遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(432) 私は居ない(6) 他 逆転現象

2023-01-29 12:33:57 | つぶやき
          逆転現象(2021.12.10日作)


 威を張るな
 肩を怒(いか)らすな
 自分を大きく見せようとすればするほど
 他者の眼には その人物
 人間像が 底の浅い
 小さなものに見えて来る
 謙遜 謙虚 自分を常に
 低位置に置く時 他者の眼にはその人
 人間像が大きく見えて来る
 世の中 世間では しばしば
 逆転現象が起こるものだ




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           私は居ない(6) 



 翌日、私は三光町の伯父の家を訪ねた。
 伯父はわたしの話しを聞くと、白くなった眉毛を寄せて難しい顔をしながら、
「死んだお母さんの言う事は本当だ。お前は東陽町に居た〆香という芸者の子だ」
 と言った。
 私はそこで改めて、川万の元女将という女性を訪ねた事、昨日、〆香と名乗る女が現れた事を伯父に話した。すると伯父は、
「そんな事はない。それは何かの間違いだ。その二人に会って話してみれば分かるだろう」
 と、強い口調で言った。
「伯父さんは川万の女将と〆香を御存知ですか」
「ああ、知ってる。現在の川万の女将も〆香も知らないが、当時の女将や〆香なら知っているから会えば分かるはずだ。何しろ、お前を引き取るに当たっては、事が面倒にならないように俺が中へ入ったんだから」
 私は始めに〆香と名乗る女に会って貰った。
 伯父を訪ねた翌日、女に電話をして、名刺に書かれた住所を訪ねて行った。
 事の詳細を話し、伯父に会って貰えるかと尋ねると女は別段、逃げる様子も見せずに、
「結構です。お会いしても宜しいです」
 と言った。
「伯父はその時、あなたに会っているという事ですが、あなたは伯父を御存知ありませんか ?」
 私はなおも女の真実を確かめたくて探りを入れるように聞いてみた。
「伯父様と申しますと・・・?」
 女は軽く首をひねるようにして聞き返した。
「三光町に居る経済学者の川名登です」
「川名様 ? さあ、ちょっと記憶が御座いませんが」
 女の表情には困惑にも似た気配が浮んでいた。
 私はこの時になって初めて、女が偽者か、別の〆香に違いないと確信するようになっていた。
 女は三日後の日曜日が都合がよいと言った。
「宜しかったら、伯父の家へ来て貰いたいと思うんですが」
「結構で御座います」
 伯父は事情を話すと快く承知をしてくれた。
 その日曜日、私は十時過ぎに家を出ると車で築地の女のアパートへ行き、そこからと女と共に伯父の家に向かった。
 私達はすぐに応接間に通されたが、既にそこに居た伯父は女の顔を見ると即座に、
「やあ、珍しい人のお出ましただね。いらっしゃい」
 と、屈託のない笑顔で言って女を迎えた。
「ああ・・・・」
 女も、伯父の顔を見て驚いたように声を上げた。
「先生でしたか。先生だったんですか」
 何故か、懐かしそうに言った。
「御存知ですか」
 私は女に聞いた。
「はい、存じております。昔、よくお世話になりました」
 女のそう言った声には弾むような響きさえがこもっていた。
「この人は〆香だよ。間違いなく昔の芸者の〆香だよ」
 伯父も何故か、嬉しそうに言った。
「その節はいろいろお世話になりました。大変御無沙汰致しております」
 女は改めて丁寧なお辞儀をして挨拶した。
「いやいや、こちらこそ、いろいろ迷惑を掛けてしまって。まあ、とにかく、掛けて下さい」
 伯父は女にソファーを勧めた。
 お茶が運ばれて来た。
 一通りの手はずが済んで座が落ち着くと伯父は、
「その後、どうしたのかね。いっこうにあなたの噂を聞かなくなったが。横川が死んでから間もなくだったね」
 と、女に語り掛けた。
「はい。社長さんが亡くなってから、わたくしも川万を辞めて郷里の銚子へ帰ったのです。でも、そこも二年程居るとなんとなく居辛くなり、また、東京へ出て来た訳なんです。それからはずっと東京で」
「今は何処に ?」
「築地におります」
「結婚はしなかっちたの ?」
「いいえ、二度しましたけれど、一度は一年程した時に、思わぬ交通事故で亡くなってしまったんです。二度目の結婚は三年程で別れてしまいました。それからはずっと一人で」
「そう。で、今は保険会社とか・・・」
「はい。なんとか、細々と生きています」
 女は軽い笑顔を見せて言った。
 私は伯父が何時、肝心の話しを切り出してくれるのかと待っていたが、伯父自身も心得ていたようで、軽い世間話が済むとすぐにその話しに取り掛かった。
「実は外でもないが、この人がね、母親が死の間際になって、お前はわたしが産んだ子ではないと言って死んだ、って言うんで大分、気にしているんですよ。それで、わたしの所へ来て、真実を教えろと言う訳なんです。だからわたしは、母親の言った事は本当だって言ったんだけど、母親が言った〆香と言う人に会ったらその人は、この人を産んではいないと言うし、その〆香がいた川万という置屋の元女将に会っても、元女将は〆香は死んでしまって,子供も死んでるっていう訳なんです。そんなこんなで話しがこんぐらがってしまって、それで今日、わざわざ来て戴いたんだけど、なあに、今更、あなたに迷惑を掛ける心算はないので、どうか、本当の事を話してやってくれませんか」
 女は真剣な面持ちで伯父の話しを聞いていたが、すぐに伯父の言葉に応えて言った。
「はい。その事は若旦那様からも伺っております。若旦那様が〆香と名乗った芸者を探しているという事で、わたくしの方から伺ったような訳でして。でも、若旦那様はわたくしの子供では御座いません。わたくしも〆香と名乗った以上、その事はわたくしが一番良く知っています」





