知る ということ(2019.11.7日作)
知る という事は
書物を読んでも
映像を見ても
人の話しを聞いても
会得 出来るものではない
それらの行為 から 得たものは すべて
知識とは なり得ても
知る という事の 本質 実体とは
掛け離れた もの 程遠い もの
知る という事は
自身の心身 五感 を 通してのみ
会得 獲得 出来る もの 自身の
心身 五感 で 触れ得た 物の本質
実体を 把握 し得た時にのみ
言い得る言葉 知識とは 別のもの
知識を豊富に持つ人
知識人 教養人 とは 言い得ても
悟った人 知る人 とは 言えない
悟った人 知る人 その人は たとえ
知識は なくても 教養人では なくても
明解に 物事の本質 実体 を 見抜き
把握 理解 出来て いる人
その人こそ 真の 知る人 悟った人
あなたはどちら派 ?
知識 教養人派 ?
知る人 悟った人派 ?
すべての事柄 業種に於いて
その事に深く打ち込み その道を
極めた人は その道においての
悟った人 知る人と言い得る
「夜郎の本箱」という言葉もある
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埋もれて(4)
ホテルの正面に真新しい赤い車を停めるとロビーに駆け込んで来た。
「ごめんなさい。遅くなっちゃって。来る途中で渋滞に巻き込まれちゃったの」
春江は華やいだ装いと共に、いかにも、いま脚光を浴びている人といった輝きをみせて晴れやかに言った。
「おうッ、スターの登場だ」
「待ってました、スター」
男性陣から冷やかしの声が掛かった。
「もう、始まるでしょう ? いま、車を置いて来るから」
春江は弾むような口調で言うと、再び、せわし気な足取りでドアの外へ出て行った。
幹事の挨拶に続いて自己紹介が始まった。
陽子は順番の中程で椅子から立ち上がった。
出席した三十七人の同級生を前にして気持ちが上ずっていた。
かつて、三百人に及ぶ人々の前で堂々と持論を展開した、弁論大会当時の陽子はもう、そこにはいなかった。
今では一介の主婦にしか過ぎない陽子は、懸命にあの当時の自分を取り戻そうとしていた。するとかえって現在の自分が意識されて、一層の混乱に陥った。
三十七名の過去の陽子を知る同級生たちの視線が突き刺さるように痛かった。朝方、バスや電車の中で意識した、気持ちにしっくり馴染まない服装や化粧が改めて気になって、その無残な心の内を見抜かれているような気がした。
陽子はしどろもどろのうちに、ようやく自己紹介を済ませて着席した。
思わず醜態に赤面した。
その後は、誰がどのように挨拶したのかも覚えていなかった。
終わりごろになって立ち上がった高杉春江の、いかにも場馴れしたさわやかな弁舌だけが耳に残っていた。
パーティーは立食形式だった。
お決まりのカラオケが始まった。
次々にマイクを手にするかつての同級生達を見ながら陽子は、自分がまったく知らない人達の中にいるような気がして、違和感を覚えた。引っ込み思案で恥ずかしがりやばかりが多かった人達が、まるで嘘のように積極的で、誰もが活発だった。誰の顔にも二十年を過ぎる歳月を生き抜いて来た人としての、自信に満ちた表情が溢れていた。
「どう ? 久し振りで見るクラスメートは ?」
田口道代が傍に来て言った。
「なんだか、知らない人の中にいるみたいだわ。みんな立派になってしまって」
陽子は圧倒される思いと共に、心から湧き出る本音を口にしていた。
「二十年も会っていないんだもの、みんな変わるわよ」
道代は言った。
いつも道代と二人で、クラスの中心になって物事を進めていた事が懐かしく思い出された。
「あッ、矢代さんが来るわよ」
道代が突然、小声になって意味ありげに陽子に囁いた。
陽子はその言葉につられて道代が見ている方を見た。視線の先には、笑顔を浮かべた矢代明夫が近付いて来る姿があった。
陽子は思わず戸惑いを覚えて困惑した。
高校時代の明夫は生徒会の副会長で、会長の陽子との間柄がクラスの中で密かな評判になっていた。陽子自身、生徒会の仕事をしながら明夫と過ごす放課後の時間の中に、微かな心のときめきを覚えていた事も、また事実だった。しかし、今の陽子にとってはそれらの事も、今更ながらの過去であった。
陽子は近付いて来る明夫を眼の前にして、殊更に何気なさを装うとしたが、胸苦しさは抑える事が出来なかった。
「陽ちゃん、久し振り」
明夫は水割りのグラスを手にして陽子の前へ来ると、屈託のない笑顔で言った。
陽子が知る高校時代の明夫とは一回り体が大きくなったようで、自信に満ちた中年を思わせた。
「どう ? 矢代さん、立派になっちゃったでしょう。社長さんなのよ」
道代が間を取り持つように言った。
「社長なんて代物じゃないけど」
明夫は笑顔を浮かべて謙遜したが満更でもないようだった。
「何をしてらっしゃるんですか ?」
陽子は自ずとなる改まった口調のうちに聞いていた。
「YA企画って言って、イベントの企画なんかを手掛けているの」
道代が明夫に代わって説明した。
