近未来とノスタルジーを融合させた“狂気の天才”クリストファー・ノーランの力技
環境の変化に伴う食糧不足によって人類滅亡の危機が迫る中、移住可能な惑星を探すため、元NASAのパイロットたちが宇宙へ旅立つ。
監督は『インセプション』『ダークナイト』シリーズなどを独特の世界観で描いた“狂気の天才”クリストファー・ノーラン。フィルムへのこだわりを持つ彼は、デジタル全盛の今、あえてこの映画をフィルムで撮っている。
その心意気に応える意味もあり、こちらも丸の内ピカデリーのフィルム上映で見たのだが、これが大正解だった。冒頭の砂ぼこりに覆われたトウモロコシ畑が映った瞬間、1970年代の映画を思い出し、これはいけるぞと感じさせられたのだ。
案の定、近未来を描いたSFの世界と、農場を舞台にしたノスタルジックな雰囲気を併せ持ったこの映画には、フィルムの持つ色合いや質感がよく合っていた。
ノーランは、宇宙空間、時間、次元、重力といった物理的かつ抽象的な事象を、最新の特撮を駆使した映像で表現。そこに、愛を中心とした人間の内面世界と父と娘の愛憎という、哲学と通俗を混ぜ合わせたようなドラマを融合させ、2時間49分を飽きずに見せるという力技を発揮する。もちろん後からよく考えればつじつまが合わない部分も多々あるのだが、見ている間はそれを感じさせない。
ほかにも『2001年宇宙の旅』(68)『未知との遭遇』(77)『コンタクト』(97)『アルマゲドン』(98)『ゼロ・グラビティ』(13)といった過去の映画をほうふつとさせるイメージを盛り込んでいる。
それらの映画にも共通することだが、この映画を見ていると、SFも突き詰めれば、神や超常現象は人間の内面に存在するのでは…という哲学的な考えに行き着くことがよく分かる。
マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャスティン、ケーシー・アフレック、マット・デイモンという旬のキャストに加え、マイケル・ケイン、ジョン・リスゴウ、ウィリアム・ディベイン、エレン・バースティンという大ベテランたちが脇を固めていたところにも、この映画が描いた近未来とノスタルジーの融合が象徴されているようで楽しかった。
「昔は空ばかり見ていたが、今は地面ばかり見ている」byクーパー(マシュー・マコノヒー)
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
ボリウッドの新たな可能性を示した
『チェイス!』
ここで一言↓
「インド映画をシカゴで撮り、
ハリウッドのスタッフが協力したという意味で、
とても象徴的な作品だ」
byアーミル・カーン
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/981561
名画投球術 No.12 いい女シリーズ2「ちゃんと観たことありますか?」オードリー・ヘプバーン
「いい女シリーズ」2回目は、ご存じオードリー・へプバーン。とはいえ、正直なところ筆者にとっての彼女は“女の生々しさ=セックス・アピール”を感じさせる存在ではない。
確かに、ノッポで、やせっぽちで、長い首とギスギスした感じの腕、そしてファニーフェイスでもある彼女の活躍は、それまでのハリウッドの美人女優の常識を覆したが、ハリウッドが同時代に、オードリーの対極としてマリリン・モンローという伝統的なセックス・シンボルを創り上げていたことを考えれば、実は“オードリーこそが異端”と呼ぶべきだったのかもしれない。
つまり、性を感じさせない中性的な魅力こそが、男女を問わず観客を魅了したオードリー伝説の源泉だったのだ。
文句なしの新人王 『ローマの休日(1953・米)』
ヨーロッパ歴訪中の某国の王女アン(オードリー)は、自由のない生活に疲れ、単身ローマの街へと飛び出す。そこで彼女を救ったのが、特ダネを狙う新聞記者(グレゴリー・ペック)。やがて行動を共にするうち二人に恋が芽生えるが…。