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            takeziisan様

             今回もブログ 堪能させて戴きました
            都々逸 面白く拝見しました あの映像 良く見付けましたね
            充分 楽しませて戴きました 踊りは踊るな
            さすが熟練の芸妓さん 自然です 身に付いた踊りです 
            観ていても自然に気持ちが引き込まれます 硬さがありません 
            楽しませて戴きました      
            最近はNHKはラジオではどうか知りませんが テレビで邦楽を放送する事は滅多にありません
            子供の頃 ラジオで頻繁に放送していて夏の夜など
            庭で花火をしながら耳にしていたものですが 久し振りの都々逸 
            当時を思い出しておりました
             アームストロング いいですね トランペットのあの高音 しゃがれ声
            二度とあのような人は出ないでしょうね
            七つの水仙 知りませんでした
            七里ヶ浜哀歌 何回か前の日テレ こころの唄 でも放送していました
            この放送では昔の名歌をしっかりと基礎の出来た歌い手たちが歌いますので         
            今ではわたくしに取っては唯一のテレビで観る音楽番組になっています
            カポック 時々 見かけます 名前は知りませんでした
             今回も美しい写真の数々共々 いろいろ楽しませて戴きました 
             有難う御座いました




              
               桂蓮様


            なんだか お身体の具合い 最低の御様子
           どうか大事にして下さい 一つでも痛い所があると
           なかなか普段通りの生活が出来ません どうぞ
           無理をなさらないようにして下さい
            バレーの事など気懸りもあるでしょうが 身体第一にして
           焦らないように
            そちらは暖冬のようですが でも神経痛など 季節の要因も絡んでいるのでは                           
           ないでしょうか
            他人事ながら人様の苦痛の御様子を見聞きするのは
           嬉しいものではありません
           一日も早い御快復を願いながら 嬉しいお知らせの早く
           拝見出来ます事を願っております
            苦しい状態の中でわざわざ愚にも付かない文章にお眼をお通し戴き
           コメントまでお寄せ戴く事に改めて御礼申し上げます
           有難う御座います

遺す言葉(431) 小説 私は居ない(5) 他 神 仏 教会 神社仏閣

2023-01-22 12:43:07 | つぶやき
          神 仏 教会 神社仏閣(2023.1.10日作)


 神 仏 教会 神社仏閣
 総ては虚構ーーー
 で あるなら
 それを尊び 敬はなくてよいのか ? 
 否 !
 神 仏 教会 神社仏閣 そこには
 それを建立した人達 各々
 それぞれの人の 心 魂が宿っている
 神 仏 教会 神社仏閣
 全知全能の神 仏は 存在しなくても
 人が 人として 人の道を生きる 道標としての
 心に抱く 神 仏は その人の心の中に 存在し得る 
 他者の批判 否定出来るものではない
 全知全能の神 仏は 存在しない
 全知全能の神 仏は存在しなくても
 一人の人間 人が  人の道を生きる 規範
 道標としての神 仏は その人の心の中に 存在し得る                      
 教会 神社仏閣 豪奢な建立物は その人達が建立した 
 その人達の心の表象 誰にも                      
 その心を侵す権利はない
 人は心 心は人
 人は人の心 それが悪の心でない限り
 侵してはならない





