遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(475) 小説 いつか来た道 また行く道(35) 他 生きるのだ

2023-11-26 12:16:21 | 小説
             生きるのだ(2023.11.3日作)



 生きるのだ
 生きねばならぬ
 風が吹く 波が起つ
 航路は厳しい
 舟人よ 負けるな
 しっかり帆綱を握り締め
 舵を取れ
 緑あふれる夢の島
 憧れの 島はまだ遠い
 波起つ海 吹き荒ぶ風
 顔面一杯 潮を浴び
 揺れ 揺れ 揺れ動く
 小舟の航路は まだ遠い
 波起つ海 吹き荒ぶ風
 それでも地球は廻わる
 廻わる地球に何時かは来る
 波穏やかな航路の日和 
 夢の島 緑の島は
 もうすぐ其処だ あと一息
 息を抜くな 気を緩めるな
 君の憧れ 夢の島
 光り溢れる 緑の島に
 辿り着く その日まで




            
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             いつか来た道 また行く道(35)



 

 わたしは玄関の鍵を開け、中に入って明かりを点けた。
 上にあがって大広間へ男を導いた。
 男は広間へ入るのと共に、豪華なシャンデリアの下がった部屋の中を中沢が見せたのと同じ視線で物珍し気に眺め廻わした。
 わたしはそんな男には構わずに中央近くにあるテーブルの一つに行くと、コンビニで買ったパンの入った紙袋を置いて、
「ここに座って弁当でもパンでも好きな物を食べなさいよ。今夜はそれぐらいしかやる事が無いんだから」
 と、男に言った。
 男はわたしの言葉を聞いて我に返ったようにテーブルの上に視線を戻すと、
「今、何時だ ?」
 と言って自分の腕時計を見た。  
「ああ、もう九時だ。随分掛かったなあ。途中まででも高速道路を使えば良かったんだよ」
 と、長い道程(みちのり)にうんざりした様子で言った。
「人にお金を出させるくせに気軽に言わないでよ」
 わたしは相手にしない口調で、それでも言葉だけは返した。
「おお、寒いなあ。暖房は無いのかい ?」
 慣れない気候が薄着の身にはさすが応えるらしく男は、広間の中を見廻わしながらまた言った。
「暖房なんてある訳ないでしょう。夏の間、避暑に来るのになんで暖房なんかが必要なのよ」
 わたしは突っ慳貪に言い返した。
 無論、嘘だった。暖房もあれば冷房もある。設備は整っている。それでも、それを使用しては拙いのだ。
 わたしの頭の中ではここまで来る道程の中であれこれ、様々な思いが錯綜していた。どのようにしてその機会を捉えるのか ? 結論は出ていなかった。
「とにかく、そこに座って何か食べていなさいよ。今、上に羽織る物を持って来て上げるから」
 わたしは自分の胸の中の思惑を悟られないようにという思いから、殊更、穏やかに親しみを込めた口調で言った。
 男はわたしの穏やかな口調に安心したのか、寛いだ様子を見せてソファーに腰を下ろした。
「さすがに腹が減ったよ」
 如何にも疲れ切った様子で言った。
 車に乗り込んでからの男は何一つ口にしていなかった。
 そんな男を見ながらわたしは、男の手に何もない事に気付いて聞いた。
「あなた、写真は車から持って来た ?」
「ああ、ここにあるよ」
 ジャンパーのポケットから先程の白いビニール袋を取り出して男は言った。
 それを見てわたしは缶コーヒーの入った袋から一本を取り、蓋を開けて口に運んだ。
 男もそれで食欲を刺激されたのか、パンの入った袋に手を延ばして菓子パンの一つを取り出した。
「今夜はここで一晩過ごすのかい ?」
 パンの袋を破りながら男は聞いた。
「違うわよ。ちゃんとベッドもあるし、布団もあるわよ」
 わたしは缶コーヒーを口に運びながら言った。
「だけど、部屋は別々にしてくれよ。側にあんたに居られると安心して眠れねえからなあ。いつ首を絞められるか分かりやしねえよ」
 男は満更、冗談でもないように言った。
「当たり前でしょう。わたしだって、あなたみたいな人と一緒の部屋に寝るなんて御免だわ」
 男はわたしの言葉には答えず、肩をすくめてお道化て見せた。
「ああ、寒い。さっき呑んだ時は温かかったけど、すっかり冷たくなっちゃった」
 わたしは空になったコーヒーの缶をテーブルに置きながら言った。
   わたしの指には何時もしている指輪がなかった。
 腕にもブレスレットがなかった。
 イヤリングも付けていなかった。
 少し厚めの黒いコートの下は細身の黒のパンツに毛足の短い体の線を浮き立たせる、わたしの好きな色の濃紫のセーターだった。
 深黄や深紅が微妙に入り混じった模様のシルクのスカーフが首元の寒さを防いでいた。
「寒いよ。やっぱり、東京の寒さとは大違いだよ」
 男はわたしの言葉に実感を込めて答えた。
「どお ? お風呂があるから入って温まる ? もし、入るならすぐに支度をするわよ」
「いや、風呂はいい。面倒くせえよ。このまま、ここで寝られればそっでいいよ。くたびれちやって動くのもやだよ」
 男は手に半分になったパンを持って、口を動かしながら深々とソファーの背もたれに身体を寄せ掛けて言った。
「ここで寝るの ?」 
 わたしは聞いた。
「うん、ここでいいよ。なんか、寒くねえように身体に掛ける物を貸して貰えれば」
「掛ける物なら幾らでもあるわよ」
 わたしは言いながら頭の中で、もし、男がこのままここを動かないとしたら、どのようにしたらいいんだろう、と思案を巡らしていた。
「中沢が居る病院っていうのはここから遠いのかい ?」
 男は言った。
「そんなに遠くはないわよ。でも、あの人、あなたに会いたがるかしら ?」
 わたしは男の前に立ったままで言った。
「なんで ?」
 男は不思議そうにわたしを見て言った。
「だって、あの人、クスリを辞めようと思って病院に入っているのよ。それを売人のあなたが突然、訪ねて行っても会いたがるかしら ?」
「大丈夫だよ」
 男は言った。
「そうかしら。何(いず)れにしても、明日になれば分かる事だわ。賭けはあなたの負け。あの人があなたに会っても会わなくても、あの人が居る事が確認出来たら、ちゃんと約束は守って貰うわよ」
「ああ、いいよ。大丈夫だ」
 男は言った。
 わたしはそんな男に重ねるようにして尋ねた。
「もし、中沢が更生して、あなたが麻薬の売人だって訴えられたら、どうする心算 ? いっぺんに刑務所行きになってしまうわよ」
 男はわたしの言葉を聞いて真顔になった。
「そんな事はさせやしねえよ。大丈夫だ。もし、奴がそんな事をしたら、そん時はあんたの事だってなんだって、みんな喋ってやるよ」
 微かに怒りを滲ませた口調で男は言った。
「いいわよ。わたしは平気よ。中沢の口止めをするから。どんな事があっても守ってやるから、警察では絶対にわたしの名前は口にしないでよ、ってね。更生した中沢なら、きっと約束を守ってくれるわ。そうすれば、あなたが口にする事もみんな、わたしに対する中傷だっていう事になってしまって、わたしが傷付く事はないわ。あなたはわたしに付いての何も知らないんだし、写真だってもう、あなたの手元にはないはずなんだから」
「あんたの言葉通り、そんなに旨くいけばいいけどね。だけど、一回クスリをやった奴はなかなか簡単には抜けられねえもんさ」
 男は達観したように言った。
「そう、それならどうなるか、これも賭けましょうか ?」
「まだ、最初の決着が付いた訳じゃねえよ」
 男は不機嫌な表情で言った。
「そうね。後の賭けはそれからね」 
 わたしは言ったが、またしても、今、わたしが口にした言葉が真実の言葉だったら、と、二度と取り返しの付かない事態への思いに胸が搔きむしらた。
 総てが夢の中の事でしかなかった。どんなに男に向かって強弁を労しても、事実の覆える事は、もう無い ! 
 わたしは心に描く幻想でしかない夢物語を語り続けなければない惨めさを自覚しながらもなお、表面的には結果を楽しむかのように余裕の表情で男に言った。
「まあ、総ては明日になれば分かる事だし、それまではせいぜいぐっすり眠って、気持ちの良い朝を迎える事ね。今、寒くないように上に掛ける物を持って来て上げるから」
 わたしは言い残すと運動室(トレーニング)へ向かった。




