田中雄二の「映画の王様」

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『野球部に花束を』

2022-07-14 16:39:40 | 新作映画を見てみた

『野球部に花束を』(2022.7.14.オンライン試写)

「野球に狂え!」

 中学時代の野球部生活に別れを告げ、青春をおう歌するため、茶髪にして高校に入学した黒田鉄平(醍醐虎汰朗)。ところが、夢に見たバラ色の高校生活は、うっかり野球部の見学に行ってしまったおかげで、あえなくゲームセットに。

 新入生歓迎の儀式で早々と丸刈りに逆戻りし、コンプライアンスなど全く無視の原田監督(高嶋政宏)の下、先輩の奴隷と化す、地獄の日々が始まる。

 ごく普通の都立高校野球部で、助け合ったり、いがみ合ったりしながらも生き延びていく黒田ら1年生部員(黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、三浦健人)たちは、次第に、恐れていたはずの“野球部の伝統”に染まっていく。

 クロマツテツロウの同名野球漫画を映画化。監督・脚本は飯塚健。元千葉ロッテマリーンズの里崎智也が野球部あるある解説者役、小沢仁志がキャプテンのカリカチュアされた姿として登場する。

 自分自身の経験でいえば、小学生の時に少年野球のチームに所属したが、中学校には野球部がなかったので代わりにバレーボールをし、高校になってもう一度野球をしようかと思ったものの、丸刈りになるのと先輩後輩の関係が嫌で、結局諦めたという苦い思い出がある。

 だから、この映画の鉄平たちの気持ちはよく分かるし、運動部に付きものの縦割り構造と理不尽さといった、時代錯誤的な図式は決して好きではないのだが、この映画を見ていると、ばかばかしいのだけれど、いつしか彼らの姿が愛おしく見えてくるという、少々困った感覚に陥る。

 部員役に誰一人として本当の高校生はいない。一見おっさんたちの草野球かと見紛うばかりのメンバーだが、不思議なことに見ているうちに違和感がなくなっていく。カリカチュアされた描写に大いに笑わされながら、ふと切なくなったりもする。やれコンプライアンスだ何だと、何かと生きづらくなった今の世の中では、逆に彼らの姿が痛快に見えるところさえある。

 これは、原作者、監督をはじめとするスタッフ、キャストが、高校野球に対する愛と憎しみを、照れることなく表現した結果だろう。久しぶりに、くだらないけど面白い映画を見た。原田監督の「野球に狂え!」は名言だ。


『逆境ナイン』(2010.2.2.チャンネルNECO)

この映画のことを思い出した。

 久しぶりにくだらないけど面白い映画を見た。何より主人公・不屈闘志(玉山鉄二)の勘違いゆえの前向きさが笑える。そして『巨人の星』『侍ジャイアンツ』『アストロ球団』『男どアホウ甲子園』など懐かしのスポ根野球漫画のエッセンスが満載されている(透明ランナーには笑った)。「知らぬが仏」「それはそれ、これはこれ」「自業自得」「二者択一」「恋に恋して恋気分」などの迷言集も楽しかった。


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