遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(529) 小説 <青い館>の女(18) 他 忘れてならないもの

2024-12-22 12:06:28 | 小説
           忘れてならないもの(2024.12.6日作)
     
                    (今年は今回を持って終わりにします
                    スタッフの皆様には大変お世話になりました
                    有難う御座いました
                    また 駄文にお眼をお通しした抱いた方々には改めて御礼申し上げます
                    有難う御座いました
                     なお 来年は一月十二日より掲載の予定です
                    宜しくお願い致します)


 
 命の終わり 死は
 常に身近 傍にある
 其処にも 此処にも
 一寸 一歩先は誰にも分からない
 今この時は 永遠ではない
 常に変わりゆく今この時
 人に出来る事は 只今現在
 今を生きる 生きる事
 それでも人の命は日々 時々刻々
 失われて逝く
 失われ逝く人の命
 朝に生まれて 夕には沈む太陽
 沈む太陽 夕陽が今日も
 遠く彼方 山の端 海の向こう ビルの谷間へ
 消えて逝く
 沈む太陽 夕陽を見詰める
 日々の幸せ
 人が人としての命を全うする
 この貴重さ 尊さ 人が決して
 忘れてはならないもの




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(18)




 
 わたしは近付いて来たタクシーのドアが開くと座席に身体を埋めて眼を閉じた。
 タクシーがゆっくりと動き出した。
 瞬間、まるで奈落の底へでも突き落とされて行く様な奇妙な感覚に捉われた。
 底知れず沈んでゆく重い気分の中でわたしはホテルへ帰ったらゆっくりと眠りたいとだけ考えていた。


               3


 東京へ帰った翌日、わたしは早速、本社の会長室で息子に会い、北の街に於ける新店舗の営業状況を報告した。
 日々、忙しい中でも各地の支店から送られて来る営業報告書に眼を通している息子は、当然の事ながら北の街での営業状態も把握していて、予想以上の数字が送られて来る事に満足していた。
「あの店長は、あの辺では遣り手で通ってるらしいけど、それにしても良く遣ってると思うよ」
 息子は言った。
「お前、聞いてなかったか ? 中古の車で好い商売が出来るんじゃないかって、店長は言ってた」
 わたしの気持ちの中ではまだ、手を染めた事のない分野への進出に決断出来ない気持ちもあって息子に聞いてみた。
「うん、聞いてる。ロシアの船員相手に好い商売が出来るんじゃないかって。だけど、この方面は全くの素人だし、すぐにどうこうっていう訳にはゆかないと思うんだ」
 息子も流石に今の時点でおいそれとは決断出来ない様子だった。
「まあ、遣るとなれば何処か、これまでの実績のある所と組んだ方が無難じゃないのかなあ」
 わたしは言った。
「店長も、今すぐにって言ってる訳ではないんでしょう」
「うん、考えて置いてくれとは言ってたが」
「俺もこの前会った時言われて、考えてみるとは言って置いたんだ」
「部品から入ってみるっていう手もあるんじゃないのか ? 電気製品は良く売れる様だし、車でも商売になればこれに越した事はないからなあ」
「一応、関係者には当たってみようとは考えてるんだ」
「それはそうと松田農産販売は切ったんだって ?」
 妻の口から聞いた事を息子に聞いてみた。
「うん、どうしてもひと月決済にしろって言うんで、代わりにその分の値引きが出来るかって聞いたら、それも無理だって言うんで、じゃあ、止めようって言ったんだ」
「それで品揃えは大丈夫か ?」
「うん、大田市場でなんとか揃えられるよ」
「産地直送の看板は外さなければならないだろう」
「それは大丈夫だよ。他にも産直の仕入れ先が無い訳ではないし、地方は地方でそれなりに遣っているので心配ないよ」
「仕入れ部長はなんて言ってる ?」
「中園は大丈夫だって言ってる」
 結局、わたしは中古車販売の事も松田農産販売の事も息子の決断に委ねた。
 息子は何れ、適切な判断を下すだろう。
 商才に掛けては息子は祖父に似て、わたしより上だというのが専らの評判だった。
 祖父似という点に不快感を抱いてもわたしは、その評判に悪い気はしなかった。
 彼の能力が築く世界が明るいものであろうと想像出来る事は、父親としてのわたしに取って悪かろうはずがない。
 幸い、彼の家庭も旨くいっている。
 結婚と同時にわたしと妻の居る谷中の家を出て、築地にマンションを購入した息子夫婦は現在、七歳の男の子と三歳の女の子の四人で暮らしている。
 息子の細君は聡明で性格も明るく、素直な女性だった。
 何かと矜持の高いわたしの妻とも旨く折り合っていて、わたしが今、心を煩わせなければならない事は何も無かった。
 わたしの肉体がもたらす死の不安と恐怖、それに絡んで来る心の中の空虚な感覚。
 わたしの心を覆う暗鬱は総てわたしの心自体が生み出す問題だった。
 今のわたしはただ、そんな世界を生きてゆくより他に出来ない。
 わたしが三度目に北の街を訪れたのは、ほぼ二カ月が過ぎてからだった。
 北の街の新店舗では総てが順調で、何も変わりはなかった。
 中古車販売の件での目立った進展はなかったが、それはそれで仕方が無かった。
 新規に事業を始めるとなるとおいそれという訳にはゆかない。
 店長もそれは承知の上の事で、殊更、何か言って来る事も無かった。
 無論、わたしの訪問は通常の日程に沿っての行動だった。
 それでも今回は特別な行事も無くて、東北地区から足を延ばしてその日のうちに東京へ帰る事も可能だったが、無論、そんな日程は組まなかった。
 東北地区の視察を済ませた後、午後遅くに北の街に入って海岸ホテルに部屋を取り、店には翌日顔を出す。
 当然の事ながら、わたしの頭の中には加奈子への思いがあった。
 ホテルに入ると午前一時過ぎに加奈子の携帯へ電話を入れた。
 或いは、この時間でも加奈子に「通し」の仕事があった場合は電話に出られないであろう事は分かっていた。
 それでもこんな時間以外には電話の出来る時間が無かったのだ。
 加奈子は、店での仕事中は出られないので、午後二時頃から五時頃の間に電話して貰えますかぁ、と言った。
 夜遅く仕事から帰った後、「午前中はほとんど寝ているので電話があっても分からないからぁ」
 わたしはその時には「うん、分かった」と言ったが、実はこの時間帯はわたしに取っては最も忙しい時間帯だった。
 店内視察を済ませた後、店長や川本部長との話し合いを持たなければならならなかった。 
 その話し合いにどれだけの時間を取られるのかも、その場になってみないと分からない事だった。
 それに気付いてわたしは危惧しながらも真夜中の電話をしたのだったが、加奈子は長い呼び出しの後、電話に出た。
「はい、佐々木です」
 加奈子は言った。
 こんな深夜の電話に対する明らかな不機嫌さの感じ取れる口調だった。
「御免、三城だよ」
 わたしは加奈子の不機嫌さをなだめる様に穏やかな声で素直に謝った。
 無論、三城は加奈子に伝えた偽名だった。
「ああ、三城さん・・・」
 加奈子は途端に声を和ませて言った。
「なんですかぁ、こんな時間にぃ」
 加奈子は言った。
「今、何処 ? 家に帰ってるの ?」
 わたしは言った。
「ええ、帰ってますよぉ」
 加奈子は言った。
「通しの仕事じゃないかと思って心配した」
 安堵感を滲ませた声でわたしは言った。
「今夜は暇だったんですはよぉ、それでぇ早く帰って来てぇ」
 加奈子は言った。
「さっきはなんだか、機嫌が悪そうな声だったので心配した」
 言わずもがなの冗談をわたしは口にしていた。
「こんな真夜中に誰かと思ってぇ」
 加奈子は言った。
 何故かくぐもった様な声の、何処かに歯切れの悪さを感じさせる言い方だった。
 そんな加奈子の普段とは異なる一面に思い掛けなく触れた気がしてわたしは戸惑った。
 それでもすぐに気分を立て直して、
「明日、約束出来るかなあ」
 と聞いた。
「明日ですかぁ、いいですよぉ。お店を休みますからぁ」
 加奈子は躊躇う様子も見せずに何時もの明るさを見せて言った。

   


             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様



                今年一年 有難う御座いました
               楽しい記事 何時も駄文にお眼をお通し戴く事
               改めて御礼申し上げます
                今年は今回で一応終了になります
               有難う御座いました
                「雪の降る町」の季節ですね
               速いものです
               年々 月日は加速度を増し足早に過ぎて行きます
               あっという間の一年でした
               「小さな日記」 
               実はこの曲 知りませんでした
               それを何時も聞いている唯一の歌番組「BS ニッポン 心のうた」
                 で聞いて初めて知りました 
               良い歌だなと思い パソコンで調べてもみました
               あの時代の歌は余り知らないのですが フォレスタが歌ういろいろな曲の中で
               時々 良さに気付かされる事があります
               何よりも 混声合唱団のフォレスタの皆さんがしっかりと基礎を身に付けていて
               正確に曲を表現してくれますので 歌の良さが直に伝わって来ます 
               記事で「小さな日記」の文字を拝見して何故か嬉しくなりました           
                今年 納めの川柳の数々 読む方々の心意気が伝わって来て
               何時 拝見しても楽しいものです
                ジャム 総て手造り この贅沢さ 羨ましい限りです
               でも 食べ過ぎて糖分過剰になりません様に
                いろいろ 有難う御座いました
               来年は二週目から始める心算で居ます
               どうぞ 良いお年をお迎え下さいませ
               



 




































  
 
 






遺す言葉(528) 小説 <青い館>の女(17) 他 神 及び 運命

2024-12-15 11:39:39 | 小説
             神 及び 運命(2024.12.10日作)



 
 神とは 人の心の中にあるもの
 人の哀しみ 苦悩を癒し 救う存在
 人 それぞれの心の中こそが
 神の住む場所
 宗教 宗派に基ずく神など
 宣伝の為の神でしかない
 人がこの世に存在する数だけ
 神は存在し得る 眼には見えない存在
 豪華絢爛 飾り立てたりなどしない
 草生(む)す道端 そこに置かれた
 何気ない一つの石にさえ
 その石が人の手で置かれたものである限り
 神は其処にも存在する

 
 人にはそれぞれ
 持って生まれた運命がある
 人はその
 持って生まれた運命に翻弄されながら
 この世を生きている
 どの様な恵まれない運命を生きる人であれ
 その運命を誠実に生きている限り 他者は誰も
 その人を笑う事は出来ない また
 許される事ではない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(17)





「此処ではなんとなく落ち着かないんだ。まるで、こそこそ悪い事をしている様な気分になって来る。だから、今度からは別の場所で会う様にしてくれないか。わたしの方で電話をするから」
 わたしは加奈子の不安を解く様に穏やかな口調で言った。
 加奈子はそれでもまだ不安気な様子で、戸惑いと困惑の入り混じった顔で、
「でもぉ、お仕事でしているだけの事だしぃ」
 と呟く様に言った。
 わたしへの優しさも所詮は仕事の上での事で、心底から気を許している訳では無いのだ、と言っている様にも受け取れた。
 わたしはそんな加奈子の気持ちへの理解をしながらも、そこに批難の色合いの含まれていない事を読み取ると更に言葉を重ねていた。
「それは勿論、外でも仕事の心算で会ってくれればいいんだ。当然、それだけのものは払うし、そうすれば店へ払う分も含めて全部、君のものになるだろう。君に迷惑を掛ける様な事はしないから心配しなくていいよ」
 加奈子はそれで漸く、僅かながらも心を開いた様子だった。
「お店に払う分もくれるんですかぁ」
 と聞いて来た。
「そう」
 と言ってからわたしは、
「君たちはこの部屋へ来る五万円の中から幾らぐらい貰えるの ?」
 と聞いた。
 加奈子は躊躇う気配を見せたが、すぐに何時もの素直な加奈子に戻って、
「ひと月の成績でお給料が決まるからぁ、幾らっていう事は無いんですけどぉ」
 と言った。
「でも、衣装代や何かは引かれるんじゃないの ?」
 日頃の経験からわたしは、踏み込んだ質問をしていた。
「ええ、それは有るけどぉ」
 加奈子は言った。
「もし、外で会ってくれるんなら、店に払う分と一緒にもう少し上げてもいいよ。月に一度ぐらいになるかも知れないけど、来る時には電話をするから」
 加奈子の揺れている様に見える気持ちに重ねてわたしは言った。
 加奈子はそれで興味を持ったらしかった。
「幾らぐらい呉れるんですかぁ」
 と聞いて来た。
「十万円ではどうだろう ?」
 わたしは直截に言った。
「一回、十万円ですかぁ」
 予想外の金額だったらしく、加奈子は微かな驚きの表情を見せた。
「そう、十万円」
 わたしは言った。
 加奈子の驚く表情を見てもわたしの気持ちに迷いの生まれる事はなかった。
 その金額が安いのか高いのかは、わたしには分からなかった。
<サロン・青い館>で会ってもこの部屋へ来るだけで既に六万円を使っている。
 その事を考えればさして違いはない様に思えた。
 何れにしても、それが無駄金である事に違いは無くて、その金額を提示する事でかえってわたしの気持ちの中では鬱屈した思いが払拭される様な気がした。
「それでぇ、今までと同じ様にしていていいんですかぁ」
 加奈子は初めて興味を持った様に聞いて来た。
「勿論、同じでいい。だけど、前にも言った様にわたしは体調が思わしくないんで、なかなか思い通りにはゆかない。その事だけは承知をして置いて貰いたいんだ」
「そんな事、構わないけどぉ、それでぇ、こっちへ来た時には電話をしてくれるんですかぁ」
「もし、君が承知をしてくれさえすれば、電話をするよ。電話番号を教えて置いてくれれば」
「じゃあ、わたしの携帯の番号を書いて置くのでぇ、そこへ電話をして貰えますかぁ」
 加奈子は初めて乗り気な姿勢を見せて言った。
「うん、君の都合の好い様にすればいい。何時頃に掛ければいいのかも書いて」 
 わたしは言った。
「はい」
 何故わたしはその時、一人の若い女性の気持ちを引き付け得た喜びよりも、底が抜けてしまった様な深い空虚な思いを胸の奥に感じて居たのだろう。
 もう、わたしは、不思議な優しさでわたしの心を満たす一人の若い女に会う為に、いちいち夜の街にたむろする呼び込みの男達の冷笑的な視線を浴びる必要も無い。
 電話一本で何時でも好きな時に会えるのだ。
 それでいて、わたしの心の中に喜びの感情は湧いて来なかった。
 奇妙にも、人生にはぐれてしまった様な寂寥感だけがわたしの心を覆っていた。
 いったい、俺は何処へ行こうと言うのか ?
 こんな気持ちに陥るのは、加奈子の若さの所為(せい)だろうか ?
 これまでの数多くの女性関係の中でも初めて経験する感情だった。
 今のわたしに取ってはだが、何がどうであれ、そうする事でしか自分の気持ちを納得させる事が出来ないのもまた、事実だった。
 何も、深く考える必要は無い。
 気持ちの赴くままに生きればいいのだ。
 もう、残された時間は少ない。
 殊更、わたしが係わらなければならない仕事も無い。
 その夜、わたしは加奈子が小さな紙片に書いた携帯電話の番号と引き換えに五万円を渡した。
「これは、君が何時も親切にしてくれるお礼だ」
 加奈子はわたしの思い掛けない行動にも、今度は躊躇いを見せなかった。
「有難う御座いますぅ」
 と、丁寧に頭を下げて言った。

 再び、加奈子に送られて出た街並みは、夜明けの時刻にも係わらずまだ暗かった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               iakeziisan様


                寒くなって来ました
               冬の散歩 大変だと思います
               でも 二人揃っての歩き こんな幸せは無いと思います
               どうぞ 今の時を大切にして下さい
               奥様 それ程の影響は無いとの事 何よりです
               くれぐれも御大事にして下さい
                自然の景色は何時見てもいいものです 心が洗われます
               ですからテレビ等も他の番組はニュースを除いて
               余り見ないのですが自然を映した番組 地方の何気ない日常を描いた番組などは
               選んで見ています
                人々や自然の中の何気ない風景の中に宿る美しさ 尊さ  
               決して華やかなものでは無いのですが
               此処に人が生きるという事の本当の美しさが含まれていると思います
               造ったものでは無い美しさ 自然にしても人間生活にしても
               貴重なものだと思います
                ブログを拝見していて いろいろ考えさせられました 
               有難う御座いました
                川柳 入選作だけに そうだ そうだ 頷き 笑わせられます
               世界中の愚かな指導者達への皮肉も拝見してみたいものです      
                有難う御座いました







































