『キャノンボール』(81)(1981.1.12.日比谷映画)
アメリカ大陸を東から西へと横断する公道ラリーレース。賞金目当てのレーサーたちがあの手この手でゴールを目指す。
予想以上に楽しめた。例えば、『八十日間世界一周』(56)や『おかしなおかしなおかしな世界』(63)、『素晴らしきヒコーキ野郎』(65)や『グレートレース』(65)などにも通じる面白さがあった。
多彩な出演者たちは、ピーター・フォンダを除けば(彼の時代はもう終わったのか…)、それぞれの個性を生かしているし、『007』や『アラビアのロレンス』(62)などのパロディや楽屋落ち的な趣向で楽しませる。
ハル・ニーダム監督、バート・レイノルズ主演のコンビとは『グレートスタントマン』(78)以来の再会となったが、相変わらず快調なテンポで見せてくれた。
冒頭の、一見散漫になりかねない、雑多な登場人物の登場シーンも飽きずに見させるし、1時間半あまりという上映時間の短さも手伝って、全体にスピード感があふれている。
最近は、この映画のような、ただ面白いだけというコメディ映画は珍しい。コメディと言いながら過度に風刺を込めたりするものだから、心の底から笑える映画が見当たらない。
別に、それが悪いというわけではないが、何も考えずにただ笑えるだけの映画も必要だ。不安定な時代故、風刺を利かせたコメディが作られる必然性は分かるが、現実が不安定だからこそ、せめてコメディ映画を見るときぐらいは、心の底から笑いたいと思うのだ。
多彩な出演者の中で、最も目立っていたのは、誰あろう“やぶにらみ"の名脇役ジャック・イーラムだった。しばらく姿を見なかったので、知らぬ間に死んでしまったのでは…などと思っていたら、この映画では、見事にレイノルズらを食っていた。狂った医者という役はまさにイーラムにぴったり。健在ぶりを知って思わずうれしくなった。
ラストのNGシーンは、恐らく香港映画や『チャンス』(79)あたりからヒントを得たのだろう。そう考えると、『チャンス』が、最近稀な出来のいいコメディだったことに、改めて気付かされた。
【今の一言】と、40年前の自分は書いているが、久しぶりに見たら、あまりの能天気さ(例えば、飲酒運転はもう笑えない)に、途中で見るのをやめたくなった。