生きるのだ(2023.11.3日作)
生きるのだ
生きねばならぬ
風が吹く 波が起つ
航路は厳しい
舟人よ 負けるな
しっかり帆綱を握り締め
舵を取れ
緑あふれる夢の島
憧れの 島はまだ遠い
波起つ海 吹き荒ぶ風
顔面一杯 潮を浴び
揺れ 揺れ 揺れ動く
小舟の航路は まだ遠い
波起つ海 吹き荒ぶ風
それでも地球は廻わる
廻わる地球に何時かは来る
波穏やかな航路の日和
夢の島 緑の島は
もうすぐ其処だ あと一息
息を抜くな 気を緩めるな
君の憧れ 夢の島
光り溢れる 緑の島に
辿り着く その日まで
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いつか来た道 また行く道(35)
わたしは玄関の鍵を開け、中に入って明かりを点けた。
上にあがって大広間へ男を導いた。
男は広間へ入るのと共に、豪華なシャンデリアの下がった部屋の中を中沢が見せたのと同じ視線で物珍し気に眺め廻わした。
わたしはそんな男には構わずに中央近くにあるテーブルの一つに行くと、コンビニで買ったパンの入った紙袋を置いて、
「ここに座って弁当でもパンでも好きな物を食べなさいよ。今夜はそれぐらいしかやる事が無いんだから」
と、男に言った。
男はわたしの言葉を聞いて我に返ったようにテーブルの上に視線を戻すと、
「今、何時だ ?」
と言って自分の腕時計を見た。
「ああ、もう九時だ。随分掛かったなあ。途中まででも高速道路を使えば良かったんだよ」
と、長い道程(みちのり)にうんざりした様子で言った。
「人にお金を出させるくせに気軽に言わないでよ」
わたしは相手にしない口調で、それでも言葉だけは返した。
「おお、寒いなあ。暖房は無いのかい ?」
慣れない気候が薄着の身にはさすが応えるらしく男は、広間の中を見廻わしながらまた言った。
「暖房なんてある訳ないでしょう。夏の間、避暑に来るのになんで暖房なんかが必要なのよ」
わたしは突っ慳貪に言い返した。
無論、嘘だった。暖房もあれば冷房もある。設備は整っている。それでも、それを使用しては拙いのだ。
わたしの頭の中ではここまで来る道程の中であれこれ、様々な思いが錯綜していた。どのようにしてその機会を捉えるのか ? 結論は出ていなかった。
「とにかく、そこに座って何か食べていなさいよ。今、上に羽織る物を持って来て上げるから」
わたしは自分の胸の中の思惑を悟られないようにという思いから、殊更、穏やかに親しみを込めた口調で言った。
男はわたしの穏やかな口調に安心したのか、寛いだ様子を見せてソファーに腰を下ろした。
「さすがに腹が減ったよ」
如何にも疲れ切った様子で言った。
車に乗り込んでからの男は何一つ口にしていなかった。
そんな男を見ながらわたしは、男の手に何もない事に気付いて聞いた。
「あなた、写真は車から持って来た ?」
「ああ、ここにあるよ」
ジャンパーのポケットから先程の白いビニール袋を取り出して男は言った。
それを見てわたしは缶コーヒーの入った袋から一本を取り、蓋を開けて口に運んだ。
男もそれで食欲を刺激されたのか、パンの入った袋に手を延ばして菓子パンの一つを取り出した。
「今夜はここで一晩過ごすのかい ?」
パンの袋を破りながら男は聞いた。
「違うわよ。ちゃんとベッドもあるし、布団もあるわよ」
わたしは缶コーヒーを口に運びながら言った。
「だけど、部屋は別々にしてくれよ。側にあんたに居られると安心して眠れねえからなあ。いつ首を絞められるか分かりやしねえよ」
男は満更、冗談でもないように言った。
「当たり前でしょう。わたしだって、あなたみたいな人と一緒の部屋に寝るなんて御免だわ」
男はわたしの言葉には答えず、肩をすくめてお道化て見せた。
「ああ、寒い。さっき呑んだ時は温かかったけど、すっかり冷たくなっちゃった」
わたしは空になったコーヒーの缶をテーブルに置きながら言った。
わたしの指には何時もしている指輪がなかった。
腕にもブレスレットがなかった。
イヤリングも付けていなかった。
少し厚めの黒いコートの下は細身の黒のパンツに毛足の短い体の線を浮き立たせる、わたしの好きな色の濃紫のセーターだった。
深黄や深紅が微妙に入り混じった模様のシルクのスカーフが首元の寒さを防いでいた。
「寒いよ。やっぱり、東京の寒さとは大違いだよ」
男はわたしの言葉に実感を込めて答えた。
「どお ? お風呂があるから入って温まる ? もし、入るならすぐに支度をするわよ」
「いや、風呂はいい。面倒くせえよ。このまま、ここで寝られればそっでいいよ。くたびれちやって動くのもやだよ」
男は手に半分になったパンを持って、口を動かしながら深々とソファーの背もたれに身体を寄せ掛けて言った。
「ここで寝るの ?」
わたしは聞いた。
「うん、ここでいいよ。なんか、寒くねえように身体に掛ける物を貸して貰えれば」
「掛ける物なら幾らでもあるわよ」
わたしは言いながら頭の中で、もし、男がこのままここを動かないとしたら、どのようにしたらいいんだろう、と思案を巡らしていた。
「中沢が居る病院っていうのはここから遠いのかい ?」
男は言った。
「そんなに遠くはないわよ。でも、あの人、あなたに会いたがるかしら ?」
わたしは男の前に立ったままで言った。
「なんで ?」
男は不思議そうにわたしを見て言った。
「だって、あの人、クスリを辞めようと思って病院に入っているのよ。それを売人のあなたが突然、訪ねて行っても会いたがるかしら ?」
「だって、あの人、クスリを辞めようと思って病院に入っているのよ。それを売人のあなたが突然、訪ねて行っても会いたがるかしら ?」
「大丈夫だよ」
男は言った。
「そうかしら。何(いず)れにしても、明日になれば分かる事だわ。賭けはあなたの負け。あの人があなたに会っても会わなくても、あの人が居る事が確認出来たら、ちゃんと約束は守って貰うわよ」
「ああ、いいよ。大丈夫だ」
男は言った。
わたしはそんな男に重ねるようにして尋ねた。
「もし、中沢が更生して、あなたが麻薬の売人だって訴えられたら、どうする心算 ? いっぺんに刑務所行きになってしまうわよ」
男はわたしの言葉を聞いて真顔になった。
「そんな事はさせやしねえよ。大丈夫だ。もし、奴がそんな事をしたら、そん時はあんたの事だってなんだって、みんな喋ってやるよ」
微かに怒りを滲ませた口調で男は言った。
「いいわよ。わたしは平気よ。中沢の口止めをするから。どんな事があっても守ってやるから、警察では絶対にわたしの名前は口にしないでよ、ってね。更生した中沢なら、きっと約束を守ってくれるわ。そうすれば、あなたが口にする事もみんな、わたしに対する中傷だっていう事になってしまって、わたしが傷付く事はないわ。あなたはわたしに付いての何も知らないんだし、写真だってもう、あなたの手元にはないはずなんだから」
「あんたの言葉通り、そんなに旨くいけばいいけどね。だけど、一回クスリをやった奴はなかなか簡単には抜けられねえもんさ」
男は達観したように言った。
「そう、それならどうなるか、これも賭けましょうか ?」
「まだ、最初の決着が付いた訳じゃねえよ」
男は不機嫌な表情で言った。
「そうね。後の賭けはそれからね」
わたしは言ったが、またしても、今、わたしが口にした言葉が真実の言葉だったら、と、二度と取り返しの付かない事態への思いに胸が搔きむしらた。
総てが夢の中の事でしかなかった。どんなに男に向かって強弁を労しても、事実の覆える事は、もう無い !
わたしは心に描く幻想でしかない夢物語を語り続けなければない惨めさを自覚しながらもなお、表面的には結果を楽しむかのように余裕の表情で男に言った。
「まあ、総ては明日になれば分かる事だし、それまではせいぜいぐっすり眠って、気持ちの良い朝を迎える事ね。今、寒くないように上に掛ける物を持って来て上げるから」
わたしは言い残すと運動室(トレーニング)へ向かった。
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takeziisan様
今回も 楽しく拝見させて戴きました
年賀状辞める 好い決断でした わたくしも順次
減らしてゆく事を考えているところです なんだか 年齢と共に総てが億劫で
どうでもいいような気がして来ます
残された時間 本当に自身に有効な事だけに集中したい
そんな気持ちです
貴方の面影 好いですね 若き日の心情が直に伝わって来ます
書き残して置いたればこその効用 それだけ深い人生が形作られます
何も無ければ薄っぺらな人生の記憶になってしまいます
それにしても才能の豊かさ 感服です
ユウテカス 言って聞かせる でしょうね
北の方の言葉にはこういう何処か 詰めた ような言葉が多いですね
それがまた 方言の魅力 味わい深いものにもなっています
いいですね
G線上のアリア なんと素敵な葬儀の事か !
わたくしは宗教などと言うものを信じていません
ただ 世間との要らぬ波風を立てぬ為に風習に従っているだけです
今更 要らぬ波風など御免ですので
ダイコン ハクサイ 元気 写真だけで伝わって来ます
見ている方もなんとなく浮き浮き 殺風景な砂地が緑に変わる豊かさ
気持ちが洗われます
サトイモ 収穫時期 豊かな収穫量が眼に浮かびます
小春日 冒頭写真いいですね 秋です
ムーンライト・セレナーデ パリのめぐり逢い
いずれも懐かしい響きです
時は過ぎ行き 過ぎた時は還らない という事ですね
何時も御眼をお通し戴き有難う御座います また
今回も記事 楽しませて戴きました
有難う御座いました