遺す言葉

つぶやき日記

遺す言葉(520) 小説 <青い館>の女(9) 他 移り逝く時の中で

2024-10-20 11:31:18 | 小説
             移り逝く時の中で(2024.1011日作)



 十月半ば
 昨日の猛暑とは打って変わって 
 今朝は寒い 肌寒い
 季節は今年もまた 移ってゆく
 移り変わってゆく 時の流れ
 歳月は一瞬の停滞もなく
 過ぎて逝く
 人の世も同じ事
 耳や眼に馴染んだ
 あの人が もう この世に居ない
 この人も 居なくなった
 それぞれが 遠く彼方へ旅立った 
 絶え間なく流れ逝く歳月 時の流れ
 流れ逝く時の中で日毎に深まり 数を増す
 親しき人々 あの人 この人 の 訃報
 同じ時代 同じ時の流れを生きた
 人の数は 日毎 月毎 年毎 細ってゆく
 残されるものは ただ 記憶 記憶のみ
 日々 細りゆく時の中 やがて
 最後に辿り着く記憶 その場所は
 遠く幼き日々 共に過ごした
 小学校 中学校 同級生達
 今 彼等 彼女等は 何処に居て
 何をしているのだろう  
 元気で居るのだろうか 
   長い歳月 空白期間 消息すらも知れない
 数多くの級友 同級生達 彼等 彼女等
 思い出は数知れず
 あの記憶 この記憶
 淡い恋心
 無邪気な戯れ
 同級生 級友達への思い 懐かしさの感情は
 日毎に深まり 
 深くなってゆく




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             <青い館>の女(9)



 
 
