遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(487) 小説 希望(11) 他 岡本太郎芸術より ねぶた ほか

2024-02-25 12:07:57 | 小説
             岡本太郎芸術より ねぶた(2024.2.25日作)


 岡本太郎芸術より
 ねぶた ねぷた
 岡本芸術 何処か
 メキシコ芸術等からの
 借り物的印象 匂い
 (初期作品 傷ましき腕 秀作)
 ーーメキシコ市街の壁 古い発掘物などに
 しばしば見られる美の様式
  青森 秋田の ねぶた ねぷた
 この国 日本 東北
 地元に根差した 風土が
 醸し出す 美
 美しいと思う


 人間は自分の視点でしか
 物を見る事が出来ない
 悪の視点 膳の視点
 人間性が反映する




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




               希望(11)




「おふくろ ?」
 修二は思わず聞き返してマスターを見た。
「おまえと話しがしてえんだってよ。少し時間をくれって言ってる」
 修二は身を堅くした。
「おふくろなんて、どうだっていいですよ」
 自分には関係のない事のように修二は言った。
 これからの時間、店が忙しくなるのを知っていた。
 店に迷惑を掛けたくない思いもあった。
 修二に取って今、一番大切なのはこの店だった。
 漸く手にした落ち着いた生活を誰にも邪魔されたくなかった。
 ましてや、自分達を一度は見捨てた母親だった。今更、母親面をされたくはなかった。今の修二には母親と話さなければならない事など何もなかった。
「どうだっていいって言ったって、放って置く訳にもいかねえだろうよ。行って話しをして来いよ。店の支度はいいから」
 マスターは母親に対する修二の苛立ちを察したらしく、諭すような口調で言った。
「喫茶店の" らんぶる " なら落ち着いて話しが出来るから行って来いよ」
 マスターの言葉に強制的な響きはなかった。
 それでも修二はマスターに逆らう事は出来なくて、
「はい」 
 と答えていた。
 日頃からマスターが何かと気を使ってくれる事に修二は感謝をしていた。
 修二が二階の部屋で着替えを済ませ、店の外に出ると母親は向こう側の歩道に立っていた。
 修二の姿を見ると急かれたように車道を渡って来た。
「なんだよ、随分待たせるんだねえ」
 と、苛立った口調で言った。
 恐らく、三十分近くは待ったはずだった。
 修二は返事もしなかった。
 すぐに母親の前に立って歩き出した。
「ちょっと待ってなよ。マスターに挨拶をして来るから」
 母親はなおも修二を咎めるように言った。
 修二はマスターという言葉で足を止めた。
 母親は店に向かうと入口で頭を下げて挨拶をした。
「済いません、ちょっとお借りします」
 修二に向けたとげとげしさは無くて、愛想の良さを滲ませた口調だった。
 修二はそんな母親の下卑た変わり身の早さにまた嫌悪感を抱いた。
 母親はすぐに戻って来た。
「何処か腰を落ち着ける場所はないかね」
 修二の後を追いながら母親は言った。
 修二は返事をしなかった。
 母親の前に立ってただ歩いた。
「喫茶 らんぶる」は五分程の場所にあった。
 その間、母親は修二の後を追うように小走りに付いて来た。
「何時(いつ)からあの店で働くようになったんだい ?」
 店内に入り、テーブル席に向き合って着くと母親はまず聞いた。
 修二は答えなかった。
 店員が注文を取りに来た。
「何にする ?」
 母親は猫撫で声で修二に聞いた。
 修二はやはり答えなかった。
 母親は修二の答えを待たずに、
「コーヒー二つ」
 と言った。
 店内は空いていた。
 店員が背中を見せてその場を離れると母親は早速口を開いた。