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          私は居ない(5)





「とにかく、こんな所で立ち話ではなんですから、上がってくれませんか」
 私は女を書斎に招いた。 
 女は確かに、父の事をよく知っていた。父の顔立ちは勿論、細かな癖や好んでいた煙草の事、酔うと口癖のようにカチューシャの歌を唄った事、趣味で世界中の豆本を集めていた事、そして、この事は女が、父とかなり深い関係にあった事実を裏付ける一つの証拠のようにも思えた。なぜなら、父は豆本収集の趣味を殊更、世間に吹聴してはいなかったと母から聞いていたからだった。また、そんな父の思い出を口にする女の表情には何処となく懐かしさと共に、幸せそうなとも言える輝きがあった。そして時には涙ぐんだりもした。
 私は次第にこの女が、私の探している〆香かどうかは別として、父とは何らかの関係を持っていた事は疑いがないと思うようになっていた。そこで私は改めて聞いてみた。
「父との関係はどの位、続いたんですか」
 女は澱みもなく答えた。
「二年とは続きませんでした。社長さんは心臓の御病気で亡くなられてしまったものですから」
 私はなんとなく、奇妙な気持ちになっていた。
 もし、この女が、自ら名乗るように〆香であるなら、亡くなった母の言葉が本当だったとして、私の母親だという事になる。私の体の中にこの女の血が流れているのだ。
 女の余り見栄えのしない存在と共に私は、妙に居心地の悪さを覚えていた。同時に、一概に憎めない気持ちにもなっていた。
 だが、それでも私には、不思議な思いの拭い切れないものがあった。自分が〆香だと言いながら女は、私に対して、殊更に特別な感情を見せない事だった。私がもし、本当に〆香の子供だったとしたら、この〆香と名乗る女ももう少し、私に対する何らかの感情を表に現わしてもいいはずだ。それなのに女は石のように無表情だった。
 私はまたしても、死んだ母のあの言葉は嘘だったのかという、深い疑念に捉われるのと同時に、女に対する不信感をもやはり拭い去れなかった。私は聞いてみた。
「父との間に子供は ?」
「いいえ、御座いませんでした」
 女はきっぱりと言ってから言葉を継いだ。
「わたくしは、たとえお父様と一緒になれなくても欲しいと思ったのですが、許して下さいませんでした。一度は身ごもった事もあったのですけれど」
 私は黙って頷くり仕方がなかった。
 この時、私は、この女に関してはもう、どうでもいいと思うようになっていた。たとえ、女が〆香であろうとなかろうとわたしの出自には関係ない。それで私は気楽に聞いていた。
「昭和十五年当時、東陽町に居た芸者で〆香と名乗ったのは何人居たんだすか」
「〆香はわたし一人でした」
「他の置屋さんにも居なかったんですか」
「はい。居りません」
「そうですか」
 そう言ってから私は事情を説明するように言葉を続けた。
「実は、私の母が半年程前に亡くなったんです。その時、母は、おまえはわたしの本当の子ではない、おまえの本当の母親は東陽町に居た芸者の〆香だと言って亡くなったんです。私は勿論、そんな事は初耳でしたし、びっくりして、真偽を確かめる為に父の書き物や持ち物などを調べてみたんです。でも、何も母の言葉を裏付けるようなものは見付からなかったんです。それでいっそ、東陽町に行って〆香という人に会ってみようと思い、〆香が居たという川万を訪ねた訳なんですが、当時の女将だったという人は、〆香はもう死んでいる、と言ったんです。それに、〆香の子供も生後十日程で死んでいるっていう訳なんです。私は何がなんだか分からなくなって、当時の事を知る、私に取っては唯一の人の伯父を訪ねて真相を確かめてみようと思っていた矢先にあなたがお見えになったという訳なんです。でも、私にはあなたの話す事を聞いてなおさらに、何がなんだか分からなくなりました。あなたも川万の元女将も全く頓珍漢な事を言う」
「そうですか」
 女は別段、驚くふうも不思議がるふうもなく言ってから、
「当時の東陽町には、わたしの他に〆香と名乗る芸者は居ませんでした。お母様がそのように仰ったのは多分、何かの間違いに違いありません。それに、川万の元女将だという方の話しも全く嘘です。さっきも申しましたように、川万の当時の女将はもう二十五年も前に亡くなっているのですから」
 と続けた。
 私は女の言葉をそのまま信じてもいいのかどうか分からなかったが、また、何か事があった場合を考えて、一応、女の住所を聞いてみた。
 女は厭がる様子もなくハンドバッグから名刺を取り出して机の上に置いた。保険の外交員をしながら、今は一人暮らしをしていると言った。
 女が帰って行くと私は頭を抱え込んだ。
 何故こう、みんなが変な事を言うのだ。母の言葉が、死の間際の母特有の戯れ事であったとしても、何故、あの川万の元女将だったという人の言葉と、不意に訪ねて来た〆香と名乗る女の言葉が食い違うのだ。
 私は兎も角、伯父を訪ねてはっきりした事を聞いてみるより仕方がないと思った。





