積み木の家(2022.11.23日作)
壊れた愛のかけら 集めて
積み木の家を積んでみたって
それがどうなると言うの
所詮 あの人はいない
背中を過ぎる虚しさだけが
悪魔のようにしのび寄るのよ
涙にぬれて一人もとめる
積み木の家の愛は虚しく
夜の静けさが辛い
なぜか あの人は去って
雨戸をゆらす夜風の音に
孤独な胸が切なく痛む
忘れることを望む心で
積み木の家を壊してみても
辛い思い出が残る
所詮 あの人は遠く
なきがらだけの思い出ならば
過ぎゆく過去に埋めたい
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華やかな噓(5)
川野は徐々に窮地に追い込まれてゆくような苦しさを覚えながら、それでもなお懸命に虚勢を保つ事だけに心を砕いていた。
「そんなにひどい事を言ったんですかね。もう、まったく覚えていない。人間なんてずるいもので、自分に都合の悪い事はみんな忘れてしまう」
川野は決してその時の事を忘れてはいなかった。自分の不遇意識が強まるにつれ、当時の事はより鮮明に脳裡に甦って来た。
四十歳を過ぎても川野は家庭を持つ事も出来ず、相も変らぬその日暮らしの根無し草生活を続けていた。
もしあの時、明子の望むままに家庭を築いていたら、今頃はもっとまともな人生を生きていたかも知れなかった。それがどのような人生であれ、多分、今よりは増しな人生だったに違いない。子供を育てる事に追われ、売れない詞を書く事などもやめていたかも知れなかった。川野にとってはむしろ、その方が幸福だったのではなか・・・・。
川野はふとした折りに、今はもう決して取り戻す事の出来ない、明子との間に出来た子供の年齢を数えてみる事があった。
十一歳 ? 十二歳 ?
街なかの人込みでその年頃の子供を見かけると、幻の自身の息子や娘の姿が思い浮かんだ。かと言って、明子との結婚生活が必ずしも、幸せに彩られたものばかりとは限らないーー。そう否定してみても、現在の自分の生活がそれ以上のものだという保証は何処にもない。愚かな夢に翻弄されたこれまでの人生の虚しさだけが色濃く心に残った。
「でも、昔の事をこうして静かに落ち着いた心で話し合えるのも、お互いが歳を取ったという事でしょうか」
明子は言った。
「そういう事なんでしょうね」
川野も寂しさを滲ませた微笑を浮かべ、明子の視線から眼をそらし、短くなった煙草を灰皿に押し付けながら言った。明子の視線に自分の本心を見抜かれるのが怖かった。
「でも、あなたが幸せでいてくれて、本当に良かった」
川野はようやくの思いで再びそう口にしたが、ともすれば滅入りがちになる気持ちを抑える事で精一杯だった。
「川野さん、御結婚は ? 勿論、なさってらっしゃるんでしょう」
ふと思い付いたかのように明子は言った。
川野は虚を突かれた思いで戸惑った。
「ええ、まあ」
とだけ、曖昧に答えるより仕方がなかった。
「お子さんは」
「いないんです」
「おつくりにならないの ?」
「そういうわけじゃないんだけど」
軽い笑みに紛らして言った。
明子がふと、自分の腕時計に眼をやった。
先程までの色とりどりに装った人々で混雑し、賑わっていたロビーでは人影がまばらになっていた。明子はその静けさを気にしたようだった。
微かな響きで流れる音楽だけが聞こえていた。静かな落ち着いた雰囲気が戻っていた。
ロビーを包む巨大なガラスの外は既に夜の気配で満ちていた。
タクシーが明かりを点してしきりに行き交った。
「これから、どちらか御予定はあるんですか ?」
川野はなんとなく明子の上に、家路を急ぐ家庭の主婦の姿を垣間見る思いがして、誘いの意味を込めてではなく聞いた。
「いいえ、もう帰ります。本当はもっと早く帰る心算でいたんですけど、久し振りに銀座へ出て来て、なんとはない懐かしさに愚図愚図していたら、川野さんにお会いしたものですから」
明子は言った。