 
 

遺す言葉(527) 小説 <青い館>の女(16) 他 尊敬

2024-12-08 11:55:27 | 小説
             
            尊敬(2024.11.2日作)



  
 人間を地位 名称 経歴で評価しない方がいい
 高い地位 著名な人 その者達が隠れた場所
 他者の眼の触れ得ぬ場所で悪事を重ね
 人を傷める(殺傷)事など よくある事だ
 人間に於ける正当 真の評価は
 各人 それぞれが その持ち場に於いて
 人が人として 如何に正しく 真摯に その道
 その本道を全うし得たかによって 
 評価されるべきもの
 職業 職種 経歴 名声 一切関係ない
 その道 その場に於ける本道 その道を誠実
 真摯に生きた人 その人こそが真に賞賛
 尊敬に値し得る人 と言える
 空虚なもの 地位 名声 経歴 それらに
 惑わされるな 他者の眼に触れ得ない
 人に隠れた場所で 
 人が人として果たすべき役割り
 その務めをしっかりと担い 果たし得た人
 その人こそが真に優れた人であり 賞賛され
 尊敬されて然るべき人と言い得る
 その人こそが真に立派な人




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(16)




 
 彼女に近付こうとする男達はなお絶えなかった。
 彼女に取っては、例え、それが社会人であったにしても、そんな男達の存在は学生時代から知り尽くしていた。今更、心を動かされる事もなくて、依然として強烈な個性の下、男達を近付け様ともしなかった。
 この頃の彼女は、既に男達を弄(もてあそ)ぶ事にも飽きたかの様に極めて親しい四、五人の女友達としか出歩く事が無くなっていた。
 わたしは今、思う。彼女がわたしを夫に選んだのは、わたしが何時も彼女の手の届く距離に居て、彼女の誇りを微塵も傷付ける事なく意のままに従っていたせいではないか、と。 
 確かにわたしのスキーの技術は彼女を魅了したかも知れなかった。
 しかし、それはわたし達の出会いの場では意味を持ったかも知れなかったが、それだけで彼女がわたしを生涯の伴侶として選んだとは思えなかった。
 何事にも厳しい態度で臨む彼女が、一時的な甘い感情に動かされるなどとは考えられなかった。
 恐らく彼女は、数多くいる彼女に近付こうとする男達の中から誰を選ぶにしても、自ら進んで心の裡を明かす事など屈辱以外の何ものでもない、と考えていたに違いない。
 その点、わたしなら、手軽な御用達的存在として重宝に思ったに違いない。
 彼女のブライドも傷付けられずに済む。
 わたし達はそうして、わたしの入社から六年目に結婚した。
 無論、彼女の口から出た事だった。
 現在、長男の孝臣は三十二歳になっている。
 わたしは初め、" その事"への妻の冷淡さに気付かなかった。
 女はみんなそんなものかと思っていた。
 怪しげな店へは何度も足を運んでいても、妻との経験がわたしに取っては初めての女性経験だった。
 結局、彼女は夫婦間に於いてもその強烈な矜持を解放する事が出来なかった。
 妻に取っては敗北とも言える姿態をわたしの前に晒す事が出来なかったのだ。
 何時でも妻は醒めた眼差しだけをわたしに向けていて、わたしだけが独り芝居を演じていた。
 息子が生まれるとその一人芝居にも幕が下ろされた。
 わたしはもう、お払い箱になっていた。
  初孫が男の子であった事への義父の信じられない様な喜びと共に、妻は極端にわたしを遠ざける様になっていた。
 わたしが求めるその度に不機嫌な妻の顔がわたしの眼の前にあった。
 わたしの外での行動がそうして頻度を増していった。
 わたしは妻に抱く不満の中で、その復讐でもあるかの様に殊更、わたしの行動を妻の前で匂わせた。
 馴染の芸者や、銀座の高級クラブ、バーのホステスなどの名刺や名前の入った贈り物などをわざと妻の眼に付く場所に置いたりした。
 妻はだが、そんなわたしの行動にも嫉妬という感情を知らないかの様に、決して心を乱す事が無かった。
 かつて彼女に近付こうとした男達に向けるのと同じ視線をわたしに向けるだけで、
「お客様が見えたらみっともないから、こんな物は自分の部屋へ仕舞ってた置いて頂戴」
 と、剣呑な口調で言うだけだった。
 恐らく妻はその時、明確に理解していたのだ。
 わたしがどれだけ外で遊んでいても、結局、妻に離婚を突き付ける事はないであろうと。
 事実、わたしの思いのうちには妻との離婚という考えは全く浮かんで来なかった。
 むしろ、彼女の前に自分の遊びを誇示しながらも、心の何処かでは離婚を怖れていたと言えるかも知れなかった。
 妻と別れてしまえば、会社に残る事も出来なくなるのではないか。
 会社では社長の娘婿という立場で、かなり優遇されていた。
 義父が持つワンマン的性格から、その経営に口を挟む事は出来なかったが、経歴の割には早くして営業本部長に引き上げられ、将来的には社長に、と誰もが見ていた。
 事実、わたしの意識の中にもそんな思いはあって、それだからこそ、不満の多いこんな生活にも耐えられるのだ、という気がしていた。
 無論、営業部長という地位から得られる高い報酬もその生活に執着させていた。
 当時、既に役員に就任していた妻の報酬と合わせると、わたしの多少の遊びも苦にならない程のものが約束されていた。
 決して豊かとは言えなかった生活の体験を持つわたしには、妻との多少の亀裂には眼をつぶっても、その生活を維持したいという思いが強かった。
 妻はそんなわたしの心の中などは疾うに見透かしていた。
 彼女から離婚を言い出さなかったのも、結局はわたしが、彼女の手の内で踊っている存在にしか過ぎないと見抜いていたからに他ならなかった
 わたしは妻に取っては、何時まで経ってもかつての彼女の取り巻き達の一人にしか過ぎなかった。
 わたし達が結婚する時、彼女の父はわたしの家の貧しさと家柄の違いを盾に反対した。
 妻はそれでも敢えてわたしの真面目さを強調して、彼女に言い寄る数多くの男達の中からわたしを選んでいた。
 わたしが何時まで経っても彼女のしもべであり続ける事を彼女はその時、早くも見抜いていたのだ。
 事実、わたしは現在までそんなしもべと言い得る立場に甘んじて来た。
 しかし、そんなしもべの役も牧元家の跡継ぎが出来てしまえばもう、終わりだった。
 牧本家の跡継ぎの息子は、仕事に掛けてはわたし以上の遣りてで通っている。
 その上、わたしは既に、快癒の見込みの無い病と共に人生の境界線をも眼の前にしている。
 心に浮かんで来るのは深い虚無の思いだけだった。
 彼方に見えて来るものは何も無い。
 絶望の深い淵が黒々と口を開けているのが見えて来る。 
 希望の光りは何処にも無い。
 そして今、北の小さな漁港街の如何わしい店の年若い女の何気ない言葉に心動かされている。
 その女に愛しさを覚える。
 この女との時間が何時までも続けばいいと考える。
 わたしは女に言う。
「今度からは、此処ではなくて別の場所で会える様にしてくれないかね」
 ベッドの上で毛布に包まり、わたしの手で小さな乳房を愛撫されていた加奈子の顔に一瞬、恐怖にも似た色が走った。
「別の場所って ?」
 加奈子は息を呑んだ様な気配と共に恐る恐る聞いて来た。
 わたしを見詰める眼に明らかに警戒の色が浮かんでいた。




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                takeziisan様    

      
                 お忙しい中 お眼をお通し戴き有難う御座います
                この地方もようやく冬らしい寒さになって来ました
                それでもやはり紅葉の美しさは見られません
                我が家の木々も紅葉は無く黄葉のまま散ってしまいました             
                何れにしても身体的には楽な冬です
                 シャコバサボテン見事です
                でも 何故 マンボ ?
                心の裡のなんとはない踊りだしたい気持ち ?
                理解出来る気もします
                 ピラカンサ サザンカ そんな季節ですね
                赤が眼に染みます 
                 ハクサイ 自家製梅酒 この贅沢 羨ましいです
                わたくしなどはもっぱら安物ウイスキーです              
                 それにしても鳥の胃袋 どうなっているのでしょう
                大きな獲物をまる飲み 人間ならひとたまりもありません
                野生に生きるものの強さでしょうか
                 スイミング終わり 歩く事に頼るのみ ?
                でも 身体は動かさないとーー
                 川柳のちょっと斜に構えた視点 何時読んでも楽しいです
                三ケ日ミカン 我が家にも今は物が入って空箱があります
                  有難う御座いました


















































遺す言葉(526) 小説 <青い館>の女(15) 他 人生の時

2024-12-01 11:22:57 | 小説
             人生の時(2024.9.12日作)



 
 人生の時は短い
 時間は夢の如くに過ぎて逝く
 八十六年余の歳月を生きて来て
 残された時間は今 僅か
 心に映る人の世の景色は総てが
 暗い色彩 死の影の下に 
 浮かび上がる
 輝く太陽 青春の時は
 遥か彼方 遠く過ぎ去り 
 思い出 郷愁のみが色濃く
 日常の時を彩る 


 
 老齢の人達が歳と共に信心深くなるのは
 死という逃れ得ない現実が日毎 年毎
 より身近に 自身の身に迫って来る事の為だ
 人は不安な心の下 眼には見えない何かに縋り
 頼りたくなる それが
 神 仏

 
 自身の心に誠実に生きる
 人の世の波は 自ずと
 自身の身に還って来る




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              <青い館>の女(15)




 
 
 そんな思いと共に、わたしが意を決して電話をする気になったのは、ある夜のダンボール工場でのアルバイト作業が終わってからの事だった。
 ふと、沸き上がる空虚な思いの中で抑え難いまでの彼女への思慕に捉われ、深夜近くの遅い時間帯にも係わらず追い立てられる様に公衆電話に向っていた。
「もし、うちの仕事でも良かったら、父に聞いてみて上げるわよ」
 そう言った彼女の言葉だけが頼りだった。
 夜の遅さを懸念した心配を余所に彼女はすぐに電話に出た。
「はい、牧本です」
 彼女は言った。
 その声を聞いただけで緊張した。
「あのう、スキー場でお世話になった柿田ですけど」
 速くなる胸の鼓動と共に半分、怯えた様な声で言っていた。
「なあんだ、柿田さん、どうしたのこんな遅い時間に」
 彼女は笑いを含んだ声で快活に言った。
 わたしがスキー場で与えた好印象はまだ有効な様だった。
 それでもわたしは、電話をした本当の理由を見透かされてしまいそうな気がしてしどろもどろのうちに、
「すいません。あのう、就職の事で相談に乗って貰えないかと思って」
 と言っていた。
「就職の事 ? まだ決まってないの ?」
 彼女は言った。
「はい」
「それにしても、なんでこんな時間に電話をして来たの ? 明日、掛けてくればよかったのに」
 彼女はわたしの唐突な行動を笑うかのように笑みの感じられる声で言った。 
「今まだアルバイトの仕事中なんですけど、明日、就職面接の予定があるんで、その前に電話をして聞こうと思って」
 わたしは息苦しくなる程の緊張感の中で言っていた。
「明日 ? 何時から」
 彼女はなんの疑いもない様に言った。
「午後の三時からなんです」
「午後三時 ? じゃあ、明日、午後十二時半までに銀座四丁目の和光の前に行ってなさいよ。わたし達は車で行くから」
 彼女は言った。
 ーーわたし達と彼女は言った。
 わたしは不審に思った。
 それでも聞き返す事は出来なかった。
 翌日、彼女は二人の取り巻きの女性仲間を伴ってベンツで現れた。
 わたしが和光の入口横にポツンと立っているのを見ると車の窓ガラスを開けて、
「今、車を置いて来るから」
 とわたしに声を掛け、また走り去って行った。
 程なくして取り巻きの二人と共に彼女が姿を見せた。
 わたし達はそのまま、近くにある高級果物店の二階にあるフルーツパーラーへ向かった。
 わたしに取っては初めて入る高級な雰囲気に満ちた店だった。
 それでなくても緊張していわたしの緊張度は一層高まった。
 彼女はそんなわたしを尻目に、如何にも馴れた様子の気軽さで二階への階段を先に立って上っ行った。
 わたしはその席で彼女が問い掛けるのに対して改めて、<スーパーマキモト>への就職が可能かどうか聞いてみた。
「いいわよ、父に聞いてみて上げるわよ」
 彼女は気抜けのする程簡単に請け合ったが、彼女に取っては総てが気軽な世間話しにしか過ぎない様に思われた。
「そうすればまた、あのスキー場へ行けるものね」
 二人の秘密でもあるかの様に彼女は悪戯っぽく言った。
 わたしはそんな彼女の言葉に就職への手掛かりを得た喜びよりも、再び、彼女の傍に居られるという思いの安堵に心充たされていた。
 そうして<スーパーマキモト>で働く様になった。
 わたしが大学を卒業するまでの間もアルバイトで、そこで働ける様に彼女は骨を折ってくれた。
 わたしと妻との年齢差は二歳だった。
 彼女と出会って二年目の冬、大学生活最後の年もわたし達は同じスキー場で彼女の取り巻き達と滑った。
 彼女の計画したままに<マキモト>のアルバイトも何日か休んで行った。
 妻が<マキモト>の本社で働く様になったのは、わたしより二年遅れの大学を卒業してからだった。
 わたしはその時、上野公園の近くの店舗で働いていた。
 当時の<マキモト>は都内に六店舗を持つだけの規模だったが、安売りを主体にしたチェーン店形式の販売方法はまだ目新しくて、商売仲間からは「安かろう悪かろうのマキモト」と酷評されながらも、順調に売上を伸ばしていた。
 それはだが、決して安かろう悪かろうの商売方法ではなかったのだ。
<札束で頬を張る> 義父の強引なまでの取引方法で得られる成果だった。
<マキモト>の本社は昔から現在の場所の御徒町にあった。
 上野とはすぐ近くの距離だったが、わたしと彼女はスキーの季節を除いては他にほとんど顔を合わせる事が無かった。
 わたしは一介の社員でしかなかったし、彼女は社員と言っても社長の娘だった。その存在感には雲泥の差があった。気楽に彼女を誘う雰囲気はわたしの気持ちの中には生まれて来なかった。
 わたしはそれでも、実に良く働いた。意識の中には常に彼女の存在があった。
 それがわたしの尻を叩いて仕事に専念させた。
 働きぶりが社内で噂になれば、自ずと彼女の耳にも届くだろう。
 その為にのみ働いた。
 その上、普段は滅多に会う機会は無くても、スキーの季節になれば必ず彼女から声が掛かって、その時には改めて彼女が身近に感じられてわたしの気持ちを一層昂ぶらせた。
 大学を卒業してからの彼女は以前程に取り巻き達を連れ歩く事もなくなっていた。
 殊に男子学生達は就職と共に、学生時代の遊び半分の気持ちは許されなくなっていて、次第に彼女とも疎遠になっていった。
 中には社会生活の厳しさを知るに連れ、彼女の理不尽とも言える行動の強引さに嫌気が差して自ら離れていく者達もいた。
 無論、彼女の美貌はなお衰える事は無くて何処でも男達の注目を集めていた。
 
 
 

 
 
 






















































遺す言葉(525) 小説 <青い館>の女(14) 他 雑感五題

2024-11-24 12:23:32 | 小説
              雑感五題(2023~2024年)


 1  人の心は水面に映る
   月の様にありたい
   水面に映る月は 波に揺れ
   縦横無尽に形を変える それでも
   月は 月として その存在を
   少しも失くしてない
   月は月として 常にそこにある

 2 「一念起これば魔界に落ちる」
   固定観念で物を見るーー
   真の姿が見えて来ない
   無の心 真っ新(さら)な心
   その心で見る時 初めて
   物事の真実 
   その姿が見えて来る
 
 3  主義が何んであろうと構わない だが 
   個人が個人として生きられない世の中  
   そんな世界は異常だ
   個人 一人一人の存在は
   世界を包む

 4  人間は自由な存在
   その自由は
   野放図な自由ではない 
   他者の存在に束縛される
   他者の存在を束縛する自由は
   自身の自由も束縛される
   人は人としての輪
   人と人との関係の中でしか
   生きられない