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             takeziisan様


     
              今回も 楽しく拝見させて戴きました             
             年賀状辞める 好い決断でした わたくしも順次
             減らしてゆく事を考えているところです なんだか 年齢と共に総てが億劫で
             どうでもいいような気がして来ます
              残された時間 本当に自身に有効な事だけに集中したい 
             そんな気持ちです
              貴方の面影 好いですね 若き日の心情が直に伝わって来ます
             書き残して置いたればこその効用 それだけ深い人生が形作られます
             何も無ければ薄っぺらな人生の記憶になってしまいます
             それにしても才能の豊かさ 感服です
              ユウテカス 言って聞かせる でしょうね 
             北の方の言葉にはこういう何処か 詰めた ような言葉が多いですね
             それがまた 方言の魅力 味わい深いものにもなっています
             いいですね          
              G線上のアリア なんと素敵な葬儀の事か !
             わたくしは宗教などと言うものを信じていません
             ただ 世間との要らぬ波風を立てぬ為に風習に従っているだけです
             今更 要らぬ波風など御免ですので
              ダイコン ハクサイ 元気 写真だけで伝わって来ます            
             見ている方もなんとなく浮き浮き 殺風景な砂地が緑に変わる豊かさ
             気持ちが洗われます
             サトイモ 収穫時期 豊かな収穫量が眼に浮かびます
              小春日 冒頭写真いいですね 秋です
              ムーンライト・セレナーデ パリのめぐり逢い
             いずれも懐かしい響きです
             時は過ぎ行き 過ぎた時は還らない という事ですね
              何時も御眼をお通し戴き有難う御座います また
             今回も記事 楽しませて戴きました
             有難う御座いました


















遺す言葉(474)  小説  いつか来た道 また行く道 (34) 他 人生の価値

2023-11-19 12:11:25 | 小説
             人生の価値(2023.11.2日作)



 自身の人生 必ずしも 
 望んだ道ではなかった それでも
 誠実 真摯に 人が人としての
 人の道を 精一杯 生きた
 わが人生に悔いなし
 真摯に生きる
 虚名 虚飾に惑わされるな
 たとえ 見えない場所 隠れた
 陽の当らない場所 日々 平凡
 人の眼に触れる事のない人生
 その中でなお 人が人としての
 人の道を誠実 真摯に生きる
 これに勝る人の生き方
 人生の価値はない
 虚名 虚飾 十年 二十年
 過ぎ逝く時の中で やがて
 朽ち果て 忘れられてゆく
  虚名 虚飾に惑わされるな



              
                          
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              いつか来た道 また行く道(34)