「おまえがあの夜、姿を消してしまってから、何処へ行ったのかって随分、心配したんだよ。でも、小さい子供でもないと思って気持ちを落ち着けたんだけどね。それでね、十日ぐらい前だったかなあ、店に来るトラックの運転手さんが、おまえをあの店で見たって教えてくれたんだよ。だもんで、自分の眼で確かめてみようと思って来た訳なんだよ。いろいろ家の事なんかもあるし、おまえの居場所が分からないと何かと不便だからねえ」
 母親は修二の様子を探るようにじっと見つめたまま言った。それから機嫌を取るかの様に穏やかな口調で、
「ずっと、あの店で働いていたのかい ?」
 と言った。
 修二は母親と向き合ったまま、不機嫌な表情で黙っていたが、その穏やかさを滲ませた口調に我慢が出来なくなって、
「うっせえな ! 俺がどうしようとてめえには関係ねえだろう」
 と、怒鳴っていた。
 母親は突然発した修二の怒声に一瞬、驚いた様に身体を引いたが、また身を乗り出して、
「大きな声を出すんじゃないよ ! みんなが見るだろう」
 と、叱責するように言った。
 事実、周囲に居た何人かの人達が視線を向けて来た。
「見たってかまわねえよ !」
 修二は不機嫌な表情のまま言い放った。
 母親は周囲を憚ってかそれ以上は口にしなかった。
 コーヒーが運ばれて来た。
 それぞれの前に置かれると母親は自分の分には備え付けの砂糖とミルクを入れたが、修二のものには入れようとしはしなかった。
 修二の反発を恐れているのが明らかだった。
 修二は椅子の肘掛けに両腕を掛け、背中を後ろに持たせ掛けたままの姿勢で、何時、母親の前から立ち去ろうかと考えていた。母親と話す事など何も無かった。
「修二ねえ、おまえ、母ちゃんを怒っているんだろう ?」
 母親はコーヒーを掻き混ぜ終わるとその手を止めて修二の顔に視線を向けて言った。
 修二を問い詰めるかのような厳しい口調だった。
 修二は怒りの滲んだ表情のまま返事もしなかった。
 母親はそんな修二には構わずに如何にも不快気な口調で言葉を続けた。
「でも、仕様がないじゃないか。母ちゃんが働きに出なければ、何処からもお金が入って来るところが無かったんだから。父ちゃんに掛かった医者代だって大変なもんだったんだよ。それに元々、父ちゃんがあんな風になっのも、父ちゃんの責任なんだよ。毎日、酒ばっかり吞んでいて、いくら注意しても聞かなかったんだから。見てみなよ、父ちゃんが死んだって、家が火事になったって、保険金の一銭だって入って来やしないじゃないか。みんな父ちゃんが吞んじゃったんだよ」
「父ちゃんの事ば悪く言うな ! 父ちゃんは酒ばっかり呑んでても、仕事は毎日真面目にやってた !」
 修二に取って父を貶す事は冒涜だった。ましてや他の男に走った母親がそんな言葉を口にする事など、猶更、許せなかった。
 母親はしかし、修二の反撃にも怯まなかった。
 更に不満も露わに言葉を重ねた。
「それは仕事は毎日やっていたよ。でも、倒れる前の一年ぐらいは大事な事はみんな、母ちゃんがやってたんだよ。心臓は悪くなるし、肝臓は悪くなるしで、父ちゃんの身体はガタガタだったんだから。だから、母ちゃんの言う事を聞いて、少しでも酒を控えていたら、こんな事にはならなかったんだよ」
 修二も父親の身体の悪い事は知っていた。
 父親の唯一の欠点が酒好きだった。
 そんな父だったが、修二には何時も優しかった。夜釣りに連れて行ってくれたり、ホオジロを入れる鳥かごを作ってくれたり、友達のように優しかった父親だった。
 高木ナナのCDを聴く為にプレイヤーを買ってくれたのも父だった。
「それに婆ちゃんだって悪いんだよ。母ちゃんが夜昼構わず働いてるのに、父ちゃんの面倒見が悪いんだとかなんだとか、誰構わず言いふらして歩いてさ。幾ら働いても良く言われない家の中で二年も三年も治る見込みのない病人を抱えて暮らすなんて、おまえだって考えただけでもうんざりするだろう。家を出たくなるのも当たり前じゃないか」
 修二は母親の言葉を確かに耳にしていた。だが、修二の耳にはその言葉が、何処か遠い所で見知らぬ人が口にしている言葉の様にしか響いて来なかった。
 そんなてめえのせいで、俺も婆ちゃんもえれえ苦労ばしたんだ !
 喉まで出かかる怒りの言葉も呑み込んで結局、口にしなかった。




            ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様


             有難う御座います
             週番 懐かしい言葉ですね
            昭和三十年当時の記憶が鮮明に蘇ります
              あの家並み 古き良き時代というより まだ貧しかった時代の景色
            今では遠い記憶の中の風景ですが 何故かあの頃に      
            郷愁を覚えます
            人々が一生懸命に生きていた時代でした 今はあの当時より
            多少は豊かになっているのかも知れませんが人の心の有り様では
            どうなんでしょう
            野球 相撲 懐かしい名前ばかりです
             春の要請 地に這うように咲く花々 寒さの中に何故かふと
            温もりの感情を目覚めさせます それにしてもホトケ草の強さ
            わが家の屋上でも根を張り 花を咲かせます それでいて邪魔にも思えない小さな花です
            それにしても見事な野菜 収穫の喜びが見ているだけで伝わって来ます
            収穫の喜び 何時も羨望の眼差しで拝見しています
            今年は総ての野菜が高いです 日常 無くてはならない物だけに主婦の方々の
            困惑が眼に見えます
             薄化粧 海辺育ちの人間にも何故か懐かしい風景です
            国土の三分の二が山々 この国に生きる者の自然な感情ではないでしょうか
            わたくしの中では東北地方に旅行をした時に眼にした山々の姿が
            今でも鮮明に 懐かしさと共に甦って来ます そしてふと
            すぎもとまさと の「吾亦紅」を思い浮かべます          
             美しく青きドナウ ウイーンフィルハーモニーの定番ですね
            小澤征爾の追悼番組でもやっていました 映画の舞踏会場面でもしばしば登場して
            ポピュラー化していますね
             今回もいろいろ楽しませて戴きました
            有難う御座います











遺す言葉(486) 小説 希望(10) 他 永遠 今 

2024-02-18 12:01:08 | 小説
             永遠(2023.12.10日作)


 自分が捉えたと思った " 今 "は
 既に過去であり
 永久に取り戻す事は出来ない
 遠くのものは遅く動き
 近くのものは速く動く
 眼の前のものは瞬時に過ぎて行く
  " 今 "という時はない
 今 現在は永遠だ
 今 現在を捉える事は誰にも出来ない
 今 現在 眼の前に迫りくるものは
 瞬時に過ぎて 過去となり
 遠ざかる 止(とど)まる事はない すなわち
 今という時はなく 今現在は無であり
 永遠だ


             今


 時間という概念がある限り
 今という時は存在しない
 今は未来と過去の接点であり
 それが止まる場所はない
 今とは時間を突き抜け
 未来も過去も包み込む概念
 永遠だ
 人は常に未来と過去を生きている
 すなわち
 永遠の今を生きている





             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

       
              希望(10)              

 

 
 
