遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(495) 小説 希望(19) 他 禅の言葉 ほか

2024-04-28 12:08:04 | 小説
            幸せと辛い(2024.4.18日作)


 
   辛い という字は
   幸せ という字に
    一本足りない
   今が辛いのは 自分に何か一つ
   足りないからだ
   今の自分に後一つ 何かを一つ
   自分 独自のもの 一つを見付け
   加える そうすれば きっと
   辛い今も 幸せな今に
   変わるだろう



              禅の言葉           
            有るけど無い
 
   
   読書をするな
   考えろ
   考えるな
   行動しろ
   行動するな
   考えろ
   考えるな
   読書しろ
  



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              希望(19)



 
 祭壇の傍には親族が並んでいた。
 少ない親族の中でお袋さんらしい人はすぐに分かった。
 骨と皮ばかりと言ったふうに瘦せていて、まだ若いはずたったが七十歳にも近い年寄りに見えた。
 修二が焼香を済ませてマスターの車に戻ると北川が来ていた。
「チームの連中はみんな来るのか ?」
 マスターが聞いた。
「ええ、主だった連中はみんな来ますよ。サブ(副)がみんなに知らせて置いたから。ーーお袋さん居ましたか ?」
 北川が気懸りな様子でマスターに聞いた。
「お袋って言うのは知んねえけど、痩せた人が居たよ。ずっと泣きっ放しだった」
「お袋さんの顔を見るのが辛いですよ」
 北川は心底、辛そうに言った。
 翌日、クロちゃんの告別式が行われた。
 修二は<告別式 午前十一時より、午後十二時半まで>と書かれた看板を思い出しながらだんだん忙しくなる店の中で働いていた。
 たった一回、ほんの二言三言、言葉を交わしただけのクロちゃんの死が何故、こんなに心に絡んで来るのか不思議な気がした。
 ずっと泣き続けていて、息をするのも苦しそうに見えたお袋さんの姿が頭から離れなかった。
 クロさんは、あのお袋さんの事を心配しながら死んでいったんだろうか ?
 一瞬の出来事で、何も考える暇も無かったんだろうか・・・・ ?
 北川は告別式が済んだ翌日、午後十時過ぎにマスターの店に来た。
「昨日、警察が俺の所へ来ましたよ」
 疲れ切った顔でぼそりと言った。
「なんだって ?」
「いろいろ聞かれたけど、俺達の走りには関係ねえんで、そのまま帰って行ったですよ」
 北川にはクロちゃんの死が相当な痛手だったらしかった。
 クロちゃんが居なくなって<ブラックキャッツ>に対抗出来るだろうか ?
 不安そうだった。ほとんど無駄口を利かずにしきりにビールを呑んでは、思い出した様にイカの燻製を口に運んでいた。
 北川が午前零時過ぎに<味楽亭>の鎧戸を叩いたのは五日後だった。
 自分の名前を呼ぶ声に修二が二階の雨戸を開けて下を見ると北川が居た。
「開けてくれよ」
 修二の姿を見て北川が言った。
「なんか、用 ?」
 修二は、うるせえ奴だ、と思いながら聞いた。
 クロちゃんに抱いた親近感とは反対に何故か、北川には素直に溶け込めない思いがあった。
 修二が下へ降りて行き、鎧戸を開けると四人の男達が建物の陰に身を隠す様にして立っていた。
「ちょっと、部屋を貸してくれよ」
 北川が言った。
「部屋 ? 何すんの ?」
 不満を押し殺した声で修二は言った。
「相談してえ事があんだ、好いだろう ?」
 北川は何故か、厳しい口調で言った。
「別に構わないけど・・・・」
 不満を押し殺したまま修二は言った。
 四人の男達はその間にも早くも店の中に入っていた。