 
 男はわたしの突然の異常な行動に狼狽した。
 明らかに怯えていた。
 わたしはそんな男に更に復讐心をたぎらせながら再び、乱暴に車を発進させた。
「おい、大丈夫かよお。事故なんか起こして警察なんかに関わりたくねえからなあ」
 男は真顔で心配した。
 わたしの気持ちの中にはそんな男を嘲笑うものはあっても、躊躇うものはなかった。復讐心だけが更に増幅し、気分を昂揚させていた。男の言葉には答えず、わざと乱暴に車を左右に揺り動かしながら猛烈な速度で走り続けた。
 男は心底、心配気な様子で吊革を強く握り締め、走り去る車窓の外のあちこちに不安気な眼差しを送っていた。
 どれだけの時間と距離を走ったのか、自覚はなかった。そんな中で次第に収まって来る感情の昂ぶりを意識しながらわたしは、自分自身、如何にも危険な走行だったと改めて思い直して正常な運転へと切り替えた。
 車は既に都心を離れて周囲に穏やかな景色の広がる郊外に入っていた。
 週半ばの道路は空いていた。
 いけない、これでは余りに早く別荘に着いてしまう。
 気が付いて一層、車の速度を落とした。
 一軒のコンビニエンスストアが見えて来た。
 車を寄せて停車した。
「ちよっと、今夜の食べ物を買って来るわ。あなたは何が食べたいの ?」
 ハンドルを握ったまま男に聞いた。
 わたしが静かな運転へと戻るのと共に男も気持ちを落ち着かせたようで、後部席で煙草を口にしていた。
「食い物なんて要らねえよ」
 男は不機嫌に言った。
「要らないって言ったって、向こうへ行っても食べる物なんて何も無いわよ」
 男の不機嫌な口調が癇に障ってわたしは強い口調で言い返した。
「大体、こんな遠くまで来んのに、なんでもっと早く出なかったんだよう。朝早く出れば、明るいうちに着いただろう」
 男は不貞腐れたまま言った。
「何を今ごろ、下らない事を言ってるのよ。わたしには仕事があるのよ。あなたみたいに年中ふわふわしている人間とは違うわ。今日だって漸く時間を作って抜け出して来たんじゃない。明日の仕事だって犠牲にしているのよ」
「勝手にすればいいだろう。俺には関係ねえよ。疲れちゃったよ」
 男は不貞腐れたまま言って煙草をもみ消すと、座席の背もたれに身体を預けて両手を首の後ろに廻わし、上を向いて眼を閉じた。
 わたしは腹立ち紛れに車を降りて店に向かった。
 店内では菓子パン五個とカツの入った弁当を一つ買った。
 店の外では自販機で缶コーヒーを四本買い車に戻った。
 男は両手を頭の後ろに組んで上を向いて眼をつ閉じたままでいた。
 わたしは男には言葉も掛けずに車を出した。
 男は依然、そのままの姿勢だった。
 時刻は三時を少し過ぎていた。
 太陽は早くも西に傾き始めていた。
 男は後部席で動いたらしかった。
 何時の間にか、車内ミラーには映らなくなっていた。
  眠っているらしかった。
 まあ、たっぷり眠りなさい、そうやって穏やかな眠りを貪(むさぼ)る事も間もなく出来なくなるから。
 あるいは、狸寝入りかも知れないと思いながらもわたしは心の中で呟いていた。
 今度もまた、部落の中は通らなかった。
 この前と同じ道に乗り入れた。
 この前と違って今度は雪があった。
 道はぬかるんでいた。
 何度か車輪が空転してハンドルを取られそうになった。
 暖冬で雪が少ないとテレビでは言っていたが、雪に慣れないわたしはそれでも苦戦した。
 車が動けなくなってしまう程に積雪のなかった事がせめてもの救いだった。
 周囲は何時の間にか完全な闇に包まれていた。
 激しい振動で眼を開けた男は、道も分からない場所を車が走っている事に猜疑心を募らせた。
「こんな所を通らなくちゃ行けねえのかよお」
 暗闇の車外に視線を向けたまま批難をする口調で言った。
「当たり前でしょう。山の中にある別荘が都会の真ん中にあるような訳にはゆかないわよ」
 わたしは暗闇の中で車を走らせる事だけに気を取られていて、男などにはかまっていられなかった。以前、通った道である事だけがせめてもの救いだった。
「別荘って、何処の別荘だよ。中沢はそこに居るのか ?」
 男は不審気に言った。
「そうじゃないわよ。あの人は施設に入っているって言ったでしょう」
 暗闇を見詰めたままわたしは言った。
「じゃあ、なんで別荘なんかへ行くんだよ。いいかい、変な真似はしねえでくれよ」
 男は訳が分からない様子で警戒心を滲ませた強い口調で言った。
「まあ、黙って見ていなさいよ。臆病者のあなたにも安心出来るようにしてあげるから」
 わたしは男を見下すように軽い口調で言った。
 男はそれでもまだ、安心出来ない様子だった。しきりに暗闇に視線を向けてあちこち探っていた。
 車はそれから三十分程して、ようやく別荘の正面に通じる道に出る事が出来た。
 雪は別荘の敷地内にも積もっていた。
 雪の白さと白樺の一層白さを増した木肌が闇の中でも浮かび出て見えた。
 車は車庫へは入れなかった。
 中沢の車に気付かれるのを怖れた。
 玄関に通じる正面の道の片側に寄せて置いた。
 無論、雪はそこにも積もっていた。
 春から秋にかけての季節、週に一度は顔を出す管理人夫婦も冬の間は月に一度程になっていて、雪は積もったままになっていた。
 その雪の上にくっきりと記されタイヤの跡を見て、わたしは思わぬ不安に捉われた。
 もし、これが管理人夫婦の眼に留まったら ?
 普段、東京の街中で生きている人間には気付き得ない事だった。
 でも、仕方がない。このタイヤの跡を消すぐらいに雪が降ってくれればいいが、もし、管理人が気付いたらスキーで行ったので、とでも言っておこう。
 車を降りると真っ直ぐに玄関へ向かった。
 男は黙ってわたしの後に従って行動していたが、別荘の建物を間近に見て驚愕の表情を浮かべた。
「凄(すげ)えなあ。これ、あんたの別荘かい ?」
 と言った。
「そうよ」
 わたしは事も無げに答えた。
「へえ、若いのに大したもんだなあ。さすが、<美和>の社長だなあ」
 わたしは男の言葉には答えなかった。
「おおっ、寒いなあー」
 薄着の男は音を上げて言って両腕を組み肩を震わせた。
「だから、大丈夫かって言ったでしょ」
 男は答えなかった。
 わたしは先に立って玄関へ向かった。
「これ、あんた一代で手に入れたのかい」
 男はわたしの後に従いながら、妙に馴れ馴れしい口調で聞いて来た。
「そうよ」
 わたしは突っ慳貪に答えた。
「凄えなあ。若いけど凄腕なんだなあ」
 感心しきりの様子だった。
「その凄腕が墓穴を掘ったって言う訳なの」
 わたしは自嘲を込めて言った。
「今度の事かい ?」
 男は含み笑いと共に言った。
「そうよ。あんたや中沢との事」
「男遊びも、程々にって事だな」
  男は他人(ひと)事のように言った。
「でも、もう大丈夫よ。中沢が更生して、あんたが警察に捕まればそれで総て決まりが着くわ。わたしの悪夢も、もうお終い」
「そうなるといいけどなあ」
 男は軽く笑って言った。




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             takeziisan様


              冬到来 やれやれ
            実感です 比較的寒さには強い身だったのですが
            年齢と共に苦痛を覚えるようになって来ました
            暑い 暑いと言いながらも まだ夏の方が・・・・と思うような今日この頃です
            それにしても季節の移り変わりは速い アッと言う間に過ぎて逝きます
            年齢と共に一年一年の過ぎ去りに喜びよりも悲哀の方を多く感じる様になりました
            残された人生への悲哀でしょうか
             干し柿作り 楽しみですね 昔 わが家にも柿の木が何本かあり
            中の一本が渋柿でした
            干し柿を作った記憶が懐かしさと共に甦ります
            つくづく贅沢な趣味 ?  だと思います
             足 攣る わたくしはこの頃 夜中によく攣る様になりました
            やはり 年齢のせいでしょうか 防止の為に風呂から出た後
            寝る前にコップ一杯か一杯半ぐらいの湯冷ましを飲んで寝ます
            すると攣る事が無いようになりました
            冷や水は胃腸が弱い為 真夏でも口にしません
             それにしても八十代の女性 スイマー? まだまだ元気ですね
            この頃は年々自覚する衰えと共に テレビなどに映る八十代 九十代の方々と
            自身を比べて まだまだ負けては居られないと自分を励ましているところです
            女性スイマーに負けませんよう 頑張って下さい
            気力さえあれば大丈夫 気力を失くしたら人間 何事に於いても
            終わりですものね 
             何時も有難う御座います







































遺す言葉(473) 小説 いつか来た道 また行く道(33) 他 惑わされるな

2023-11-12 12:56:08 | 小説
            惑わされるな(2023.11.7日作)