「御免なさい。思わぬ邪魔をしてしまって」
「とんでもない事です。思いがけずお会い出来てとても懐かしかったです」
明子は正直、思わぬ出会いに懐かしさにも似た感情を抱きながら言った。
「これから帰って夕飯の支度では、もう遅いですね」
冗談を浴びせるように川野は言った。
「ええ、でも心配はないんです。お手伝いさんがしてくれていますから」
明子はそのような心配は無用だとでもいうように、事も無げに言った。
川野はその言葉に笑顔で頷いたが、瞬間、気持ちの中では再び、嫉妬にも似た感情がうごめいていた。
手伝いを雇う程の恵まれた生活環境に明子は生きている。
明子はそんな川野の胸の裡などおもんばかる様子もなく、
「ちょっと失礼していいでしょうか。荷物を取って来ようと思うので」
と言うと軽く頭を下げ、席を立ってクロークルームへ向かった。
すぐに結婚式の引き出物と思われる物などを手にして戻って来た。
川野は立ち上がって明子を迎えた。
「車で来ようかと思ったんですけど、途中、何があるか分からないと思って電車で来たんですけど、やっぱり車にすれば良かった」
明子は両手に持った荷物を見せて笑いながら言った。
「浦和まではどの位かかりますか」
川野は明子のその様子を見ながら笑顔で聞いた。
「家へ着くのには二時間と少しぐらいです」
二人はそのままロビーを出て、タクシーが待つ乗り場へ向かった。
タクシーを待つ間、川野はかつての何時か、明子と二人、こんな時間を過ごした事があったような思いに捉われた。
タクシーが来ると明子は迷いもなくドアの開いたタクシーに乗り込み、そのまま座席に収まった。
ドアが閉まると同時に車が動き出した。明子は微かな笑顔で軽く会釈した。
手は振らなかった。
タクシーが建物の角を曲がり、見えなくなると川野はそのまま大通りに向かって歩き出した。
なんとはない空虚感があった。
もう再び、明子に会う事はないだろう。
明子が遠く、去りゆく存在に思えた。
かつての二人には今日別れても、明日また会えるという希望ががあった。
川野は空虚な胸の裡を抱えたまま、無数のネオンサインが煌びやかな光りを放つ銀座へ向かって歩いて行った。
これから何処へ行こうか ?
バーテンダーの仕事は休みを取っていた。行く当てもなかった。
三島明子は京浜東北線の電車の座席に腰を降ろすと、緊張感のほどける思いで大きく息を吐いた。
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takeziisan様
お忙しい中 何時もつまらぬ文章にお眼をお通し戴き
有難う御座います
今回もブログ 楽しませて戴きました
拝見した眼では確かに土壌が良くないように思えます
前にも書きましたが小石も多いようで
自分の田舎の柔らかな黒土の良さをしみじみ思い出します
その中での豊富な野菜 御苦労も確かに多いのではと想像出来ます
豊富なジャム 羨ましい限りですが今時 桑の実ジャム
びっくりしました 子供の頃 ドドメと言って
口の周りを真黒 ? にして食べた事を思い出します
わが家の隣りに桑畑があっものですから
美味しかった記憶が残っています
秋の気配いっぱい
秋は嫌いではない季節ですが迫り来る冬を思うと憂鬱に
でも秋の景色が醸し出す憂愁は何ものにも代えがたい魅力に満ちています
この感情は好きです
「枯葉」まさに今の季節そのものの憂愁に満ちています
でも ピアフは初めてだと思います
モンタン グレコ 高英男を思い出します
公演で聞いた高英男の最後の箇所を唄う時のデクレッシェンドは今も耳に残っています
懐かしい曲です
秋の詩 昭和四十年というと・・・・
文学青年だったのですね
御自分でお読みになっても なつかしいのではないでしょうか
川柳 皮肉の利いた眼差し 皆さん 上手なものです
日頃の不満を笑い飛ばす
誰にも迷惑を掛けない憂さ晴らし
いいですね
今回も楽しませて戴きました
有難う御座います