 北川は最後に入ると、
「シャッターを降ろしちゃってくれよ。人に見られると拙いんだ」
 と言った。
  修二は言われるままにシャッターを降ろした。
 男達は修二に構わず二階へ上がった。
 クロちゃんが来た時にも顔を見せた連中だった。
 部屋へ入ると男達は勝手知った様子で思い思いの場所に座った。
 誰もが無言だった。
 表情には緊張感が漂っていた。
 一番遅れて修二が部屋へ入ると北川がドアを閉めた。
「ちょっと、座ってくんねえか」
 北川が修二に言った。
「・・・なんか、用 ?」
 修二は立ったまま言った。
 男達の様子に警戒感を募らせた。
「実は、おめえに頼みてえ事があんだ」
 北川は立ったままでいる修二を見上げて言った。
 修二は無言でいたが少しの間を置いて、
「何を ?」
 と聞いた。
「おめえ、前に<金正>で盗んだナイフ、まだ持ってんだろう」
 修二の眼を見詰めて北川は言った。
「持ってるよ」
 修二は答えた。
「あのナイフ、使った事があんのか ?」
  穏やかな口調で北川は言った。
「いや、無いよ」
 質問自体が不満な様子で修二は答えた。
「使ってみてえと思わねえか ?」
 北川の眼差しが一瞬、厳しくなった。
「別に・・・・」
 嫌な予感を覚えながら修二は呟く様に言った。
「実はよう、おめえに頼みてえってのはよお」
 修二を見詰める北川の眼差しが一段と厳しくなっていた。
 その口調から修二は、ナイフを貸してくれと言うのかと思った。
「何 ?」
 とだけ短く答えた。
「他でもねんだけどよ、ある人間を傷め付けて貰いてえんだ」
「傷め付ける ?」
 修二は思わず聞き返した。
「うん」
 北川は厳しい表情のまま頷いた。
「俺が ?」
 修二は驚きと共に言った。
「うん」
 北川は修二の眼を見詰めてまた言った。
「駄目だよ、そんな事、出来る訳ないよ」
 思わず声を荒らげて言っていた。
 冗談もいい加減にしてくれ、という思いだった。
 北川はだが、真剣だった。眼差しが更に熱を帯びていた。
 他の男達は黙ったまま修二と北川の様子を見守っていた。
「俺達、クロちゃんの仕返(しけえ)しをしてえんだ。クロちゃんが死んで、このままにし置くと奴等ますますのさばって来やがっから、その前(めえ)に一度、こっぴどく傷め付けてやりてえんだよ」
「でも、駄目だよ。そんな事、出来ないよ」
 修二は断定的口調で言った。
「俺達も此処へ来る前にいろいろ考えたんだよ。だけっど、俺達はみんな警察にも相手の奴等にも面(めん)が割れてるんで、思うように動けねえんだよ。その点、おめえなら誰にも知られてねえし、遣り易いんじゃねえかと思って頼むんだ」
 北川は言った。
「でも、駄目だよ。他の事なら兎も角、そんな事出来ないよ」
 修二は言った。
「おめえに手間は掛けねえよ。段取りは一切、俺達でやっからさ、おめえはただ、ナイフを使ってくれさえすればいいんだ。おめえなら、度胸も据わってるし、動きも速えんで敢えて頼むんだよ。俺はおめえが<金正>でナイフを盗んた時の動きを見てるんで、そっで、みんなと相談したんだ」
「でも、駄目だよ」
 修二は呟く様に言った。
「兎に角、俺達にしてみれば、このままクロちゃんが遣られっ放しで放って置く訳にもいかねえんだ。それじゃあ、クロちゃんにも済まねえからよお」
 今まで黙っていた鳥越という男が初めて口を開いた。
「もし遣ってくれるんなら、それなりの礼はするよ」
 北川が言った。
 修二は黙っていた。
 疲れ切った思いだった。
「今すぐでなくていいからさ、二、三日考えてみてくんねえか。返事はまた聞きに来るよ」
 北川は言った。
 修二はやはり黙っていた。
 話しはそれで終わった。
 北川は一区切り付ける様に修二を見詰めて穏やかな口調で言った。
「ちょっと、ナイフを見せてくんねえか」
 そう言ってから仲間達の方を見て、
「凄えナイフなんだ」
 如何にも自慢気に言った。