 5  人の世は
   束の間の夢 幻
   現実はただ 今
   此処に在るだけ




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(14)




 
 わたしが妻と出会ったのは、長野県にあるわたしの実家から左程遠くないスキー場での事であった。
 当時、上京していたわたしは、逼迫した生活の中で大学に通っていた。
 彼女と同じ大学ではなかったが、冬の間、雪国に育った者の特権を活かして彼女のスキー指導をする事になった。
 わたしが三年の時で、妻はその冬、五、六人の男子学生と三人か四人の女子学生と一緒に来ていた。
 無論、彼女は其処でも女王の様に振舞っていた。
 女子学生には金銭面で、男子学生には金銭面は無論の事、その美貌に依って。
 わたしもまた、その美貌と金銭面に魅了された一人だった。
 眼を見張る美貌、今では肥満度を増したその容姿の中に昔の面影を見る程度になっていたが、当時の妻にはその言葉が最も相応しかった。
 すれ違って彼女を振り返らない男性はまず居なかった。
 目鼻立ちの明確な、何処か日本人離れのした輪郭の中に純日本的な柔らかさが備わっていて、思わず人を振り返えらせるだけの美貌が形造られていた。
 初めて彼女を見た時、わたしは息を呑んだ事を今でもはっきりと覚えている。
 同時に自身の容姿への劣等感で顔を赤くしていた。
 妻はそれを見ていた。
 一体、妻は何故、数多く居る取り巻きの中からそんなわたしを選んでいたのだろう ?
 確かに当時のわたしは、卑屈とも言える程に彼女に傅(かしず)いていた。
 彼女の住む世界がわたしの眼には、別世界の様に見えていたものだった。
 彼女がわたしの住む東京の下宿の近くにある<スーパーマキモト>の娘である事はすぐに知れた。
 学生の身でありながら、最新型のベンツを乗り廻している事も取り巻き達の会話から知れた。
 一方、わたしの家は、山間の小さな村で季節の移り変わりと共に、自然に寄り添って生きている様な質素な家庭だった。
 わたしが東京へ出てからも、思い出として浮かんで来るのは何時も土まみれになって働いていた、今はこの世には居ない父母の姿と共に五人の兄姉が一塊になって寝起きしていた、茅葺屋根の古い佇まいの家だった。
 そこから兄や姉達は高校へ進学する事も無く、家を継いだ長兄を残してそれぞれが都会へ出て行った。
 一番下のわたしだけが、四人兄姉の援助を受けて高校への進学が出来た。
 大学へは自らの希望と努力で進学した。
 費用は総て、兄姉達からの借用という形を取っていた。
 その頃のわたしは多分、飢えた犬の様に浅ましかったに違いない。
 豊かな餌に有り付く為に尻尾を振って擦り寄って行く浅ましさ。
 今でもわたしは、やがて妻になる女に腰を低くして機嫌を取っていた当時の自分を、何かの折りにふと思い出して激しい嫌悪の感情と羞恥の心に捉われる。 
 勝手知ったスキー場でわたしは、他の取り巻き達の誰よりも得意になって彼女の為に働いていたのだ。
 妻はそれが総てでわたしと結婚したのだろうか ?
 いや、そんな事は無い。
 自尊心から、そう答えたい。
 それが総てで妻はわたしと結婚した訳では無いのだ !
 当時、わたしはスキーの技術に於いて中学生時代から、大学生にも引けを取らないと言われていた。
 事実、わたしはいろいろな競技会に出ては常に人目を引く成績を残していて、各方面からも注目されていた。
 大学進学に当たっては、スキーに依る特待生という話しもあったが、諸々の事情が絡んで不可能になっていた。
 それと共に大学へ進んでからのわたしは、次第に競技からも遠ざかり、日々の生活に追われるままにアルバイトの中でのみ、その技術を活かす様になっていた。
 わたしの滑りはそれでもなお、健在だった。
 たまたま、スキー場で知り合った妻がわたしの滑りに魅せられて、わたしがアルバイトの学生指導員だと知ると、
「来年もこのスキー場に居る ?」
 と聞いた。
 スキーの季節も終わる頃だった。
 わたしはだが、その日暮らしの生活の中で即答出来なかった。
 卒業を控えて就職活動もしなければならなかった。
「ちょっと、分かりません。来年は就職活動もあるんで」
 わたしは答えた。
「どんなお仕事をするの ?」
 彼女は言った。
「まだ、何も決まって無いんで、いろいろ当たってみてから決めようと思ってます」
 わたしは言った。
「そうなの。もし、うちの仕事でも良かったら、父に聞いてみて上げるわよ」
 彼女は軽い口調の何気ない様子で言った。 
 わたしが下宿近くのマキモトを利用している事は彼女も知っていた。
 その時わたしは、そんな言葉も軽い印象の口調と共に単なる社交辞令の様に受け取って、さして気にも留めないままでいた。
 その言葉がわたしの心の中で重みを持つ様になったのは、スキー場の季節も終わって彼女に会えなくなってからだった。
 類い稀な美貌を誇る「牧本由美子」の姿がわたしの脳裡から消えなくなっていた。
 しばしばわたしは、街中(まちなか)の人込みに後ろ姿の似た人を見ては後を追掛けた。
 新しい学年を迎えて学生生活も残り少なくなると急に、その生活の終わりと共に牧本由美子に会う機会も失われてしまうのかという思いに捉われて、居た堪れない焦燥感に捉われた。
 就職してしまえば、スキー場でのアルバイトも出来なくなるだろう。
 だからと言って、直接、彼女に自分の思いを打ち明ける勇気など無論、湧いて来なかった。
 彼女とわたしとの間には、余りに大きな生活環境の相違があった。
 わたしに取って彼女の生活は高嶺の花の生活と言えた。
 それでもなお、わたしの彼女に対する思いは収まる事が無かった。
 日を増す毎に彼女とスキー場で一緒に過ごした日々の記憶が大きく甦って来てわたしを苦しめた。




               ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                ちょっと寒くなりました
               早いものです 暑い暑いとこぼしていた日々が昨日の様な感じの中
               早 師走も間近 少しずつ寒さが身に沁みて来る様な季節に
               なってしまいました
                並木の紅葉 今年も色付きましたね
               こちらではまだ 紅葉らしい紅葉は見られません
               シャコバサボテンもまだです
                野菜の生育 それなりに農家の方々の手間も大変なんだなあと
               教えられます でも こうして画面を拝見しますと
               なんとなく 羨ましい景色に見えて来ます
               今年の野菜の値段の高さ 驚きと共に野菜を多く使用する身に取っては
               大変な負担感を覚えます
               その点でも このような画を拝見しますと羨ましさを覚えます
               何より その新鮮さは最大の魅力ではないでしょうか
               以前にも書きましたが 本当の豊かさとは何か
               つくづく考えさせられます
               総てが自分の思いのまま実践 実行出来る
               この農業という職業の素晴らしさ これ程 魅力的な仕事は 
               そう多くは無いのではないでしょうか
               改めて考えたりしています
               農業 とても魅力的な仕事だと思います
                奥様 リハビリ お二人揃っていればこその幸せ
               どうか お大事になさって下さい
                有難う御座いました






            






















 
 
 
 



































   
   
    



遺す言葉(524) 小説 <青い館>の女(13) 他 それが人生

2024-11-17 11:56:31 | 小説
             それが人生(2024.10.8日作)


 

 一般的俗説 世俗の論
 信用しない
 わたしの信じるもの
 わたし自身の生きた歳月
 八十六年余の年月 その中で得た
 経験に基づく知識
 それのみ
 八十六年余の歳月
 自身に向き合い 自身を見詰め 
 真摯に生きて来た 結果
 必ずしも 望んだ人生
 理想の人生 夢見た人生 とは
 成り得なかった
 後悔と迷い 苦しみのみ多い人生
 それでも
 自身を否定する事は無い
 苦難は多く 喜び少ない人生
 その中で残された歳月 あと幾年月
 最早 得られる物は少なく
 失われ行く物のみ多い年月
 自身の出来る事 ただ
 精一杯生きる これまで 今日まで
 精一杯生きて来て 今また
 精一杯 自身を生きて行く
 世俗的一般論 俗説 風説に
 惑わされない わたしを生きる
 わたしの人生 わたしの歳月
 その中で得た経験 知識 
 唯一 自身の生きる糧として
 これからも
 人が人として歩むべき真実の道
 その道を誠実 真摯に歩み
 生きて行く
 喜びは風の如くに飛び去り 残される物は
 雪の如くに降り積もる哀しみ
 それが人生




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               <青い館>の女(13)





「加奈子って子は居るかなあ」
 薄暗い照明の中でソファーに腰を落ち着け、あからさまに顔を見られる事からの解放感に安堵しながらわたしは加奈子の名前を言っていた。
 無論、他のホステスの顔も名前も知らない事情もあったが、ほとんど、無意識的にとは言え加奈子の存在無くしてこの店に再び入る事などあり得なかった。
 ただ単なるホステスとの遊びなど、わたしは望んでいなかった。
「はい、加奈子さんですね。少々、お待ち下さい」
 ボーイが去ると加奈子は待つ間もなく姿を見せた。
 この前と同じ様な衣装で同じバッグを手にしていた。
 傍へ来ると丁寧にお辞儀をして、
「入らっしゃいませぇ」
 と言った。
「今晩わ」
 わたしは立っている加奈子を見上げて言った。
「失礼しますぅ」
 加奈子はやはりこの前と同じ様にわたしに身体を擦り付けて座席に着いた。
 既に知り尽くしている若さに満ちたその肉体の感触がわたしを親しみの感情へと誘う。
 加奈子はテーブルの下の棚に小さなバッグを置くと、わたしに向き直って、
「指名して戴いて有難う御座いますぅ」
 と言って、小さく頭を下げた。
「名刺を貰って置いたからね」
 わたしは言った。
「でもぉ、なかなか来てくれない人が多いからぁ」
 加奈子は言った。
「わたしも来ないと思った ?」
 わたしは年甲斐も無く再び、 如何わしい店へ足を運んだ事のバツの悪さを覆い隠す様に加奈子の肉体を抱き寄せて言った。
「そうじゃないけどぉ、やっぱりぃ」
 加奈子は歯切れ悪く言葉を濁して言った。
「この柔らかさと君の優しさが恋しくなって、また来る気になったんだ」
 自分の心の裡のモヤモヤした感情を一気に振り払う様にわたしは、加奈子の肉体を抱き締めて言った。
「お仕事、お忙しいんですかぁ」
 加奈子はわたしに身を任せたまま言った。
「まあ、いろいろあってね」
 日常へ引き戻される事を拒否する様にわたしは言葉を濁して言って、加奈子の口元に顔を寄せその唇を塞いだ。
 加奈子は拒まなかった。
 自らわたしの口元に顔を押し付けて来た。
 身体と口を寄せ合ったままの長いひと時が過ぎて身体を離すと加奈子は、
「またぁ、あっちの部屋へ行って貰えますかぁ」
 と聞いた。
 わたしに異存は無かった。
 無意識的とは言え、それを求めて此処へ来たのだ。
 それからの時間はわたしに取って、満足のゆく時間と言えた。
 わたしの不調は相変わらずだったが、加奈子の優しさと労わりに満ちた心遣いは相変わらずだった。
「実は、体の調子が悪くて駄目なんだ。医者に止められている。だから、この柔らかい肌に触れさせて貰えればそれだけでいいんだ」
 わたしは初めて真実を口にする。
 加奈子は軽い驚きの表情を見せてわたしを見たが、
「何処か、悪いんですかぁ」
 と聞いた。
「うん、ちょっとね」
 わたしは曖昧に言って、それが大した事では無いという様に再び加奈子の肉体に触れてゆく。
 加奈子はやはり、厭がる素振りも見せずにわたしの口にその口を押し付けて来る。
 ひと時のそんな行為の後で疲れ果てた様に裸体を投げ出している加奈子にわたしは言った。
「こんな事をしていて、厭じゃないのかい ?」
「こんな事って ?」
 加奈子は言葉の意味が分からない様にわたしを見詰めて問い返した。
「わたしが駄目で、君が触られている事が」
 加奈子はそれで言葉の意味を理解したらしく、
「そんな事ないですよぉ。これでぇ、お金を戴いてるんですからぁ」
 と、言って屈託のない表情を見せた。
 その明るい、屈託の無さが思い掛けなくわたしにふと過去の苦い出来事を思い出させた。
 わたしが体調の不良を意識し始めた頃の事だった。
 これまでの習慣が抜け切れなくて地方へ出た折り、何時もの様に馴染みのバーへ足を運び、そこの女と一夜を共にした。
 その時初めてわたしは今の自分に出会っていた。
 混乱、狼狽し、半ば呆然自失のうちに諦めて、
「疲れたろう」 
 と言った時、三十六歳の女は、
「別に」
 と冷ややかに言って、蔑む様にわたしから視線を逸らした。
 その夜、二人の間に通い合うものは再び生まれて来なかった。
 わたしは、
「いけねえ。思い出した事がある」
 と言って、急いで身支度をすると、まだ半裸のままでいる女をそこに残して部屋を出た。
 以来、絶えず意識される身体への不安と共に、その事への恐怖がわたしの心の裡に住み着く様になっていた。
 それらの事はわたしの体調不良を除いて妻の一切、知らない事であった。
 わたしと妻との間では、既に思い出す事も出来ない程の遠い昔にその事は絶えていた。
  妻は結婚当初から、その事には熱意が無かった。
 息子の孝臣を身籠るまではそれでも、どうにかわたしの接触を許していた。
 牧本家の一人娘の妻に取っては、最初に生まれた子供が男の子であった事は何よりだった。
 牧本家の跡継ぎが出来たのだ。 
 以来、妻は育児の忙しさなどを理由に何かとわたしを遠ざける様になっていた。
 資産家の一人娘として大切に育てられ、誰もが称賛せずには置かない美貌の持ち主としての高い矜持を持った妻は、初めからその事への関心は薄かった。
 それとなく匂わせるわたしの女性関係にも、蔑みの表情を見せるだけで、それ以上の感情は示さなかった。
 妻に取ってはわたしは、出会いの当初から見下した存在でしか無かったのだ。
 わたしだけでは無い、彼女に取っては総ての男性が彼女に傅(かしず)く存在でしか無いのだ。
 男の手に弄ばれ、至福の境地に至る事など、彼女には屈辱以外の何ものでも無い。
 妻は幼稚園から大学まで、一貫して私立の有名校に在籍した。
 そこでの彼女はその美貌の故に何時でも男子学生の中 の 女王だった。 
 



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                takeziisan様



                 暑い 暑い と音を上げていたのが つい この間と
                思っていたのがもう「枯れ葉」の季節
                この季節が来る度に思い出される名曲ですが
                迫り来る寒さと共に 何時聴いても身に沁みる名曲です
                赤とんぼ 十数年前にはわが家の屋上にも時折り
                姿を見せたのですが 今は見られません
                トンボと言えば秋の黄色く稲の稔った田圃の上に群れを成して
                飛んでいた子供の頃を思い出します
                ヤンマ ヤンマ カエレ 稲ヤンマカエレ と 
                細い竹の先に糸を結び 囮のトンボを振り廻し 
                何匹も捕まえて数を競った事を思い出します
                それも今では遠い記憶で 懐かしさの中に思い出す事しか出来ません 
                時はただ夢の様に過ぎて逝きます 行く先々の果てが身近になるに従い
                季節の移ろいは日毎 速まる感じがします
                 サザンカ 栴檀 南天 柚子 懐かしいです
                栗 柿を交えて子供の頃のわが家に有ったものばかりです
                都会の屋根ばかりが眼に飛び込んで来る現在の環境の中
                しみじみ 恋しくなります(屋上に出ると東京スカイツリーを左に
                遠く彼方に富士山が小さく見えるのですが)ですから 普段 特殊な番組 
                二 三を除いてテレビは観ない中で自然を映した風景や「小さな旅」など 
                地方の地元に密着して生きる人々の生活を映した番組などはよく見ます
                それと共に 再び 昔の様な環境に戻りたいと思うのですが
                それも もう無理な事だと思っています
                その点、御当地にはまだ自然が残されていらっしゃる様で
                羨ましく思います
                こちらでは南天 シャコバサボテン 全く花芽が見られません 
                それだけ気温が違うという事でしょうか
                以前にも書きましたが この地方は温暖な地域でして
                皆 のほほんと育ってしまい偉い人が出ないのだ などと言われています 
                何時も 拙文にお眼をお通し戴き有難う御座います
                御礼 申し上げます  
                         
                



              


































         

遺す言葉(523) 小説 <青い館>の女(12) 他 騙されるな

2024-11-10 12:29:02 | 小説
             騙されるな(2024.10.27日作)


 
 一般市民 市井に生きる人々
 それぞれ自身の持ち場 
 生活環境 その中で
 妻や夫 子供達
 家族の生活 日々の小さな幸せ求め
 誠実 真摯に生きている
 ー 時には愚かな犯罪者も ー 
 誰に知られる事も無い
 世の中 社会の表に出る事も無い
 それでも 市井に生きる人々 一般市民は
 世の中 社会の礎 その役目を担い
 日々 黙々と 社会の一員 構成員として
 誠実 真摯に生きている  大言壮語
 声高に叫ぶ事も無い
 声高 叫ぶ
 浮かび 見えて来るのは
 政治家 政治に生きる人間達 その姿
 明るい未来 明るい社会
 その創造を豪語する 政治家達 実態は
 彼等の為す事 あらゆる事柄 大半 大方が
 陰の方角 悪い方へ 悪い方へ と進んで行く
 明るい未来 明るい社会 その道の
 なんと遠く 細い事か !
 明るい未来 開かれた社会 平和な国家
 政治家達の口癖 寝言が如きもの 
 その裏側 真実 
 見えない所に眼を向ける時 
 見えて来るものは
 ただ ただ 彼等の 自己顕示 権力 名誉 
 その欲望のみ
 自己顕示 権力 名誉 その為なら
 殺人さえも厭わない
 隠れた悪事 見えない汚職 なり振り構わず 突き動かされる 
 その事例 数知れず 政治家達
 真の姿は其処に有る
 国民 国家の代表 空虚な戯れ言
 騙されるな !
 大言壮語 中味は空っぽ 虚偽 虚言
 騙されるな !
 人が生きるこの世界
 真に尊く 美しいもの その姿は
 日々 黙々 真摯に 自身の持ち場を生きる
 名も無き一般市民 市井の人々
 その人々の 誠実 謙虚に生きる その姿に こそ
 人が生きる この世の真実 美しさがある
 虚偽 虚飾 大言壮語 大袈裟な 
 身振り 手振りに 惑わされるな
 騙されるな !
 総ては政治家達の 寝言が如きもの
 大言壮語に惑わされるな !