 
 宗教に帰依するな
 教会などに頼るな
 神は自身の心の裡で
 自身を律する主として
 育めばいい
 全智全能の神など
 存在しない
 只今 現在 2023年 
 この地球上 世界に於ける
 人の命の奪われ 失われてゆく悲劇
 果てし無く続くこの惨状
 この状況を前にして 神 教会                      
  どれだけ救いの手を
 差し延べているのか ?
 姿が見えて来ない
 宗教 教会 教皇 教祖 祖師
 名ばかりの存在 各々 それぞれ
 自己を主張 飾り立て 世界の
 対立 抗争 煽るだけ
 豪奢な衣装に身を包み 
 虚構の世界を練り歩く 教皇 教祖 祖師
 滑稽 尊大 道化の醜い姿 この
 醜い道化師よりも
 たった一人の子供の命 この世に
 ただ一つの幼い子供の命の方が
 この世に於いては はるかに尊く貴重
 宗教 教会などに惑わされるな
 虚名 虚飾に惑わされるな
 神はあなた自身の心の中で秘かに そっと
 育むもの




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             いつか来た道 また行く道(33)




 
 暮れも押し詰まった二十三日に仮契約を交わした。
 購入金額は双方が折り合う形で話しが付いた。
 その夜、わたしと専務の高木は仲介役の田崎明夫を事務所の近くの料亭に招いて労をねぎらった。
 新店舗の工事は引き渡しが済み次第、すぐにでも取り掛かる心算だ、とわたしは田崎に言った。
 宮本俊介はこの時期、新年早々の新作発表に向けての準備で忙しかった。
 それが済めば東京へ帰って来るとの事であった。
 その帰国はわたしに取っても、宮本俊介と組んでの新たな出発点ともなるべきもので、当然、大きな喜びに包まれていいはずのものだった。
 しかし、わたしの心の中では、絶えずあの見知らぬ男との約束が重荷となって重く圧し掛かって来ていた。その席でもわたしは、酒が入って意気盛んな高木と田崎の会話に入ってゆく事が出来ずに滅入る気分のまま、二人の会話を別世界の出来事のように聞いていた。
 男と二人で別荘へ向かったのは、その四日後だった。
 前日、わたしはし午前中、事務所に居た。
 午後一時過ぎに早引けをして、秘書の浅川すみ子には、明日は休むかも知れないから、と言って置いた。
「お母さんの具合いが悪いんですか ?」
 秘書は、これまで仕事を休んだ事のないわたしの度重なる休みに心配顔で聞いた。
「そうなの。でも、今度はすぐに帰れると思うから」
 わたしは余計な気遣いをされたくなくて明るく言った。
「お大事になさって下さい」
 それでも二十五歳の秘書はわたしを気遣うように言った。
「有難う」
 わたしは素直に言った。
 男を拾ったのは外苑前だった。
「あなた、そんな薄着で来たの ?」
 助手席のドアを開けて乗り込んで来た男にわたしは言った。
「うん」
 男は手に何かの入った白いビニールの袋を持っていた。
 何時もの見馴れた服装だった。
「そんな恰好では東京とは違って寒いかも知れないわよ」
 親しい友達に語り掛けるようにわたしは言った。
「大丈夫だよ」
 男も気軽に、気に掛ける様子もなく言った。
「どう ? 約束の物は持って来てくれた ?」
「ああ」
 そう言って、わたしと並んで腰を落ち着けた男は早速、白い袋を開いて見せた。
 中にはごっちゃになって写真やネガフィルムが入っていた。
 車を動かす前にわたしは中身を確かめた。
「これで全部 ?」
「そうだ」
「信用出来ないけど、仕様がないわね。わたしには調べる手立てがないんだから」
「大丈夫だ、心配すんなよ」
 男は言った。
「でも、あなた、ちょっとおかしいんじゃない。例えばね、あなたが 向こうへ行って中沢に会うでしょ。それで、これを全部、わたしに呉れるでしょう。すると、あなたが商売をする元手が無くなってしまうじゃない。たとえ、中沢栄二に会えたとしても、あなたに取ってはなんの得にもならないんじゃない」
「だから、前にも言ったろう。俺は中沢が居さえすればそれでいいんだよ。後の事は中沢がなんとかするから。俺は元々、あんたの事なんか計算に入れてねかったからね。だけど、肝心の中沢が居なくなっちゃった・・・・、あんたに聞くより他、仕様がねえもんね」
「あなた、まだ、中沢はもう居ないって疑っているの ?」
「ああ」
「わたしが、中沢に合わせて上げるって言ってる今になっても ?」
「信用出来ねえね」
「なかなか疑い深いのね」
「当たり前めえだよ。俺達みてえな人間がそう易々、人を信じていたんじゃ幾つ体があったって足りねえからね」
「そう、大した覚悟だわ。でも、そんな覚悟ももう、無用だって言う事がすぐ分かるわ」
「そう、願いたいもんさ」
「あなた、中沢が居なくなった事ではそんなに疑っているのに、自分の身が危なくなるって考えた事はないの ?」
「なんで ?」
 男は不思議そうな顔で問い返した。
「だって、あなたの口振りでは、何度も言うようだけど、わたしがあの人を消したとでも言ってるように聞こえるわよ。だから、今度も、わたしがあなたを誘って、消そうとしているかも知れないじゃない」
「大丈夫だ。俺は酒も飲めねえし、女にも興味はねえからね」
 男は達観している様子で言った。
 そうか ! そういう事だったのか ! 
 男の言葉にわたしは、思いがけず膝を叩くような真実を垣間見る思いがして胸が高鳴った。
 そうだ、それで男は執拗に中沢栄二を探していたのだ 。麻薬の代金を取り戻す事だけが男の目的ではなかった !
 わたしは思いも掛けずに展開された世界に戸惑いのような気持ちを抱きながらも昂揚した気分に包まれていた。
 その昂ぶる気分を抑えたままわたしは言った。
「悪いけど、車を出すから後ろの席へいってくれない ? 傍に男の人に居られると鬱陶しくて困るから」
「いやに冷てえんだな」
 男は苦笑いをするように言って、それでも素直に受け入れた。
「でも、あなたは女なんかに興味はないんでしょう」
「それとこれとでは違う」
 男はそう言いながらも後部席へ移った。
 男は中沢栄二を繋ぎ留めて置く為にクスリで縛っていたのだ !
 男と中沢の関係が初めて明確に見えて来る気がした。
「別荘に着くのは遅くなると思うわ」
 わたしはなんとなく気持ちの開けた思いで車を出しながら言った。
「中沢は別荘に居るのかい ?」
「違うわ。別の場所に軟禁しているのよ」
「軟禁してるって、まさか、動物園の猿みてえに檻の中に入れてある訳じゃねえんだろうね」
 男は笑いながら言った。
「勿論、違うわよ。病院に入れてあるのよ。クスリを止めさせる為に」
 咄嗟に出た言葉だった。
 その言葉と共に男の顔が突然、緊張感と共に奇妙に引き攣り、歪むのが車内のミラーに映って見えた。
 男は明らかに戸惑っていた。
 病院という言葉は男の頭の中には無かった言葉に違いなかった。そしてまた、わたし自身、無意識裡に口にした言葉だったが男への思わぬ効果に驚いた。その効果に勝ち誇ったような気分を覚えてわたしは言葉を続けた。
「もし、病院であの人がきっぱりクスリを止める事が出来れば、あなたとの縁も切れるわ。そうすればもう、あの人がクスリ代の為にわたしを強請る事もなくなるし、わたしは麻薬の売人としてあなたを訴える事も出来るわ。嫌な写真も取り戻せたしね。それに何より、あの人が無理矢理、あなたに変な関係を迫られる事も無くなるわ」
「俺は無理な関係なんか迫ってねえよ」
 男は苦虫を嚙み潰したような口調で言った。
「あなた、ちょっといい男の中沢に眼を付けてクスリで縛ったんでしょう」
「冗談じゃねえよ。奴の方から売ってくれって来たんだ」
「証人が居なければなんとでも言えるわ」
 わたしはそう言いながら、次第に滅入って来る気分に陥っていた。
 そうだった。何故、最初から中沢を施設に入れる事を考えなかったのだろう・・・・ほぞを嚙む思いに胸が搔きむしられた。
 もし、中沢が病院に入って更生する事が出来ていたら・・・・。
 わたしの人生もまた、違ったものになっていた。生涯、殺人犯の汚名に怯えながら生きなければならない今の境遇からも逃れられたーー。 
 目先の保身だけに気を取られ、そこまで考える事が出来なかった 自身の浅はかさへの取り返しのつかない後悔と共に、煮えたぎる思いの無念さに思わずハンドルを握っていた手から力が抜けて車がぶれた。
「おうッ ! 危ねえな」
 男は後部席で身体を揺すられて思わず声を上げた。
 わたしは必死の思いでハンドルを握り締め、鋭い音でタイヤをきしませながらブレーキを掛けた。
「どうしたんだ」
 男は身を乗り出して言った。
「ちょっと、目まいがしたの」
 わたしはハンドルを握り締めたまま、荒い息遣いと共に言った。
「大丈夫か ?」
 男は心配そうに聞いた。
「大丈夫なんかじゃないわよ」
 男に唾を吐きかけるようにわたしは言った。
「どうする ? 行くのを止めるか ?」
「止めないわよ。行くわよ。行って、あなたに中沢が更生する姿を見せて上げるわよ」
「無理すんなよ。事故でも起こされたりしちゃあ、目も当てられねえからなあ」
「事故を起こしてあなたと一緒に死んでやるわよ」
 わたしは感情的になって声を荒らげた。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーー             