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            桂蓮様

             有難う御座します
            旧作 幸せの裏側
            英文との合わせ読み再度 楽しませて戴きました
            坐禅に入った因が理解出来 興味深く拝見しました
            日常にそれが滲み出て来るという事は
            身に付いて来ているという事でしょうね
             六カ月先のバレーの舞台 不可能かも この言葉に
            バレーの難しさ 奥深さを教えられる気がします
            どうぞ 頑張って下さい 何事に於いても諦めたら負け
            バレーにしろ 坐禅にしろ 打ち込めるものがあるのは
            幸せな事ですよね 無理をなさらず ニチニチ コレ コウニチ(日日是好日)
            ここにも禅の言葉が生きて来ます
             何時もお励まし下さり 有難う御座います
            改めて御礼申し上げます



            takeziisan様


             有難う御座います
            いろいろ新しい知識 なる程 と思いながら拝見致しました
            「愛しのモーリー」「冬の星座」どちらもいい味です
            殊にカントリー 初めてでして なかなかだと思いました          
            カントリーは何に限らず いい味を持っていますね
            それにしても編曲によってこんなにも変わる 面白いです
             金子みすゞ どの詩も素朴でいいです 日常を巧みに詩っています
            全集を持っています
             シェリー 西風の賦 イギリス詩集のシェリーの  
            頁に栞が挟んでありました
            暇な時に何気なく開いて見たりしています
            四の後半部分 特に共感します
            「ベンハー」有名な大作ですね ですが未だに観ていないです
            機会は何度もあったのですが
            どちらかと言うとスペクタクルよりも 日常に於ける
            心理的な作品を好むものですから
             北帰行  寮歌 初めて知りました
            発表当時 その歌の内容から左翼の人達の夢が破れ
            失望感と共に北へ帰る様を唄った歌ではないかと話題になった事がありました
            旅順での校歌 なんとなく納得出来ます
             方言 こわっぽいーーわたくしの方で「こわい」です
            いずれにしても遠いようで そう 変わりはないものですね
             野菜 大変だとは思いますが なんとなく楽しそうです
             自分の庭で小さな農園など持つ事が出来たらな などと思ってしまいます
              何時も楽しい記事共々 お眼をお通し戴く事に御礼申し上げます
             有難う御座います





             

遺す言葉(430) 小説 私は居ない(4) 他 孤影は深く

2023-01-15 13:21:56 | つぶやき
          孤影は深く(2023.1.12日作) 


 今宵また
 独り 静かな眠りに入ろう
 総ては
 遠い日の出来事と化した人生
 砂山に咲く
 白い花を唄った 
 遠い あの日のラジオ歌謡を
 心に描きながら
 懐かしきあの頃 あの日々を
 夢の中で探そう
 今は ただ 唯一
 至福の時間となった眠りの中
 今宵もまた 楽しかりし日々
 苦悩 悲しみ 怒り 淋しさ に満ちた
 あの時 あの頃 あの日々を
 夢の中で生きるのだ
 残り少ないわたしの人生
 昨日 あの人が逝った 今日はこの人・・・・
 長く生き 歩んだ末の
 残された時間 
 孤影はいよいよ色濃く 深く
 わたしの日々
 残された人生 時間を彩り
 包む
 