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              takeziisan様
            

               チム チム チェリー 思い出します 懐かしいですね
              ほのぼのとした思いで聞いた当時が蘇ります
               ビリー ヴォーン どれも良い曲です 若さに任せて
               繁華街の夜を彷徨い歩いていた当時が思い出されます
              それにしても 最近はこのように心に沁みる曲が聞かれません
              最も 普段 テレビを観ないせいかも知れませんが
              スイッチを入れれば下らない戯れ番組ばかりで観る気にもなれません
               アマリリス全開 我が家ではクンシラン全開です
              落ちた種をそのままにして置いた場所からまた芽が吹き
              何時の間にか幾つもの花の群れが出来て見事に咲き誇っています
              この季節の至福です
               ハゴロモジャスミンも今週は全開になり むせる様な甘い香りを放っています
              桜も若葉になっていよいよ春本番です
               イノシシ 相変わらず笑ってしまいます
              知恵比べ記事を拝見していて楽しくなります
               キヌサヤ 新鮮さがじか伝わって来ます 食味の良さがしのばれます
               川柳 実感出来るのは世代のせいだからでしょうか
              何時も楽しく拝見しています
               星取表 是非 頑張って下さい わたくしも
              身体は動かさなければ衰えるばかりだ と
              自分に言い聞かせ 毎朝の体操に励んでます
              お陰様で薬の厄介にもならず 至って元気な毎日を過ごしていますが
              年齢的衰えは如何ともしようがありません
              数年前を思い 日々 老化現象を実感する毎日です
              どうぞ 頑張って下さい 使わない肉体 頭脳は衰えるばかりです
               何時も有難う御座います









遺す言葉(494) 小説 希望(18) 他 死刑とその執行者

2024-04-21 12:00:45 | 小説
            死刑とその執行者(2024.4.12日作)



 死刑は犯罪被害者の立場からは
 もし その犯罪が現実社会の規範 規則に照らして
 正当なものである限り 実行されて然るべきもの
 犯罪被害者の被害に相当し得る刑罰を
 犯罪加害者に要求するのは 被害者としての
 当然の権利
 
 しかし 
 その刑を執行し得るのは 誰だろう

 人間社会が人と人との繫がり
 人の輪の上に成り立つものなら 人の手で
 人の命を奪う死刑 その刑を実行する時
 死刑執行者が犯罪加害者と完全 絶対的に
 無縁であると言えるだろうか ?

 一見
 遠く離れた場所に居る人間は
 引き起こされた犯罪とは無縁に見える
 遠く離れた場所に居る人間には
 直接的に犯罪加害者に関わる事は出来ない
 犯罪加害者が引き起こした犯罪には
 手の施しようもなく 防止のしようも無い

 故に
 犯罪を引き起こした犯罪加害者との関り
 その責任を 遠く離れた場所に居る人間に
 問う事は出来ない

 至極 正当な意見であり
 正しい見方と言える

 だが 世上 引き起こされるあらゆる出来事は常に
 反面の見方 異なる角度からの検証も
 可能になる

 人間社会が 人と人との繫がり
 人の輪の上に成り立つものと捉える時に
 死刑を執行する人間もまた
 人と人との繫がり 人との繫がり 人の輪の中に生きる
 一人の人間であり その立場から
 犯罪に対する間接的責任の皆無と言えるのか ?
 
 人と人との繫がり 人の輪が連綿と続いて この世界
 人の世を形成する限りに於いて
 繋いだ人の手の温もりは 何時か
 遠く離れた場所に居る誰かに伝わる
 犯罪加害者が かの地で繋ぐ手の温もりは 巡り巡って
 遠く離れた この地に居る 死刑執行者の手に伝わり
 届いて来る

 同じ人間同士 人と人との繫がり
 人の輪の中に生きる犯罪加害者と死刑執行者
 その死刑執行者が正義の名の下
 犯罪加害者の罪を断罪し 死刑を執行する事は
 執行者自らが 
 自身の行為に唾する行為にならないか ?
 
 同じ人の輪の中で手を繋ぐ人間同士
 一人の罪は万人の罪
 人と人との繫がり 繋いだ手と手の温もり
 その温もりを伝え合う人の輪 その輪は
 総ての行為は自身の身に舞い戻り
 降り掛かって来る事を 人 一人一人の心に
 問い掛けてはいないだろうか ?