              takeziisan様

        
               秋の気配一杯
              暑い暑い 騒いでいる間に秋の気配一杯
              時の流れの速さに感情が追いつかない感じです
              もう こんな季節・・・
              間もなく冬が・・・
              人生は無情に過ぎて逝く あと何年と数える歳になってしまいました
              でも まだ気持ちは萎えていません まだまだ
              やる事はある 幸い 健康な事が救いになっています
              腰痛 どうぞ余り無理をなさいませんように
              でも 十九時からの水泳教室 その意気込みがあれば大丈夫
              気力をなくしたら人間 終わりだと思って日々
              生きています
               枯葉の季節 モンタン 何時聴いてもいいです
              晩年は俳優の仕事が主になりましたが
              数々の作品の中でも取り分け 恐怖の報酬 が強い印象と共に
              心に焼き付いています
               落ち葉並木 何時見ても 何度見ても引き寄せられます
              わが家の近くの大きな公園も色付き始めました
              それにしても東京都 大きな樹を切るというバカ話し
              呆れて物が言えません これまで積み重ねて来た年輪
              一度切り落としてしまえば二度と取り戻す事は出来ません
              愚かさを批判する気にもなりません
               鈴懸の径 鈴木章治 定番ですね
              いいです 無論 北村英治も同じ事 いい音を響かせます
              こんな人達の音を聞いていると昔が懐かしく甦ります
              しかし それも二度と帰らぬ過去の事 ここにも人生
              時の流れの無情を感じます
               野菜 果物 豊富 何時も羨望の思いで拝見しています
              楽しい時間を有難う御座いました












遺す言葉(472) 小説 いつか来た道 また行く道(32) 他 謙虚

2023-11-05 12:47:34 | つぶやき
              謙虚(2023.10.11日作)


 天皇家は この国で
 長い歴史を持ちながら
 現代 一般社会に於ける
 成り上がり者達よりも
 はるかに謙虚だ
 権威を振りかざす事がない
 人は常に謙虚であれ 
 謙虚である事によって
 失うものはない
 成り上がり者の傲慢不遜
 百害あって一利なし

 謙虚は人を育てる
 高慢 傲慢は人を押し潰す
 
 人も知識も 謙虚には寄り添い
 傲慢からは離れてゆく




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




            いつか来た道 また行く道(32)