明夫は{代表取締役}と肩書の入った名刺を陽子に差し出した。
「市が主催する大きなイベントのほとんどは家代さんが企画しているのよ」
道代が言った。
「いつも陽ちゃんが見えないんで、どうしているのかなあ、って思ってたんだ」
明夫は言った。
「矢代さん、陽ちゃんが見えないもんだから、いつも淋しそうな顔をしていたのよ」
道代が陽子と明夫の双方をからかって言った。
「そんなーー」
陽子は体が熱くなるのを感じながら言ってはにかんだ。
「なんだ、宇津木陽子。二十年振りでクラスメイトの前に顔を見せたっていうのに、こんな所で小さくなっていたんじゃ駄目だよ。こっちへ来いよ」
酔いの廻った小林敏夫が傍に来て言った。
敏夫は陽子の手を取ると、強引にカラオケマイクの前へ連れて行った。
塚本幹雄の歌が終わると、敏夫がマイクを手にして陽子をステージに上げた。
「みなさん、われ等が高校時代のマドンナ、宇津木陽子が二十年振りにわれわれの前にその姿を見せました。どうぞ、歓迎の拍手を。それから、もう一人、現在のわれわれのマドンナ、鈴木春江をご紹介します。現在、鈴木春江は高杉春江という名前でテレビに出て盛んに稼ぎまくっています」
酔った小林敏夫のおどけた口調にみんなが笑った。
「おい、高杉春江、こっちへ来いよ」
そういって小林敏夫は春江を呼び寄せた。
「これからわたし達三人で、かつて宇津木陽子がその名を轟かせ、今また、高杉春江が全国にその名を轟かせているC高等学校の栄光を讃えて校歌を歌います。皆様もどうぞ御一緒に。よろしく」
小林敏夫はそう言うと、陽子と春江の間に立って肩を組み、体を揺すりながら一人で声を張り上げて歌い出した。
酔った敏夫の息が鼻にかかって、陽子は微かに顔を背けた。
それでも小林敏夫に合わせて歌声が起こると陽子も小さな声で歌っていた。
パーティーは四時に終わった。
陽子はいつの間にか、和やかな雰囲気に巻き込まれていた。
始めてのカラオケをデュエットで歌ったりもしていた。
六、七人の仲間とエレベーターでロビーへ降りて行くと、津田安治が「二次会へ行く人は大通りを曲がって二百メートル程行くと、ACB(アシベ)って言うカラオケルームがあるからそこへ行って下さい」と叫んでいた。
陽子が回転扉を押して外へ出ると、田口道代や三上達子と一緒に春江がいた。
「宇津木さん、二次会へいらっしゃる ?」
春江は陽子の顔を見ると聞いた。
「わたし? どうしょうかしら」
陽子は唐突な春江の問い掛けに戸惑った。
二次会の事までは考えていなかった。
「あまり遅くなっても困るし・・・・」
迷いながら言って陽子はふと、家で悟と孝を相手に悪戦苦闘をしているに違いない夫の姿を思い浮かべた。
「わたし、悪いけどこれで帰らせて貰うわ。明日の仕事の準備があるものだから」
春江は言ってから、
「宇津木さん、もし、帰るんなら車で一緒に帰りましょうよ。正子さんと浩一さんも帰るから。市川なら東京への帰り道ですもの」
と、陽子が自己紹介で市川に住んでいると言った事を覚えていて誘った。
「そう ?」
陽子はそう答えながらも、やはり心が決まらなかった。
「じゃあ、そうさせて貰おうかなあ」
ようやく迷い半分で言った。
「いいじゃないか、急いで帰らなくても。たまに出て来たんだから、羽を伸ばしてゆっくりしてゆきなよ。二次会も結構盛り上がって面白いよ。旦那の事なんかほっぽって置けばいいんだよ」
そばにいた藤木孝雄が陽子の心中を見透かしたように言って、みんなを笑わせた。
「とにかく、わたし車を持って来るわね」
春江は言って駐車場へ向かった。
滝川正子と吉岡浩一がその後へ来て、
「あれ、春江チャンは ?」
と聞いた。
「いま、車を取りに行ったわ」
三上達子が答えた。
「陽子さんは二次会へ行くの ?」
正子が聞いた。
「どうしようか、迷っているんだけど」
曖昧に答えると、
「もし、帰るんなら、春江ちゃんの車に乗せて貰えばいいよ。俺達も一緒に帰るから」
浩一が言った。
矢代明夫が一人遅れてロビーを出て来た。
陽子たちを見ると、
「みんな二次会へ行くの ?」
と聞いた。
「ううん、正子ちやんと浩一君は春江ちゃんの車で一緒に帰るんだって」
道代が言った。
「陽ちゃんは ?」
明夫が陽子に尋ねた。
「どうしようか、迷っているのよ」
達子が代わりに答えた。
「あまり遅くなっても困るし」
陽子は言い訳がましく言った。
「久し振りに顔を見せたんだから、ゆっくりして行きなよ」
明夫は。名残り惜しそうに引き留めた。
陽子はその言葉に、もう少し明夫と一緒にいたい、と心が動いた。
春江の赤い車が見えて来た。
「あっ、来た来た」
浩一がそれを見て言った。
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KYUKOTOKKYU9190様
いつも眼を通して戴き有難う御座います
急行特急TH 相変わらず暴走気味ですが
今週はどんな得体の知れない乗客が乗り込んで来るのか
それが楽しみです。奇妙な乗客の現れるのをお待ちしています。