 では 死刑に相当する犯罪者の罪は ?
 死刑に値する犯罪者に対する刑罰は ?
 永久的無期懲役
 死刑に値する罪を犯した犯罪者は生涯
 自身の生を生きる事は許されない 被害者とその家族への弁済
 終身的永久奉仕を続ける 続けなければならない
 犯罪者自身の生を生きる事は許されない
 被害者とその家族への絶対的従属 奉仕 生涯に渡って
 総ての行為を被害者とその家族に捧げ 自身の罪を償う
 自身の生への欲望 欲求は認められない
 犯罪被害者に代わり 被害者の生きたであろう生を生きる
 永久 永遠に嵌(は)められた足枷(あしかせ)
 恩赦は許されない
 ーー永久不変に許されない犯罪者自身の生
 永遠に嵌められた足枷
 死刑にも勝る過酷な刑とも言い得る





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               希望(18)





「マスター、昔はこの辺では有名な組の親分だったのよ。今では足を洗ってるけど、以前、出入りがあってその時に撃たれたんだって。それで生きるか死ぬかの境目をさ迷ったんだけど、良くなった時にはもう、男として駄目になっていて、組にも、不自由な身体で迷惑を掛けてはいけないからって、跡目も譲って引退したんだって」
 修二は息を呑んだ。
 マスターに対しては何か重い物を感じてはいたが、そこまでは考えが及ばなかった。
「女将さん、その事を知ってるの ?」 
 息を呑む思いのまま聞いた。
「知ってるわよ。その時はもう、一緒になっていたんだもん。マスターが刑務所に入ってる時には、女将さんがマスターの両親の面倒を看てたのよ。今でもマスターのお母さんが施設に入ってるんだけど、お店が休みの日には何時もお見舞いに行ってるんだよ」
「へーぇ。だけど、変な話しだなあ。普通なら女将さん、マスターを嫌って逃げ出したっておかしくないじゃないか。女将さん、マスターが怖いのかなあ」
「そうじゃないわよ。昔、女将さんの両親がマスターに世話になったのよ。詐欺に引っ掛かって困っている時、マスターが助けてあげたんだって。それで、女将さん、マスターに魅かれて高校を卒業するとすぐに結婚したんだけど、今ではこの店の名義は全部、女将さんのものになってんのよ。マスターが、自分には何時、何処でどんな事が起こるか分からないからって言って、そうしたんだって」
「鈴ちゃん、よくそんな事まで知ってるなあ」
 鈴ちゃんの訳知り顔を疑って修二は言った。
「だって、世間ではよく知られてる事だもん、みんなが知ってるわよ。それにわたし、前に居た子にもいろいろ聞いたしね。前に居た子は女将さんから聞いたんだって。だから、修ちゃんも女将さんを慰めて上げればいいのよ。女将さん、欲求不満で苛々してるんだから」
 鈴ちゃんは年増女の様な言い方をした。
「全く、しょうがねえなあ。下司の勘ぐりだよ、そんな事」
 修二は匙を投げる様に言ってその場を離れた。
 夜、十時に近かった。
 店内はようやく忙しい時間帯も過ぎてひと息入れる時刻だった。
 カウンター席に男の客が二人残っていた。
 北川が蒼ざめた顔で入って来た。
 悲愴感を漂わせていた。
「なんだ、どうしたんだ ?」
 カウンターの奥に居たマスターが目敏く見抜いて聞いた。
 北川はマスターの顔を見たが無言だった。
 二人の客とは離れた場所に行って隅の椅子に腰を下ろした。
 前掛け姿で腕組みをし、煙草を吹かしていたマスターはゆっくりと北川の前へ行くと、
「何か食うか ?」
 と聞いた。
「いや」
 北川は小さく首を振った。
 二人の客は店内の動きには無関心だった。
 一人の客はチャーハンを口に運びながらテレビを観ていた。
 あとの一人はスポーツ新聞に眼を落したままラーメンを口に運んでいた。
 北川は前に立ったマスターに視線を向けると、
「クロちゃんが事故っちゃったんですよ」
 と、悲痛な声で言った。
 マスターは驚きの表情も見せなかった。
 指の間で短くなった煙草を口に運びながら、
「死んだのか ?」
 と聞いた。
 静かな声だった。
 北川は黙って頷いた。
「何処で ?」
 相変わらず静かな声でマスターは聞いた。
「境川の向こうっ側ですよ。ブラックキャッツの連中に走路を邪魔されて、橋の欄干に激突してしまったみてえなんですよ」
「クロ一人で走ったのか ?」
「ええ、一人だったんですよ。お袋さんに用事を頼まれて、叔母さんの所へ行った帰(けえ)りだったらしいんだけど、奴らのエリアを走らねえと行けねえ所だったもんで・・・・。クロちゃんの顔は奴らには売れてるんで、偵察に来たとでも思ったんじゃねえですか。帰りに四、五台のオートバイが追っ掛けて来て、橋の近くへ来た時には横合いから乗用車が飛び出して来て、アッという間だったらしいんですよ。クロちゃんにその気があれば、四台や五台なんて目じゃねえんだけど、お袋さんに頼まれた用事があったもんで、相手にしなかったらしいんだけどねえ」
 北川は声を詰まらせた。
「何時、やったんだ ?」
「昨日の夕方らしい。今朝、工場に電話があって初めて知ったんだど・・・。クロちゃんのお袋さん、ショックで倒れちゃって、近所の人達が全部、クロちゃんの始末をしたらしい。チームのメンバの一人が近くなもんで、そいつが知らせて来たんですよ」
「どうするんだ、遣るのか ?」
 マスターは軽い世間話しの様に聞いた。
「勿論、遣らねえ訳にはいかねえですよ。このままにして置いたら、好い様にのさばられちゃうし、俺だって、頭(あたま)としてのメンツが立たねえですから」
「警察は動いてるんだろう ?」
「当然だと思いますよ。そのうち、俺の所へもなんとか言って来るんじゃねえですか」
「まあ、あんまり派手に遣らねえ方がいいさ」
 マスターは短くなった煙草を灰皿の中で揉み消しながら、諭すともない口調で静かに言った。
 裏の世界を知り尽くした人の重みのこもった口調だった。
「だけど、礼だけはしねえ訳にはいかねえから」
 北川は腹立ちを抑え切れない様子で言った。

