『暮れ逢い』
1912年ドイツ。製鉄工場を経営する初老のホフマイスター(アラン・リックマン)の屋敷に、秘書として青年フレデリック(リチャード・マッデン)が住み込む。やがて、ホフマイスターの若妻ロット(レベッカ・ホール)とフレデリックは互いに引かれ合うが…。
ロットの首筋や体の線をたどるフレデリックの視線、ロットの残り香をかぐフレデリックなど、フェティシズムにあふれたパトリス・ルコントのカメラワークが印象的。ベートーベンのピアノソナタ「悲愴」も官能を盛り上げる。
ルコント自身が「これは、禁じられたわずかな肌の触れ合いを支えに生きる恋人たちの欲望のドラマだ。肌をカメラに収め、愛撫したいという欲望を映像化した」と語っている。
『毛皮のヴィーナス』
マゾヒズムの語源となったザッヘル・マゾッホの小説を基にした戯曲『毛皮のヴィーナス』の演出家トマと、オーディション終了後に現れた謎の女優ワンダが、二人だけでオーディションを始める。やがてトマとワンダの、支配する側とされる側という立場が逆転し、トマの本性が明らかになっていく。
監督ロマン・ポランスキーの妻のエマニュエル・セニエと、ポランスキーによく似たマチュー・アマルリックの二人芝居というところに、実際のポランスキー夫妻もさもありなんと思わせる、パロディーやだましの精神があふれて面白い。
どちらも、一歩間違えれば“変態映画”になりかねない題材を、見事に面白く料理した大ベテランの技に脱帽。