 修二が出口に向かう人の群れに混じって階段を駆け下り、ひしめき合う人達と一緒に会場の裏口に着いた時には既に大勢の人達がそこに居た。
 みんなが高木ナナが出て来るのを待ちながら、興奮した面持ちではしゃいでいた。
 修二は人々の後ろから背伸びをして出入り口の様子を窺った。
 人の頭が見えるだけだった。
 もっとよく状況を知りたくて高木ナナの色紙が入った袋をしっかりと抱き締めて、強引に人垣を掻き分けて前へ進んだ。
「何よ ! この人、痛いわね」
 女の人が声を上げて言って、修二を小突いた。
 修二は意に介さなかった。
 更に進んだ。
 その時、ひと際高い歓声が上がって、人の群れが出口に殺到した。
 高木ナナが姿を見せた。
 修二は背伸びをしてみたがそれでも人の頭が邪魔になって見えなかった。
 修二は我を忘れて夢中になっていた。
 この機会を逃したら何時また高木ナナに会えるのか分からない ! 
 人込みの中で揉みくちゃになりながら前へ進んだ。
 突然、眼の前が開けて、ガードマンに囲まれた高木ナナが群衆を掻き分け掻き分け歩いて来る姿が眼に入った。
「通れないから道を空けて下さい。すいません、道を空けて下さい。道を空けて」
 先導役の中年のガードマンが声を枯らして叫びながら、殺到する群衆を掻き分けていた。
 高木ナナは白いパンタロンに胸元と袖口にフリルの付いた薄桜色のブラウスを着ていて、赤い野球用の帽子を被っていた。
  TとNを組み合わせた白い文字が正面に見えた。
 周囲を固めた警備の男達に守られながら高木ナナは、次々に差し出される手を握っては笑顔で群衆の歓声に応えていた。
 周囲を固めた男達が必死で、高木ナナに近付こうとする群衆を抑えていた。
 修二は自身も人々に小突かれながら、我を忘れて次第に近付いて来る高木ナナの姿に見入っていた。
 今、眼の前に確実に近付きつつあるのは紛れもなく、あの田舎のレコード店で握手をした時の高木ナナだった。笑顔もあの時の高木ナナそのものだった。
 修二の胸には抑え切れない懐かしさが込み上げ。
 白い手の柔らかな感触が実感を伴って生々しく甦った。
 握り締めた自身の手が汗で濡れた。同時に何時、色紙を取り出してナナに見せようかと、焦りにも似た思いが生まれていた。
 四メートル、三メートル、高木ナナの姿が次第に近くなって来た。
 修二は我を忘れたまま袋の中から色紙を取り出すとそれを振りながら、ナナさん、ナナさん、と叫んでいた。
 やがて高木ナナの姿が修二の眼の前に来たーー。その時の自分を修二は覚えていなかった。ただ、夢中で手にした高木ナナの色紙を振って群衆の中から抜け出し、高木ナナに近寄ると警護の男達の腕を振り払いながら、ナナさん俺、ナナさんに貰った色紙を持ってるんです、握手をして下さい、と叫んでいた事だけが鮮明な記憶として残っていた。
 無論、そんな修二はたちまち何人もいる警護の男達に取り押さえられ、腕を掴まれて身動き出来なくなっていた。
 高木ナナはその様子の一部始終を最初から眼にしていた。
 だが、修二を見詰める高木ナナの眼には明らかな恐怖と嫌悪の色が浮かんでいて、修二の記憶に残る優しく、親し気に微笑み掛けて来る眼差しは何処にも見られなかった。のみならず、
「何、この人、怖いわよ。早く向こうへ連れて行ってよ !」
 と、怒りと憎悪を滲ませた声で叫んでいた。
 修二を取り押さえた男達はその言葉と共に更に一層、容赦の無い力を込めて押え付けて来た。
 その間に高木ナナは足早に修二の前から去って行った。
 高木ナナの姿が見えなくなると修二の腕や身体を押さえていた男達は突き飛ばすようにして手を離した。同時に足蹴にする者もいた。
 高木ナナの姿が見えなくなるのと一緒に群衆もまた修二の周辺から遠ざかって行った。
 修二だけがポツンと一人、その場に残された。
 ーーどれ程の時間、呆然とその場に立っていたのだろう ?
 そんな自分に気付くと修二はのろのろと歩き出した。
「名前はなんて言うの ? これからもよろしく応援してね」
 白く柔らかい手をしたあの時の優しい高木ナナはもうそこには居なかった。高まる人気と共に傲慢さを身に付けた気位の高い高木ナナだけが居た。
「早く向こうへ連れて行ってよ」
 叫んだ時の憎悪と敵意に満ちた眼が修二の脳裡から消えなかった。
 現在、ポップス界の若手ナンバーワンスター、高木ナナ。
 現実が高木ナナを修二の手の届かない遠い所へ運び去ってしまっていたーー。
 どのようにして自分の部屋へ帰ったのかも覚えていなかった。
 部屋へ入って明かりを点け、眼の前に高木ナナのポスターを見た時、初めて我に返った。
 それまでは総てが夢遊の世界の出来事だった。そして、現実の世界に還ると同時に修二は激しい怒りに捉われた。
 ポスターの中で高木ナナは何時もの優しい眼差しで微笑んでいた。
 こんなの嘘っぱちだ !
 修二は大きな声で叫ぶと壁のポスターに手を延ばして力任せに引き剥がした。そのまま思いっ切り引き裂いた。
 ポスターはたちまち修二の手の中で小さくなり、小さくなったポスターはそのままごみ箱に投げ入れられた。
 あんな奴なんかの顔など見たくもない !
 足元に色紙と演奏会のプログラムの入った袋が落ちていた。
 眼にするとまた、新たな怒りに捉われた。
 なんだって、こんな物を後生大事に抱えて来たんだ !
 拾い上げてそのまま、ポスターと同じ様に力任せに引き裂いた。
 同じ様にゴミ箱に投げ捨てた。
 高木ナナに関する物はそうして総てが無くなった。 
 淋しさはなかった。
 奇妙な満足感を覚えていた。
 もともと、何も有りはしなかったんだ。自分だけが独りでいい気になっていただけなんだ。
 そう納得すると、気持ちも落ち着いて、明日からもまた、これまでと同じ様に生活してゆこう、と思った。



