名画投球術 No.5「たまには映画もイタリアンといきたい」ニーノ・ロータ
イタリア映画の音楽には、ほかのヨーロッパ諸国やハリウッドとは明らかに違った味わいがある。まず、オペラや交響楽などのクラシカルな音楽的素養を持った作曲家たちが多いこと=彼らの作り出すメロディーの多彩さと重厚さ、が一つ。その半面、彼らは名匠と呼ばれた監督たちとコンビを組むと、曲を聴けば大体どの作曲家が手掛けたのかが判別できる、そんな親しみやすさと音楽的な統一感を併せ持っていた。
今回紹介するニーノ・ロータも若くしてオペラや交響楽を発表して神童と呼ばれ、後にフェデリコ・フェリーニ監督と出会って映画音楽の世界でも大活躍した。特に下記3本のテーマ曲は、「ポップス・ベストテン」 など日本のラジオ番組を賑わせた名曲としても有名だ。
ホームゲーム 『道(1954・伊)』
粗野な大道芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)と、彼が買い取った少し頭の弱い女ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は旅から旅の流れ者。そこに綱渡りの青年“キ印”(リチャード・ベースハート)が現れ、奇妙な三角関係が生じる。サーカスの世界に憧れたフェリーニが、大道芸人のわびしい生活と不器用な愛の悲しさを描いた名作。
サーカスのジンタを思わせる軽快なメロディーと、ジェルソミーナの象徴でもあるトランペットで奏でられる「ジェルソミーナのテーマ」の哀切が相まって観る者の心を打つ。フェリーニの監督デビューからロータの死まで続いた名コンビならではの、映像と音楽のあうんの呼吸が堪能できる。「シェルソミーナのテーマ」はシンプルだが奥深い名曲。
遠征試合 『太陽がいっぱい(1960・仏/伊)』
貧しいアメリカ青年リプリー(アラン・ドロン)は、知り合った富豪の息子フィリップ(モーリス・ロネ)に嫉妬する。やがてフィリップを殺害し、彼になりすまそうとするリプリー。計画は完全かと思われたが…。ルネ・クレマン監督がヌーベルバーグに対抗して作り上げた青春サスペンス。リプリーを演じたドロンの野望に燃えた陰のある二枚目ぶりはいまや伝説。
ロータがホームグラウンドのイタリアを離れ、フランスとの合作に挑んだ一作。これまたシンプルで憶えやすいメロディーのテーマ曲を、時にポップに、時に哀愁漂うというさまざまなアレンジで聴かせる。特にラストシーンの映像と音楽の相乗効果が素晴らしい。
メジャー進出 『ゴッドファーザー(1972・米)』
アメリカの陰の政府ともいわれるイタリアン・マフィアの抗争と家族の絆を描いたフランシス・フォード・コッポラ監督による大河ドラマ。もともとオペラには暗殺や刃傷沙汰といったドロドロした話が多い。そこに目をつけたコッポラは、バイオレンス・シーンを緩和させる意味もあってロータを起用した。
その音楽は、抗争や暗殺シーンのドキドキ感を盛り上げたかと思うと、一転、家族の絆を切々と歌い上げ、「愛のテーマ」という実に親しみやすい曲も作り出す多彩さを示し、結果としてこの映画に現代のオペラ的なスケールと美を与えた。アメリカ映画なのにこれほどイタリアを感じさせる映画も珍しい。この後、ロータは活躍の場をハリウッドにも広げた。