 
 男は既に来ていた。
 黒っぽいサングラスをかけ、この前見た時と同じような黒っぽい襟無しのシャツと同系統のブルゾンを着て、入口の扉を入ってすぐのロビーで壁際のソファーに掛け、スポーツ新聞に見入っていた。
 わたしが男を見分ける為のスポーツ新聞だった。
 この新聞を持って行くからーー男は目印の新聞を指定していた。
 わたしにしてみれば、そんな目印などが無くても先刻承知の存在だった。
 男はわたしが前に立った事にも気付かなかった。熱心に何かに見入っていた。
「今晩わ」  
 わたしは立ったまま言った。
 男は不意を突かれたように顔を上げた。
 それでもわたしを見ると、安堵感とも親しみの感情とも取れるような微妙な表情を見せて微かに頷いた。
 男はすぐに手にした新聞を畳んでブルゾンのポケットに無造作に押し込んで、
「どうぞ」
 と言い、自分の坐っている座席の横を空けた。
 わたしは黙って男の隣りに座った。
 ハンドバッグから煙草を出して一本を抜き取り、唇に挟むと男にも勧めた。
 男は首を左右に振った。
 わたしはライターを出して煙草に火を付けた。
 最初の一息を大きく吸い込み、吐き出してライターをハンドバグにしまいながら、
「早速、あなたの希望を聞かせて貰うわ」
 と、話しを切り出した。
 余分な時間など無いのだ !
 男への無言の圧力だった。
 男は早速の本題に戸惑った様子だったが、すぐに応じた。
「中沢が何処にいるか知りてえんだ」
「あなた、何故、そんなにしつこく中沢の居場所をわたしに聞くの ? わたしはあの人が何処にいるかなんて全く知らないわよ。あの人がいないからって言ったって、あの人にだって用事があって、田舎へ帰ってるかも知れないじゃない。それをわたしに聞いたりしたって分かりっこないわよ」 
 毅然とした口調でわたしは言った。
 何処かもっさりした感じの小太りな男を見下すような気分がわたしにはあった。
 男はだが、戸惑う様子も見せずに言った。
「中沢が持ってたネガや写真が奴の部屋から無くなってる。それに奴には田舎なんかねえよ。東京育ちだからね」
 腹の底からの、図太さ感じさせる静かな口調だった。
 思わぬ男の言葉だった。わたしは心臓をわし掴みにされた思いで氷のような感情が体中を走り抜けるのを意識した。
 その動揺を懸命に抑えてわたしは、
「あなた、あの人の部屋へ行ったの ?」
 と、長くなった煙草の灰を灰皿に落としながら聞いた。
「何も、今度初めて行ったわけじゃねえからね」
 当然の事のように男は言った。
「あなたとあの人はどういう関係だったの ?」
 心の動揺を抑えたまま軽い世間話しのように聞いた。
「クスリの売買さ」
「それだけの関係 ?」
「そうだ」
 男はそう言うと、ようやく自身も気持ちのゆとりを得て一息入れるかのように、ブルゾンのポケットから煙草を取り出して箱をそのまま口元に運び一本を咥え、別の手で取り出した百円ライターで火を付けた。
 ホテルの玄関を入って正面ロビー中央には、大きなクリスマスの飾り付けがあった。
 それが人々の絶え間ない行き交いにひと際、年末らしい賑わいを添えていた。
 微かに、聞こえるか聞こえないかの音量で<ジングルベル.>が流れていた。
 忘年会で集うらしい人達の姿も見られた。
 大勢の人の出入りする場所だけにわたしは、顔見知りに会う事を怖れた。
 それでも、このホテルを選んでいたのは男との危険な交渉で、少しでも自分が優位な立場に立ちたかった為だった。
 このホテルでわたしは、何度も難しい商談を成立させていた。その点で勝手知った場所とも言えたし、この華やぎが少しでも男への圧力になればとも考えての事であった。
 わたしは既に短くなった煙草を灰皿の中で押し潰すと、口元に煙草を運ぶ男に向かって言った。
「あなた、クスリ(麻薬)は何処から手に入れるの ?」
 男はわたしの言葉を聞いて意外そうな顔をした。それから
「ずいぶんクスリに拘るね。あんたもやってみる ?」
 と、打ち解けたような軽い笑みで言った。
「御免だわ、あんなもの !」
 わたしは吐き捨てるように言った。
 今度の苦境も、結局は中沢栄二の腕に見た注射の跡から始まっている事だった ! そう思うと腹立たしさに胸の煮えたぎる思いだった。
 わたしは、次第に募って来る男に対する腹立たしさと共に、男と顔を合わせている事の苦痛に耐えられない気がして来て、一刻も早くこの場から立ち去りたい思いで言っていた。
「結局、あなたは、わたしに何をしろって言いたいの。それをはっきりしてくれなくちゃぁ、いっこうに埒が明かないわ。はっきり、こうだからこうしろって言ってくれる ? わたしにはいつまでもグズグズしている暇はないのよ」
 続けてわたしは男の言葉も待たずに激した感情で言っていた。
「実は中沢がいなくなった事なんかあなたには問題ではないんでしょう。結局はお金なんでしょう。わたしからお金を取る事が目的なんでしょう」
 以前にも口にした言葉だった。
 男はわたしのその言葉を聞いて微かに気色ばんだ。
「そんな事たぁねえよ !」
 男もまた、以前と同じように言った。一方的なわたしの見方に対す反感のような響きさえが込められていた。
 わたしはその言葉の響きに少なからずの驚きを覚えたが、気持ちはひるまなかった。
「じゃあ、あなたは中沢とは友情で結ばれていたとでも言うの ?」
 男を問い詰めるように強い口調で言った。
 男は不服そうに黙っていた。
 確かに、金だけの問題ではない、と思わせるような何かの感情がその表情からは読み取れた。それがなんであるのかは分からなかった。
 わたしは男のその表情を見ながら言った。
「そう。それ程、あなたがあの人の事を心配しているって言うんなら、あの人が居る所へ連れてってあげてもいいわよ」
 男は意外そうな顔をした。
「あいつが生きてるってでも言うのか ?」
「当たり前でしょう。一体、あなた、何考えてるの ? わたしがあの人を殺したとでも思ってるの ?」
「そんな事はねえよ。だけど奴が生きてればクスリが無けれりゃぁいられねえはずだからね」
「そのクスリの為にあの人は姿を隠したのよ。わたしにしても、クスリ代が無くなる度に強請られたんじゃ堪らないから、更生するように勧めたの。見返りにそれだけの事はして上げるからって」
「どういう事だ ?」
 男は言った。
「それは内緒よ。あなたに教えればまた、薬漬けにされるわ」
「俺が薬漬けにした訳じゃねえよ」
「それこそ、そんな事はどうでもいいわよ。とにかく、あの人はあなたの前から姿を消したの」
「奴が生きてれば大したもんさ」
 男は達観したように言った。
「そう、それ程までに言うんなら、あの人の居る所へ連れてってあげてもいいわよ。どう ? 行ってみる ?」
「行ってみたいね。是非、奴に会ってみたいよ」
「いいわ。それなら案内するわ。その代わり、見返りにわたしに何をくれるの ?」
「俺が持ってるもんなら、なんでもいいよ」
「あなたが持ってるって言う写真のネガを含めて全部わたしにくれる ?」
「いいよ。そんな事は簡単だ」
「だけど、それが全部だってどうやって証明するの ?」
「だから言っただろう。奴から預かったのは一本のネガだって。そっで、奴がいねえんで様子を見に行った時には、写真もネガも全部無くなってたって。それを持ってったのは誰か ? って事さ。だから、俺が持ってる物は焼いた写真を入れて全部やるよ。そんな物持ってたって俺にしてみればあんたを脅迫するぐれえしか出来ねえからね」
「だけど、不思議ね。さっき、あなたは中沢の部屋へ入ったって言ったでしょう。中沢が死んでるんなら、部屋へ入る事だって出来ないじゃない」
「不思議な事なんかねえよ。奴は何時も郵便受けに合鍵を入れて置いたんだから。そっで、奴の部屋からネガを持ち出した者もその合い鍵を使って入ったのさ」
「そう言う事だったの。それで話しは分かるけど、一体、何故、あなたはそんなにしっこくわたしにまとわり付いて来るの ? あなたの口振りでは、まるでわたしがあの人を殺したかのように聞こえるわよ」
「そんな事、言ってねえよ」
「だって、あなたはあの人がもう、この世には居ないと思ってるのでしょ。それでわたしにあの人の居場所を聞くなんて、わたしがあの人を殺したって言ってるのと同じ事よ。だけど、わたしは、あの人がクスリをやってるって分かってからは一切、親しい付き合いはしてないのよ。だから、あの人が何処に居て、何をしてるかなんて知らないし、あの人が持ってたネガや写真が無くなってるっていう事もわたしには全く関係ない事よ。第一、わたしはあの人が何処に住んでいたのかも知らないんだから。写真やネガが何処にあるかなんて分かるはずがないでしょう」
「奴の住所を知る事なんて簡単さ。車の運転免許証を見れば分かる事だよ」
「それでは、わたしがあの人を殺して免許証を取ったとでも言うの ?」
「殺したとは言ってねえよ。ただ、あいつの車も無くなってる」
「そんな事、わたしは知らないわよ。いいわ、あなたがそこまでわたしの言う事が信じられないって言うんなら、あの人に会わせてあげるわよ。その代わり、わたしとの約束は必ず守ってくれるわね。それに総て、わたしの言うとおりにしてくれる ? それじゃないと困るから」
「ああ、いいよ。だけっど、奴がいなかったら、その時はどうする ?」
「どうとでもしていいわよ。警察に訴えるとも、マスコミに売り込むとも好きなようにしていいわ」
「口止め料は幾らくれる ?」
「やっぱり、そこが落ち着き場所ね」
 わたしは皮肉を交えて言った。


