察に捕まっちゃうぞ。そっでもいいのか。それこそ、店に迷惑を掛ける事になっちまうぞ」
 北川は脅迫的な口調で言った。
 修二は言葉が出なかった。
 嵌められた、という思いだけが募った。
 北川は修二が言葉も無く黙っていると、口に咥えた煙草に火を点けて言った。
「兎に角、お前えには危ねえ真似はさせねえよ。ただ、ナイフを見せて見張っててくれさえすれば、そっでいいから。要するに物さえ盗れればいいんだから。ナイフを使う必要もねえんだ」
 もし、この話しを断った時、北川はどうするだろう ?
 前の傷害事件は俺が犯人だと言い触らすだろうか ?
 考えると不安だった。
 修二は確認した。
「俺は何もしなくていいのか ?」
「ああ、構わねえよ」
 北川は言った。
「それで、三人で分けるのか ?」
「そうだ」
 どれだけの金額になるのか分からなかったが、少なくとも、少ない金額ではない事だけは想像出来た。
 修二はそれでも「うん」とは言わなかった。黙ったままだった。
 北川は修二の言葉の無い事をまたしても、承諾と受け取ったらしかった。
「詳しい計画が出来たらまた来るよ」
 北川はそう言って帰って行った。

 北川が犯行計画の詳細を持って来たのは六日後だった。
 鳥越も一緒だった。
 鳥越は修二を見ると、
「おう、元気か」
 と言って、仲間意識に満ちた笑顔を向けた。
 あの事件以来、初めての顔合わせだった。
 北川は修二の部屋へ入ると直ぐに計画の説明を始めた。
  



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               takeziisan様


                猛暑の中での農作業 カメラを持っての散策
               どうぞ お身体に気を付けて下さい
               野菜の収穫 ブルーベリーのお裾分け 豊かな生活環境が偲ばれます 
               羨ましい限りです 昨年もブルーベリーのお裾分け
               ありましたね
                それにしてもハクビシン イノシシ 豊かな自然であればこそ と思っても
               御苦労は絶えませんね
                トウモロコシも順調な様に拝見しました
                月見草 チガヤ―ツバナと呼んでいましたが 
               懐かしい風景です 思い出します
               思い出すと言えば 星空 わたくしの方でも見事な星空でした
               当時はネオンも無く 電灯の明かりも乏しく
               暗い夜空いっぱいに広がった星空の見事だったこと
               その中を天の川銀河が横たわり 今思うと夢の様な世界です
                名曲アルバム じょんがら節 澤田勝秋
               懐かしい名前です
               それにしても民謡はそれぞれの他方のその地に根差したところから 
               自然発生的に生まれた歌で それぞれに魅力があり
               明るい歌には明るい歌の 静かな歌には静かな歌の 
               それぞれの魅力が詰まっていて どれが良いなどとは言えませんし
               結局は 個人の好みという事にでもなるのでしょうか
               以前にも書きましたが 刈り干し切り唄は南部牛追い歌 と共に
               最も好きな曲の一つです 母が亡くなって三回忌の法要の時
               会食の席で民謡好きの母への供養と思いこの歌を唄いました
               みんなは母の跡を継いで民謡をやれば と言ってくれましたが
               ただ ブログにある唄の三番の歌詞がちよっと違っています
               わたくしが唄った歌詞は六番まであって 三番は
                秋も済んだよ 田の畦道(くろ)道をよ
                あれも嫁じゃろ エー日も五ッよ 
               となっています 
               でも この違い 唄う人によって 地域によって少しずつ異なる
               これが民謡の良さだと思います
                いろいろ興の赴くまま 長々と詰まらない事を書いてしまいましたが
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
                有難う御座いました