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             <青い館>の女(12)




 
 わたしは左程の驚きも覚えなかった。
 大方 予想通りの結果だったし、情報がわたしの耳に届くよりも早く妻の耳に届くのは何時もの事だった。
「あれがそう決めたのなら、それでいい。自分の責任で遣っている事なんだから」
 わたしは息子の決断には妻の意向も反映している事は知っていた。
 それに今のわたしには、敢えて息子の反対を押し切ってまで、自分の方針を貫きたいという強い意志も生まれて来なかった。
 現在、わたしに取っての最大の関心事は、わたし自身の命に係わる問題だけだった。
 それ以外にわたしの心を引き付けるものは無い。
 最早、残り少なく思われるわたしの人生。
 何時、何があってもおかしくはない状態がわたしの肉体を蝕んでいる。
 その中で、せめて自身、納得した日々のうちに最後を迎えられる人生を生きたい。
 現在の唯一の望みであり願いだった。
 わたしが生きて来た今日までの年月。その中で自分自身の人生だと言える日々が何日あっただろう。
 何事にも強引な義父と、一人娘で溺愛されて育ったお嬢さん育ちの、誰の眼も惹かないでは置かない美貌の持ち主で気位の高い妻の下、ほとんど身を屈(かが)めるようにして生きて来た人生だった。
 そんな人生の中での残り少なく思われる日々、今はただ、自分自身、納得して終われる人生を生きたいと思うだけだった。
 その朝、わたしは出掛ける直前になって、妻には三日か四日掛かりになるかも知れない、と言っていた。
 一体、何故、そんな事を言ったのだろう ?
 少なくとも、早い時刻に羽田を発って東北地方を廻り、翌日に北の街へ足を延ばして新店舗の状況を確認し、その日のうちに帰れば帰れる仕事だった。
 それでいながらわたしの口からは、妻の顔を見た途端にその言葉が出ていた。
 無意識の意識がそうさせたのだろうか ?
 わたしの心の奥の知らない何処かで、長い人生の中でこれまで経験した事の無かった、まだ幼いとも言える加奈子との出会いが無意識的にそうさせていたのだろうか ?
 北へ向かう機内でわたしは妙に寛いでいた。
 単身飛び廻る事には馴れているわたしに取って、機内で独り過ごす時間は決して珍しい時間ではなかったのだが。
 東北地方では一日掛かりで店舗を廻り、翌日、北の街へ向かった。
 北の街に着くと空港からすぐに店舗に向かい、支店長や川本部長と会った。
 営業状態に申し分は無かった。
 その夜、わたしは二人を支店長推薦の料亭へ招き、今後の課題と計画などに付いて意見を交わした。
 支店長はその席でも、
「是非、中古車販売が出来る様にして下さい。いい商売が出来ると思いますよ」
 と、自信に満ちた口調で言った。
「ロシアの漁船員達は国へ帰って自分達で商売をする為に、欲しがっているんです。それだけに品物さえ揃えられれば間違いの無い商売が出来ると思います」 
 その提案は川本部長も支持した、
 わたしは東京へ帰ったら社長と相談してみる、と答えた。
「今は片手間でやっている様な部品販売でも、結構、いい利益を産んでいますからね」
 川本部長は言った。
   わたしが料亭を出たのは九時過ぎだった。
   支店長が今度もタクシーを呼ぼうと言ったが、わたしは断った。
「ホテルまで歩いて帰るよ」
「此処からは、結構、距離がありますよ」
 支店長は言った。
「うん、構わないよ。酔い覚ましだ。それに新店舗の夜の様子も見てみたいし」
 冗談に紛らして言ったが、この時、わたしの意識の中には青い館への思いは全くなかった。 
 それでいて、その言葉が口を出ていたのは、やはり無意識的意識の為させた業だったのだろうか ?
 海岸ホテルには料亭に席を取った時に予約を入れていた。
「明日の朝はタクシーで空港まで行くから車の心配は要らない」
 二人と別れる時、支店長が気を利かせて車を手配するかも知れないと思い、断りを入れて置いた。
 ホテルまでの道の途中、営業時間も終わって北の街の広々とした空間に大きな建物の影を浮かび上がらせている新店舗の前を通った。
 この前歩いた距離より遥かに遠い距離だったが、建物の堂々とした趣に何んとはない満足感を覚えながら、何時の間にか「<青い館>の女」のある以前の通りへと足を運んでいた。
 これもまた、無意識裡の行動と言えるかのも知れなかった。
 行く手にやがて「<青い館>の女」のネオンサインが小さく見えて来た。
 年甲斐も無く微かな胸の鼓動を覚えていた。
 当初、わたしの意識の中には<青い館>への思いは全く無かった。
 それが部長達と別れて歩いて来るうちに何時の間にか、この道を辿っていた。
「<青い館>の女」のネオンが見えた時には、まだ幼く、二十歳そこそこと思われる加奈子の面影が脳裡に浮かんでいた。
 今夜は人影も疎らな北の街に霧は無く、石畳の歩道に沿って立ち並ぶ街灯が並木の陰で早くも寝静まった気配の静寂を際立たせて、白い光りを放っていた。
 その道を歩いて行くに従って、次第に大きくなって来る青いネオンサインの看板を眼にしたまま、わたしの気持ちはなお、揺れ動いていた。
 このまま、歩いて行ってもいいんだろうか ?
 もし、この前、わたしを誘った客引きの男がいたらどうしよう ?
 年甲斐も無く、また、ピンクサロンに遊びに来たのか、と思われたりしないだろうか ?
 男の軽蔑的な眼差しを想像すると気持ちが萎えた。
 その時は、無視して通り過ぎてしまおう。
 わたしはこの時、まるで性に飢えた少年の様におろおろしながら迷っている自分に抑え難いまでの嫌悪を覚えて、惨めさに打ちのめされた。
 落ちぶれ果ててボロボロになった自分を見る気がして寂寥感に襲われた。
 一層、今、此処に居る自分の一切を投げ捨てて真っ直ぐホテルへ帰ろうか ?
 半分、現役を引退してしまった様な現在の自分だったが、それでもわたしはなお、<スーパーマキモト>の会長として、多少なりとも人々の尊敬を受けている。
 その、尊敬を受けるに相応しい人間に立ち戻ろうか ? 
 野良犬の様に人目を避けて、年甲斐も無く見知らぬ土地のピンクサロンの若いホステスへの思い入れを抱いて、夜の街などを彷徨っていないで。
「社長、どうですか。いい子が居ますよ。若くてピチピチした子ばっかりですよ。ちょっと寄っていって下さいよ」
 その時、思いがけず声を掛けて来たのは、この前の男ではなかった。
「一万円、一万円でいいんですよ」
 寄り添う様に身を寄せて来たのは、憎めない笑顔を浮かべた丸っこい身体の背の低い男だった。
 わたしは男を無視して歩いた。
 男はこの前の男の様にしつこかった。
「一万円でいいんですよ、社長。ちよっと、遊んでいって下さいよ」
 男は右手の人差し指をわたしの前に突き出しながら言った。
「本当に一万円でいいのか ?」
 わたしは男をからかう様に言った。
「勿論ですよ。嘘だと思って入って下さいよ」
「いい子が居るって言うのに、嘘は無いんだろうな」
「本当ですよ。嘘なんか言いませんよ」
 男は一層力を込めた口調で言って絡み付いて来た。
 わたしは男に押し出される形で「<青い館>の女」の入口に立っていた。

「誰か、御指名の子は居ますか ?」
 店内に入ってからの問い掛けも同じだった。




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




                takeziisan様


                奥様 快復 順調との事 何よりです
               拝見してる方もホット 一安心です
               こういう事は 若くて元気な時には気付かないものですが  
               自身 あと何年 と死の意識から逃れられない日々を送っている身には
               他人事ながら身に詰まされる思いが込み上げて来ます
               どうぞ お二方 お元気に日々をお過ごし下さい
               人間 究極は独り 何時かは 生も死も一人の道を辿る事になる
               その中で 生きるのだ 生きている限りは 日々 より良く生きるのだ
               その思いで頑張って下さい
               二人で居たものが独りになる 身体の片側を削り取られたと同じ事
               NHKテレビの画面の中で 八十代の奥様を失くした男性が
               毎日 なんの為に生きているのか分らない と呟いていましたが
               人生最晩年になると出来る事も限られて来ます
               孤独感は増すばかりです 
                余計な事を書きましたが どうぞ 奥様にはリハビリに励んで戴いて
               一日も早く日常に戻れる様 頑張って下さい
               人間 気力を失くしたら終わりだと思います
                相変わらず畑と野菜の写真 心洗われます
               何時も羨ましく拝見しています
               サトイモ さあ どうする ?
               大根 あれで今ひとつ ?   
               雑草の花 単調の中に咲く小さな何気ない花  
               何故か 心ほのぼのする絵です
                お忙しい中 楽しい写真 有難う御座いました

   
        




             





         
 
 
 
 





















































遺す言葉(522) 小説 <青い館>の女(11) 他 金木犀 ようやく咲いた 

2024-11-03 12:15:11 | 小説
            金木犀 ようやく咲いた(2024.10.18日作)



 
 金木犀がようやく咲いた
 例年より ほぼ三週間遅れ
 毎年咲く時期が来ても
 花芽一つ無く 驚きと失望
 猛暑のせい ?
 諦めていた矢先 
 思わぬ開花
 猛暑の夏が漸く終わった気配
 秋の空気の中
 気温の低下と共にみるみる
 花芽を着け 遅れ馳せながらの
 開花となった
 植物の持つ力強さ 生命力
 改めて思う
 地球温暖化 異常な猛暑
 地球上 総てのものを狂わせ 壊す
 数年前 数十年前とは大きな違い
 この地球に満ちる空気
 この先 地球は一体 
 何処へ行き 何処へ辿り着く ?
 月下美人の開花は今年 この夏三度
 これまで年に一度だった開花が 去年は二度
 今年は三度 その いずれもが
 見事な花形 豊かな香り
 これもまた 異常な夏
 猛暑の影響 ?




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             <青い館>の女(11)




 そのうち店長も顔を見せた。
 三人で今後の営業方針に就いて意見を交わした。
 地元で生まれ育った店長は、この地方の商業的環境に就いては詳しかった。
 彼の話し振りから改めて、この店長なら旨くやって呉れるだろう、と満足のゆく感触を得た。
 午後四時過ぎに店舗を後にすると一旦、ホテルへ帰り、そこからタクシーで空港へ向かった。



                              (2)



 
 再び北の小さな漁港街を訪ねたのは五十日後だった。
 新しい店舗は十五日間の開店セールが終わった後も、順調な営業状態を保っていた。
 一日の終わりに送られて来る営業報告書には、予想以上の数字が記入されていた。
 期待と不安の中で毎日の数字に眼を凝らしていた息子も、一先ずの安心を得た様子だった。
 しかし、東京本社ではその間に一つの問題が生じていた。
 千葉県産野菜の供給を一手に引き受けている「松田農産物販売」が支払い条件の改定を求めて来ていた。
「はっきりした事は分からないんだけど、後ろで<ピノキオ>が突(つつ)いているんじゃないかと思うんだ。ひと月決済にしてくれって言ってるらしい。もし、それが出来ないんなら、他へ廻すって言われたって、中園が言ってた」
 支店廻りが無くてわたしが会長室に居た日に息子が顔を出して言った。
「それで、返事はしたのか ?」
「いや、まだ正式な話しが無いんで、そのままにしてあるんだけど、何れ来ると思うよ」
「松田農産への支払いは今も四十五日か ?」
「うん。ずっと変わってない」
「それで、要求を駄目だって言ったらやめるって言うのか ?」 
「うん」
 その問題は正式な申し入れがあった時点で会議に掛けられた。
 決済を三十日に短縮しても取引を続けるべきか ?
 わたしの意見は続けるへきだというものだった。
 社長としての息子の意見は、副社長のわたしの妻と同様やめても構わないというものだった。
「もし、一社がそうなれば、あっちもこったもという事に成り兼ねない」
 仕入れ担当の中園は取引続行を希望していた。
「大田市場でその分、揃える事は出来ないのか ?」
 息子は中園に聞いた。
「品物はなんとか揃えられるとは思うんだけど、寄せ集めという事に成り兼ねないので、品質や価格にばらつきが出ると思うんですよ」
 中園は言った。
 社長の息子はそれでも強気だった。
「大田市場の仲卸業者が今まで通りでやるって言うんなら、そっちへ移した方がいいよ。松田農産からは膨大な金額の仕入れをしているんだし、四十五日の支払いが三十日になったら金利だけでも相当な違いになる。それに後ろで突いていると思われる<ピノキオ>なんか、家(うち)の半分も仕入れが無い筈だし松田農産だって、そのうち分かるさ」
 息子のそんな強気の姿勢が又してもわたしに彼の祖父を連想させた。
 彼の祖父もまた、後(あと)へ引く事を知らない人間だった。
 その上、そんな父親をひたすら崇拝していたわたしの妻も今また、何事に於いても息子の意見に賛同している。
 義父と妻は正反対とも言える遣り方をするわたしをよく批判していたものだった。
「あなたはがそうして甘い顔を見せて譲歩するから、相手は強気に出て来るんですよ。もう少し、毅然とした態度を見せて呉れなくちゃ困りますよ。五パーセントの販売協力費だって、結局、削られちゃったじゃないですか」
 義父はかつて、買い上げ高の五パーセントを販売協力費の名目で仕入れ先に返還させていた。
 妻はそれを口にしたのだ。
 しかし、かつては通用した義父のそんな手法も最近の厳しい経済状況下では通用しなくなっていた。
「お義父さんのやっていた時と今とでは時代が違うよ。多少の譲歩をしても、こっちがやっていける限りはいろいろな方面と良好な関係を築いて置いた方がいい。いざという時の事を考えて置くべきだよ。何時、何があるか分からない」
 わたしは妻に言った。
 妻の後ろ盾を得た息子は依然として、松田農産との交渉には強気の姿勢を崩していなかった。
 わたしは北の街へ足を向けるまでの五十日間、四十日近くを支店廻りに費やしていた。
<マキモト>では四半期毎に支店長会議が東京本社で開かれたが、各支店の引き締めを図る為にはわたしの巡回もまた欠かせなかった。
 各支店の幹部の気持ちの入れ方が、わたしの訪問が有るのと無いのとでは大きく違った。
 わたしに見られているという意識が彼等の行動の励みになって、その評価が昇進に繫がる事を知っていたのだ。
 北の街の新店舗では相変わらず順調な営業が続いていた。
 支店長への評価は東京から目付の様な役割で送り込んだ川本部長も合格点を付けていた。
「なかなか良いと思いますよ。人間的にも真面目ですし、社長の眼に狂いはなかったですね」
 その支店長は、わたしが<サロン 青い館>の女、加奈子から聞いたロシアの漁船員達の話しは当然の事ながら知っていた。
 既に、彼等を呼び込む為の店造りも始めていた。
 現在は電気製品が主な販売品だったが、
「社長にも話したんですが、中古車なんかでもいい商売が出来ると思いますよ」
 支店長は言った。
 わたしの気持ちの中ではこの街へ来るに当たって、小さな葛藤が生じていた。
  日帰りにしようか、それとも一泊しようか  ?
  北の街には序でに足を延ばしてみるという、滞在を延長する為の口実になる店舗も無くて、東北地方から入ったその日のうちに東京へ帰る事は充分、可能だった。
 それでいながら、わたしの気持ちの中にはそれを素直に受け入れ難い、葛藤の様なものが生まれていた。
 それがサロンの女、加奈子に依るものかどうか、わたし自身にも判断が付き兼ねる程の小さな心の揺れだった。
 開店式に主席して東京へ帰ってからのわしは、多忙な日常の中で加奈子を思い出す事はほとんど無かった。
 似たような経験は過去にも幾度もあって、その街を離れると共に忘れてしまう事が多かった。
 もし、北の街での出来事がわたしの心に僅かでも小さな跡を残したとすれば、かつて経験した事の無い、加奈子という女の幼さから来るものに他ならなかった。
 それでも、わたしの心の中では物珍しさへの興味はあっても、心惹かれたという意識的なものは無かった。わたしは何時ものわたしに還っていたのだ。
 北の街へ向かう日の朝、わたしは妻に言った。
「東北地方を廻ってから行くので、二、三日係りになると思う
「会社へは ?」
「行かない」
「直接、向こうへ行くんですか ?」
「うん」
「孝臣は松田農産を切るらしいわよ」
「切る ?」
「ええ」
 初めて耳にする言葉だった。




             ーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様


               久し振りの記事 面白く拝見しました
              修行と鍛える 微妙な違いはあると思いますが
              結局 修行も精神の鍛練という事で究極に於いては
              鍛えに 通じるのだと思います
               何れにしても 人間 精神も肉体も常に働かせていなければ
              衰える一方だと思います ですから ちょっとした不調なら
              薬に頼らず身体を動かす事によって治す様にしています
              痛みの出た膝も指圧などの方法を混じえてほぼ治しました
              ツボへの刺激 これは驚く程の効果をもたらします
              二 三日まえNHkでもツボ刺激の効果を放送していましたが
              眼を見張るものが有りました 
              母親の胎内で逆子だった赤ん坊が母親の足の小指に灸をする事で正常に戻り
              元気な誕生を迎えました
              西洋医学でもツボ効果は注目されている様です 
              どうぞ これからも薬に頼らず バレーという薬の下
              お元気でいて下さい
               家庭内のいざこざ ちょっと気に掛かる言葉です
              大事でない事を願っております
               冒頭の写真 相変わらず羨ましい風景です
              広々としたアメリカの環境にだけは何時も心惹かれます
              日本の秋は遅れていますが 一作夜 これもNHKで京都 嵐山の
              紅葉を放送していました それは見事なものでした
              日本という国は前にも書きましたが 国土的には宝石の様な国だと思います
              ただし 災害王国でもあります
              総て良し という訳にはなかなかゆかないものです
               どうぞ これからも 何事も無理をなさらず 
              良い日々をお過ごし下さい
              有難う御座いました




               takeziisan様


                日毎 駆け足し
               月日の巡るのは早いものです 今年もあと六十日足らず
               年齢と共に早まる季節の移り変わり
               若き日の頂上を目差した日々は終わり 絶壁断崖の待ち受ける
               行き止まりの世界が日毎に深く身に沁みて来ます
               谷川岳山頂の飲食 その爽快さが想像出来ますが それも過去の世界
               身につまされます
                ブールの閉鎖 今まで当たり前だったものが日毎に失われてゆく
               入れ替わりに立ち現れる世界は何処か馴染難い世界ばかり
               深まりゆく秋の気配と共に人生の秋の深まりも実感します
                隣家の庭で実る柿 柿は日本国中に見られる秋の風物誌
               美しい世界でもあります
                川柳はやはり何処かにピリリと利いた山椒の味が欲しいですね
               それも笑いという甘味に包まれて
               選者 実力を認められたという事ではないのでしょうか
               自分の作品も満足に創れない者が選ばれる筈がありません
               これからも楽しい作品をお作り下さい  
                日々の散歩にしてもプール通いにしても川柳創作にしても
               人間 何かをして常に動き 働いている という事が大切な事ではないのでしょうか
               使わない金属は錆び付いてゆく 人間も気持ちの持ち様一つだと思います
               どうぞ これからも良いブログをお続け下さい
               有難う御座いました
 


 
























































 

遺す言葉(521) 小説 <青い館>の女(10) 他 金木犀

2024-10-27 11:31:28 | 小説
             金木犀(2024.10.13日作)



 金木犀
 今年は未(いま)だ 咲かない
 蕾一つ着けない
 四十年以上過ぎた木
 金木犀 

 亡き父の 面影浮かぶ 金木犀
 散り敷いて 金木犀の 金の庭
 金木犀 今宵も静か 独り居て
 彼(か)の女(ひと)は 今は何処(いずこ)に 金木犀

 遠い日の幼い頃過ごした故郷の家
 庭に香った金木犀 
 豊潤な香りに魅せられ 以来
 親しみ 馴染んだ長の年月
 今年は未だ 花芽一つ着けない 初めて 
 かつて無かった事
 幾年月 長の年月(としつき)過ごした金木犀
 年老いた ?
 否否 あり得ない
 生育盛ん 年毎大きく枝葉を延ばした
 元気な樹
 剪定 ?
 枝葉を切り落とした所為(せい)か ?
 否否 そうではない かつて 
 幾度 そうして来た事か !
 今年に限って・・・
 あり得ない
 今年に限って・・・ 
 猛暑の夏
 金木犀もまた 音を上げた ?
 気温上昇 世界の各地 各国
 地球の総てに及んだ異常な気象
 猛暑 酷暑の一夏
 災難 災厄 災害
 人の命の多くも奪われた
 金木犀もまた同じ事 ?
 未だ 花芽一つ着けない 
 異常な気象 
 頭を過ぎる ふとした不安
 金木犀はこのまま 今年は花芽を着けない ?
 異常な気象 地球温暖化 その先に
 見えて来るものは ?
 不吉な影のみ




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              
             <青い館>の女(10)




 
 昨夜は気付かなかった左手すぐ傍にこれもまた、一見、壁と見紛うドアがあった。
 加奈子はすぐにそのドアの鍵をわたしには理解出来ない方法で開けて、身体全体で押す様にして扉を開いた。
 眼の前にはなんの変哲も無い古い木造アパートの、両側に部屋の並んだ廊下があった。
 その廊下に出ると加奈子は扉を閉め、また、わたしには理解出来ない方法で鍵を掛け、わたしの前に立って廊下を歩き出した。
 両側それぞれに五つの部屋があった。
 廊下が終わると古びた木製ドアがあった。
 鍵は掛けられていなかった。
 加奈子は軽く右手でドアを開けた。
 直接外気に触れる街の通りが眼の前に開けた。
 足元にはその通りへ出る為の小さな三段の石段があった。
 石段を上ると早朝のアスファルト通りにはまだ人影が無かった。
 依然として街を包み込んだままの薄い霧の流れが、街全体をおぼろな影に見せていた。
 昨夜、わたしがパーティー会場から歩いて来た通りとは趣を異にしていた。  
 何処か、うらぶれた感じのする侘しい気配が漂っていた。
 葉を落とした貧弱な並木の傍に三台のタクシーが霧に包まれて並んでいた。
 わたしと加奈子の姿を認めると一台のタクシーが近付いて来た。
「何処まで帰るんですかぁ」
 加奈子が聞いた。
「海岸ホテルなんだ」
 別段、隠す必要もないと思って言った。
「じゃあ、タクシーで行った方がいいですよぉ。ここは裏通りなんでぇ、ずっと遠回りになるのでぇ」
 加奈子は言った。
「うん、そうしよう。道も分からないし」
 わたしの乗ったタクシーは、薄い霧に包まれてまだ街灯の明かりの消え残る街の中を、裏通りから表通りへと出て暫く走りホテルの前で停まった。

 わたしが開店セールで混雑する店に顔を出したのは午後一時過ぎだった。
 赤と白の垂れ幕を張り巡らした店内は賑やかな雰囲気の中で、溢れる人の熱気にむせ返っていた。
 この小さな街の何処から、こんなに人が出て来るのだろう、という驚きと共に、その盛況に思わず込み上げて来る喜びを抑える事が出来なかった。
 五百坪程の広さの一階食品売り場を一廻りしてから、二階の家庭用雑貨売り場へ足を運んだ。
 更に、三階の衣料品や家具、室内装飾品の並んだ三階まで足を延ばした。
 元々が<スーパーマキモト>は缶詰や乾物を主体にした個人経営の食品店だった。
 現在の形体になってからもなお、売り上げの六十数パーセントが食品関係で占められている。
 関東、東北地区にある五十七店舗の大半が一階の食品売り場と二階の家庭用雑貨売り場で構成されていた。
 所により、周囲の状況次第で三階に室内装飾品や家具などを並べたりしていたが、この北の小さな漁港街への進出に当たっても当初は三階までの計画で事が進んでいた。
 それが思わぬ形で変更されたのは息子の一言だった。
 息子は突然、四階まで延ばして電気製品売り場を作りたいと言い出した。
 無論、余りに唐突なその提案は役員会議にも掛けられ、<マキモト>に取っては初めての計画に反対意見も多かったが、息子は敢えてそれを断行した。
 息子にしてみれば、何度も足を運んで現地の状況を確かめた上での結論だったのだろうが、わたしにもまた、一抹の不安があった。
 結果はだが、息子の決断が正しかった事が証明された。危惧しながら足を運んだ四階にも、思い掛けない人の混雑があってわたしの驚きを誘った。
 息子は祖父に習っての様々な商品の買い叩き物や中古品の安値販売をしていた。
 その狙いは見事に当たっていた。
「安いよ、これ。あっちの店では同(おんな)じ物に二千円の値札が付いていたよ」
 そんな会話が彼方此方から耳に届いて来た。
 わたしはそんな中でどの売り場にも見られる、何時もの開店風景に劣らない活気に満足していたが、開店セールの終わった後の商売の難しさもまたよく知 っていた。
 取り分け、此処が小さな漁港街であるだけに、その心配も一入(ひとしお)で、息子ももう何軒もの開店を手掛けている以上、後はくれぐれも失敗の無い様にと願うのみであった。
 幸い、昨日初めて顔を合わせた店長も仕事が出来そうで、わたしは満足していた。
 多分、この店も上手くやってくれるだろう。
 その店長はわたしが一階に戻ると、肉の半値売り場で声を嗄らして陣頭指揮を執っていた。
 その合間には絶えず野菜売り場や魚売り場に視線を向けて、状況確認を怠らなかった。
 わたしは暫く、観察した後で店長の傍へ行った。
 店長はわたしに気付くと、
「ああ、来てらっしゃったんですか」
 と、素っ気なく言ってすぐにまたお客の対応に戻った。
 わたしは店長をそのままにして、売り場の隅にあるエレベーター乗り場へ行くと四階にある事務所へ向かった。
 事務所には本社から派遣されて来ている経理責任者の川本部長がいた。
「なかなか良さそうじゃないか」
 わたしは部長に言った。
「ええ、思った以上に盛況ですね。店長もこんなに人が来るとは思っていなかった様です」
 川本部長は言った。
「セールの終わった後が、この小さな街ではどうなるか、ちょっと心配だが」
 わたしは言った。
「でも、それは心配ないと思いますよ。 結構、安売りでお客を呼べると思いますし、今日程の活況は無理だとしても、どうにか行けるんじゃないでしょうか」
 今年、四十八歳になって、東京本社でも古参の一人になる川本部長は言った。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                自然の風景は何時見ても良いですね
               テレビは余り見ないのですが自然を映した番組はよく見ます
               NHKでの日本百低山とか小さな旅はよく見ています
               下手に創られていない所がいいです
                野菜畑 羨ましい限りです 我が家の屋上菜園も終わりました
               落花生も殻ごと茹でで食べました 
                奥様 御退院 おめでとう御座います
               一安心というところでしょうか 風の吹く場所が埋められた
               それが実感ではないのでしょうか
               食事の腕前 是非 奥様に判定して貰って下さい
               共に生きるという事の喜び これは何事にも代え難いものです
               それでも結局 人間 最後は独り 寂しいものです
               禁じられた遊び 名作ですね          
               あの幼い子供二人の演技
               名優も子供と動物の演技には敵わないと言いますが
               あの最後の場面など何度観ても涙になってしまいます
               それにしてもよくあの演技が出来るものだと 見る度に感嘆してしまいます
               本人にしてみれば演技をしているなどという意識は全く無いのでしょうが 
               あの迫真の演技は何処からくるのでしょう
               驚きを禁じ得ません
                有難う御座いました












































遺す言葉(520) 小説 <青い館>の女(9) 他 移り逝く時の中で

2024-10-20 11:31:18 | 小説
             移り逝く時の中で(2024.1011日作)



 十月半ば
 昨日の猛暑とは打って変わって 
 今朝は寒い 肌寒い
 季節は今年もまた 移ってゆく
 移り変わってゆく 時の流れ
 歳月は一瞬の停滞もなく
 過ぎて逝く
 人の世も同じ事
 耳や眼に馴染んだ
 あの人が もう この世に居ない
 この人も 居なくなった
 それぞれが 遠く彼方へ旅立った 
 絶え間なく流れ逝く歳月 時の流れ
 流れ逝く時の中で日毎に深まり 数を増す
 親しき人々 あの人 この人 の 訃報
 同じ時代 同じ時の流れを生きた
 人の数は 日毎 月毎 年毎 細ってゆく
 残されるものは ただ 記憶 記憶のみ
 日々 細りゆく時の中 やがて
 最後に辿り着く記憶 その場所は
 遠く幼き日々 共に過ごした
 小学校 中学校 同級生達
 今 彼等 彼女等は 何処に居て
 何をしているのだろう  
 元気で居るのだろうか 
   長い歳月 空白期間 消息すらも知れない
 数多くの級友 同級生達 彼等 彼女等
 思い出は数知れず
 あの記憶 この記憶
 淡い恋心
 無邪気な戯れ
 同級生 級友達への思い 懐かしさの感情は
 日毎に深まり 
 深くなってゆく




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(9)



 
 