 女はわたしの傍で裸体を毛布で包(くる)み、丸くなって眠っていた。
 暗い部屋の枕元には深紅の小さな明りが点っていた。
 一瞬、わたしは自分が過去の何時かに戻っているかの様な奇妙な錯覚に陥った。
 それも束の間で、すぐに現実の自分に立ち戻ると体の心底から沸き上がる極度の虚しさと共に、見知らぬ部屋の奇妙なベッドで過ごした事への深い後悔に捉われた。
 遠い何処かで船のエンジンの始動する音がしていた。
 それが否が応にも朝の気配を運んで来た。
 わたしは身体を起してベッドの縁に腰掛けると、今日一日の行動に思いを馳せた。
 改めて、奇妙な部屋のベッドで過ごした愚行を思って、ちゃんとホテルへ帰って今日一日のしっかりした予定を組んで置けばよかったと後悔した。
 その時、女が寝返りを打ってわたしの身体に触れ、眼を覚ました。
  わたしに気付くと女は、
「ああ、起きてたんですかぁ。それならぁ、起こして呉れればよかったんですよぉ」
 と、甘える様な声で言ってわたしを非難した。
「まだ、五時半にならないよ」
 わたしは女の言葉に応えて穏やかに言った。        
 女は毛布に包んだ裸体を起こして目覚まし時計を手に取った。
「でも、もうじき五時半ですよぉ」
 と言った。
「いいよ。君はまだ寝ていればいい。わたしは帰るから」
 わたしはベッドから立ち上がった。
「帰るんですかぁ、それならちょっとぉ、待ってて貰えますかぁ。すぐに着替えて来ますからぁ」
 女はベッドを降り、裸のまま奥の青いカーテンの向こうへ消えて行った。
 程なくして女は戻って来た。
 黒い細身の長いパンツに、身体の線がくっきりと浮き出て見える白いニットのセーターを身に着けていた。
「帰るのには何処から行けばいいのかな」
 既にわたし自身も身支度を整えていて聞いた。
「ああ、それなら出口までぇ御案内しますからぁ」
 女は言って、わたしの服装に落ち度は無いか、点検する様に見詰めた。
「大丈夫かい」
 わたしは女の視線に任せたまま聞いた。
「ええ、大丈夫ですよぉ」
 女は言った。
「いろいろ、親切にしてくれて有難う」
 女の何一つ不快感を与えなかった心遣いにわたしは、素直な気持ちからそう言っていた。
「でもぉ、お客さんにはぁ、高いお金を払って貰ってるのでぇ、当たり前の事ですよぉ」
 女は当然の事の様に言った。
「それでも、なかなか君の様には出来ないものだよ。金だけ取って後は勝手にという女達が多いからね」
 わたしは本音を言った。
 改めてわたしは、女の親切に報いる気持ちで上着の内ポケットから財布を取り出して二枚の一万円札を抜き取ると、一枚ずつを女に手渡しながら、
「これは君が親切にしてくれた事へのお礼だ。この一枚は君の優しさと一晩、楽しませてくれた事へのお返し。有難う」
 と言った。
 女はわたしの思わぬ行為に驚き、一瞬、戸惑った風だったが、渡された一枚ずつを手にしながら、
「でもぉ、昨夜(ゆうべ)いっぱい使って貰ってるからぁ」
 と躊躇(ためら)いがちに言った。
「いいから、取って置きなさい」
 わたしは押し付ける口調で言った。
「有難う御座いますぅ」
 女はそれで素直に嬉しそうな表情を見せ頭を下げて言った。
「名前はなんて言うの ?」
 わたしは言っていた。
 いったい、何故、そんな事を聞いていたのだろう ?
 自分でも不思議な気がした。
 また此処へ来る心算なのか ?
 そんな事はあり得ない。
 確信的な思いがあった。
 それでいながら、自然にその言葉が口を突いて出ていた。
 女はだが、躊躇う様子も見せなかった。
「加奈子って言うんですぅ。名刺を上げてもいいですかぁ」
 と言った。
「うん」
 わたしは言った。
 これも過去に於いて何度となく経験して来た事だった。
 それらの名刺は悉くが破り捨てられていた。
 加奈子と名乗った女は、無論、そんな事までは知り得ない。
「今、持って来ますからぁ」
 と言って再び、青いカーテンの向こうへ消えると一枚の名刺を手に戻って来た。
「これなんですけどぉ」
 と言ってわたしの前へ差し出した。
 わたしは受け取った。
 赤いハートの形が書き込まれた角の無い名刺だった。
「裏にぃ、このお店の電話番号なんかが書いてあるのでぇ、また、来る時には電話をして貰えますかぁ。それでぇ、わたしの名前を言って貰えればぁ、すぐに指名が出来ますからぁ」
 わたしが手にした名刺に視線を向けながら女は言った。
「うん、有難う」
 わたしは言って上着の内ポケットへ名刺を収めた。
「この街へはよく来るんですかぁ」
 女は言った。
 女自身、最初に、旅行で来たんですかぁ、と言って、わたしがそうだと答えた言葉も忘れてしまっていた様だった。
「いや、滅多に来ない。偶々(たまたま)、用事があったものだから旅行がてら来ただけなんだ」
 わたしは言った。
 女はわたしの言葉を聞いて頷いた。
 わたしはその女を見ながら、
「もし、また、この街へ来たらその時には電話をするよ」
 と言った。
 再び、その機会があろうとは思っていなかった。
 女はそれでも素直に頭を下げて、
「お願いしますぅ」
 と言った。
 わたしと加奈子と名乗った女はそのまま部屋を出た。




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              takeziisan様


               奥様 入院されてもう十日 早いものですね
              普段 身近に在るものの無い空虚な感覚 寂しいものです
              それでもメールの指示 お元気な証拠で何よりです
              これもまた慰めに成り得るもので便利な世の中になったものです
              食事の支度 自分の好きな物を好きな様に食べられる
              前向きに考えればそれ程 苦にはならないのでは ?
              馴れない食事作りもあれこれ自分なりの工夫 楽しんだ方がいいですよね
               また ドングリ カラスウリの季節が来ました
              ついこの間 同じ様な報告記事を拝見したばかりの様な感じですが
              一年が過ぎているのですね
              早いものです それにしても猛暑の夏 いろいろな物に思わぬ変化が起きています
              あらゆる事柄でこれまでの常識が通用しない世の中になっている様です
               野菜の青 拝見していても気持ちが良いです
              土の匂いがして来ます
               プールの終わり ? これもまた時の流れ 世の中どんどん
              お構いなしに変わってゆきます 改めて過ぎ行く歳月を感じさせられます
               アフリカの星 観て無いですね
              初めて知りました その他は観ていますが
               今回もいろいろ楽しませて戴きました
               有難う御座いました
               






















 





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