             4



 九月に入って間もない日だった。
 修二は調理場で長ネギを洗っていた。
 午前十一時に近かった。
「修二、おふくろさんが来ているぞ」
 マスターが修二の傍へ来て言った。
 普段と変わらない静かな口調だった。



  
             ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              takeziisan様

          
               御忙しい中 御眼をお通し戴き 有難う御座います
              二月半ばで春の気候 春の話題が何故か似合います
              わが家でもフキノトウ 芽を出しました
              様々な花が開く季節 待ちわびる気持ちが躍ります
              美しい花の写真を見ればなおさら 豊かな春の情景が浮かびます
              今朝もNHKで高知県の話題を取り上げていましたが       
              自然の景色には自ずと心洗われる気がして気持ちが和みます
              嫌な事ばかりが続く世の中 美しい自然 景色
              花々を眼にする事がせめてもの慰め 救いです
               花と小父さん 浜口庫之助 初めてです
              この歌を亡くなった野坂昭如が 幼児趣味の嫌な歌だと
              酷評していた事を思い出します 決して そんな歌だとは思えませんが
              浜口庫之助の成功へのジェラシーがあっのかも知れません
                いのく いのかす わたくしの方では いごく いごかす でした
              マンサクの赤 初めてです
               自然の美しさを映した写真 心洗われます
              有難う御座いました

























           

遺す言葉(485) 小説 希望(9) 他 欲望

2024-02-11 12:00:20 | 小説
             欲望(2021.3.10日作)



 人は欲望によって 行動する
 欲望を持たない人間は 死んだ人間
 欲望 その欲望が 人を
 高みへと 飛翔 飛躍 させる 
 しかし 欲望は
 無限自由 自由無限では ない
 人は 人との関係 係わりの中で 生きる
 人との係わりを損なう欲望は 悪の欲望
 罰せられ 拘束され 棄却されて然るべき 欲望
 正ではない 負の欲望
 ✕(バツ)の欲望




             ーーーーーーーーーーーーーーーーー




             希望(9)




 北川はバイクを買って仲間に入れと頻りに勧めたが、修二にはその気が無かった。
 誰にも煩わされず、一人で街を歩いている時が一番気持ちが休まった。
 依然として心の中には堅く凍り付いて溶けないものがあった。
 それが何処から来て、何に依るものなのかは修二自身にも分かっていなかった。分かろうともして来なかった。
 今の修二に取って必要なのは一人だけの時間だった。一人だけの時間の中で思いのままに過ごす事、それ以外に今の修二が望む物は何も無かった。
 その日、修二は何時もの休みの日のようにゲームセンターで長い時間を過ごした。その後、デパートの屋上へ行った。
 屋上には庭園があった。
 様々な小動物や小鳥、植木や草花などが売られていた。
 修二が好きなアイスクリームやハンバーガーを売る店もあった。
 休日の最後は何時もそこで過ごした。
 六、七人の人と一緒にエレベータ―を降りて修二は思わず足を止めた。
 右側の壁の辺りから強烈に修二の意識を貫いて来るものがあった。
 様々な催し物のポスターが貼られていた。
 その中の一枚に修二は吸い寄せられたように近付いて行った。
 高木ナナの名前と笑顔がそこにはあった。

       高木ナナ スペシャルステージ
        トップアイドル遂に登場 !
              県民ホールに於いて
              十九日 水曜日のみ

 ポスターの中の高木ナナはそこでもやはり、修二が見馴れた何時もの微笑みを浮かべていた。
 修二はその微笑みを意識すると途端に胸が締め付けられるような感覚を覚えて息苦しくなった。
 修二が毎晩、自分の部屋で見馴れている高木ナナがそこにいる !
 心臓の鼓動が速くなるのを意識して咄嗟にその場を離れた。
 湧き起こる高木ナナへの甘い感情に誘われ、何時もの夜の二人だけの世界に引き込まれてしまいそうな気がして自身への危うさを覚えた。
 少し距離を置いた場所へ戻ると漸く気持ちも落ち着いて、思わず深い息を吐いた。
 改めて冷静な眼差しでポスターに眼を向けると細かい文字を読んだ。

