『シルバラード』(85)(1986.3.20.日比谷スカラ座)
思えば、ケビン・コスナーの西部劇はここから始まったのだ。
ある事件で投獄の身だったエメット(スコット・グレン)は故郷であるシルバラードに帰る途中、下着姿で砂漠に横たわるペイドン(ケビン・クライン)、縛り首の刑寸前だったペイドンの弟ジェイク(ケビン・コスナー)、酒場でもめ事を起こしたマル(ダニー・グローバー)などを助けながらシルバラードにたどり着く。
だが、町は土地の独占を企てる牧場主マッケンドリック(ブライアン・デネヒー)に牛耳られていた。彼らの余りにもひどいやり方に、そして町や愛する者たちを守るため、4人は闘うことを決意する。
この映画の監督ローレンス・カスダンには、デビュー作の『白いドレスの女』(81)から注目していたのだが、今回も、出だしの撃ち合いのシーンから、快調なテンポで、西部劇の約束事(撃ち合い、友情、裏切り、酒場、スタンピード、決闘…)を次から次へと見せてくれた。あたかも、西部劇のおいしいところをごった煮にしたような印象が残った。
そして、スピルバーグやルーカスらと同じように、自らが憧れたひと昔前の監督たち(ジョン・フォード、ハワード・ホークス、ジョン・スタージェス、アンソニー・マン…)にオマージュを捧げながら、自己流の映画に仕上げている。特にグローバー=黒人を、重要な役割で出しているところなどは現代流だ。
ただ、トータルで見ると、多少不満が残らなくはない。それは、過去の西部劇のような、西部劇が似合う役者がいなくなってしまったことも大きな理由の一つだろう。この映画でも、若いコスナーあたりは随分頑張っているが、かつてのマックィーンのような圧倒的な存在感はない。
また、カスダンの西部劇への思い入れの強さ故か、あまりにもいろいろな要素をぶち込み過ぎて、残念ながらストーリーが散漫になったところはある。
だが、カスダンが「この映画が西部劇復活への一里塚になれば…」と語ったように、西部劇が下火になっている現状を思えば、この映画が果たした役割には大きなものがあるともいえるだろう。
By the Way.西部劇はあまり似合わないが、最近のダニー・グローバーとブライアン・デネヒーの活躍には、目を見張るものがある。ちなみに、グローバーは『アイスマン』(84)『プレイス・イン・ザ・ハート』(84)『刑事ジョン・ブック/目撃者』(85)『カラー・パープル』(85)と続き、デネヒーは『ランボー』(82)『ネバー・クライ・ウルフ 』(83)『ゴーリキー・パーク』(84)『コクーン』(85)と続く。
【今の一言】グローバーはこの映画の後、『リーサル・ウエポン』(87)で大ブレークを果たした。
「なんてったってカスダン」長部日出雄
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