いまやラブロマンスの古典となった映画だが、この企画は監督のウィリアム・ワイラーがオードリーを発見しなければ日の目を見なかった。
王女らしい気品と気高さと、少女のようなかわいらしさを併せ持った女優。だが決して生々しい女性を感じさせてはならない。そんな条件を満たす存在は当時のハリウッドには皆無だったからである。
そしてワイラーの巧みな演出と、相手役のペックの好サポートによって彼女はいきなりオスカーを手にするのだ。
あらら、ベテランを手玉に 『麗しのサブリナ(1954・米)』
富豪ララビー家のお抱え運転手の娘・サブリナ(オードリー)は、一家の次男デビッド(ウィリアム・ホールデン)に失恋しパリへと旅立つ。2年後、帰国した彼女は見事なパリ仕込みの美女となり、次男ばかりか堅物の長男ライナス(ハンフリー・ボガート)をも虜にしてしまう。
『ローマの休日』に続いてオードリーの魅力爆発のラブコメディー。
彼女の映画がいまだに多くの人々に親しまれているのは、この映画と『昼下りの情事』(1957)を監督したビリー・ワイルダーや、、前出のワイラー(『噂の二人』(1961)『おしゃれ泥棒』(1966))といった当時の名匠たちが演出し、相手役に年上の名優たちを得、イディス・ヘッドやジバンシーといった名デザイナーが衣装を手掛け…と、まさにみんなが喜んで彼女の引き立て役になったからにほかならない。
カムバックはしたが 『ロビンとマリアン(1976・英)』
長きにわたった十字軍の遠征を終え、シャーウッドの森に戻った英雄ロビン・フッド(ショーン・コネリー)と、今は修道院の院長になった、かつての恋人マリアン姫(オードリー)が再会。二人の間に愛が復活するが、やがて戦乱の中で悲劇が訪れる。
『暗くなるまで待って』(1967)を撮り終えた後、オードリーは一度引退を宣言する。彼女が約10年ぶりにカムバックを果たしたのがこの映画。
ここにはもはや名匠の演出も、年上の名優も、彼女を美しく豪華に飾る衣装もない。しかも彼女の顔には深いしわが刻まれている。
だが皮肉にも、この映画が初めて彼女を生身の成熟した美しい女性として捉えたこともまた事実。その点オードリー映画の中で異彩を放つ。
母性や種の存続をめぐる争いを描く
グロテスクがユーモアを上回る
人間に寄生し、人間に擬態し、人間を捕食する新種の寄生生物(パラサイト)が出現。高校生の新一(染谷将太)と彼の右手に寄生したミギーとの奇妙な友情と、寄生生物との戦いを描く2部作の前編。山崎貴監督がVFXを駆使して、岩明均の人気漫画を映画化しているが、原作は未読なのであくまでも映画としての印象を。
大まかにいえば、寄生生物を媒介にした、新一と母親(余貴美子)の相克劇であり、そこに、何かと新一の世話を焼く人間側の同級生(橋本愛)や寄生生物側の妊娠した女性教師(深津絵里)の存在を加えると、『エイリアン』のように、ホラーの形を借りて、母性や種の存続をめぐる争いを描くという図式が浮かび上がる。
ただ、人間(寄生生物)が人間を捕食する場面などがリアル過ぎて、グロテスクがユーモアを上回り後味が悪い。『モンスターズ』もそうだったが、果たしてここまで執拗に見せる必要があるのかという疑問が残る。今回は新一が母の死を受け入れて独り立ちし、新たに寄生生物に戦いを挑むところで終わっているが、完結編でどう収拾をつけるのか。
“沖田マジック”の術中に心地良くはまる。やはり沖田修一はただ者ではない
『南極料理人』(09)『キツツキと雨』(12)と、僻地での群像劇を得意とする沖田修一監督の新作。今回は“幻の滝”を見に行くツアーに参加した7人のおばちゃんが、山中で迷子になってサバイバル生活を余儀なくされる様子をコミカルに描く。