 < 前売り券残り僅少 当日売りなし 午後六時三十分開演 >
 
 水曜日なら店が休みだ !
 咄嗟に頭の中を走る思いがあった。
 歓喜の思いと共に、高木ナナと握手をした時の感触が生々しく甦った。
 修二は急いでエレベーターへ戻ると入場券売り場のある地階へ向かった。
 もしかして もう売り切れてしまってるのではないか ?
 エレベーターにいる間中、気持ちが落ち着かなかった。
 抱いた危惧は半分、当たっていた。
 一階席は総て売り切れていた。
 二階席後部に僅かな席が残っていた。
 代金の三千円は持っていた。
 二階席後部という位置が不満だったが、買わずに見送ってしまう事の方が心残りな気がして購入した。
 手にした入場券を改めて見つめ直した。
< 高木ナナ・オン・ステージ >と書かれた文字が期待感と共に心の中で躍った。
 期待に高まる胸で前売り券を改めて袋に収め、宝物のように大切にズボンの尻ポケットにしまった。
 今日は七月五日だから、二週間後の水曜日だ。
 その日を待ち遠しいように思った。

「明日、県民ホールへ高木ナナのショウを見に行くので、夜、部屋を留守にしていいですか」
 火曜日の夜、店が終わった後でマスターに聞いた。
「高木ナナのショウ ?」
「はい。六時半からなんで」
「構わねえよ。高木ナナのファンなのか ?」
 マスターは修二の顔を見て笑顔で言った。
「はい」
 その夜、修二は押し入れから布鞄を出して中に仕舞ってあった高木ナナのサイン入り色紙を取り出した。
  
   高木ナナ      
     
  山形修二君へ
   これからもよろし 
     応援してね !

 色紙の文字を丁寧に辿りながら、明日はこれを持って楽屋へ行って握手をして貰おと考えた。
  高木ナナはきっと懐かしがって、喜んで握手をしてくれるに違いない。事に依ったらまた、新しいサインも貰えるかも知れない。
 当日、修二は二十分程バスに揺られて県民ホールに着いた。
 広場では既に開場を待ち切れない若者達が入場の順番待ちをして長い行列を作っていた。
 修二が行列の最後部に並んで三十分程してから開場が告げられた。  
 客席が埋まり場内の騒めきも収まって間もなく、金糸で縁取りされた真紅の豪華な緞帳が上がり始めた。
 やがて舞台の中央に、バンドを後方に従え、スタンドマイクに手を掛けて立っている高木ナナの姿が足元から徐々に見えて来た。
 その全身が現れて緞帳が上がり切ると同時に演奏が始まった 
 会場内いっぱいに大きな音が響き渡った。
 高木ナナがスタンドマイクに手を掛けたまま歌い始めた。
 高木ナナ独特の透き通るような響きのいい声が一気に会場内の観客を虜にした。
 黒いレザーパンツにノースリーブの赤いシャツ、ヒールの高い赤のブーツを履いた高木ナナの細身の体がスタンドマイクを手にしたまましなやかに舞台の上を動き廻った。
 熱狂と興奮、会場全体が一瞬も途切れる事のない歓声に沸き返った。
 修二もその渦に巻き込まれていた。
 約二時間、高木ナナは熱狂的に歌いまくった。<目まぐるしく変わるライト><スモークにかすむステージ>プログラムに踊る言葉そのままに、夢の中の事かと思われる世界が展開された。と同時に修二は奇妙な感覚の混乱にも陥っていた。
 今、眼の前に見ている高木ナナが普段、ポスターやテレビの中で見ている高木ナナと同じ人だとはどうしても思えなくなっていた。 
 奇妙に遠い感覚の中にいた。何処か、見知らぬ世界の人のような気がしてならなかった。
 何年か前、田舎のレコード店で握手をした時の、あの柔らかい手の感触が舞台の上の高木ナナに感じ取る事が出来なくなっていた。正しく夢の中の人のようにしか思えなかった。それでも高木ナナは最後の曲が終わると自身も昂揚した声で、
「みんな、声援どうも有難う !」
 と、客席に向かって手を振り、言った。
 一斉に拍手と歓声が沸き起こって観客は総立ちになり、会場は興奮のるつぼに陥った。
 やがて降り始めた緞帳がそんな高木ナナの姿を見えなくしていった。
 場内に明かりが点いた。
「早く外に出て車に乗るのを見ようよ」
 修二の隣りにいた女の子達が興奮した声で話し合っていた。
 修二もその声に誘われた様にその気になり、女の子達の後を追った。高木ナナの楽屋を訪れる心算でいたその思いも忘れていた。