 女はわたしの傍で裸体を毛布で包(くる)み、丸くなって眠っていた。
 暗い部屋の枕元には深紅の小さな明りが点っていた。
 一瞬、わたしは自分が過去の何時かに戻っているかの様な奇妙な錯覚に陥った。
 それも束の間で、すぐに現実の自分に立ち戻ると体の心底から沸き上がる極度の虚しさと共に、見知らぬ部屋の奇妙なベッドで過ごした事への深い後悔に捉われた。
 遠い何処かで船のエンジンの始動する音がしていた。
 それが否が応にも朝の気配を運んで来た。
 わたしは身体を起してベッドの縁に腰掛けると、今日一日の行動に思いを馳せた。
 改めて、奇妙な部屋のベッドで過ごした愚行を思って、ちゃんとホテルへ帰って今日一日のしっかりした予定を組んで置けばよかったと後悔した。
 その時、女が寝返りを打ってわたしの身体に触れ、眼を覚ました。
  わたしに気付くと女は、
「ああ、起きてたんですかぁ。それならぁ、起こして呉れればよかったんですよぉ」
 と、甘える様な声で言ってわたしを非難した。
「まだ、五時半にならないよ」
 わたしは女の言葉に応えて穏やかに言った。        
 女は毛布に包んだ裸体を起こして目覚まし時計を手に取った。
「でも、もうじき五時半ですよぉ」
 と言った。
「いいよ。君はまだ寝ていればいい。わたしは帰るから」
 わたしはベッドから立ち上がった。
「帰るんですかぁ、それならちょっとぉ、待ってて貰えますかぁ。すぐに着替えて来ますからぁ」
 女はベッドを降り、裸のまま奥の青いカーテンの向こうへ消えて行った。
 程なくして女は戻って来た。
 黒い細身の長いパンツに、身体の線がくっきりと浮き出て見える白いニットのセーターを身に着けていた。
「帰るのには何処から行けばいいのかな」
 既にわたし自身も身支度を整えていて聞いた。
「ああ、それなら出口までぇ御案内しますからぁ」
 女は言って、わたしの服装に落ち度は無いか、点検する様に見詰めた。
「大丈夫かい」
 わたしは女の視線に任せたまま聞いた。
「ええ、大丈夫ですよぉ」
 女は言った。
「いろいろ、親切にしてくれて有難う」
 女の何一つ不快感を与えなかった心遣いにわたしは、素直な気持ちからそう言っていた。
「でもぉ、お客さんにはぁ、高いお金を払って貰ってるのでぇ、当たり前の事ですよぉ」
 女は当然の事の様に言った。
「それでも、なかなか君の様には出来ないものだよ。金だけ取って後は勝手にという女達が多いからね」
 わたしは本音を言った。
 改めてわたしは、女の親切に報いる気持ちで上着の内ポケットから財布を取り出して二枚の一万円札を抜き取ると、一枚ずつを女に手渡しながら、
「これは君が親切にしてくれた事へのお礼だ。この一枚は君の優しさと一晩、楽しませてくれた事へのお返し。有難う」
 と言った。
 女はわたしの思わぬ行為に驚き、一瞬、戸惑った風だったが、渡された一枚ずつを手にしながら、
「でもぉ、昨夜(ゆうべ)いっぱい使って貰ってるからぁ」
 と躊躇(ためら)いがちに言った。
「いいから、取って置きなさい」
 わたしは押し付ける口調で言った。
「有難う御座いますぅ」
 女はそれで素直に嬉しそうな表情を見せ頭を下げて言った。
「名前はなんて言うの ?」
 わたしは言っていた。
 いったい、何故、そんな事を聞いていたのだろう ?
 自分でも不思議な気がした。
 また此処へ来る心算なのか ?
 そんな事はあり得ない。
 確信的な思いがあった。
 それでいながら、自然にその言葉が口を突いて出ていた。
 女はだが、躊躇う様子も見せなかった。
「加奈子って言うんですぅ。名刺を上げてもいいですかぁ」
 と言った。
「うん」
 わたしは言った。
 これも過去に於いて何度となく経験して来た事だった。
 それらの名刺は悉くが破り捨てられていた。
 加奈子と名乗った女は、無論、そんな事までは知り得ない。
「今、持って来ますからぁ」
 と言って再び、青いカーテンの向こうへ消えると一枚の名刺を手に戻って来た。
「これなんですけどぉ」
 と言ってわたしの前へ差し出した。
 わたしは受け取った。
 赤いハートの形が書き込まれた角の無い名刺だった。
「裏にぃ、このお店の電話番号なんかが書いてあるのでぇ、また、来る時には電話をして貰えますかぁ。それでぇ、わたしの名前を言って貰えればぁ、すぐに指名が出来ますからぁ」
 わたしが手にした名刺に視線を向けながら女は言った。
「うん、有難う」
 わたしは言って上着の内ポケットへ名刺を収めた。
「この街へはよく来るんですかぁ」
 女は言った。
 女自身、最初に、旅行で来たんですかぁ、と言って、わたしがそうだと答えた言葉も忘れてしまっていた様だった。
「いや、滅多に来ない。偶々(たまたま)、用事があったものだから旅行がてら来ただけなんだ」
 わたしは言った。
 女はわたしの言葉を聞いて頷いた。
 わたしはその女を見ながら、
「もし、また、この街へ来たらその時には電話をするよ」
 と言った。
 再び、その機会があろうとは思っていなかった。
 女はそれでも素直に頭を下げて、
「お願いしますぅ」
 と言った。
 わたしと加奈子と名乗った女はそのまま部屋を出た。




             ーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


               奥様 入院されてもう十日 早いものですね
              普段 身近に在るものの無い空虚な感覚 寂しいものです
              それでもメールの指示 お元気な証拠で何よりです
              これもまた慰めに成り得るもので便利な世の中になったものです
              食事の支度 自分の好きな物を好きな様に食べられる
              前向きに考えればそれ程 苦にはならないのでは ?
              馴れない食事作りもあれこれ自分なりの工夫 楽しんだ方がいいですよね
               また ドングリ カラスウリの季節が来ました
              ついこの間 同じ様な報告記事を拝見したばかりの様な感じですが
              一年が過ぎているのですね
              早いものです それにしても猛暑の夏 いろいろな物に思わぬ変化が起きています
              あらゆる事柄でこれまでの常識が通用しない世の中になっている様です
               野菜の青 拝見していても気持ちが良いです
              土の匂いがして来ます
               プールの終わり ? これもまた時の流れ 世の中どんどん
              お構いなしに変わってゆきます 改めて過ぎ行く歳月を感じさせられます
               アフリカの星 観て無いですね
              初めて知りました その他は観ていますが
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
               有難う御座いました
               






















 





遺す言葉(519) 小説 <青い館>の女(8) 他 それだけの事

2024-10-13 11:56:57 | 小説
            それだけの事(2024.9.30日作)



 九十歳を過ぎても
 矍鑠(かくしゃく)として生きてる人が居る
 百歳を越えてもなお
 平然としている人が居る
 その姿 姿勢のまぶしさ 輝かしさ
 人間 人の命の限界 百二十五歳だとか
 かつて唱えられた 人生僅か五十年
 今は昔 過去の事
 人の健康 丈夫で生きる
 その基 礎(いしずえ)となるものは ?
 心の持ち方 ?
 堅固な肉体 ?
 八十六年余を生きて来て今 日々
 不都合も無く 時が過ぎて行く
 そして 今日もまた生きている
 生きている 生きている限り
 生きるのだ 元気溌溂
 矍鑠たる九十歳 百歳
 光り輝くその姿を目差して
 今日もまた 生きてゆく
 生きてゆく 生きてる限り生きてゆく 
 明日を見詰め 今日一日を生きる
 元気溌溂 矍鑠として生きる
 それだけの事
 ただ それだけ




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             <青い館>の女(8)




 
 しかし、わたしの心に熱い思いは生まれて来なかった。
 依然として醒めた心の冷え冷えとした意識がわたしの心を捉えていた。
 同時にわたしは、わたしの肉体を抜け出した醒めた心のわたしが総てを投げ出し女に任せて、死体の様にベッドに横たわっているわたし自身を見詰めているのを意識する。
 女はなおも、そんな死体を小さな手の指で撫ぜている。
 女は辛抱強かった。
 まるで諦める事を知らないかの様に、そして、蔑み、嘲笑するのを知らないかの様に様々な行為を繰り返す。
 死体のわたしは死体のままに、それでも女の一途な行為に応える様にその肉体を愛撫する。
 すると間もなく女の肉体が反り返り、波打ち、口から漏れる微かな声が女に自分の行為を忘れさせる。
 やがて女の肉体は激しく波打ち、硬直し、暫(しばし)の後で発する声と共にその緊張が一度に解(ほど)けてゆく。
 わたしは激しく女の裸体を抱き締める。
「いっちゃった」
 女は無邪気な笑顔を見せてわたしを見詰め、少しの恥じらいを込めた口調で言った。
 わたしは黙ったまま頷いて女の笑顔に答える。
 女はまたしてもわたしの肉体に手を延ばして触れて来る。
 しかし、わたしの意識の中では徒労感のみが深かった。
 わたしは女に言った。
「もう、いいよ。初めから分かっていた事なんだ。疲れたろう」
 女に労いの言葉を掛ける。
 女はだが、嫌な顔一つ見せずに、
「ううん、大丈夫ですよぉ」
 と言って、なおも行為を繰り返す。
 わたしはそんな女の手を取って自分の肉体から引き離す。
「御免なさい」
 女は自分の責任でもあるかの様に言った。
 わたしは女に言った。
「ただ、ちょっと頼みがあるんだ」
 女は不思議そうにわたしを見詰めて、
「なんですかぁ」
 と聞いた。
「少し、眠らせて貰いたいんだ」
 わたしには徒労感のみが深かった。
 ただ眠りたいだけだと考える。
 今こうしてわたしの肉体に触れている、この年若い女の存在にもわたしは現実の感覚を抱く事が出来なかった。
 総てが空虚で遠い感覚の中にある。
 今に始まった事ではなかった。
 既に何年にも及ぶ事で、あらゆる事柄に及んでいた。
 自分が抱えた心臓疾患に依る影響なのか、という思いもあったが、そればかりではない、という思いが依然としてわたしの意識の中からは抜け切れなかった。
 そして、此処でもまた、妻の存在が義父の影と共に大きく立ちはだかって来る。
 女はわたしの思いも掛けない突拍子な言葉にも、
「眠るんですかぁ」
 と言って嫌な顔一つ見せなかった。
「うん」
 わたしは力なく言った。
 そんなわたしの気力の抜けた表情を読み取ったかの様に、女はすぐに言葉を続けて、
「構わないですよぉ。此処では全部がお客さんの時間なんでぇ、お客さんの自由にして貰っていいんですよぉ」
 と言った。
「君は随分、優しいんだね」
 何処までも厭味を感じさせない年若い女の心遣いにわたしは、思わずそんな言葉を口にする。
 これは女の若さの所為(せい)なのか ?
 過去に於いて出合った数多くの年増女達の計算高く醒めた感情の垣間見える、取り繕われた表情の数々をわたしは思い浮かべていた。
「でもぉ、お客さんにはぁ高いお金を出して貰ってるのでぇ、此処では他の女の子達のみんながそうですよぉ。それにぃ、こんな小さな街なんでぇ、お客さんの数も限られているからぁ、一度、悪い評判がたってしまうとすぐに誰も来て呉れなくなっちゃうんですよぉ」
 女は飾る事も無く言った。
「此処ではみんなが、それぞれにお客を持ってるの ?」
 興味がある訳では無かったが、話しの接ぎ穂としてのみ聞いてみる。
「そうですよぉ。みんながそれぞれに何人かのお客さんを持ってますよぉ」
 当然の事の様に女は言った。
 わたしには不思議だった。
 こんな店の、こんな営業方法がこの街では許されているのだろうか ?
「警察はうるさくないの ?」
 聞いてみた。
「だからぁ、お店の方でも厳しいんですよぉ。お客さんに厭な思いをさせてぇ、もし、警察に訴えられたりしたら大変だからぁ、厭な思いをさせない様にって毎日、厳しく言われてるんですよぉ」
 女は言った。
 わたしはそれでこの年若い女の、年齢には似合わぬ注意深さと思い遣りに納得したが、それ以上に興味は持てなかった。
 わたしは言った。
「明日の朝は何時まで ?」
「一応、八時半までなんですけどぉ、追加料金を戴ければぁ昼の十二時まではいいんですよぉ」
「そうか。で、朝は起こしてくれるの ?」
「はい。目覚まし時計をお客さんの好きな時間に合わせて掛けて置きます」
 女は言った。
「それなら安心だ」
 わたしは言った。
 明日の朝、この如何わしい店を出る時、人に見られる事をわたしは怖れた。
 少なくとも、人々が動き出す前にこの店を出てしまえばいい。
 今日、祝賀会で顔を合わせた誰彼に見られる事も無くて済むだろう。
 わたしは安堵感と共に言う。
「疲れた。少し眠ろう」
 今日一日がひどく長かった様に思われた。
 心身共の疲労感を覚えていた。
 幸い、大きな脈の乱れが無かった事が何よりの救いだった。
 女に触れている間にもその脈の乱れはなかった。
 わたしには奇跡に思われたが、その満足感に包まれながら静かな気持ちで女に聞いてみる。
「君は、このまま朝まで傍に居てくれるの ?」
「はい、ずっと居ますよぉ」
 女は言った。
「それなら君も寝た方がいい」
「はい、寝ますけどぉ、もしぃ、お客さんが眼を覚ました時にぃわたしが眠っていたらぁすぐに起こしてくれますかぁ。何時でもいいですからぁ」
 女は言った。
「うん。そうするよ」
 わたしは言った。

 翌朝、わたしが眼を覚ました時、時計の針は五時を過ぎたばかりの位置を指していた。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                奥様の退院 予定より早まりそう
               何よりです
               お喜び申し上げます
               普段 身近にある物の無い寂しさ
               それが人という存在であればなおさらの事
               安心感 安堵の思いが想像出来ます
               年齢と共の衰え 誰にも避ける事の出来ない現象で
               受け入れる事しかありませんが まずはおめでとう御座います
               これからもお大事になさって下さい
                ドリス ディ アームストロング スティーブ マックイーン等々
               懐かしさばかりが蘇ります 今でもそれぞれ耳や眼に残っています
                山の景色は何時見ても良いですね 今朝もNHKで放送していましたが
               自然の山々 田園風景 その中で暮らす人々の何気ない日常
                 なんの飾りも無い美しい風景です 
                 郷愁と共に憧れを感じます 
                  夏目漱石 芥川と共にわたくしの中では既に古典の位置を占めています
                   古びませんね やはり人間の真実に迫っているからでしょうか
                   何事に付けても物事の真実を突き詰めた物は永遠の命を獲得するという事でしょうか
                奥様の御退院と共にまた以前の生活への復帰の一日も早い事を願って居ります
                 お忙しい中 お眼をお通し戴き 感謝申し上げます
                有難う御座いました



























































 


遺す言葉(518) 小説 <青い館>の女(7) 他 秋彼岸

2024-10-06 12:08:18 | 小説
               秋彼岸(2024.9.27日作)



 
 猛り狂った猛暑
 狂熱の夏も過ぎ
 今朝は爽やか
 秋彼岸の一日
 向かうは冬の季節
 穏やかな日和も終わり
 迫り来る寒さ厳しい日々
 冬へと季節は移り
 変わってゆく
 幾度迎えたこの季節
 時の移ろい 春夏秋冬
 日々生きて来たその中で
 今また迎える
 夏から秋 秋から冬へ
 その季節
 幼き日々の 春
 青春の季節 夏
 斜光 影さす 中年の秋
 そして老年 冬の季節
 春夏秋冬
 自然の季節は移ろい 巡れども 
 人生の春夏秋冬 
 再び 巡り来る事は無い
 枯れた草木
 吹き荒ぶ木枯らし
 厳しい冬 
 人生に於ける永遠の冬 老年
 その果てに待つものは
 永久凍土
 死の世界
     



             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(7)




 
 わたしは豊かなその感触に更なる記憶の底から蘇る様々な肉体を回顧する。
 すると初めてわたしの身体の奥に微かな兆しを見せて欲望が芽生えて来る。
 わたしはグラスを片手に持ったまま、その欲望に形を与えるかの様に豊かな感触の女の肉体を抱き締める。
 わたしの心に昔日を偲ばせて、この肉体を自分の中に取り込みたいという熱気が初めて生まれる。
 しかし、わたしは知っている。
 それが不可能な事で、願望に終わるだけのものでしかない事を。
 事実、わたしの肉体に充実感は生まれて来なかった。
 そして、早くも何時、訪れるかも知れないわたしの身体の奥に潜んだ悪魔が顔を覗かせてわたしを恐怖の淵へと突き落とす。
 わたしの心はたちまち、空気の抜けたゴム人形の様に萎(しぼ)んでゆく。
 女はだが、わたしから唇を離すと首筋に腕を絡めたままわたしを見詰めて、
「今夜は泊まって貰えますかぁ」
 と聞く。
 わたしを誘う姿勢が身体全体に露わになっている。 
 わたしの心はそれで揺らぐ事はない。
 過去に幾度も経験している事だ。
 女達の使う常套手段・・・・しな垂れかかる媚態と甘え。
 総ては営業の上に成り立つ偽装行為なのだ。
 そして楽屋へ帰った女達は言うだろう。
「助平な奴ったらありやしない !」 
 わたしに取っては総てがお見通しの上の戯れ事にしか過ぎなかった。
 根底に於いてわたしは女達を信用していない。
 一夜のうちに気分を変える女達をわたしは数多く見て来ている。
 女達への不信はわたしの意識の中では拭い難いものになっていた。ーー女達は別の世界に住んでいる。
 或いはこれもまた、わたしの妻がわたしの心に植え付けたものなのかも知れなかった。
 妻とわたしとの間には、生涯にわたって踏み越え難い溝がある。
 妻の驕慢がわたしという人間を妻の伴侶にさせて、わたしの心の卑しさが妻の驕慢を形作った彼女の父親の財力にわたしを諂(へつら)わせ、妻に追従させたのだった。。
   この国がまだ貧しかった頃、長野県の雪深い片田舎の小さな農家で五人兄妹の四番目に生まれたわたしには、豊かさと便利さへの抜き難い憧れがあった。
 ーー今、北のこの小さな漁港街の怪しげな店の奇妙な部屋で、父親以上に歳 の離れたわたしを誘う年若い女には一体、どの様な事情があるのだろう ?
 遊ぶ金が欲しいだけなのか ?
 或いは、何かの事情で金が必要なのか ?
 それとも、こういう仕事が好きなだけなのか ?
 何れにしても、わたしにはどうでもいい事であったが、若い女の素直さには好感が持てた。
 それに元々、わたしには今更望むものなど何も無い。少しの酒に心の鍵を解かれた気紛れ半分による遊びでしか無い。
 それでわたしは女の素直さに応える様に、
「君はどっちが良いの ?」
 と聞く。
 女は悪びれる様子も無かった。
「それはぁ、泊まって貰った方がいいですよぉ。営業の成績が上がりますからあぁ」
 と言う。
「じゃあ、泊まっていく事にしよう」
 わたしは言って、すぐに一つの思いに捉われる。
 明日の仕事に支障は無いのか ?
 ホテルのフロントでは、わたしの朝帰りをなんと思うだろう ?
 だが、それらの事は別段、気にする必要も無い様だった。
 開店初日のセールは混雑するだろうから、午後になっても構わない。
 フロントでは、わたしの朝帰りを何んと思おうと勝手に思えばいい。
 迷いはすぐに払拭された。
「有難う御座いますぅ」
 女は今度もまた、素直な喜びを身体全体で表して殊勝に頭を下げた。
 女は続けて言った。
「お金はぁ前金で戴く事になってるんですけどぉ、構わないですかぁ」
 わたしに取っては不都合のある筈もない金額だった。
「うん、構わないよ」
 上着の内ポケットを探り、財布を取り出して一万円札を抜き取り、五万円を女に渡す。
「有難う御座いますぅ」
 女は丁寧に頭を下げて両手で受け取った。
「じゃあ、ちょっと待ってて貰えますかぁ。会計の方へ連絡しますからぁ」
 女は立ち上がるとまた、カーテンの向こうへ消えて行った。
「深紅の部屋ぁ、通しでお願いますぅ」
 女の室内電話をする声が聞こえた。
 女はすぐに戻って来た。
 その夜、わたしと女は一つのベッドで過ごした。
 女はすぐにわたしの衣服を脱がせに掛かり、裸の身体に触れて来た。
 わたしは女の裸体を抱き締める。
 その柔らかい感触がわたしを過去の記憶へと誘う乳房や腹部を自分の身体に押し当てる。
 女は自ら求めて裸の身体をわたしに押し着け、その唇でわたしの唇を塞いで來る。
 それをこじ開け二つの口腔を一つにする。
 わたしは女の行為に任せて為すがままでいる。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


                コメント 有難う御座いました
               今回 記事を拝見していまして 奥様 入院との事
               御心労 お察し申し上げます
               人間 生きている限りは何時かはこういう時が来る
               それは承知の上の事でも寂しいものです 
               御無事の退院 心よりお祈り致します 
               また ブログのお仲間の死 という事で つくづく老齢を生きる境遇を
               意識せずにはいられません 死の季節を生きる
               そんな年代になってしまいました
               どうぞブログの方も一位をお続けになる実力に敬服しながらも
               その順位に拘る事無く これからも楽しい記事をお書き下さる事を願っております          
                何時かは訪れる人の死 生きるも死ぬも人間 最後は独り
               そう自覚して生きてゆくより仕方がないようです
                拙文をコピーして戴いたの事 一位のブログへのコピー 感謝申し上げます
                映画「黄昏」以前にも書いたと思いますがやはり
               もう一度観たい映画です 記事にもあります様に
               フォンダ父娘の共演 それに名女優 キャサリン ヘップバーン
               懐かしいですね
                謄写版 これもまた懐かしい !
               よく原稿を書きました 刷りもしました
               あの黒い文字が眼に浮かびます それにしても   
               当時 ドイツ語 ? 片田舎と御謙遜ですがいろいろこれまでも記事を拝見して来まして
               わたくしなどの居た地方より はるか進んだ環境にあったように思われます
               東京から汽車で僅か二時間足らずの地方の海辺の村に居たのですが
               いろいろ拝見していますと遅れを感じます 
               それでも あの地方で過ごした少年時代は良い思い出に溢れています
               いろいろ 有難う御座いました
               どうぞ 奥様の御看護と共に御自身の体調にもお気を付け下さい
               一日も早い 奥様の御快癒とお二方の共に過ごす日常の戻りを
               陰ながら願っております
                何事に付けても 自身の残り少ない日々を思うと哀しみの感情は
               他人事であっても沢山だという気がします
                有難う御座いました











































 




























 





 

遺す言葉(517) 小説 <青い館>の女(6) 他 凪の海

2024-09-29 12:18:12 | 小説
             凪の海(2026.9.22日作)


 
 
 風は凪 海は静か
 白く輝く 広い砂浜
 人影は無く 
 遠い彼方 水平線に
 入道雲 積乱雲を浮かべて
 海は穏やか
 何事も無いーーこの幸せ
 自然は美しい
 世界は美しい
 美しい自然
 美しい世界
 人間は ?
 人間という愚かな存在
 あちらの陸地を血で濡らし
 赤く染め
 こちらの陸地で草原 樹木を
 踏み荒らし 焼き払い
 限り無く 繰り広げる
 醜い争い 戦争
 人の命を軽んじ 犠牲にして
 恥じる事が無い
 愚かな者達 人間存在
 政治 宗教 総ては虚妄
 名誉 名声 欲望のみに支配された
 虚偽の城 その支配者 長(おさ)達は
 人の命の尊さ 貴重(おも)さ そこに
 眼を向ける事は無い
 自身の権力 虚名 地位保全 
 その事だけに 精一杯 その事だけに
 心を砕く 日々 日毎
 あの地 この地で 繰り広げ
 繰り返される愚かな争い
 血を血で洗う 醜い諍い
 延々 絶える事無い蛮行愚行
 総ては愚かな支配者 長達の
 その下(もと)から生まれて そこから始まる
 それでも海は 今日も穏やか 凪いでいる
 一人の漁師が今日もまた 舟を漕ぎ出し
 海の恵みの魚貝を獲る
 やがて 日は暮れ 漁師は
 家路を急ぐ舟の上
 今日も一日 穏やかだった
 何も無く 変わった事も無い
 平々凡々 その一日 
 平々凡々 何も無い
 平々凡々 それでいい
 昨日も今日もまた明日も
 平々凡々 何も無い それでも
 こうして生きている
 生きている
 命の尊さ 貴重さ この世に生まれ 恵まれた
 一つの命 人間 人のその命 命の全う
 政治 宗教 虚偽虚飾
 もう沢山
 血を血で洗う醜い争い
 沢山だ !
 誠実 謙虚 真摯に生きる
 人と人との心を通わせ
 自身に向き合い 真摯に生きる
 平々凡々 日々同じ それでいい
 海の彼方に夕陽は沈み
 夜が来る
 家に帰った漁師は今日も
 明日の豊漁夢に見て 
 夜の静寂 その中で 心安らか
 眠りに就く 
 迎えた朝の 今朝の海
 波は穏やか 風は凪ぎ
 漁師は今日も
 一人 静かに舟を出す
 海は穏やか
 風は 凪ぎ




              ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               <青い館>の女(6)




 
 女がその扉を開けると眼の前には狭くて短い階段があった。
 女はわたしの先に立って階段を上がった。
 人気の無い青い灯りの点った廊下が眼の前に現れた。
 女は奥に向って廊下を歩いて行った。
 両側に四つの部屋が並んでいた。
 部屋の入口それぞれに薄紅、焦げ茶、黄、紫、緑、薄紅梅、緑黄色の小さな明りが点っていた。
 明かりの色が部屋の色になっている、と女は言った。
 女は一番奥、左側の部屋の前へ来て足を止めた。
 深紅の明かりが点いていた。
「これがぁわたしの部屋なんですけどぉ、今ぁ鍵を開けますね」
 女は化粧バッグを開けて中を探り、合い鍵を取り出した。
 女が鍵を差し込みドアを開けると、外から僅かに覗けた部屋の中には深紅の明りが濃い翳を作っているのが見えた。
 女は先に立って部屋へ入ると、ドアを押さえてわたしを中へ導いた。
 部屋は八畳程の広さかと思われた。
 ほぼ中央を仕切って明かりの色より更に濃い、深紅の厚手のカーテンが鈍い光沢を見せて下がっていた。
 向こうにはベッドがあるらしかった。
 入口正面、部屋の奥には毛足の長いこれも深紅の三人掛けソファーが置かれてあった。
 部屋全体が濃密で淫靡な気配に満ちていた。
「すいません、ちょっとぉそのソファーで待ってて貰えますかぁ。今すぐに着替えて来ますからぁ」
 女は入口で気を呑まれた様に立っているわたしに向って言った。
 わたしが頷くと女はドアに鍵を掛け、深紅のカーテンの向こうへ消えて行った。
 わたしは言われたままにソファーに腰を下ろした。
 腰の半分程が埋まる感覚のソファーだった。
 膝元には店の名前そのままに、青の濃いテーブルが置かれてあった。
 上にはAVビデオや若い女性の裸を満載した写真雑誌などが置かれていた。
 他にはテレビがあるだけだった。
 豪華さを気取った雰囲気とは裏腹に何処とは無いうそ寒さがわたしの心を覆う。
 わたしは豪華さを気取った部屋の淫靡な雰囲気にも係わらず、眼の前に置かれたAVビデオや裸雑誌にも興味を抱く事も出来ないままに、ただ、抜け殻の様に空虚な心を抱いたまま坐っていた。
 頭の中には何もなかった。
 空疎な思いだけが満ちていた。
 女に導かれるままにこの部屋に来てしまったが、自分がこの場の雰囲気に馴染めるとは思っていなかった。
 初めて訪れた北の小さな漁港街の怪しげな店で、千載一遇の機会を楽しもうなどという気も湧いて来なかった。
 わたしの身体の中では最早、総てのものが空虚な影の存在としてしか認識出来なくなっていた。
 若かりし頃の溌溂としたあの気分と心の昂揚は遠い昔の、今では帰る事の出来ない過去でしかなかった。
 何時、訪れるかも知れない突然の発作とその先にあるもの・・・・意識を過(よ)ぎるのは常にその不安だった。
 それがわたしの総てを奪ってゆく。
 自身を生きる事の出来ないこの空虚。
 わたしは最早、屍でしか無い。
 カーテンの陰に消えた女はなかなか戻って来なかった。
 わたしを焦らし、気分を昂揚させる為なのか ?
 それでも、わたしの心は萎えたままだった。
 わたしは手持無沙汰のままにAVビデオやヌード雑誌を手に取ってみる。
 それがわたしの心を昂揚させる事は無い。
 わたしは手にしたものを元に戻して部屋の中に視線を漂わす。
 途端に暗い明かりの深紅の色が息の詰まる様な感覚で迫って来る。
 思わず息苦しさを覚えて大きく息を吐く。
 更に、足元のテーブルの青が部屋の暗い深紅と絡み合ってわたしの眼を混乱させ、刺激する。
 わたしは苛立ちと共に女の消えたカーテンに眼を移す。
 その時、カーテンが微かに揺れて女がカーテンの陰から姿を現わした。
 女は裾を引きずる赤い身体の透けて見えるネグリジェを付けていて、その下は全裸だった。
 女の肉体の総てがわたしの眼に映った。
 女は両手にブランデーのグラスを持っていた。
 中味が微かに揺れて、わたしの傍へ来た女は、
「どうぞ」
 と言って、右手に持ったグラスをわたしの前へ差し出した。
「有難う」
 わたしはグラスを受け取った。
 女はソファーに腰を下ろすとわたしに身体を摺り寄せて来た。
「お客さんとわたしの夜の為にぃ乾杯 !」
 女はわたしの前に自分の持ったグラスを差し出して言った。
 わたしは小さく自分の持ったグラスを差し出して女の言葉に応える。
 それでも、わたしの心は萎えたままだった。
 こんな行為の無意味な事をわたしは知っている。
 一体、わたしは何に乾杯するというのか ?
 女はだが、わたしの気持ちなどに拘ってはいなかった。
 自分のグラスの中味を口に含むと、その口をわたしの口元へ寄せて来る。
 わたしの首に腕を絡めて女は、その唇をわたしの唇に押し付け、口に含んだブランデーをわたしの口に流し込んで来る。
 わたしは女の為すがままにそれを受け取る。
 わたしの脳裡には無意識裡に、過ぎ去った日々に蓄積された数々の思い出が蘇る。
 幾度もあった同じ様なこの行為。
 女のネグリジェを着けただけの肉体が、わたしの衣服を通してわたしの身体に触れて来る。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               takeziisan様


               
               リバティバランスを射った男
              人を思い遣る暖かい心を持ちながら無口で無骨ゆえに
              黒色人種の下僕一人に見守られただけで死んでいった男の悲哀
              数々の名作を持つフォード監督の作品の中でも
              「捜索者」と並んで一、二を競う名作だと思います  
              「カサブランカ」 あのピアノの場面と共にラストシーン    
              良いですね 名場面の一つだと思います  
              「ウエストサイド物語」ジョージ チャキリスが一気に名前を売りましたね        
              「危険な関係のブルース」何度 聴いたか分かりません
              勿論 レコードは持っています
              冒頭の音を聴いただけで自然に体が揺すられてしまいます
              アート ブレイキーとジャズメッセンジャー
              懐かしい名前です
               尾瀬 八月末に那須へ旅行しました
              あの自然が良いですね 山々の樹々 空気の清涼さ
              車の並んだ風景を拝見して改めて思い出しまた                      
                都会の風景の殺風景な事 心の潤いも失われます
              猿にイノシシ 様々な害を思っても何故か 羨ましく思われます
               川柳 相変わらずいいですね
              どの作品もそうだそうだと頷けます
              以前見た何処かの代表作品集に比べ 深さが感じ取れます
              勿論 以前にも書きましたがオベッカではありません
              失礼ですが やはり 年の功という事でしょうか
              「深い」 冒頭の二句 皮肉と深さ まず心に響きました
              その他 皮肉たっぷり等 面白く拝見しました
              有難う御座いました















































































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遺す言葉(516) 小説 <青い館>の女(5) 他 時間という悪魔

2024-09-22 12:46:26 | 小説
             時間という悪魔(2024.9.2日作)



 
 青春の樹々は日々 
 日毎に美しさを加え
 逞しさを増して その 葉を
 陽光に輝かせ 彩り豊かに 伸展
 天を目差して 伸びてゆく
 老齢の樹 老木は日毎 年毎
 その光りを失い 衰退 衰えの色を深くして
 命の輝き 色彩を失くしてゆく
 時 時間は 片時も休みなく
 刻一刻 時々刻々 流れ
 過ぎて行く
 時々 刻々 休みなく過ぎて行く時間 この
 時間という悪魔
 世界の総てを創り 
 世界の総てを消し去り
 破壊と創造 その繰り返し
 変わる事無い この世の法則
 人の世の営み
 新たに生まれ来る世界
 日々 時々 刻々 失われ行く世界 永久不変の
 時間という悪魔 この前で
 総ては無力 総てが無意味 無
 虚無の世界 人はただ生きる
 生きる事 只今現在 今を生きる
 人に出来る事 それのみ
 迫り来て 過ぎ行く時間 その前で 総ては無力 無
 無 無 無 虚無 虚無 虚無 虚無・・・・虚無




         ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




            <青い館>の女(5)



 

