名画投球術 No4.「男もほれるカッコいい男が観たい」スティーブ・マックィーン
男にはヒーローと呼ぶべき人がいる。彼らは「あんなふうになりたいと」思わせる憧れであり、手本でもある。その筆頭がスティーブ・マックィーンだ。彼には“男が男にほれる”という言葉がピッタリと当てはまる。
彼がそのきびきびとした身のこなしで演じたキャラクターの多くは、まず銃やバイク、車といった男があこがれるアイテムを鮮やかに使いこなす。そして孤高、不屈、反逆、プロフェッショナルといった共通項を持ち、男が現実の社会で直面しながらなかなか打破できない壁を痛快に打ち破ってみせてくれた。そんな文句なくカッコいいマックィーンが堪能できる3本を紹介しよう。
不屈のキャッチボール 『大脱走(1963・米)』
第二次大戦下、脱走不可能とされたドイツ軍の捕虜収容所から、連合軍捕虜たちがさまざまな手段を駆使して大量脱走を企てる。『荒野の七人』(1960)に続く、マックィーン+ジョン・スタージェス監督+エルマー・バーンステイン音楽&多彩なキャストが放ったプロの男たちのドラマ。
多彩なキャラクターの中でマックィーンが演じたのは、何度も脱走を企てながら失敗し、クーラー・キング=独房王の異名を持つ一匹狼ヒルツ。彼は決して群れず、友を射殺したドイツ軍に対する義憤によって初めて脱走を計画する組織に加わる。だが脱走後はまたも単独行動。ドイツ軍のバイクを奪い激しいチェイスを展開させる。
この映画のマックィーンのカッコ良さにしびれてバイクに乗り始めた男は数知れない。“不屈のキャッチボール”の意味は映画を観れば納得してもらえるはず。
宿命のライバル 『タワーリング・インフェルノ(1974・米)』
サンフランシスコに137階建ての超高層ビル「グラス・タワー」が完成。その落成式のパーティーの最中に火災が発生。祝いの宴は一転して修羅場と化す。当時流行していたオールスター・キャストによるパニック映画のグランドスラム=最高傑作。
ポール・ニューマン主演の『傷だらけの栄光』(1956)に端役出演した屈辱からおよそ20年。マックィーンが生涯のライバルと目していたニューマンをついに追い越した作品。扱いはあくまで同格だが、この映画の主役はだれが観てもマックィーン演じるオハラハン消防隊長であろう。火災現場で示される冷静かつ大胆な行動力はまさにプロの仕事人のかがみ。カッコいいぜ!
この映画を観て消防士を志した男たちもまた少なくない。
ゲームセット 『ハンター(1980・米)』
パパことラルフ・ソーソンは現代に生き残ったバウンティー・ハンター=賞金稼ぎ。犯罪人を捕らえるために駆け回る毎日だ。一方、私生活では同棲中の恋人が妊娠し、父親になることに戸惑っていた。そんな中、かつて捕らえた凶悪犯からの脅迫電話が掛かる。
マックィーンの遺作である。出世作となったテレビドラマ『拳銃無宿』(1958)を意識したとも思える役柄。『ブリット』(1968)をパロディー化したようなユーモアも感じさせる一方、撮影中にすでにがんに侵されていたためか、残念ながらマックィーンのアクションに往年のきれはない。
だがアクション・スターとしてのイメージを観客の心に刻み続け、病とも断固闘い逝った男の美学はやはりカッコ良く美しい。またラストシーンで生まれたばかりのわが子に掛ける一言=ゴッド・ブレス・ユーは、観客に対する彼の遺言ともとれる。
さて、かつてバイクにも乗れず、消防士にもなり損なった男たちは、この映画を観て賞金稼ぎを目指したとか…。