名画投球術 No.12 いい女シリーズ2「ちゃんと観たことありますか?」オードリー・ヘプバーン
「いい女シリーズ」2回目は、ご存じオードリー・へプバーン。とはいえ、正直なところ筆者にとっての彼女は“女の生々しさ=セックス・アピール”を感じさせる存在ではない。
確かに、ノッポで、やせっぽちで、長い首とギスギスした感じの腕、そしてファニーフェイスでもある彼女の活躍は、それまでのハリウッドの美人女優の常識を覆したが、ハリウッドが同時代に、オードリーの対極としてマリリン・モンローという伝統的なセックス・シンボルを創り上げていたことを考えれば、実は“オードリーこそが異端”と呼ぶべきだったのかもしれない。
つまり、性を感じさせない中性的な魅力こそが、男女を問わず観客を魅了したオードリー伝説の源泉だったのだ。
文句なしの新人王 『ローマの休日(1953・米)』
ヨーロッパ歴訪中の某国の王女アン(オードリー)は、自由のない生活に疲れ、単身ローマの街へと飛び出す。そこで彼女を救ったのが、特ダネを狙う新聞記者(グレゴリー・ペック)。やがて行動を共にするうち二人に恋が芽生えるが…。
いまやラブロマンスの古典となった映画だが、この企画は監督のウィリアム・ワイラーがオードリーを発見しなければ日の目を見なかった。
王女らしい気品と気高さと、少女のようなかわいらしさを併せ持った女優。だが決して生々しい女性を感じさせてはならない。そんな条件を満たす存在は当時のハリウッドには皆無だったからである。
そしてワイラーの巧みな演出と、相手役のペックの好サポートによって彼女はいきなりオスカーを手にするのだ。
あらら、ベテランを手玉に 『麗しのサブリナ(1954・米)』
富豪ララビー家のお抱え運転手の娘・サブリナ(オードリー)は、一家の次男デビッド(ウィリアム・ホールデン)に失恋しパリへと旅立つ。2年後、帰国した彼女は見事なパリ仕込みの美女となり、次男ばかりか堅物の長男ライナス(ハンフリー・ボガート)をも虜にしてしまう。
『ローマの休日』に続いてオードリーの魅力爆発のラブコメディー。
彼女の映画がいまだに多くの人々に親しまれているのは、この映画と『昼下りの情事』(1957)を監督したビリー・ワイルダーや、、前出のワイラー(『噂の二人』(1961)『おしゃれ泥棒』(1966))といった当時の名匠たちが演出し、相手役に年上の名優たちを得、イディス・ヘッドやジバンシーといった名デザイナーが衣装を手掛け…と、まさにみんなが喜んで彼女の引き立て役になったからにほかならない。
カムバックはしたが 『ロビンとマリアン(1976・英)』
長きにわたった十字軍の遠征を終え、シャーウッドの森に戻った英雄ロビン・フッド(ショーン・コネリー)と、今は修道院の院長になった、かつての恋人マリアン姫(オードリー)が再会。二人の間に愛が復活するが、やがて戦乱の中で悲劇が訪れる。
『暗くなるまで待って』(1967)を撮り終えた後、オードリーは一度引退を宣言する。彼女が約10年ぶりにカムバックを果たしたのがこの映画。
ここにはもはや名匠の演出も、年上の名優も、彼女を美しく豪華に飾る衣装もない。しかも彼女の顔には深いしわが刻まれている。
だが皮肉にも、この映画が初めて彼女を生身の成熟した美しい女性として捉えたこともまた事実。その点オードリー映画の中で異彩を放つ。