プロボクシング元世界ヘビー級王者のモハメド・アリが亡くなった。その死に接して、かつての好敵手ジョージ・フォアマンが、「アリ、フレージャー、フォアマン、私たちは一つだった。自分の一部がなくなってしまった」と語ったように、俺にとってのリアルタイムでもある1970年代、彼らが作り出した三つ巴のドラマは文句なくすごかった。
69年、徴兵拒否によって無敗のまま世界王座をはく奪されたアリは、翌年、王者となったジョー・フレージャーに挑戦するが、生涯初のダウンを喫して判定で敗れる。さらに、73年にはケン・ノートンに顎を砕かれて2敗目を喫し、もはやアリの時代は終わったともうわさされた。
一方、フレージャーは新鋭のフォアマンに6度のダウンを奪われた末、タイトルを失う。74年、アリはフレージャーとの再戦に勝利し、フォアマンへの挑戦権を獲得。そして、絶頂期のフォアマンを破って、まさかの王座に返り咲いた。いわゆる“キンシャサの奇跡”である。75年、アリは“スリラー・イン・マニラ”と呼ばれた宿敵フレージャーとの3度目の対決に勝利し、二人の因縁に終止符を打つ。
この間の出来事を知るには、本人たちのインタビューも交えたドキュメンタリー『チャンピオン伝説』がベスト。中でも、パーキンソン病に侵されたアリをフレージャーが気遣うシーンは、時の流れを感じて涙なしには見られない。
もちろんアリは、この後も、アントニオ猪木との異種格闘技戦、レオン・スピンクス、ラリー・ホームズとの対戦、引退、病との闘いなど、伝説を上塗りしていくのだが、それは前半生のカシアス・クレイ時代同様、アリ伝説のまた別の章だという気がする。
で、ここからは映画とアリの話になる。
75年、王者に返り咲いたアリの初防衛戦で大健闘を見せた無名の挑戦者チャック・ウェプナー。その姿に感動した売れない俳優が、3日で書き上げたという脚本が映画化された。俳優の名前はシルベスター・スタローン。映画はもちろん『ロッキー』(76)だ。ちなみに『ロッキー』には、フレージャーが本人役で出演している。
そして、77年には『アリ・ザ・グレーテスト』というアリ本人主演の映画が公開された。監督トム・グライス、脚本リング・ラードナーJr、撮影ハリー・ストラドリング、トレーナーのアンジェロ・ダンディ役でアーネスト・ボーグナイン、そのほか、ロバート・デュバル、ジョン・マーレー、ベン・ジョンソン、ジェームズ・アール・ジョーンズ、ポール・ウィンフィールドらが脇を固めたが、 ドキュメンタリーとも劇映画ともつかず、映画自体の出来は今一つだった。
ただ、オープニングでトレーニングをするアリの姿を映しながら、ジョージ・ベンソンが「子どもたちは未来だと僕は信じている」と歌った「ザ・グレーテスト・ラブ・オブ・オール」という名曲を生んでいる。この曲は、後にホイットニー・ヒューストンも歌って大ヒットした。↓
https://www.youtube.com/watch?v=ZTmnetyXviM
また、フォアマンとの試合の観客の叫びを基に、アリの入場曲として作られた「アリ・ボンバイエ」は猪木に引き継がれた。↓
https://www.youtube.com/watch?v=GHbEBvEqf6c
アリ伝説の一端を知りたい人には、マイケル・マン監督、ウィル・スミスがアリを演じた伝記映画『ALI アリ』(01)よりも、アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を得た『モハメド・アリ かけがえのない日々』(96)の方がお薦めだ。