            五


 
 宮本俊介から託された店舗購入の件は暮れも押し詰まった二十三日に仮契約を交わした。





            ーーーーーーーーーーーーーーーーー




               
             takeziisan様                          
             

              有難う御座います
             小松菜 ネギ 豊富な野菜 さてどうしょうか
             羨ましい限りです 食する喜び 収穫の喜び
             楽しみと実益を兼ねた なんと贅沢な喜び
             幼い頃の田舎暮らしの記憶があるだけに記事を拝見していましても
             実感として感じ取る事が出来ます
             昔が懐かしく甦り その環境に身を置ける境遇を
             羨ましく思っています
              山の上の朝食 さぞかし・・・・と思います
             いいですね
             普段 余計なテレビは見ませんが 自然や地方の人々の暮らしを映した番組は
             よく見ます
             それだけに自ずと記事の中でも心惹かれます
              五時三十分起床 わたくしはその時間に一度眼を覚まし また 
             一時間程眠り 六時半起床です 五時半 今はまだ暗いですよね
             お元気な証拠と思いますが 腰痛 文中からも大変な御様子が伝わって来ます
             やはり年齢 ? わたくしも右膝のチクチク痛みが未だに消えません
             でも 日々の行動に不便を来す程ではありません
             試しに湿布クスリを貼ってみましたが効果は無いようです
             結局 年齢による老化現象だと思って地道に自己流治療をしています
              どうぞ あまり御無理をなさいません様に
              何時も御眼をお通し戴きまして有難う御座います
              楽しい記事共々 御礼申し上げます            



              

              桂蓮様


               有難う御座います
              新作 拝見しました
              良い言葉が並んでいますね
              自信に満ちた人は魅力的に見えます でも
              自信過剰は見苦しいです そんな人間に限って
              実際の実力は皆無という事が多いですよね
              結局 人を裏切らない自信とは謙虚な中に見え隠れする自信という事でしょうかね
              謙虚については今回も偶然 冒頭に書いています
              自信というものは結果として付いてくるもの 
              作った自信は透けて見えてしまう
              その通りだと思います
              今回も面白く拝見させて戴きました
               バレー 執着しなくなった
              執着心があるうちは本物とは言えません 執着せず
              無意識裡に事が運ぶ 本物になった 本当に身に着いたという事ですね
              喜ぶべき事ではないでしょうか
               おばあ様の思い出 人間の心 本質はどの国の人であれ
              変わる事は無いのでは・・・ ただ 習慣 風俗が人の表面的な物を
              その国ごと地方ご とに変えてゆくのだと思います
              この地球上に居る人間 何処に居る人間でも人間としての感情は
              同じだと思います
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
              有難う御座います






























遺す言葉(471) 小説 いつか来た道 また行く道(31) 他 愚かな人間の欲望

2023-11-03 17:09:16 | つぶやき
            愚かな人間の欲望(2023.10.15日作)


 

 愚かな人間の欲望が
 善良な人々の笑顔を奪い
 悲しみの底に 落し入れる
 人間は 欲望を持った生き物 その 欲望
 人を 悲しみの底に落し入れる 欲望を 抑制し
 人を 悲しみの底に落し入れる 事態を避ける 力
 その力を持つのは 人の命の尊さを知る 知性
 人間 人は 知性を持った生き物 原初的 原始的生き物
 野生に生きる動物達に 知性はない もしくは 乏しい
 唯一 人間 人が持つ事の出来る 知性 その
 知性を活かす事の出来ない人間は 原初的 原始的生き物
 野生動物となんら変わりはない この
 愚かな人間達の 欲望 権力欲がこの世界 人の世の
 安寧 平安 平和を 次ぎ次ぎと破壊 崩壊させてゆく
 愚かな人間達の度重なる愚行 蛮行 それによる
 この世界 人の世の 損害 損失 失われた人の命
 その数は計り知れない
 自身の 権威への欲望 野心 それのみに生きて得意満面 有頂天
 愚かな人間達の自己満足 その姿 姿勢の なんと
 滑稽 醜い事か ! 
 この世界 この 地球 その中で 
 最も大切 侵してはならないものは 人の命 命の尊厳 
 無二の存在 人の命 失われた命の再び戻る事はない !





           ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





            いつか来た道 また行く道(31)




