『かそけきサンカヨウ』(2021.9.22.オンライン試写)
窪美澄の同名短編小説を、今泉力哉監督が映画化。サンカヨウとは雨に濡れると花びらが半透明になる花のこと。
高校生の陽(志田彩良)は、幼い頃に母の佐千代(石田ひかり)が家を出たため、父の直(井浦新)と二人暮らしをしていた。だが、父が再婚し、義母となった美子(菊池亜希子)とその連れ子で4歳のひなたとの新たな暮らしが始まる。陽は、新生活への戸惑いを、同じ美術部に所属する陸(鈴鹿央士)に打ち明けるが…。
家庭環境のせいで早く大人にならざるを得なかった陽の葛藤と成長が、陸との淡い恋愛感情を交えながら描かれる。ドラマ「ドラゴン桜」でも共演した志田と鈴鹿が、淡く不器用な恋を巧みに表現している。
今泉監督は、『アイネクライネナハトムジーク』(19)『あの頃。』(21)などもそうだが、登場人物の一人一人がきちんと浮き立つような演出をする。つまり群像劇に冴えを見せるのだ。
今回も、主人公は陽と陸だが、彼らの家族、同級生たちの姿を、一人一人丁寧に描いている。実質的な悪人が一人も登場しないところに甘さを感じる向きもあろうが、人間の嫌な面や醜さを強調して描く映画が多い中、設定に共通点がある沖田修一監督の『子供はわかってあげない』と同様に、こうした映画には好感が持てる。