予想通り、今年のアカデミー賞では、Netflix製作の映画がに大量ノミネートされた。その中の一本『Mank マンク』を見てみた。
オーソン・ウェルズ製作・監督・主演の名作『市民ケーン』(41)でアカデミー賞脚本賞を受賞した“マンク”ことハーマン・J・マンキーウィッツを主人公に描く物語。デビッド・フィンチャーが父ジャックの遺稿を映画化したのだという。
アルコール依存症に苦しむ脚本家のマンク(ゲイリー・オールドマン)は、鳴り物入りでハリウッドにやって来た24歳のオーソン・ウェルズ(トム・バーク)から脚本の執筆を依頼される。
マンクは、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(チャールズ・ダンス)をモデルにした物語を書きながら、自分の過去や、ハーストの愛人で女優のマリオン・デイビス(アマンダ・セイフライド)、MGMの社長ルイス・B・メイヤー(アーリス・ハワード)、同社プロデューサーのアービング・タルバーグ、脚本家仲間のベン・ヘクト、ジョン・ハウスマン、弟で脚本家のジョセフ・L・マンキーウィッツなど、さまざまな人々とのかかわりを思い出していた。
フィンチャーが、モノクロ画面、モノラル音声に、脚本の体裁、パンフォーカス、フェードアウト、ディゾルブなどの技法を用いて、『市民ケーン』前後の時代の再現を試みているが、何だか“ものまね”を見ているような違和感を覚えた。また、現在と過去(回想)が行ったり来たりするので、見ていて落ち着かないところがあった。
特に、1934年のカルフォルニア州知事選挙で、ハーストと映画業界が手を結び、社会主義運動家で作家のアプトン・シンクレアを落選させようと一大キャンペーンを張った様子を執拗に入れ込んだことで、かえって話が散漫になったことは否めないだろう。
つまり、よほどの映画通か、あるいは『市民ケーン』そのものについてや、当時のアメリカ社会やハリウッドの事情を知っていないと、正直なところ見るのがつらい映画なのだ。その点、一般的な観客には甚だ不向きな映画だと思う。
また、去年公開された『ジュディ 虹の彼方に』もそうだったが、今やメイヤーは完全な憎まれ役なのだな。その意味でも、この映画が賞レースをにぎわせているのは、昔のハリウッドを懐かしんでいるからではなく、むしろしっぺ返し的な意味が込められているのかもしれないと感じた。
『映像の魔術師 オーソン・ウェルズ』
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