 クロちゃんの通夜は翌日、午後六時から自宅で行われた。
 路地の奥の狭苦しい所に受付があって、中年の男性が二人、手持無沙汰な様子で椅子に座っていた。
 修二はマスターの車に乗せて貰って行った。 
「済いません、六時になったら少し時間を貰いたいんですけど。クロさんのお通夜に行って来ようと思うんで」
 食材の下ごしらえが終わって少しの暇が出来た時、修二はマスターに言った。
「おまえ、クロ知ってんのか ?」
 マスターは意外そうに聞いた。
「一度、みんなが俺の部屋へ来た時、会ってるもんだから」
「そうか。じゃあ、俺の車で一緒に行けよ。俺も行って、ちょっと線香を上げて来るから」
 クロちゃんは小さな祭壇で写真となって微笑んでいた。
 高校生ぐらいに見える写真の中のクロちゃんはまだ、修二が会った時の面影は無かった。素直な少年と言った感じだった。




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           takeziisan様


            春爛漫 自然の豊かさ キジの声 イノシシ出現
           羨ましい環境です これでは散歩も飽きる事は無いのでは
           時折り 用事で出掛け 車で自然豊かな田園地帯を走る事がありますが
           何時も心が洗われる気がします
           都会の街の中で唯 家々の屋根を見て暮らすだけの生活
           味気ないものです
            それにしてもイノシシとの戦い この農作業記事には何時も
           笑いがこぼれ ほのぼのとした気分になります
           楽しいですね と言っては失礼かも知れませんが
           畑の真ん中にヤグルマギク ツツジの花の道            
           我が家では今 クンシランが花盛りそれぞれの株が色を競っています
            この季節の楽しみの一つです 手入れもせず放りっぱなしなのですが
           毎年 見事な花を咲かせてくれます
           この所の気温の上昇でハゴロモジャスミンもすっかり蕾を膨らませています
           あとに三日であの甘い香りを漂わせるのではと思っています
           数々の花の美しさ この季節の特権であり眼の保養です
           何時も楽しく拝見させて戴いております
            有難う御座います









 








遺す言葉(493) 小説 希望(17)  他 独裁者

2024-04-14 12:42:27 | 小説
            独裁者(2023.3.30日作)


 
 覇権国家に於いて 
 権力を振るい 君臨する独裁者
 自身の胸の裡に広がる
 欲望の海しか見る事の出来ない 哀れな人間としての 欠陥人間 
 彼等の眼には 人の命の貴重な事も 人権の尊さ 重さ
 平等な事も 映る事が無い 総てが
 自身の欲望に満ちた卑小な脳の世界で処理され
 それが正解と信じて疑わない 愚かな存在 
 独裁者




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              希望(17)



 
 新聞配達のバイクの音は聞いていた。
 あとの記憶が無かった。
 表通りから店の鎧戸を叩く音が聞こえて来て眼が醒めた。
 雨戸の透き間から差し込む微かな光りに気付いて飛び起きた。
「修ちゃん、修ちゃん」
 鈴ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。
 電灯を点けて時計を見ると間もなく九時になるところだった。
 服のままごろ寝をしていた。慌ててズボンをたくし上げて窓の傍へ行った。
 急いで雨戸を開け、外を見ると鈴ちゃんが見上げていた。
「今、すぐ開けるから」
 鈴ちゃんに向って言った。
「何よ、寝坊したの ? 早くしないとお店に間に合わないわよ」
 鈴ちゃんは修二を見上げて言った。
 修二は雨戸の残りを開け、部屋を出て階段を駆け下りた。
 鎧戸を開けると眼の前に鈴ちゃんが立っていた。
「バカねえ。寝坊したの ?」
 鈴ちゃんは咎めた。
 その日、マスターは何時もより二時間程遅れて店に来た。
 女将さんだけが独り、先に来ていた。
 これまでにも何度かこういう事があって、それがマスターの花札による徹夜のせいだったのだと初めて知った。
 女将さんは修二を無視したように言葉も掛けなかった。朝の挨拶もなかった。
 修二は終日、女将さんと視線を合わせないように気を使いながら、気まずい思いで過ごした。
 仕事が終わって一人になり、二階へ上がった時には頸木を解かれたような安堵感を覚えて思わず、大きな溜息と共に大の字になって畳の上に転がった。
 店は何時もと同じ様に忙しかった。それぞれがそれぞれに自分の持ち場を滞りなくこなしていたが、女将さんと修二の間に交わされる何気ない会話は一切なかった。
 マスターや鈴ちゃんがそれに気付いていたかどうかは分からなかった。
 それでも、明日の事を思うと気が重かった。
 今までの様な屈託のない気持ちで過ごせるかどうか分からなかった。
「ああ、やだ、やだ !」
 思わず声に出して言った。
 昨日までの何事も無かった穏やかな時間が、再び、夢の中の時間の様に思われて来て、生きている事の煩わしさを改めて覚えた。
 いっそ、此処を出てしまおうか ?
 そうも考えたが、仕事の当ても行く先の当てもなかった。
 二、三日は貯金を崩してなんとか凌げてもその先は・・・・・
 再度、女将さんの愚行への腹立たしさに捉われて怒りを滲ませた。
 翌日も修二は店に留まっていた。
 頭の中にはマスターへの思いがあった。
 マスターは古びた布製の肩掛け鞄一つを抱えただけの、何処の誰とも知れない修二を快く受け入れてくれて、常に優しく接してくれていた。
 マスターへの感謝の思いは修二の心の中では、言葉では言い表せない程に強かった。
 もし、黙って此処を出てしまえばそんなマスターの優しい気持ちと好意を裏切る事になる。
 修二には日頃見ているマスターの一人の男としての姿、立ち居振る舞いに無意識的に憧れている部分があった。
 マスターがどんな過去を持つ人なのか、修二は知らなかった。それでも、ふとした折りにマスターが見せる鋭い眼差しが、修二に畏怖にも近い気持ちを抱かせる事があって、その眼差しと共に、この街の悪(わる)達が一目置くマスターが、通常の世界を生きた人ではないらしいという事だけはなんとなく理解出来た。その影の部分がまた、修二のマスターへの憧れを増幅させていた。
 田舎の家に付いてはこの時になっても思い出す事はなかった。母親の要求などは、はなから受け入れる気持ちは無かったが、あの火事の夜以来、田舎の家は修二の気持ちの中では完全に無いものになっていた。父ちゃんも死んだ、婆ちゃんも死んだ‥‥田舎の家の思い出は完全に修二の気持ちの中では失われたものになっていた。