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            私は居ない(4)



 
 私はだが、そのまま素直に女の言葉を聞き入れる事は出来なかった。
 まず、私の心に浮かんだのは、偽物ではないか、という警戒心だった。
 私の家の財産を知る者の、あわよくば何がしかの利に与ろうとする魂胆ではないか。
 私は女への胡散臭い思いと共に、多少の反発心を抱いて言った。
「〆香なら死んでしまってますよ」
 だが、女は私の言葉を聞くと意外な事を聞くという風な、呆然とした表情を見せ、私の顔を見つめて言った。
「〆香が死んでいる ?」
「ええ」
「誰が・・・どなたが、そんな事を言ったのですか ?」
 女の表情には、満更、演技ばかりでもないといった真実感がこもっていた。
「確かな、その筋の人です」
 私は言葉を濁して言った。
「その方が〆香が死んだって言ったのですか」
「そうです」
「三十数年前に東陽町に居た〆香ですよ」
 女は更に、問い詰めるようにして聞いて来た。
「そうです」
「いったい、誰がそんな事を言ったのでしょう。宜しかったら、お教え願いませんか ?」
 女の何処か真剣な様子と共に私は、別段、この事を口にしても川万の元女将という老女に迷惑の掛かる事もないだろう、という思いに捉われて、私自身も女の何処となく真実味の溢れた様子に興味をそそられ、事実を口にしていた。
「〆香が居た置屋の当時の女将が言ったんです」
「川万のですか ?」 
 女は澱みなく川万という言葉を口にした。
「ええ」 
 すると女は、
「あなたは誰かに嘘をつかれているのです。川万の元女将は二十五年も前に亡くなっています」
 と、はっきりとした口調で言った。
「川万の元女将が亡くなっている ?」
 今度は私が驚いた。
 私はこの時になって初めて、女が偽者の〆香だという確信を抱いた。
 事実、私は川万の元女将にこの間、会ったばかりではないか !
「あんたは一体、何を企んでるんです。私はついこの間、川万の元女将という女性に会っているんですよ。その人が死んでるなんて、よく、そんな見え透いた戯言(たわごと)が言えますね。私を騙そうとしても駄目ですよ」
 私は多少の腹立たしさを込めて強い口調で言った。
 その強い私の口調を受けて女もいささか気持ちを昂ぶらせたようで語気を強め、
「いいえ、わたしは何も企んでなんかおりません。本当の事を申し上げているだけで御座います。川万というと、あの東陽町と坂町の間に流れる川の橋のたもとにある置屋ですよ」
 私の言葉を問い質すようにして言った。
「そうです。そこの、もう七十歳を超えていると思われる元女将が言ったんです」
「あなたは誰かに騙されています」
 女の口調はきっぱりしていた。
「じゃあ、伺いますが、あなたは〆香だと言う。その〆香だという、確かな証拠となるような物は持ってますか ? 持っていたら見せて下さい」
 私は堂々巡りのような会話に嫌気が差して来て、けりを付けるような思いで聞いた。
「わたしは、あなたのお父様の事をよく存じております」
 女は自信に満ちた口調で言った。
 それを口にする表情には誇らしげな様子さえが窺えた。
「どのような事です ?」
 私は意地悪く聞いた。
「どのような、と言われましても・・・・。お父様に付いてはいろいろ、思い出が御座いまして一口には」
 女は心底、父を偲ぶかのような愁いと懐かしさを込めた口調で呟くように言った。
 その様子に私はふと、女が満更、嘘ばっかりを言っている訳ではないのでは、という思いに捉われていた。
 自身の出自への興味と共に私は改めて、この女に話しを聞いてみるのも悪くはないと思うようになっていた。