 女はわたしの行為を拒まなかった。
 むしろ、わたしを誘う様に身体を寄せて来る。
 わたしはそんな女の耳元で言う。
「いい歳をして、助平な奴だと思うだろう」
 女はその言葉に答えて、
「そんな事、無いですよお。此処へ来るのはみんなが歳を取った人達ばっかりだしぃ、若い人達はこのお店へは来ないんですよぉ、高いからあ」
 と言った。
「一万円で高いの ?」
 わたしは驚いて聞いた。
 わたしの感覚では理解出来ない金額だった。
「そうですよぉ。一時間、五千円か六千円で遊べる処がいっぱいあるからぁ、若い人達はみんなそっちへ行っちゃうんですよぉ」
 女はなんの不思議も無い様に言った。
「じゃあ、此処へは年寄りだけが来るんだ ?」
「年寄りだけって事も無いんですけどぉ、お店で遊ぶだけならぁ、若い人にはもっと面白い処もあるしぃ」
「こんな風な店が ?」
「そうなんですよぉ」
「それなら、君もそっちへ行った方が楽しいんじゃないの ? こんな年寄りを相手にしているより」
「嫌(いや) ! わたし、若い奴なんて大ッ嫌い」
 思わぬ激しさで女は言った。
 その口調の激しさにわたしは驚いた。
 女の顔には微かな怒りの表情さえが浮かんでいる様に見えた。
 女のそんな様子に戸惑いながらもわたしは、
「じぉあ、年寄りが好きなんだ ?」 
 と、冗談めかして言った。
 すると女は、
「だってぇ、歳を取った人の方が優しいからぁ」
 と何故か、沈んだ声で呟く様に言った。
 その言葉には、自分に言い聞かせる様な響きと共に、哀しみにも似た色合いが含まれていて、女の心の微妙な揺らめきが感じられた。
 わたしはだが、そんな女の抱える事情にまで踏み込んでゆく心算は無論、無い。それで、女の腰に廻していた手を胸に這わせ、その乳房に微かな愛撫を加える。
 女はわたしの動きにも嫌がる素振りは見せなかった。かえってわたしを誘う様に女自身もわたしの身体に胸を押し付けて来て、
「もし、良かったらぁ、奥の部屋に行ってみませんかぁ。料金は別料金になるんですけどぉ、そこでなら自由に遊べますからぁ」
 と言った。
「二人だけになれるの ?」
 わたしは女の言葉に好奇心からのみ聞いていた。
「そうなんですよぉ」
 女は言った。
 先程の寂しげな様子とは違って、早くも商売女の表情に戻っていた。
「でも、駄目なんだ。今日は酒が入ってるから」
 わたしは自身の不可能性を意識して逃げの姿勢に入っていた。
「ああ、それならぁ、別にぃ気にしなくても大丈夫ですよぉ。お年寄りの人にはそんな人がいっぱい居るしぃ、ただ気ままに遊んで貰えればいいだけなんですよぉ」
 わたしの不安をよそに女は、珍しい事では無いかの様に言って気にする様子も見せなかった。
 その言葉に誘われてわたしは、
「別料金って幾らなの ?」
 と聞いていた。
 ここでも好奇心が働いていた。
 「明日の朝までなら五万円でぇ、二時間ならぁ二万円なんですよぉ。その後(あと)ぉ、四十分毎に五千円ずつ戴くんですけどぉ、ちゃんと個室になていてベッドもあるんですよぉ」
 女はまるで貸間を貸す女主人でもあるかの様に言って、なんの拘りも見せなかった。
「個室って、此処には幾つも部屋があるの ?」
 女の言う事がよく理解出来ずにわたしは聞いた。
「そうなんですよぉ」
 女は言った。
「幾つあるの ?」
「八個なんですよぉ」
「八個 ? で、女の子は何人居るの ?」
「八人居るんですよぉ」
「じゃあ、八人居て、みんながそれぞれに部屋を持っているっていう事 ?」
「そうなんですよぉ」
 思わぬ処でわたしは興味を引かれた。
 それが本当なら、どんな部屋なのだろう ?
 怪しげな店の雰囲気の戸惑いにも次第に馴れて来て、興味の赴くままにわたしはその部屋を見てみたいと思った。それで、女に対する心使いでもあるかの様に装って、
「此処に居るよりそっちへ行った方が君たちには良いの ?」
 と聞いた。
「それは勿論ですよぉ」
 女は力を込めて言った。
 その言い方がわたしを誘っている様にも思えた。
 続けて女は、
「もしぃ向こうへ行って貰えるんならぁご案内しますけどぉ」
 と、口に出して誘いを掛けて来た。
 その言葉と共にわたしは先程、女の「それなら別に気にしなくても大丈夫ですよ」と言った言葉を思い浮かべ、自身の肉体の不可能性への拘りを抱く事も無く、赴く興味のままにその部屋へ足を運んでみたい気持ちに動かされていた。
 当然の事ながら、女が言った五万円という金額が安いものか高いものか、現場を見て見なければ分かるはずのものではなかった。
 それでも、普段わたしが重ねて来た様々な遊興の中では決して、高額とは言えない金額だった。金額に対する迷いはわたしの気持ちの中には無かった。
「じゃあ、それがどんな部屋なのか行ってみようか」
 わたしは言った。
 女はその言葉を聞くとこぼれる様な笑顔を見せて、
「すいません、有難う御座いますぅ。そうしたらぁ、すぐにご案内しますからぁ」
 と言って、早速、わたしに寄せ掛けていた身体を離して立ち上がった。

 女はわたしを導いて暗い店内の通路を奥へ向かって進むと、一見、壁と見紛う厚い扉の前で立ち止まった。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




               桂蓮様



                お忙しい中 お眼をお通し戴き有難う御座います
               先週 拝見しましたがお身体の不調 お大事になさって下さい
               何れにしても身体は動かさなければ衰える一方です
               血流が関係しているのだと思います
               わたくしはほとんど 自己流マッサージと指圧で治しています
               少し前 膝に痛みが出て心配したのですが 
               毎日の指圧とマッサージで今は殆ど痛みが無くなりました
               また 左の耳が気が付いたら聞こえなくなっていたのですが
               これもマッサージで治しました 今ではほぼ完全に聞こえます
               耳は一度悪くなったら治らないと聞いていたのですが
               何れにしても 今もマッサージは続けています
                兎に角 人間 生きる上で 基本的な事が何より大切だと思います
               基本をおろそかにしない 基礎の出来ていない建物は壊れ易い
               すぐにボロが出る どの世界に於いても同じ事だと思います
               幸い 何処も悪い所は無いのですが年齢からみて
               何時 何があってもおかしくないと思って日々の生活に今までより一層
               注意をしています
                有難う御座いました


               


                 gtakeziisan様



              何時も有難う御座います
             暑さ寒さも彼岸まで どころか猛暑 衰える気配なし
              確実に気候は変わりました
             この先 地球の気候はどうなる事やら 人類危機の懸念さえ
             頭を過ぎります 実際に気候変動はこれまでにも地球上に様々な影響を及ぼしていると聞くと
             絵空事では済ませない気がして来ます
              それにしても何やかや 厳しい世の中になったものです
             そんな中 秋の七草 様々に咲く花は心慰めてくれます
             毎年毎年 変わる事の無い自然の移ろい 姿ですが
             またこの季節を迎えた と思います
              雹 落ちた銀杏 懐かしい風景ですが この地方では
             滅多に見られません
             銀杏は眼の前にそれなりに大きな公園があり そこに何本も並んでいるのですが
             まだ樹が小さいのか 毎年 剪定をしてしまうせいか稔りません
             銀杏を煎って食べるのが好きなんですが
             雹はこの地方では滅多に見られません 何時も書く様ですが
             気候的には本当に安定した住みよい場所です
             今朝もニュースで能登地方の大雨を放送していましたが
             踏んだり蹴ったり 災難の上に災難 お気の毒の一言で 言葉もありません
              懐かしい音楽の数々 思い出ばかりが蘇ります  
             それにしても此処に見る人達の誰彼がみんな遠い人になってしまって
             自身の人生の残りも思いやられます
             生きる事の厳しさが年々 身に沁みて来ます
              楽しい画面を有難う御座います


























 

遺す言葉(515) 小説 <青い館>の女(4) 他 雑感四題

2024-09-15 12:20:33 | 小説
              雑感四題(2020~2024年)



 
 1   無意識の世界は
   知識から得られるものではない
   体験から得た事実感覚が基になり
   自ずとその物事に対しての行動を促す
   知識 理論だけでは及ばぬ世界
 
 2     禅の世界は日常 常套を 超え その
   向こう側に有る 
   物事の本質に迫る世界
   理論 理屈 知識では
   到達し得ない

 3      人生は
   未知から未知への旅
   今日という日の運命も
   今という時の一寸先も
   見えないーー偶然は何時でも起こり得る 
   明日という日はなおの事
   総ては未知の世界を歩んで行く旅
   旅が人生 人は時を旅する旅人

 4  古時計 壊れたままに 年老いて
   
   行く時の ツバメの如し 五月雨
   
   思い出の 年毎増えて 今一人
   
   父が居て 母が居て 夢一夜 




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              <青い館>の女(4)



 

 男が消えるとわたしはまたしても落ち着かない気分に捉われた。
 料亭やそれなりに高級なクラブには馴れていても、この店の如何わしさには怖れがあった。
 落ち着かない気持ちのままに煙草が欲しいと思ったが、既に何年も前に止めていた。
 無論、心臓発作への恐怖からだった。
 そうするうちに女性が来た。
 カーテンの入口を塞ぐ様にして立った女性は、薄いピンクの短いネグリジェにも似た透き通る衣装を着けていて下着が透けて見えていた。
 一目で幼さが見て取れた。
「いらっしゃいませぇ」
 小さな化粧バッグを手にした女性は丁寧にお辞儀をして言った。  
「今晩わ」
 わたしは座席から見上げて言ったが、その若さの前ではやはり居心地の悪さを覚えずにはいられなかった。 
 いい歳をした助平親父が・・・・そう思われるに違いない。
 自分が好色で品性の無い人間と思われる事に屈辱感にも似た感情を覚えて居た堪れない気持ちになった。
 少なくともこのいかがわしい店には、一流クラブや高級料亭の様にわたしの自尊心を満たしてくれるものは何も無い。
 惨めさと屈辱的な思いだけが増した。
「お邪魔しますぅ」
 若い女性はだが、屈託がなかった。
 如何にも馴れた口調の商売用といった上品さを気取って明るい声で言うと、そのまますぐにわたしに身体を押し付ける様にして座席に坐った。
 若い女性の柔らかな肉体の感触が直(じか)にわたしの肉体に伝わった。
 瞬時に甦る幾重にも重なり、混じり合った過去に得た感触だった。
 目まぐるしく、走馬灯の様に交錯する様々な感触、体験、若かりし頃の豊かな色彩に彩られた記憶がわたしを過去へと引き戻す。
 だが、そんな過去も今のわたしには枯れ葉の世界に埋もれた遠い日々の記憶でしか無かった。
 あの日々の再び戻る事は無い。
 わたしの心は萎えていた。
 この店のいかがわしさにも係わらずわたしは、女が静かにして居てくれる事を願わずには居られなかった。
「このお店へは初めていらっしゃったんですかぁ」
 女はなお、屈託のない声でわたしを見詰めて言った。
 歳は幾つぐらいになるんだろう ?
 二十歳  ? あるいは、二十一歳か二歳にはなるのだろうか ?
「そう、初めてなんだ。霧に包まれた夜の街があんまり綺麗だったもので、歩いて来たら呼び止められた」
 若い女の屈託の無さに誘われて自ずと柔らかい口調になっていた。
「旅行でいらっしゃったんですかぁ ?」
「そう」 
 わたしは無意識の裡に取り繕っていた。
 こんな所でわたしが誰かを知られては拙い。
<スーパー・マキモト>の存在が頭の中にはあった。
 この事が直接、営業に影響を及ぼす事は無いかも知れないが、もし、噂が広がれば店員達の間でわたしの権威は忽ち失墜してしまうだろう。
 北の小さな漁港街のピンクサロンで遊んでいた会長。
 社員や店員達は蔑みの眼でわたしを見るだろう。
「でも、こんな辺鄙な漁港街へ旅行で来るなんて珍しいですよぉ」
 女は言ったがわたしの言葉を疑う様子は無かった。
「観光客が来る事はないの ?」
 言い訳でもする様にわたしは聞いた。
「仕事なんかで来る人は時々いますけどぉ、観光なんかで来る人はあんまりいないですよぉ。ロシア人達はよく来ますけどぉ」
「ロシア人 ?」 
 わたしは意外な思いで聞いた。
「そうなんですよぉ。漁船に乗ったロシア人達が蟹やお魚を持ってこの港に来るんですよぉ。それでぇ、隣り町まで行ってぇ、日本製の電気製品なんかを買って行ったりするんですよぉ」
 女はそれが当たり前の事の様に言った。
「ああ、そうか」
 わたしは納得する思いだった。
 と同時に早くもわたしは長年の習慣から身に付いた、経営者としての立場からこの事を考えていた。
 息子や店長はこの事を知っているのだろうか ?
 当然、知っているだろう、と思った。
 市場調査の為に息子は何度もこの街に来ているのだ。
 店長はどうだろう ?
 いずれにしても、この街ではロシア人相手の商売が成り立つかも知れない。
 女の言葉はわたしには予期せぬものだったが、それとは別に改めてそんな情報の何一つわたしの耳に入っていなかった事にわたしは、小さな驚きと共に些かの寂しさをも感じ取っていた。
 これが、息子が完全に独り立ちをしたという事なのだろうか ?
 殊更、わたしに反抗的な息子では無かったが、それでもわたしは、北の街での細かな情報の何一つ、わたしの耳に入れる事無く仕事を進める息子に次第に遠くなって行く姿を見る思いがして、一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった。
 その後ろにはやはり妻の影がある。
 𠮟咤激励する妻。
「あなたのお祖父さんなら」「あなたのお祖父さんは」
 幼い頃から母親に飼い馴らされて来た一人息子は、漸く母親離れをしたとはいえ、未だにその影響の皆無だとは言い切れないものがあった。
 事に当たっての決断にはわたしより先に母親の意見を求める。
 すると母親は息子の父親であるわたしの意見を聞く事も無く「失敗を恐れるな。兎に角、遣ってみろ。決断は迷わず、損切は早くしろ。迷ったら負けだと思え、それがあなたのお祖父さんの口癖だったのよ」と言う。
 息子はそれで漸く、公園で遊ぶ許可を貰った子供が表へ飛び出して行く様に心を決めて、危ない橋も渡って行く。彼の祖父を思わせる強引さで。
 幸い、今日まで大きな怪我の無かった事が何よりだ。
 だが、彼等、息子も妻も、息子の祖父も、わたしが何時も彼等の歩いた跡を懸命に均して歩いていた、という事実に眼を向ける事は全く無かった。総ての事が当然の事だと思い込んでいる。ーー
 考えて見ればそんな事の総てが、わたしに取っては屈辱以外の何ものでも無かったが、今更、こんな所で悔やんでみても始まらない。今は今という時間の中に自分を埋め尽くして総てを忘れてしまうがいい。
 わたしはそう自分を納得させると初めて、若い女の裸体にも見える衣装を纏った柔らかい肉体に腕を廻わした。
 踏み込んで女の世界に入って行く事は出来ないが、その肉体の甘味な感触だけは楽しむ事が出来る。




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様

       
                彼岸花 もうそんな季節になりましたか  
               それにしてもこの猛暑 彼岸花の実感が湧きません
               田圃などの畦道に一面に咲く彼岸花 あの爽やかな秋の気配が懐かしさの中に
               偲ばれます
                朝五時台の出動 お元気な証拠ですね
               わたくしは五時前後に一度眼を覚まし 六時半の起床に向って
               また一寝入りです   
               幸い 寝付きは良く ぐっすり眠れもします
               お陰様で健康体で老人介護保険料など少しはキックバックしてくれ と
               ボヤキたくもなります
               クスリを呑む事も無く保険料の厄介になるのは    
               毎年の健康診断料のみです
               奥様の薬の分別 母親を思い出しました
                チャップリン 街の灯 良いですね
               ドタバタの中に込められたヒューマニズム
               他の喜劇には無い優れた要素です 天才が偲ばれます
                川柳入選作 それなりに状況を読んでいるとは思いますが
               これは・・・と言った身を乗り出す様な秀作はない気がします            
               鋭い皮肉の利いた作品が欲しいですね
                この暑さ 何時まで続くことやら
               運動 身体を動かす事 歳を重ねれば重ねる程
               必要になって来ると思います どうぞ これからもウォーキング 水泳 続けて下さい
               何か一つの趣味を持つ事も大切ですね
               川柳も頑張って下さい
                有難う御座いました