素人を含むほぼ無名の7人は全員オーディションで選び、妙高高原でオールロケを敢行している。それ故、初めはテレビの再現ドラマを見るような印象を受け、本当にこれで劇映画として成立するのかという疑問を抱かされる。
ところが、最初はただ騒々しいだけに見えたおばちゃんたちが、その素性や本性が明らかになるに連れて、どんどん人間味を感じさせるようになる。
そして、いつの間にか誰かはぐれていやしないかと人数を数えている自分に気付き、苦笑いした時はもう遅い。すでに“沖田マジック”の術中にはまっているのだ。しまいには、おばちゃんたちの輪の中に入って一緒に楽しんでいる自分を見つけることになる。
今回も僻地での群像劇としてきちんと成立させていたのはお見事。いつもは長い沖田作品だが今回は88分でまとめた点も評価できる。やはり沖田修一はただ者ではなかった。
奇しくもというべきか、健さんの後を追うようにして菅原文太が亡くなった。相前後して東映任侠路線を支えた二人だが、その役柄と個性は対照的だ。
ストイックで寡黙な様式のヒーローを演じ続けた健さん。片や文太は、ぎらぎらした欲望をむき出しにするアウトローとして実録路線で活躍した。健さんはクールだが文太は熱かった。健さんが60年代のヒーローならば、遅れてきた文太は70年代のヒーローだともいえるだろう。ファンは、畏敬の念を込めて健さんと呼び、親しみを込めて文太と呼んだ。
彼にはすご味に加えてどこかコミカルなところもあった。深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズの広能昌三、鈴木則文監督の『トラック野郎』シリーズの星桃次郎、岡本喜八監督の『ダイナマイトどんどん』(78)の遠賀川の加助、などはそうした個性を生かした彼にしか演じられないキャラクターだ。長谷川和彦監督『太陽を盗んだ男』(79)の不死身の刑事役、加藤泰監督の遺作『炎のごとく』(81)の会津の小鉄も印象深い。
我が“ベスト文太”はもちろん広能昌三だが、それに勝るとも劣らないのが、山田太一脚本のNHK大河ドラマ「獅子の時代」(80)で演じた元会津藩士のアウトロー平沼銑次だ。
最終回のオープニングはこちら↓
http://www.youtube.com/watch?v=0VFVwiHCt_Q
後年は市川崑監督の数本の映画で演技派としての実力も見せた。中でも『映画女優』(87)では溝口ならぬ“溝内”健二監督を演じ、田中絹代役の吉永小百合とすさまじい演技合戦を繰り広げた。
テレビドラマ「傷だらけの天使」でショーケン演じる小暮修が、一人息子のことを「健太っていうんだけどさ、高倉健の健と菅原文太の太から付けたんだ」とうれしそうに語るセリフも懐かしい。
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
戦争の無意味さや無慈悲、残酷をリアルに描いた
『フューリー』
名台詞は↓
「理想は平和だが歴史は残酷だ」
byコリアー軍曹(ブラッド・ピット)
詳細はこちら↓
http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/980493
千葉の香取神宮に参拝し、最寄りの佐原を散策。
水路と古い町並みが残るこの地は、ドラマや旅番組、CMのロケ地としても重宝されている。
映画では今村昌平監督、役所広司主演の『うなぎ』(97)のロケ地として有名。だからというわけでもないが、名物のうなぎを頂く。美味なり。
佐原は江戸時代に日本地図を作製した伊能忠敬が、前半生の商人時代を過ごした地でもある。その偉業を顧みる記念館もなかなか良くできていた。
伊能の生涯は加藤剛主演で『伊能忠敬-子午線の夢』(01)として映画化されている。
以前NHKで橋爪功主演でドラマ化された、井上ひさし原作の『四千万歩の男』(全5巻)の読破に挑戦してみるかな。