遺す言葉(484) 小説 希望(8) 他 石は空裏に立つ ほか

2024-02-04 12:14:50 | 小説
            石は空裏に立つ(2022.11.23ー30日作)
              禅の言葉

 この世は巡る
 朝が来て 夜が来る
 風が吹く 雨が降る
 陽が射して 雲が動く
 
 わたしは ここに居る


            言葉
         
 
 言葉はその人 独自の言葉で語る事によって
 一つの世界が創られる
  それを記録する事によって
 世界が広がる


 言葉をいじくり廻しても詩は書けない
 物事 事象の本質 その心を見抜く力がなければ
 詩は書けない


 詩とは
 言葉を人の心に響かせる技術
 感動を生む力を持った言葉を書く行為


 言葉は信用出来ない
 言葉を信用する
 心が言葉を決定する
 言葉は心



            行動

 
 行動は言葉を超える
 行動の前に言葉は無力だ


 プロとは物事の境目を
 明確に理解出来る人の事を言う
 プロは臆病だ
 プロは闇雲な行動に走らない




             ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




              希望(8)



 
 皆、二十五、六歳だった。
 クロちゃんは中でも一番大柄で、髪をモヒカン刈りにしていた。
 鍛え上げられた様に見える逞しい肉体はボクサーかレスラーを連想させた。    
 その上、その夜集まった仲間内でも一番口数が少なかった。
 一見、近寄り難い印象で一言一言、重い口調で言葉を口にした。
 暫くは北川が提案し、みんなが議論に加わり、最後にクロちゃんが締めるという話しの展開が続いた。
「とにかく、当分の間はチームで走るのは控えた方がいいよ。何人か、自分達だけで走るのはかまわねえけっど。マッポ(警察)がこれまでになく、本気で取り締まりに掛かって来てるからさあ」
 北川が結論を口にした。
 クロちゃんは自分でビールを注いでは頻りに飲んでいた。
「ブラックキャッツだって、大っぴらには走れねえだろうからなあ」
 ひとりが言った。
「それはそうだよ。奴らにだってマッポの眼は光ってるさ」
 北川が言った。
「じゃ、いいかな。悪りいけど俺、先に帰らせて貰うよ」
 クロちゃんがグラスに残っていたビールを一気に飲み干して言った。
「けえ(帰)んのか ?」
 北川が聞いた。 
「うん」
 クロちゃんが腰を上げた。
 誰もクロちゃんの行動に不快感を見せなかった。
 みんなが病気の母親を抱えるクロちゃんを労わるように優しい眼差しを向けた。
「クロちゃんも当分、走れねえんだろう ?」
 一人がクロちゃんを見上げて言った。
「うん、大人しくしているよ」
 黒い革ジャンパーに腕を通しながらクロちゃんは言った。
 相当量のビールを吞んでいたが酔った素振りも見せなかった。
「おふくろさんがしんべえ(心配)するもんな」
 北川が言った。
「うん」
 クロちゃんは気のない返事をした。
「修二、鍵を開けてやれよ」
 北川が修二を促した。
 修二は頷いてすぐに立ち上がった。
 クロちゃんが先に立って階段を降りた。
 クロちゃんがブーツを履いている間に修二はサンダルを引っ掛けて店の出口へ向かった。
 ガラス戸を開け、鎧戸を鍵を開けて押し上げた。
「有難う」
 クロちゃんは鎧戸を潜り抜けて外へ出た。
 修二も後に続いた。
「おふくろさん、うんと悪いんですか」
 ジャンパーの胸元を合わせているクロちゃんの背中を見ながら修二は聞いた。
 一見、近寄り難い感じのクロちゃんだったが、修二は何故か親しみに近い感情を覚えていた。
 口数が少なく、何処か無愛想に見えたが、人柄には信頼が置ける気がした。
「癌なんだ。もう手遅れみてえだ」
 クロちゃんは胸元を合わせるファスナーの手元に視線を落としたまま答えた。
 特別の感情も見せない無表情な声だった。
 修二は癌だという言葉に息を呑んだ。
「手術をしても駄目なんですか」
 少しの間を置いてから聞いた。
 クロちゃんはヘルメットを脇に抱えてオートバイの置いてある場所へ向かった。
「駄目みてえだ。今は薬でどうにか持ってるけっど、今度、入院するような事があったら終わりだろうって医者は言ってた」
 何処か、他人事のようにクロちゃんは言った。
「おふくろさん、癌だって知ってるんですか」
 クロちゃんの後を一足遅れで歩きながら修二は聞いた。
 何故か、おふくろさんを大事にするクロちゃんが気になった。
「多分、知ってると思うよ。本人には何も言ってねえけっど」
「心配ですね」
 心底からの思いを込めて修二は言った。
「あと半年か、長く持っても一年だと思うんだ。だもんで、なるべく心配えを掛けねえようにしてるんだ。おふくろは俺が二歳の時、大工をしていた親父が材木の下敷きになって死んでから、ずっと苦労しながら育ててくれたんだ。だから、今は俺が出来る限りの事はしてやりてえって思ってるんだ」
 クロちゃんは静かな声で自分に言い聞かせるように言った。
「おふくろさんと二人だけなんですか」
「うん」
 大きなオートバイが小さな空き地の片隅に黒い影を見せていた。
 クロちゃんはオートバイに近寄るとハンドルにヘルメットを掛け、ジャンパーの内ポケットに手を入れてキイを取り出した。
「クロさんはおふくろさんが居ていいですね」
 クロちゃんの背中を見ながら修二は言った。
 母親と心の結ばれているクロちゃんが羨ましく思えた。
「おめえ、おふくろは居ねえのか ?」
 クロちゃんは振り返ると皮手袋を嵌めながら修二を見て言った。
「いや・・・・」
 修二は言ったが、なんと答えたらいいのか分からなかった。
 クロちゃんの視線を痛いように感じて顔を反らした。
 修二に取っては、母親は実の母親でありながら母親ではなかった。
 何処かの尻軽な浮気女の一人にしか思えなかった。
 母親へ抱く感情は憎しみの感情しかなかった。
 母親を恋しいとも思わなかった。
 醒めた感情だけが修二の心を支配していた。
 クロちゃんは修二の曖昧な言葉にもこだわっていなかった。
 ヘルメットを被るとすぐにオートバイに跨りキイを差した。
 エンジンの乾いた音が起ち上って夜の空気を引き裂いた。
「じゃあな、有難う」
 クロちゃんは修二に言って、オートバイはすぐに動き出した。
「おやすみなさい」」
 修二は言って軽く頭を下げた。
 オートバイは一気に加速してたちまち夜の中を遠ざかって行った。
 修二は小さくなるクロちゃんの後ろ姿を見送りながら、心から母親と呼べる人のいるクロちゃんを羨ましく思った。
 クロちゃんには帰って行く場所がある・・・・
 マスターもおかみさんも鈴ちゃんも、ここではみんな優しかったが、それでも修二は自分には帰る場所が無い気がして寂しさが込み上げた。
 クロちゃんの姿が見えなくなると修二は店に帰った。
 なんとなく、クロちゃんなら好きになれそうだという気がした。