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           桂蓮様

            新作 二篇 拝見しました
           死への思い 日常への感謝 コロナに係わらず
           病気はいろいろな事を考えさせてくれますね
            死は炭素に還るだけ 死に上下 隔てはない
           禅の世界はそれを見抜いていますよね 日頃 坐禅に励んでいらっしゃる
           こんな時 心の支えになるのではないでしょうか
           禅の世界が お書きになっていらっしゃる事から見えて来ます
            体力の衰え 一週間も運動をさぼると体力の低下はてきめんに現れます
           わたくしも年代わりの一週間程 何もしないでいたら
           筋力が明らかに落ちています 何事に付け 身体を動かす事は大切なようです
           バレーのレッスン 苦闘している御様子が眼に浮んで来ます
           生きるという事は楽しい事も辛い事も相交えてごっちゃの世界
           以前 文章の中で書いた事がありますが ある方が
           病気になり 生きるって言う事は辛い事だな と呟いた時
           五歳だったかのお孫さんが 生きているから楽しい事もあるんだよ と
           お爺ちゃんに言ったそうです
           この言葉はいい言葉ですね
           喜怒哀楽 ない交ぜの世界 それが人が生きる という事では
           ないのでしょうか
           それであるからこそ せめて人は人の心を傷付けないように 
           生きてゆきたいものです
            世間にはバカな人間が多いもので その最たるものがプーチン
           この愚か者のために何人の 命を失くさなくてもいい人間が
           命を失くしていったことか !
            心が痛みます
            体調の優れない中 いろいろお気遣い戴き
           有難う御座います
           一日も早い元の日々への復帰 願っております 
            英文が無くても面白く御文章を拝見させて戴いております
           何時も有難う御座います



            takeziisan様


             新年の御挨拶 有難う御座います
            今年もtakeziisan様に取って良いお年でありますと共に
            一層の御健康と御活躍を念じております
            どうぞ 宜しくお願い致します それこそ
            キョウヨウ キョウイク 大切にしなければと   
            改めて思います でも 年齢を重ねると キョウヨウ キョウイク
            だんだん希薄になってしまって 心しなければと思います
            成人の日 これなども今では本来の意味が希薄になり 
            お飾りとしか思えません それこそバカモノ達の騒ぐ場ですね
             ラララ川柳 面白いでわたくしも後ほど挑戦してみたいと思います
               2012年川柳 失礼ですが 現在の実力からすると
            明らかに違いが見えます 面白いものですね
            ただ 言葉を並べる作業でも 初心と練達ではこれ程違いが出る
            改めて感じ入ります
             何もせず 何も起こらず 年が暮れ
            一番いい事ではないでしょうか
            それにしても 人の命は分からないものです
            タクシーで帰る・・・・
             わたくし自身 年齢と共にとても用心深くなっている事に気付きます
            若い頃の無茶無謀はもう出来ません
             九十歳になったフジ子・ヘミング 昨年暮れ
            NHK番組で放送していました まだ元気で演奏出来るだけでも
            素晴らしいと思います
             「ひっちゃく」わたくしの地方でも使いました
            方言の一覧 同じような言葉が案外多い事に何か親近感のような感情を覚えます 
            この一覧表大切にして下さい また 雪に埋まった景色
             以前にも似た景色を拝見した記憶がありますが 雪国育ちではない自分が         
            この景色に懐かしさにも似た感情を抱くのは何故なのか
            不思議な気がします
             山岳国日本の原風景とも言える風景なのかも知れません
                                    
            何時もわたくしの退屈な文章にお眼をお通し戴きその上
            感謝の気持ちを記しただけの文章を大切に扱って戴く・・・・・
             改めて御礼申し上げます
             有難う御座います








遺す言葉(429) 小説 私は居ない(3) 他 過ぎ逝く時 他

2023-01-08 13:05:18 | つぶやき
            過ぎ逝く時(2022.12.5日作)


 歳月は
 放って置いても 過ぎて逝く
 人はその前で 無力 出来る事はない  
 人はただ 今という時の中で 自分にとって
 何が必要なのか 何をすれば良いのか
 何をしなければならないのか それのみを
 熟慮すること 人に出来る事は ただ それのみ
 過ぎ逝く時の中で人は無力


           飛躍(2022.12.5日作)
 

 苦しみは 人にとっての次の
 飛躍への 準備期間 踏み台 その
 苦しみの中で 足を踏み外したら
 終わり これまで生きて来た
 人生の総てが 無に 帰してしまう
 苦しみの中で 何を学び 何を掴むか
 苦しみの因を探り当てた時 人は
 次の段階 高みへと飛躍出来る
 新しい境地を掴み得る





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             私は居ない(3)



