白銀の山並みを見て思い出すこと
(gooブログから1年前の僕のブログが届きました。進歩がないと云いますか、よんでいると、言葉にできない恥ずかしさがこみあげてきます。思い出すのはさらに昔の高校生時代友人と気に入った詩や文章を暗記するという遊びに夢中になっていたころの楽しかった日々ばかりです。今書いているブログを後日読んだとき今の生活を思い出すだろうか、いや決して思いださないだろう。何にも夢中になっていないから、と思え反省しきりです。(T)
正月三が日雪雲に覆われていた我が国の山々は
見事な雪化粧を終えて美しい山並みを見せてくれている。この白銀の山並みを見ていて突然思い出したのが高校2年の頃暗記したカールプッセ作上田敏訳の次の詩である。
『山のあなたの空遠く
幸い住むと人のいう
ああ我人と 尋(と)めゆきて
涙さしぐみ帰りきぬ
山のあなたのなお遠く
幸い住むと人の言う』
カールプッセは1872年《明治4年か?》生まれのドイツの詩人だったと思う。江戸末期から明治の初めに生まれた人でこんな詩を書く人がいたのかとドイツとヨーロッパをいたく尊敬したことを覚えている。その頃私の友人で、「いい詩や言葉に出会ったら全部覚えてしまおうと友人を誘う人がいた。暗記しておけば何かの折にそれを思い出し、そのことがきっと人生を豊かにしてくれると思うんだと彼は言った。私は「そんなに、覚えられないよ」と云ったものだ。でも彼は「心を込めて3回も読めば覚えられるよ」と笑っていた。上の詩もそのような会話の中で覚えた詩だ。
「ああロッテさんさようなら。時計が12時を打ちます」というセリフも文庫本半ページは暗記し合っていた。これはゲーテ作の小説「若きヴェルテルの悩み」の主人公が自殺寸前に恋人ロッテに贈った言葉(日記に書かれていた)である。詩や小説の名文を片っ端から覚えていた友人は大学卒業後地元新聞の記者になり晩年はその新聞の文芸欄を担当していた。
蛇足ながら寒さには2種類あると思われることを記しておこう。幸田露伴の娘の幸田あやが酒飲みの父の夕食の献立を考えるエッセーで書いている。気象情報で今夜は寒いと云っているとつい鍋物にしようかと考えがちだが、私はそこで思いとどまって、吹雪の夜は鍋物、しんしんと冷えそうな夜は逆にパリッとした野菜の浅漬けを出して、熱燗にして貰う。しんしんと冷える時は丹前を着てもらい熱燗にした方が料理もお酒も美味しいと思うからだという。さすがである。寒さには「吹雪」と「しんしん」の二種類あって「しんしん」の方が御しやすい。白銀の山並みの寒さは勝手ながら「しんしん]の方に思われる。
ところで、当時「山のあなたの空遠く」とセットになって友人と競って覚えたのが次のヴィオロンの溜息や島崎藤村の「初恋」だった。何とか思い出せた感じだが少し怪しい。オソマツ君のオソマツな青春の一コマではある。(一部ヤフーによる検索を含む)
上田敏 『海潮音』より
秋の日の
ヰ゛オロンの
ためいきの
ひたぶるに
身にしみて
うら悲し。
鐘のおとに
胸ふたぎ
色かへて
涙ぐむ
過ぎし日の
おもひでや。
げにわれは
うらぶれて
ここかしこ
さだめなく
とび散らふ
落ち葉かな
島崎藤村「初恋」
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて