『大いなる不在』(2024.6.22.オンライン試写)
幼い頃に自分と母を捨てた父・陽二(藤竜也)が警察に捕まったという知らせを受け、久しぶりに父のもとを訪れた卓(森山未來)は、認知症で変わり果てた父と再会する。
さらに、父の再婚相手の直美(原日出子)が行方不明になっていた。一体、彼らの間に何があったのか。卓は、父と義母の生活を調べ始め、父の家に残されていた大量の手紙やメモ、そして父を知る人たちの話を基に、彼の人生をたどっていくが…。
藤とタッグを組んだ長編デビュー作『コンプリシティ 優しい共犯』(18)が、海外でも高い評価を得た近浦啓監督の第2作。森山と藤が親子役で初共演を果たしたヒューマンサスペンス。卓の妻の夕希役に真木よう子。
第71回サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門で、藤がシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)を受賞。第67回サンフランシスコ国際映画祭では、最高賞のグローバル・ビジョンアワードを受賞した。
この映画は、近浦監督の父親との実体験がモチーフになっているという。過去と現在と回想を錯綜させながら、夫婦や父と子のぎくしゃくした関係や葛藤、あるいはボケた陽二と彼の回りの人々が見る情景の違いから、記憶という名の迷宮が浮かび上がる。
その点で、アンソニー・ホプキンスが主演した『ファーザー』(20)と通じるところもあるのだが、この映画は陽二の見る“幻想”を見せないところに現実感があるし、妻の失踪をめぐるミステリーとしての要素もあるところがユニークだ。
藤は『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(19)でもボケの兆候がある頑固おやじの役を演じていたが、今回はさらに進んだボケ老人を演じている。ただしそこに往年のダンディな姿の残り香を感じさせるところが真骨頂。
そこに映画の“うそ”があるのだが、この場合、この役を生々しくリアルに見せられたら、悲惨さが先に立って見ていられないと思う。藤が演じればこそ、劇映画として成立しているといっても過言ではないのだ。
【インタビュー】『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』藤竜也
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d3916ff2ee39a4eea974dbc322fad7a9
『ファーザー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ded3143b637e7b87b86bcc9121fd1826
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます