映画「男はつらいよ」(2019.12.27日作)
(山田洋二監督 映画「お帰り 寅さん」上映に際して)
映画「男はつらいよ」
この作品群は どの作品も
同じような展開が続くが マンネリではない
作品 一つ一つが 人間に
一日一日があるように
作品にとっての 一日なのだ
一つの作品の終わりは
人間にとっての 一日 その終わりであり
次の作品が
翌日迎える 新たな一日となる
人間社会 人の生きる場にあって 日々は
ただ 平凡に 同じように 時の流れを刻んでゆく
映画「男はつらいよ」の時間も また
平凡に 一つ一つの作品が
似たような時の流れに過ぎてゆき
その中に 人間社会の真実 その姿が
映し出される
変わらぬ人間社会
その姿 その真実こそが
この映画の作品群を貫く
主題なのだ
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ある女の風景(4)
弘志が生まれて三月(みつき)になるかならない頃だった。東京駅でわたしの乗った列車が進行と共に、ホームの柱や駅名の書かれた看板を後ろにずらしていった。
十二月初めの寒い日だった。それでも、その寒さを心配した夫が厚着をさせた赤ん坊には、暖房の効いた車内は暑すぎたかも知れなかった。
わたしは憮然とした思いのうちに、弘志を膝の上に抱き、ただ車窓を過ぎる外の景色に眼を向けていた。向かい合った座席には夫と真由美がいた。
真由美は夫の横で赤い小さなビニール製のハンドバッグからチョコレートを取り出しては、しきりに口に運んでいた。夫の、志村の姓を継ぐ男児の誕生を一刻も早く、両親の元で祝いたいというたっての願いで、慌ただしい師走の帰省となったのだった。
わたしには当然の事ながら、この年の瀬の忙しい時期にと言う思いがあったが、夫の俗っぽい申し出にも敢えて逆らわなかった。
或いはこの時既に、わたしは気持ちの中で夫を見限っていたのかも知れなかった。そして今、あれから三年が過ぎてわたしは一人、山手線の電車の座席に身を沈めている。
そんな今のわたしには当時の事はまるで夢の中での出来事だったようにしか思えない。わたしは今、独身時代そのままに、ここに居る。
夫と共に過ごした歳月、あれはいったい、なんだったのだろう。
わたしの気持ちの中では今、夫と共に過ごした過去の生活に戻る、という選択肢は全く生まれて来なかった。結婚をし、子供を産み、育児に毎日を過ごす。独身時代にはメルヘンのようにも思えたそんな生活が今のわたしには、恐怖の生活にも近いような感覚でしか受け止められないのだ。夫と過ごした過去の日々が、今では無色透明で空虚なものにしか思えない。
確かに、自分が産んだ二人の子供達は可愛く、愛しい存在であった。しかし、そんな子供達と過ごす日常に何があるかと言えば、何もなかった。何もそこに感じ取る事が出来なかった。ただ、無為な日々に感じられた。一生は長く果てしない。
わたしに取っては、あるいは子供を産む事も単なる、一つの経験として望んでいただけなのかも知れなかった。そんなわたしに取っては、子供は真由美一人でよかったのだ。真由美によってわたしの望んでいた子供を産むという経験も達成されていた。それ以上の何もわたしは望んでいなかったのだ、多分。それだけに二人目の妊娠を告げられた時わたしは、狼狽したのだ。
無論、二人目の子供、弘志も今のわたしに取っては愛しい存在である事に変わりはなかった。真由美との間に母親として、差別など付けられようはずはない。同じわたしの身から生まれた存在なのだ。ーーわたしはいったい、何を望んで、何を嫌悪しているのだろう。
わたしには、わたし自身がよく分からなかった。ただ、わたしは夫を嫌悪した。夫自身ではなく、夫という存在を嫌悪した。わたしを家庭という牢獄に閉じ込める存在。今のわたしには、夫という存在がそんな風にしか感じ取れないのだ。
だが、もう、そんな夫からも離れた。多分、夫は、自分が子供達を引き取る事を条件に、離婚を承諾するだろう。
わたしはそれでもいい、と思う。たとえ、二人が夫の下へ引き取られたにせよ、二人を産んだ母親はわたしなのだ。わたしが母親である事には間違いないのだ。
そう納得するとわたしは、自分が一人になる事の孤独にも耐えてゆけそうな気がした。なんとはなく沈みがちだった気分もたて直して、これからまた、別の新しい道に向かって進んでゆくのだ、と思った。
電車はいつの間にか、新宿駅のホームに入っていた。構内放送の大きな声にびっくりして、わたしは慌てて席を立った。乗車して来る人を押しのけホームへ出た。
原宿へ行くのには、山手線に乗り換えなければならなかった。
四
里見一枝に会う七時半までには、まだ、大分間があった。もともと、久し振りに街を歩いてみるつもりで、切符は新宿までしか買ってなかった。
新宿の街を歩くのは何年振りの事になるのか、思い出せもしなかった。
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takeziisan様
有難う御座います
いつもお目を通し戴きまして
感謝と共に、御礼申し上げます
わたくしもブログを開く限り
takjeziisan様のページを拝見させて戴いておりますが
いつも見事な写真、感服しております
常に周囲に眼を配っているという事も
並大抵な苦労ではありません。
有難う御座います
これからも 見事な写真、眼を楽しませて下さいませ