雑感七題(2010~2020.8.30日作)
(この中には既に発表済の文章も
幾つか含まれているかも知れません)
Ⅰ 闇は人の内面を自己存在の内部に向かわせ
光りは人の内面を開放させる
2 人は高みに昇れば昇る程 孤独になる
3 権威はまず疑ってかかれ
全く実力もないのに 世渡り上手だけで
地位を築く人間の如何に多い事か
4 人間は自分の思いを伝えようとする時
その思いが強ければ強い程
多くの言葉を口にしがちだ しかし
多くの言葉はかえって
伝えたい事の核心から離れ
焦点のぼやけたものになってしまう危険性がある
核心を衝いた簡素な言葉 それこそが
より良く人の心に響くものだ
5 人間は宿命を背負った存在
この世に生まれた事自体が一つの宿命
自身の力ではどうにもし得ない
6 極限に於いて人間は
神を見るか 虚無を見るか
それ以外にない
7 偶然はまた 必然でもある
偶然 その場所に居た事が
偶然の出来事に巻き込まれ
結局それは
その場所に居た事による
必然的結果だという事になる
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その夏(4)
雪辱は信次の意識の中で怨念と化していた。負けた相手に対しての、敵意にも近い感情を抱いて激しく練習に打ち込んだ。
「スタートにやられたんだ。相手のあの、天才的とも言えるようなスタートを思い出してみろ。いいか、五十メートルからの加速では、断然、おまえの方が勝っているんだから。その加速を過信してスタートを疎かにしたのがいけなかったんだ」
岡島先生は口癖のように言った。
そのスタートダッシュに練習の三分の二程を費やした。
「見てみろ。あの惣造さんのスタート。腰があんな高い位置から出ている。まるで頭から突っ込んでゆくような感じだ」
岡島先生は青年団の代表選手の一人を指して言った。
水野惣造はオリンピックの候補選手に選ばれた事もあった。
「しかも、走っている時の腰の位置があんなに高い。空中を飛んでいるようだ。と言う事は、脚がピチッと伸び切っているっていう事だ。あの走りを盗まなくちゃいけない」
信次には、その夏の激しい練習も苦にはならなかった。
五
秋本つね代が事件後、初めて村の若者達の前に姿を見せたのは三日目の午後だった。
校庭では練習の真っ最中だった。青年団も交えて選手がそれぞれ、思い思いに自分の種目に取り組んでいた。
秋本つね代は日傘を差し、校庭の土手に沿った県道を歩いて行った。
しゃんと背筋を伸ばして、人々の視線を意識しての事か、恥じ入る様子など微塵も無くて、むしろ、得意気であるようにさえ見えた。
青年団の選手達は、それが秋本つね代だと知ると練習を止め、露骨な視線をつね代に送った。
秋本つね代がその視線を意識している事が明らかだ、と分かった時、信次は途端に、何か厭なものを見てしまったような気がして、いたたまれない気持ちになった。
秋本つね代に激しい敵意を抱くと同時に、憎しみさえをも感じた。
秋本つね代が校舎の陰に消えて行くと青年団の者達は口々に、
「いい女でねえが」
「あんな事などねがったみでえに、平気な面ばしてだなあ」
「少しは恥ずかしがってもよがっぺによお」
「けえって、得意気だったでねえが」
などと言い合った。
その日、秋本つね代は駐在所へ行った帰りだった。
駐在所でつね代は広田巡査に事件の進行状況を聞いた。
「うーん」
と、広田巡査は困惑したように言った。
「あんたには気の毒だが、あに一つはっきりした証拠が掴めなぐてねえ」
「だけっど、事ば起こすような人間がわざわざ、証拠どなるようなもんば残す事などねえでねえですが」
つね代は巡査に詰め寄った。
「まあ、それはそうだがなあ」
広田巡査は煮え切らなかった。
現場には乱暴されたという芝生の上にも、それらしい跡は何一つ見当たらなかった。芝生が踏まれたらしい跡さえなかった。広田巡査は調査の最初に直観した事件の曖昧さを改めて感じるばかりだった。
「あんたは助けば呼んだっつうが、その声ば聞いだ者もいねえだよ」
広田巡査は言い訳がましく言った。
「それは、わだしには関係ねえですよ」
つね代は不満気に言った。
「まあ、そういうこったが、あの夜は学校でも陸上競技の選手達が合宿していだもんで、その中の一人でも、あんたの声ぱ聞いでいれば一つの証拠になるんだけっども。文房具屋のかみさんも聞いでねえって言うし」
学校は前面と右手を田圃と畑に囲まれていて、左手の県道沿いには文房具屋に続いて、二、三軒の農家が槙塀に囲まれて点在していた。文房具屋は学校の裏門に近い位置にあって、叫び声の聞こえない距離ではなかった。
「そっじゃあ、わだしがデマば言ってるってんですが」
つね代は色をなして言った。
「いやいや、そういう訳ではねえ」
広田巡査は内心に抱く胡散臭い思いを隠しながら、慌てて言った。
