永六輔さんが亡くなった。
永さんとは一度だけお会いしたことがある。時は1997年。当時、編集を担当していた『20世紀映画のすべて 淀川長治の証言』(毎日新聞社)というムック本の中で、「20世紀映画が与えてくれたもの」と題して、淀川先生と永さんの対談が行われたのだ。永さんは普段から「淀川学校の卒業生」を自認しているから面白い対談になるのでは…と思っていた。
当日、最も下っ端だった自分は永さんのかばん持ちを命じられ、ホテルのロビーまで迎えに行った。すると永さんは「僕は人にかばんを持たせたりするのは嫌いだけど、あなたにも立場があるだろうから」と言ってかばんを渡してくれた。
エレベーターの中では「淀川さんの話は同じことの繰り返しだからねえ」とあまり乗り気ではない様子だったが、部屋に入り、対談の趣旨を説明すると、「分かりました。僕が時間通りにきちんとまとめるからまかせて」と一言。
そして、淀川先生が部屋に入って来るや、満面の笑みで迎え、いきなり先生が大好きなチャップリンのことから話し始めた。「今、五つの孫がチャップリンを喜んで見ている。チャップリンは永遠だと改めて思いました」と。
これで淀川先生は大喜び。以後も永さんのリードで話は和やかかつスムーズに進み、終ってみればなんとなく「20世紀映画が与えてくれたもの」というテーマに沿った対談になった。その時、間近で永さんを見ながら、さすがプロだなと感じさせられたものだった。今頃は再会して、二人でまた映画の話をしているのだろうか。