 修二がそれとなく怖れていた警察からの呼び出しはその後無かった。
 母親も陰で何をしているのかは分からなかったが、再び訪ねて来る事も無かった。
 女将さんの修二に対する不機嫌はなお続いていた。
 厳しい口調で用事を言い付ける以外に言葉を掛けて来る事は無かった。
「修ちゃん、あんた、女将さんと何があったの ?」
 ある朝、女将さんとマスターがまだ来ない時間に鈴ちゃんが聞いて来た。
「なんで ? なんにも無いよ」
 修二は不機嫌に答えた。
 一番、聞かれたくない事だった。
 鈴ちゃんはそれでも総てお見通しと言った口振りで、
「嘘ばっかり。なんにも無いなんておかしいよ。女将さん、この頃、随分、修ちゃんに八つ当たりして機嫌が悪いじゃない」
 と言った。
「そんな事、無いよ !」
 思い掛けない鈴ちゃんの言葉に動揺して、思わず荒い口調で不機嫌に言い返していた。
 鈴ちゃんは重ねて言った。
「女将さん、修ちゃんを口説いたんでしょう」
   修二は狼狽した。
 急所を突かれた思いだった。
   その思いを懸命に隠して、
「なんで、そんな事が言えるんだよお」
 と言って突っぱねた。
「だって、女将さん、前にいた子も口説いた事があるんだから」
 鈴ちゃんは訳知り顔で言った。
「チェッ、詰まんねえ事言ってらあ。鈴ちゃんが男に持てないからそんな事言うんだろう」
 修二は相手にしない口調で軽蔑する様に言った。
「あら、お気の毒様。わたしにはもう、ちゃんとした相手がいるんだから」
 鈴ちゃんは修二の軽蔑など何処吹く風と言ったふうに軽く受け流して言った。
「結婚してんのかよお」
「結婚はしてないけど、一緒に暮らしてるよ。今、マンションを買おうと思って、二人で一生懸命に働いてるんだもん」
「じゃあ、他人(ひと)の事なんか、気にしなくたっていいだろう」
「でも、修ちゃんが女将さんに意地悪されるのを見ていると可哀そうになっちゃうから同情してんじゃない」
「そんな同情なんか要らないよお」
「なんで、女将さんの言う事を聞かなかったの ?」
「知らないよお」
「少しは女将さんを慰めてやればいいのに。女将さん、淋しいんだから」
「淋しい ? なんで ?」
 思わず聞き返した。
「いろいろ、訳があんのよ」
 鈴ちゃんは心得顔で言ってそれ以上は口にしなかった。
 鈴ちゃんの思わぬ言葉に修二は興味をそそられた。
「マスターもこの事を知ってるのかなあ」
 思わず言っていた。
「薄々は知ってると思うわよ」
 修二には不可解に思えた。
「知ってて、マスター、怒らないのかい ?」
「これには訳があんのよ」
 鈴ちゃんは事情通らしい口調でまた言った。
「前に居た人、それで店を辞めたの ?」
「ううん、違うわよ。この前の子はここに六年近く居たんだけど、田舎へ帰って店を出したいって言うんで、マスターがいろいろ力を貸してやったのよ」
「マスター、女将さんの事を知ってて、それでも怒らなかったのかい ?_」
 修二には不自然に思えて聞き返した。
「マスター、やたらな事では怒らないわよ」
 鈴ちゃんは言った。
「なんで ?」
「マスター、昔、ピストルで撃たれて怪我をしたのよ」
「ピストル ?」
「そうよ」
「なんで ?」
 また聞いた。





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              takeziisan様


               一週 間を置くうちにめっきり春らしくなって来ました 
              当地の桜も満開 早くも散り始めています
              道路も庭も吹き込む桜吹雪で染まります
              何とも言えない嬉しい春の景色です この桜吹雪と知り敷いた
              一面の桜 満開の花の景色とはまた違ったこの季節の美しい景色で
              何とは無い幸福感に包まれます でも それも
              三日見ぬ間の桜かな 瞬く間に過ぎて行き 世の中はまた
              悲惨に満ちた愚かな人間達の争い事に包まれます
              何百年と続く桜の花の美しさと愚かな人間達の醜い争い
              何時の世も変わらない現実なのでしょうね
               当地 クンシランはまだ蕾です ドクダミもようやく芽を吹いて来たところです
              ドクダミの白い花の群れて咲く景色が好きです
              それにしても様々な花々 よく収集しました
              パソコン上に春の気配が溢れ出して
              これだけで春の気分に包まれます 楽しいひと時でした
              継続は力なり いっ時の気まぐれ気分では出来ない事です
              敬服致します       
               体力減退 年々 強くなります さて これから後 何年 
              これまでの生活が続けられるか 年毎に頭を過ぎります 
              様々に報じられる同時代を生きた人達の死 テレビ画面などに映し出される
              老齢化した姿 人生の週末の時をふと 意識させられます
               相変わらずの農作業 痛っ 痛っ と愚痴りながら
              続けられる事の幸せ どうぞ 御大事にして下さい
               有難う御座いました