『重役室』(54)「復刻シネマライブラリー」から
大手家具メーカー、トレッドウェイ社の社長ブラードは、社外重役のキャズウェル(ルイス・カルハーン)との面談後、通りで意識を失い突然死する。それを窓越しに目撃したキャズウェルは、株価が下落することを見越して、トレッドウェイ株を大量に空売りした。
一方、死の直前にブラードが打った電報によって重役会議が招集され、ブラードの親友で副社長のフレッド(ウォルター・ピジョン)、開発担当のドン(ウィリアム・ホールデン)、財務担当のショー(フレドリック・マーチ)、営業担当のウォルター(ポール・ダグラス)、工場担当のジェシー(ディーン・ジャガー)という、重役たちが集まっていたが、いつまでたってもブラードは現れない。
その頃、身元不明として運ばれた遺体がブラードであることを知ったキャズウェルが警察に通報し、ブラードの死が明らかになる。それを知った重役たちの間で、社長の座を狙うショーと、それを阻止しようとするフレッドの対立が浮き彫りになっていく。
多彩な男優陣に加えて、創業者の娘で社長の恋人のジュリア(バーバラ・スタンウィック)、ドンの妻メアリー(ジューン・アリスン)、社長秘書のエリカ(二ナ・フォック)、ウォルターの秘書兼愛人のエバ(シェリー・ウィンタース)も登場する。特に、狂言回し的な役割のフォックが好演を見せる。
この映画は、ロバート・ワイズ監督のスリリングで重厚なドラマだが、2時間に満たない時間内でストーリーを整理し、これだけの登場人物を過不足なく描くところに編集出身の職人監督ワイズの本領が発揮されている。
舞台劇を思わせる脚本はアーネスト・レーマンで、これがデビュー作。以後、『麗しのサブリナ』(54)『王様と私』(56)『傷だらけの栄光』(56・ワイズ)『成功の甘き香り』(57) 『北北西に進路を取れ』(59)『ウエスト・サイド物語』(61・ワイズ)『サウンド・オブ・ミュージック』(65・ワイズ)『バージニア・ウルフなんかこわくない』(66)『ファミリー・プロット』(76)『ブラック・サンデー』(77)などを執筆した。
ところで、ホールデンが演じた理想化肌のドンは、黒澤明監督の『天国と地獄』(63)で三船敏郎が演じた権藤と通じるところがあるし、どちらの映画も、会社の権力争い、持ち株、経営側と現場の労働者との考え方の違いなども描いている。また、この映画には全く音楽がないが、『天国と地獄』も、前半の権藤邸でのシーンでは全く音楽が流れないなどの共通点もあることから、『天国と地獄』に与えた影響は大きいのではないかと思った。
【蛇足】ホールデンが息子とキャッチボールをするシーンで名前が出たのが、ニューヨーク・ヤンキースのピッチャー、エド・ロパットとアリー・レイノルズ、フィラデルフィア・アスレチックスの監督兼選手のエディ・ジュースト。
アリスンはジェームズ・スチュワートがホワイトソックスのピッチャー、モンティ・ストラトンを演じた『甦る熱球』(49)でもジミーとキャッチボールをしたが、この映画での息子役とも見事にやっていた。そこで出た名前がヤンキースの名捕手ヨギ・ベラだった。
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