遠い宇宙(2021.3.9日作)
僕の前に道はない
僕の後に道は出来る
詩人が歌っていた
それがどんな道であれ
一度刻まれた
道の消える事はない
それでも時はいつか
忘却の遠い彼方へと
すべてを運び去り 押し流し
そして また明日も
新たな道が
刻まれてゆく
やがて それは
何処へ行くのだろう
人の世の
果て
遠い宇宙
時は待たず(2021.3.11日作)
時は待たず
遠い彼方へと
今を運び
記憶の奥の深い闇へ
連れ去ってゆく
この世のすべては
夢幻 逃げ水 蜉蝣
蜃気楼
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蜃気楼(5)
明子の心は決まっていた。どのような時期を見計らって処置をすればいいのか、それだけが問題だった。今はまだ、秋物の準備に向けて忙しく、すぐにという訳にはゆかなかった。
その準備や打ち合わせが終わったのは六月中旬だった。明子にも少しの時間の余裕が出来たが、その時になっても気持ちに変化はなかった。明子は意を決して再び、産婦人科医院の門をくぐった。
柚木正信とは顔を合わせるような仕事はなかったが、それでも明子は個人的な関係の深まっている今を思って、警戒のために柚木には電話をした。
「ちょっと急な用事が出来て、実家へ行かなければならなくなったので」
と言った。
「実家 ? 長いの ?」
柚木は意表を突かれたかのように言った。
「ううん、そんなに長くはないと思うんだけど。母が腰を痛めたというものだから。それに、こちらの仕事も残っているし、帰ったらすぐにまた電話をします」
明子はそう言って受話器を置いた。
手術は格別なトラブルもなくて無事、済んだ。体調を思って会社も三日の休暇を取った。
失われた命への哀惜はなかった。奇妙に醒めた感覚の中で、仕方がなかったのだ、とだけ思った。自分の未来へ向けて自分の行為を正当化していた。
七月に入るとすぐに滝川裕子から秋物ブラウスのデザインが何点か送られて来た。
製品化を前に翌々日には滝川事務所で最終的な話し合いが持たれた。
明子は一週間ほど前に柚木には帰った事の電話をしていた。
「ああ、帰ったの ? 早かったね。お母さん、大丈夫 ?」
柚木は何も疑わずに言った。
だが、その時、明子の気持ちの中では何かが変わっていた。柚木に電話をする事自体が重荷に感じらていて、受話器の向こうに柚木の何時も通りの優しさに満ちた言葉遣いを聞いた時には、それがささくれ立ったようになっていた明子の神経に障った。
「ええ、何とか」
と答えた声には、いつの間にか思わぬ刺々しさが込められていて、それに気付いた明子はハッとした。
「そう、それは良かった」
柚木は言ったが、今は秋物発表会に向けての下準備に忙しいらしかった。
滝川事務所での打ち合わせの日、明子の気持ちはやはり晴れなかった。柚木と顔を合わせる事に苦痛を感じた。彼の存在がなんとはなく重く圧し掛かって来て自分を縛るような感覚に囚われていて、出来れば彼の前に身をさらしたくないと思った。
滝川事務所での打ち合わせは何時も通りに行われた。無論、滝川裕子は知らない事だったが、明子は常の自分と変わらないように努める事に苦労した。ともすれば知らず知らずに普段とは異なる柚木に対する冷ややかな態度に気付いて、慌てて身を正した。幸い、デパート側の責任者の立場にある柚木は、仕事そのものに気を取られていて明子の態度にまで気を配る余裕はないようだった。
その日、午前十時に始まった打ち合わせは昼食時間を挟んで午後七時近くまで掛かった。明子は会社の上司と共に帰りのタクシーに乗った。
柚木もまた、部下三人と別のタクシーに乗った。その時、柚木は何時ものように仕事上の話しのように明子に話し掛けて来て、今度の土曜日に会いたいと小声で言った。重要な仕事も終わっていて、明子の気持ちも多少は和んでいたが、出来れば暫くは二人だけでは会いたくないという気持ちは強かった。だが、その時の明子には咄嗟に、柚木のその誘いを断るだけの言葉が思い付かなかった。同じような事はこれまでにも幾度かあってその度に、明子はその言葉を受け入れて来ていた。
約束の土曜日、明子は会社を出ると同僚と別れて一人で銀座へ向かった。
四丁目へ来ると近くにある書店に入って二階に上がり、様々なファッション雑誌などを手に取り、柚木との約束の時間までを過ごした。
約束当初はなんとなく重荷に感じていた、柚木と二人だけで会う事にもいつか気持ちの馴れと共に、次第に負担を感じなくなっていたようで、目新しいファッションの数々に触れているうちに明子は我を忘れ、ひと時、テフッァションデザイナーとしての自分の将来への夢だけを膨らませていた。
明子が約束の時間に気付いて慌てて書店を出て、約束の場所まで行った時、柚木はまだ来ていなかった。五分程遅れて彼は来た。
「ごめん、ごめん。遅くなっちゃった」
二人はそのまま、何時も通りの行動で五丁目の裏通りにあるレストランへ足を向けた。
その夜、明子はレストランで柚木と向き合っている時にも、先日、滝川事務所で顔を合わせた時のような苛立ちを覚える事がなかった。食事の間の言葉の遣り取りにもしばしば笑顔がこぼれた。あとの、これまで通りの行動過程にも変化はなくて、あの、柚木の知らない出来事以来、初めてとなった夜にも明子は、今までにない感情の昂ぶりを見せてその行為の中に溺れていた。
柚木正信との愛はそれ以降も続いていた。それは一つの習慣にしか過ぎない愛にも似ていた。明子が柚木に求めるものはそれ以外になかった。柚木と顔を合わせている時、明子は孤独を感じないで済んだ。
柚木は明子の身体の変化には気付いていなかった。明子に取って、それは救いだった。明子は以前のままの明子でいる事が出来た。
ファッションデザイナーへの夢、その夢はその間にも明子の胸の内で大きく膨らんでいた。将来は一人のデザイナーとして自立する。
充実した日々が続いていた。このまま総てが順調に進んで行く。それを乱し、掻き廻すものは何もないように思えた。
柚木が思い掛けない言葉を口にしたのは、そんな日々の中での事だった。顔を合わせた途端に柚木は心の動揺を抑えきれないように言った。
「おれ、転勤になっちゃった。札幌へ行かなければならないんだ」
その声は沈んでいた。
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桂蓮様
コメント 有難う御座います
わたくしが何気なく書く わたくしの
真実の言葉が お読み戴く桂蓮様のお心の安らぎに
少しでもお役に立つものであるなら
光栄に存じます これからも良い
御文章をお書き下さいませ
只管打坐と体の覚醒 意識と肉体のアンバランス
それが一つになるという事 つまり 「悟った」 と
言う事ですね 禅の世界では それで始めて
本物として認められるという事で バレーに
於いても 意識と肉体が一つになるという事は
その本質を会得した という事に
なるのではないでしょうか 何事も意識して
ああする こうする と考えながら行動して時は
本物とは言えません 無意識の裡に出る行為 行動
その時初めて 総てが本物となる
禅の世界の根本ですね
女の妊娠は男にとっての軍隊入隊
言い得て妙です 女性にとってはキャリアを選ぶか
家庭の幸福を選ぶか 大きな問題だと思います
その意味でも現在言われている男女間の格差是正
大事な事ですね 家庭とキャリア 両立が理想です
早くそんな世界が来るといいですね
いつも有難う御座います
takeziisan様
有難う御座います
今回もまた 楽しくブログ拝見させて戴きました
いや 懐かしさがこもっています
赤ふんどし アイスボンボン 何処の地方でも
変わらないようです 不便で 遠く離れているようでも
所詮 日本 小さな国なんですね 総てに共感出来ます
日本海を詠った詩 いいですね 日本海の
荒々しさが見事に表現されています
それにしても字がお上手です
字の下手なわたくしとしては羨ましい限りで
字の上手な人は利口に見られると言います
それだけでも得です しかし 文字と歌
この二つは持って生まれたもので下手な人間が
幾ら頑張っても限界があり 天性の持った才能には
及び付きません
畑の写真 今回も楽しく拝見させて戴きました
痛 痛 思わず笑い出しました 実感です
それにしても自然が豊富です
羨ましい限りです 花々 鳥 いずれも楽しく
拝見させて戴きました
川柳 引き続き頑張って下さいませ
もち草 わたくしの方ではよく
「蚊やぶし」蚊を燻すのに使いました
草もちは今でも好きです あの香りがいいですね
ロボット犬 以前にも拝見させて戴いた記憶が
有りますが 今回も笑いました
実によくできているものです
コロナ 仰るとおりで 個人個人が
気を付けるより仕方がないようです
いつも有難う御座います