 
 居間に入ると明かりも点けずに表通りを窓から見下ろした。
 尾行車らしい車の影は何処にも見当たらなかった。
 明かりを点けて腕時計を見た。
 十一時に近かった。
 スーツを脱ぎ、ハンガーに掛けて身体を投げ出すようにしてソファーに沈み込んだ。
  疲れ切っていた。
 背凭れに頭を持たせかけて眼をつぶった。
 姿の見えない相手の影が頭の中を過(よ)ぎった。
 気分が滅入っていた。
 一寸先の未来が見えない。
 これからどうなるのだろう ?
 電話が鳴った。
 男からのものだ !
 確信的に思った。
 受話器を取った。
「杉本さん ?」
 昼間の男の声だった。
「そうです」
 静かに答えた。
「昼間、電話をしたもん(者)だけど」
「だからなんなの ?」
 穏やかに言った。
「話しの続きをしてえんだ」
「わたしの車をつけた(尾行)でしょう」
「上手く巻いたね」
 軽く笑いを交えたように男は言った。
「今、何処に居るの ?」
「でっけえマンションの近くにいる。多分、あんたの居るマンションだと思うけど」
「あなた一人 ?」
「そうだ」
「あなた暴力団の人 ?」
「なんで ? そんなこと聞いてどうすんだ ?」
「どうにもしないわ。暴力団でもなければ、こんな事はしないものね」
「しんぺえ(心配)すんな。暴力団なんかじゃねえよ」
「中沢も始め、そんな事を言ってたわ」
「奴は生きてんのか ?」
「生きてんのかって、あなた、何、考えてんの ?」
「奴が何処にもいねえからよ」
「あなた今、車の中 ?」
「違うよ。公衆電話から掛けてんだ」
「公衆電話 ? 携帯は使わないの ?」
「あんな物は使わねえ」
「足が付くのが怖いから ?」
「関係ねえよ」
「使い捨ての携帯もあるわよ」
「そんな事はどうだっていいよ」
「そう、それじゃあ、どう ?  あなた一人ならわたしの部屋へ来ない ? 電話では話しがしづらいのでわたしの部屋でゆっくり話しましょうよ」
「あのでっけえマンションか ?」
「違うわ。一戸建てよ」
「一人で居るのか ?」
「そうよ、わたし一人よ。だからあなたが来ても怪しむ人なんかいないわ」
「いや、行かねえ方がいい。電話の方が話し易い」
「ずいぶん臆病なのね」
「そうかも知んねえ」
 男は小さく笑った。
「じゃあ、電話でもいいわ。わたしと何が話したいの ?」
「だから、中沢の居る所を教えて貰いてえって言うんだよ」
「あなた、わたしが中沢を殺したとでも思ってるの ?」
「そんな事は言ってねえよ」
「でも、あなたの口振りではそんな風に聞こえるわよ」
「そんなら、それで構わねえよ」
「そう、随分、物分かりがいいのね。いい ? もし、わたしがあの人の居る所を教えて上げても、臆病者のあなたにわたしが言うように出来るかしら ?」
「どういう事だ ?」
 男は興味をみせた。
「それは後での事よ。だけど結局、あなたの目的は中沢の事より、わたしを強請(ゆす)る事なんでしょう」
「そんな事じゃねえよ」
 男は強い口調で否定した。
「いいのよ、隠さなくたって。中沢栄二もそんな風にしてわたしを強請ったんだから」
「とうとう本音を吐いたね」
 男は勝ち誇ったように言った。
「だって、あなたには分かっていた事でしょう」
「分かってたから電話をしたんだ」
「幾ら欲しいの ?」
「そんな事はすぐに言えねえ。中沢が何処に居るかも含めての交渉だ」
「じゃあ、何処で交渉する ? 電話でするの ?」
「いや、何処っかで会ってもいい」
「これから、わたしがあなたが居る車へ行ってもいいわ」
「これからか ?」
 男は戸惑ったように言った。
「そうよ、仕事は早い方がいいわ」
「いや、今は駄目だ。そこまで準備が出来てねえ」
「準備って、何を準備するの ? これこれの物を遣るから、これだけの物を出せって言えば済む事じゃない」
「とにかく、今は駄目だ。日を改めて何処っかで会った方がいい」 
「じゃあ、何故、わたしの後を尾行(つけた)の ?」
「あんたに雲隠れされちゃあ困ると思ったのさ」
「だけど、巻かれちゃったって言う訳 ?」
「そう言う事だ」
「随分、間抜けなのね」
「人を尾行たりすんのは初めてだからな」
「案外、善良なのね」
「善良さ。まあ、そんな事はどうでもいいけど、あんたがその気になったら話しを進めよう」
「だから、わたしは今だっていいって言ってるのよ。あなたの方が臆病風を吹かせているんじゃない」
「臆病風を吹かせる訳じゃあねえけど、今は都合が悪いんだ。日を改めて会った方がいい」
「じゃあ、あなたは何時がいいの ?」
「今じゃねければ何時だっていいよ。どうせぶらぶらしてんだから」
「それなら、わたしの予定表を見て、改めて電話をするから電話番号を教えてくれる ?」
「いや、駄目だ。俺の方から電話する。いつ電話すればいいんだ ?」
「なかなか用心深いのね。いいわ、明日(あした)、午後六時十分前に昼間掛けて来た所へ電話しなさい。会う日を決めるから」
「分かった」
「他に話す事はないの ? 中沢栄二とはどうして知り合ったの ?」
「そんな事は会ってから話せばいい」

 三日後の金曜日、わたしは約束の午後七時半かっきりに赤坂のXホテルへ行った。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




             
             桂蓮様


              
              お身体の大変な中 何時も御眼をお通し戴き有難う御座います
               エゴを乗り換える
              再読ですが改めてまた 面白く拝見しました
              アメリカ生活までは個性が無かった 浮き草のように
              世間を漂っていた アメリカで初めて自分という個性に目覚めた
              パートナーの方の暖かなお人柄に対する安心感が多分 何処にも見出せずに
              眠っていた個性の根を発芽させたのだと思います
              人に対する愛情の尊さ 透けて見えて来ます
              自分が乗っている車輛に嫌な人が来ても受け入れる
              ここにもパートナーの方の見えない影が透けて見えて来ます
              それによって桂連様の中に眠っていた種が眼を覚まし発芽し
              自身を見い出す事が出来た 良い話しです             
              それにしても人に対する愛情の如何に大切かという事を
              改めて認識させられます
               初読では気付かなかった事を改めて気付かされました
              大変 面白かったです
               有難う御座いました



           

              takeziisan様

              
               有難う御座います
              美しい写真の数々 今回も楽しませて戴きました
              太い樹の並木道の落葉 見事ですね 踏んで歩いてみたい気がします
              安曇野 水車のある風景 何時も行く花屋にこれと同じ写真が飾ってあります 
              ああ 同じ風景だ 何故か親しい感情と共に拝見しました
              信州 昔から歌の 高原の旅愁 高原の駅よさようなら など 耳にしていた事もあって
              何かしら郷愁を誘われます また 姪が諏訪湖の近くの教会で結婚式をして
              現在 茅野市に住んでいます
               ごとく 十能 いろり ちゃんちゃんこ    
              懐かしい響きです
              シモヤケは今でも出来ます これはもう一生ものだと思っています
              まったくイライラします
               わたくしは義務教育九年間 無欠席 皆勤でした
              六 七年前に大腸がんを手術しましたが 今でも至って健康です            
              冬になると出た神経痛的腰痛も克服しました
              ただ さすが体力の衰えか膝のちょっとしたチクチク痛みがまだ消えません
              食事面と共に指圧 体操などで克服しょうとしているところです
              痛くて困るという事もなく ちょっと痛むという程度です
               バタンキュー 同じで眠れないという事もありません 
               地下室のメロディー 先々週かNHKで放送しましたね                                
               何度も観ている映画です 札束がプールの水面上に浮かび上がるラストシーン
               ギャバンの苦虫を嚙み潰したような無表情がいいです
               川柳 やっぱり入選作は物足りない
               以前にも書きましたがtakeziisan川柳の方が面白い 
               勿論 おべっかではなく
               季節の収穫物 豊かな自然があればこその恵み
               羨ましい限りです
               パセリ みずな 小松菜以上の栄養価があるとは・・・
               初めて知ると共に驚きです
               今回も楽しく拝見させて戴きました
               有難う御座いました