奇しくもというべきか、健さんの後を追うようにして菅原文太が亡くなった。相前後して東映任侠路線を支えた二人だが、その役柄と個性は対照的だ。
ストイックで寡黙な様式のヒーローを演じ続けた健さん。片や文太は、ぎらぎらした欲望をむき出しにするアウトローとして実録路線で活躍した。健さんはクールだが文太は熱かった。健さんが60年代のヒーローならば、遅れてきた文太は70年代のヒーローだともいえるだろう。ファンは、畏敬の念を込めて健さんと呼び、親しみを込めて文太と呼んだ。
彼にはすご味に加えてどこかコミカルなところもあった。深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズの広能昌三、鈴木則文監督の『トラック野郎』シリーズの星桃次郎、岡本喜八監督の『ダイナマイトどんどん』(78)の遠賀川の加助、などはそうした個性を生かした彼にしか演じられないキャラクターだ。長谷川和彦監督『太陽を盗んだ男』(79)の不死身の刑事役、加藤泰監督の遺作『炎のごとく』(81)の会津の小鉄も印象深い。
我が“ベスト文太”はもちろん広能昌三だが、それに勝るとも劣らないのが、山田太一脚本のNHK大河ドラマ「獅子の時代」(80)で演じた元会津藩士のアウトロー平沼銑次だ。
最終回のオープニングはこちら↓
http://www.youtube.com/watch?v=0VFVwiHCt_Q
後年は市川崑監督の数本の映画で演技派としての実力も見せた。中でも『映画女優』(87)では溝口ならぬ“溝内”健二監督を演じ、田中絹代役の吉永小百合とすさまじい演技合戦を繰り広げた。
テレビドラマ「傷だらけの天使」でショーケン演じる小暮修が、一人息子のことを「健太っていうんだけどさ、高倉健の健と菅原文太の太から付けたんだ」とうれしそうに語るセリフも懐かしい。