「ええ、そうですよ」
 元女将はなんの疑いもないように柔らかな微笑と共に言った。
「その横川産業の社長と〆香という人の間に出来た子供が死んだんですか ?」
「そうですよ。月足らずで生まれたものでね」
「 ?・・・・・・」
 私は言葉が出なかった。
 それから暫くしてから、
「本当ですか ?」
 と、疑うように聞いた。
「本当ですよ。なんで、わたしが嘘を言わなければならないんです ?」
 今度は元女将が信じられないような顔をして聞いて来た。
 私はその元女将の言葉に返す言葉を知らなかった。そして、だとすると、母の言った言葉が嘘だった、という事になるのだろうか 、とも考えた。
 またしても母は、その死の間際に於いてまで、私に一杯食わせたのか ?
 しかし、私にはなんとなく、如何な母とはいえ、死の間際に於いてまで冗談を口にするとは考えられなかった。
 薄れゆく意識の中で母は、私が差し出した手を握ったまま最後の力を振り絞るようにして、その言葉を口にしたのだ。一生、抱えて来た心の中の重荷を解き放つかのように。
 と、すると母は、〆香ではない他の女の誰かの子供を、当時、父が交際していた〆香の子供と勘違いしたのだろうか ? 
 私は、あり得ない事ではない、と思った。そして、母自身はどうだったのだろう、とも考えた。
 母は子供を産まなかったのか ? 私という子供を ?
 私には何がなんだか分からなくなった。
 母の最後の言葉の真実を探るための訪門が、かえって私に一層の混乱をもたらしていた。
 私は元女将の下を辞去すると、取り敢えずわが家に戻った。
 これから、どうしようか ? 
 なんだか、狐につままれたような、訳の分からない話しだったが、かと言って、それで私がこれから生きてゆくのに困るという話しでもなかった。私は私として現在、紛れもなくここに存在していて、困る事は何一つない。私を産んだ母親がどうあろうと、私の育ての母親が亡くなってしまった今となっては、どうでもいい事だった。私は亡くなった母親に育てられ、現在、こうして居る、それが紛れもない真実なのだ。
 私は深川の元女将を訪ねたあと、訳の分からない話しを聞いて腑抜けのようになっていた。
 取り敢えず、私が生きてゆくのに必要でもない雑事は放り出して置いて、次の同人誌に掲載する論文にでも取り掛かろうかと、考えた。
 事実、二、三日はその事は頭にも浮かばなかった。論文の構想に思いを費やした。
 それから一週間程して、いよいよ執筆に入ろうとして思念を凝らした時、不思議に集中した頭脳の中に深川の元女将との遣り取りが浮んで来て、論文への思考を邪魔した。そしてそれは、払い除けようとすればする程しつこく絡みついて来て、私を混乱に陥れた。筆の進まないままに私は二日、三日と過ごした。そして、とうとう、その混乱ぶりに業を煮やして論文は放り出した。
 改めて私は空白になった頭で元女将との遣り取りを反芻していた。
 いっその事、母親が最期に残していった言葉の真実をとことん、突き止めてみようかという思いに辿り着いた。
 私は考えた。
 あの元女将のほかに、〆香という芸者の存在を知る者は ?
 〆香自身に会えればそれに越した事はなかったが、その〆香は死んだと言う。
 他に誰か、当時を知る人はいないだろうか ?
 当時の芸者仲間に当たれば分かるかも知れなかったが、その人達の消息が分からなかった。
 考え込んだ末に思い浮かんだのは、母の兄に当たる伯父だった。
 この伯父は経済学者で、現在、八十歳を超えたかどうかの年齢で今なお、かくしゃくとして新聞、雑誌はなどに寄稿していた。
 若い頃から世間の広い伯父で、花柳界にも足を運んでいた事は母からも何度か聞いていた。
 私が電話をすると伯父は、日曜日の午後なら会えると言った。
 三日の間があった。
 私は伯父のその返事を聞くのと共に、そうだ、もう一度、母が遺していった物の中に何か、〆香に付いての手掛かりになるような物などがないか、調べてみようと思い付いた。
 父が企業経営者だっただけに、夥しい書類などが残されいていたが、母当てへの手紙なども含めて、やはり、〆香に関する物は見当たらなかった。
 そうこうしている間の、伯父に会う日の前日、午後も日暮れに近い時刻に一人の訪問者がわが家にあった。
 お手伝いの一人が、女の人が旦那様にお会いしたいって見えました、と伝えて来た。
 玄関に出てみると、別に粗末な身なりではないにも関わらず、何処か、見映えのしない五十歳か六十歳位と思われる女性が一人、ハンドバッグを抱えて立っていた。
 私には見覚えのない女性だった。
 女は私の姿を見ると丁寧にお辞儀をして、
「突然、お訪ねなどして申し訳御座いません」
 と、へりくだった様子の挨拶をした後、
「あのう、横川様のお坊ちゃまでいらっしゃいますか ?」
 と言った。
「はい、そうです」
 私は何かしら異様な感じに捉われながら、訝し気に返事をした。
 すると女は、
「わたくし、人づてに聞いて参ったので御座いますが」
 おずおずした様子で言った。
「?・・・・・」
 私は何がなんだか分からなくて、ただ黙って女の顔に視線を移すと女は、
「〆香という昔の芸者をお探しになっていらっしゃるとの事で・・・・」
 と言った。
「ええ」
 私はやはり、何か奇妙な違和感に捉われながら、相変わらず訝し気な返事だけを返した。
 すると女は、
「〆香の事をお聞きになって、どうなさるのでしょう ? 何かお調べですか」
 と聞いて来た。
「いえ、別に・・・・。あなたはその〆香を知ってるんですか」
 私はなんとなく、女が私の秘密の領分に踏み込んで来るような不快感を覚えてぶっきら棒に言った。
「実は、わたくし、その〆香と申した者で御座います」
 女は、はっきりと言った。
「・・・・あなたが〆香 ?」
 私は自分の眼を疑うような思いで聞き返していた。
「はい」 
 女の返事は確固としていた。
 ためらいや後ろ暗さを感じさせるものは何もなかった。