 修二は週に一度の休日には何時も一人で過ごした。





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              takeziisan


               有難う御座います
              一月 初めの川柳 まず堪能 相変わらずクスリ・・・・
              楽しいですね 書く事の魅力が此処にも伺えます
              もう十年以上も前の記事 何事もなく過ぎるのが一番の幸せ
              正にその通りだと思います
               中学生日記 前にも拝見した記憶があり 書いたと思いますが
              全く同じような日常を過ごして来ました
              狭い日本 西も東もそんなに変わらないものです
               白菜写真 ただただ羨望の眼差しのみ 何か見ているだけで
              日常が浮かんで来て気持ちがほのぼのとします
              こんな何気ない物の中に眼には見えない生きる事の喜びが隠されているのですね
              この平凡な写真が実に心に沁みる良い写真に思えます
               朝の目覚め・・・・夢 わたくしも夢の不思議を文章にまとめてあります
              何時か発表する心算でいますが ちよっと長くなりますので
              バランスを考えて 何時かと 思っているところです
               雪山の写真 いいですね 実際の光景 是非見てみたい物の一つとして
              心にありますが出不精のわたくしには叶わぬ夢です
               カチューシャ ダークダックス 歌声喫茶ーーー
              つい先日も BSにっぼん こころの歌 でカチュウーシャを放送しました 
              ダークダックスを思い浮かべながら聞いていました
               今回も楽しませて戴きました
              何時も楽しい記事 有難う御座います