『マタギ』(82)(1982.6.7.新宿東映ホール2)
巨熊との対決に執念を燃やす老マタギと、マタギ犬を育て上げる孫との情愛の物語。青銅プロダクションが製作。監督は後藤俊夫。
映画が始まる前に、例によってやたらと~会推薦のテロップが入る。こりゃあ押しつけがましい教育的な映画の一種なのかと思い、ちょっと興ざめさせられたのだが、映画が始まるとそんな杞憂は吹っ飛んだ。いい意味で、大手の映画会社からは絶対に出て来ないような自主映画的な魅力にあふれた映画だったのだ。
方言丸出しのせりふと徹底した現地ロケが、われわれボンクラ都会人をしばしの間雪深い秋田県の山間の村にいざなう。映画館の中でぶるぶると震えがきたのは決して冷房のせいばかりではない。一時、本当に極寒の地にいるような錯覚を覚えるほどの力をこの映画は持っている。あの『八甲田山』(77)を真夏に見た時の感覚と通じるものがあった。
そして、全編を貫く自然の素晴らしさと恐ろしさという二面性、その自然を知り尽くした老マタギ平蔵の姿は、黒澤明の『デルス・ウザーラ』(74)をほうふつとさせる。演じる西村晃が、これまた一世一代の力演を見せる。その執念や昔気質ぶりは今では失われようとしているものだけに、寂しさと感動を感じさせられた。しかも、老マタギの孫役の子役が極自然な演技を見せる。これは現地の子どもを使ったことも大きいのだろう。
とはいえ、本物のマタギ犬と熊が登場するので、役者たちはいくらか損をしているところもある。彼らの持つ迫力と哀愁は決して人間にはまねのできないもの。その点、動物を生かし切った映画としても記憶に残る。
同じ日にヘンリー・フォンダ主演の『黄昏』(81)を見たので、老いについても考えさせられた。
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