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           桂蓮様


           有難う御座います
            大変な年越しになりましたね
           それでも良くおなりになって何よりです
           その酷い中 ブログ掲載 御立派です
           病気にはなんの利益もない
            実際 病気程 人間に取って理不尽なものはないですよね
           幸い わたくしは今のところ無事ですが 寒さ厳しい折り
           注意しなければと心掛けています
            今年もまた つまらない文章を始めました
           宜しくお願い致します
            何時も有難う御座います どうぞ 御主人様共々
           充分にお気を付け下さいませ
            バレーがあれば日々の生活への意欲も湧く よい御趣味をお持ちです
           とへうぞ 頑張って下さい バレーの練習 成果
           良き御報告 楽しみにしております



           takeziisan様


            有難う御座います
           留守にしていた分のブログ 拝見させて戴きました。
           まず美しい写真の数々 堪能しました 清々しい気分に包まれます
           晴れ渡った空の青 いいですね 気持ちが洗われます
            2013  2014年 振り返り記事 随分 古くからの腰痛なのですね
           わたくしも若い頃 神経痛持ちだったのですが 地道に自己流体操を続けて来たせいか
           最近ではほとんど出ません 今でも体操は続けていますが
           この頃は寒いためなかなか布団から離れられず その間
           仰向けになったまま布団の中で左 右の足を伸ばし腰を交互にうごかしたり縮めたり
           膝を立てては同じように腰を交互に動かしています       
           結果は明らかに腰が軽くなり 起きる時にも楽です
           その他 いろいろ自己流体操を積み重ね 筋肉を鍛える事  血行を良くする事を心がけています
            方言 「しゃばじゅう」思わず笑ってしまいました
           いいですね この表現 方言は良いです 柔らかいです
            賀状 餅つき やめる クリスマスは遠い昔の話し
           総てが一人の人間の人生を物語ります 結果は生ある物の宿命
           静かに受け止めるより仕方がないようですが それだけまた
           生きて来た人生の豊かさを物語るものではないでしょうか
           思い出は心の宝物だと思います
            豊富な茸 わたくしの地方ではそれ程 豊富ではありませんでしたが
           松露がよく出ました これはきれいな砂地の大きな松林にしか出ないという事で
           今はもう その話しは聞きません
           鳥取砂丘にも松露が出ると聞いた事がありますが     
           今はどうなのでしょう
            読書 読みましたね 北越雪譜 懐かしいです
            ララのテーマ タラのテーマと勘違いして
           風と共に去りぬ かと思ってしまいました
            ドクトルジバゴは観ています
             何時も有難う御座います 今年も美しい写真の数々と共に
           ブログ記事 楽しませて戴けたらと思います
            有難う御座いました