「あにしろ、真夜中の事ですがらねえ」
つね代は不貞腐れたように言った。
「それも考えではみだが・・・・。まあ、とにがぐ捜査は続げるけっども、はあ(もう)、少し待ってみでくれ」
広田巡査はなだめるように言った。
「早ぐ犯人ば捕まえで貰わねえど、悔しくてしょうがありませんよ」
「それは、そうだなあ」
広田巡査はなだめるに言ってから、
「どうだね ?」
と言って、向き合って坐っていたつね代に、ポケットから取り出した煙草をテーブル越しに差し出した。
「わたしは煙草は吸いません。不良じゃないがら」
つね代のツンとした真面目腐った言い方が可笑しくて、広田巡査は思わず笑った。
広田巡査は箱の中から自分用の一本を抜き出すと口に咥えて火をつけた。
取りあえず、つね代と話し込んでみる気になった。
「世間の噂じゃあ、あんたは、ながなが持でるってこっでねえが」
つね代の機嫌を取るように言った。
「そんな事ありませんよ」
つね代は満更でもないように言った。
「亭主はあんにも言わねえのがね」
「うちの人には、今度の事は言ってませんよ」
「世間の噂が耳に入るべえによお」
「入ったって構いませんよ。怒ったって、わたしば追い出すなんて出来っこねえですがらね」
「そうがい。大した自信だね」
「あの人、わたしに惚れてんですよ」
つね代は意味ありげな眼差しで言った。
「あんたが、あんまり持てで、焼きもちば焼かねえのがい」
「そりゃあ、男ですがら、わたしばぶつ事もありますけど、でも、一晩寝れば元の木阿弥ですよ」
つね代は事も無げに言った。
「あんで、他にも男はいっぺえ居だだべえに、見合い結婚なんかしただね」
「親がうるさぐ言うもんで、そっで、面倒臭ぐなって結婚したんですよ。わたしはどうでも良がったんでけっどね」
「いっべえ持てで、好きな男はいながったのがね」
「そんな人、居ませんよ」
つね代は素っ気なく言った。
何か、心の乾ききった気配が感じ取れた。
「兄妹は‥‥何人 ?」
「七人兄妹で、わたしは上から四番目ですよ」
「学校は ? 高校 ?」
「ええ。高校を卒業して、少し、近所のみりん干し工場で働いていたんですけど、そん時、好きな男が出来て深い仲になったんですけど、なんとなく、それが詰まんねえ事に思えで来て、すぐに別れちまったですよ。それからずっと、あにばしても面白くねえもんで、はあ、どうでもいいや、って思うようになって、親がうるさく言うもんで、今の亭主と結婚したんですよ」
「なる程。あにがそんなにつまんねえのがねえ」
「そんな事、わたしにも分がりませんよ」
「子供は ?」
「まだです」
「出来ねえ ? それとも、造らねえのがね」
「造らねえ訳ではねえですけど、出来ねえですよ」
「欲しいとは思わねえのがね」
「別に、欲しいとも思いませんね」
「あんたも、ちょっと、変わってるね」
広田巡査はずばりと言った。
「ええ、昔がら親によぐ言われました。おめえは変わったガギ(子供)だよおって」
つね代は悪びれる事もなく言った。
六
「つね代。おめえ、今日、何処さ行っただあ」
その日の夕方、良一郎は流しで米を研いでいるつね代の後ろ姿に向かって言った。
「あんでがね。あんで、そんな事ば聞ぐだい ?」
つね代は背中を見せたまま、振り向きもしないで言った。
「世間では、おめえの事ば、あんて噂してんのが知ってんのが ?」
良一郎は怒りを含んだ声で言った。
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takeziisan様
何時もお眼をお通し戴き
有難う御座います
御礼申し上げます
連日の猛暑 屋上のプランターの水やりでさえ
毎日 億劫になり いやいやながら実行しています
御苦労が実感出来ます
土の状態 ひどいものですね
でも井戸水があるとの事
自然の恵みですね
栗の木の木陰 何かしら懐かしさを感じます
かって 田舎の家にもありました しかし
現在は太陽光発電パネルが設置されています
自然の有難さは乾き切った都会の中では
いかにも豊かな恵みに感じられます
もうしばらくの熱さ くれぐれも
お体にご注意の程を
有難う御座いました
hasunohana1966様
有難う御座います
「心のドアの取っ手」和文 英訳
それぞれ 読ませて戴きました
人それぞれ 簡単に他者を非難しては
いけない という事ですね
各人 人はそれぞれ個性を持っています
その個性はその人一人のものです
他の何処にもないものですね
尊重しなければいれけません
個人の尊重 それを忘れた所に
現在アメリカで起きている様々な
醜い事件も発生するのではないでしょうか
いろいろなお写真 とても 楽しく
拝見させて戴いております
それにしても広大な土地 羨ましい限りです
御苦労も多い事でしょうが
ブログ 折々に拝見させて戴いております
今後も宜しくお願い致します