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映画「アルキメデスの大戦」@ユナイテッドシネマ豊洲(2019/7/29)

2019-08-15 00:45:22 | 映画感想
アルキメデスの大戦。

2019/7/29、ユナイテッドシネマ豊洲、3番スクリーン、E列を選択。
  
菅田将暉、柄本佑、舘ひろし、国村隼、橋爪功、田中泯、浜辺美波、笑福亭鶴瓶。



1945年4月。
鹿児島県沖を行く戦艦大和に襲い来る無数の米軍機。
対空射撃で応戦するも多勢に無勢。
次々と落とされる爆弾と魚雷。
甲板の兵士は吹き飛び、やがて船腹に亀裂を生じた大和は徐々に傾き、
兵士を海に落としつつ、ついには転覆。
そして大爆発を起こし、海中に沈み3000名の戦死者を出した。
(史実では2740名が戦死、約270名が救助)



話は12年ほどさかのぼる。

日本帝国海軍の新型艦製造にかかる会議が海軍省で行われようとしていた。
藤岡喜男造船少将の設計する大型の航空母艦を支持する山本五十六少将(舘ひろし)と、
その上司の永野修身中将(国村隼)に対し、平山忠道造船中将(田中泯)が設計する
巨大戦艦を推すのは嶋田繁太郎少将(橋爪功)が激しく対立していた。

海軍大臣の大角岑生(おおすみみねお、小林克也)も巨大戦艦に魅入られようとしていた。
しかも、山本らの推す航空母艦の建造費見積もりは1億6千万円。
一方の嶋田の推す戦艦の見積もりは9千万円とあって、航空母艦は劣勢を強いられた。

結論は持ち越され、その夜、料亭で対策を話し合う、永野、山本、藤岡。
航空母艦より大型の巨大戦艦の建造費が安いのは解せない。
金額をごまかしているのではないかと息巻く。

憂さ晴らしのために芸者を呼ぶようと女将に指示するが、芸者は帝大生の櫂直(かいただし、菅田将暉)に
独占されていた。

櫂は、尾崎財閥の家庭教師を首になり、帝大も退学、今までの家庭教師代を散財しているのだという。

数学、ことさら数字に美を見出す櫂は、家庭教師相手の尾崎鏡子(浜辺美波)のことで
尾崎財閥のドン、鏡子の父の反感を買い、また、以前尾崎の紹介で嶋田少将と面会した時、
戦艦を金の無駄遣いだとこき下ろし、嶋田に激怒されたことがあった。

暫くして山本は櫂の下宿を訪ね、協力を要請。
一旦は断るが、山本に戦艦を作れば日本はアメリカと戦争になると吹き込まれた櫂は協力することに。



次回の検討会議までわずか2週間。
その間に戦艦の建造費を見積もることは事実上不可能。
さらに平山は一切の設計資料を極秘扱いとして、櫂が見られないように画策していた。

果たして櫂は天才的頭脳を駆使して、平山の不正を暴くことはできるのだろうか。
櫂の動きを察知した平山が打った次の手とは。
時間切れが迫る。

**

冒頭の大和撃沈シーンは見事だった。
史実さもありなんと思わせるに十分。
ラストの大和航行シーンも含め、VFXは見事だった。
「釣キチ三平」や「カムイ外伝」のCG、VFXの悪印象が強かっただけに、
10年の歳月はまさに隔世の感あり。



いくら有能でも全長220m超、全幅35m、4万トンにもなろうかと言う巨大艦長門を
たかが数mの巻き尺で図ることは不可能。

パイプや鋼板のサイズを測ったところで、表面に見える物だけで構造を推し量ることは困難。
まして大和から初めて採用されたバルバスバウ(球状船首)構造や素材について、
在来艦の巻き尺で測れる数字からは何もわからないはずだ。

そもそも細かい積算をせずに鉄の総量と計算式一発で金額がはじき出せるとは思わないが、
仮にそれがはじき出せたとして、建造費がわかるだけ。
平山はなぜそんなものを欲しがったのか理解に苦しむ。

また、金額がいつの間にか建造費から発注額に変わっているのもおかしい。
建造費の積算を発注先に丸投げしているのだろうか。
戦艦推進派が、尾崎造船と言う癒着企業と結託しているのであれば、
空母推進派はなぜ同様の企業を持ってないのか。
企業の出した見積もりが正規の建造費として認定される仕組みであれば裏取引の有無にかかわらず、
安値で請ける企業を持ってない時点で空母推進派の負けは決まったようなものだ。

原作では、平山は櫂の卓越した先進技術を盛り込んだ設計情報を入手すべく画策するようだ。
そのために櫂を懐柔するのであれば、それは十分納得がいく。



原作者は、国立競技場建て替えに伴うごたごたから本作につながるヒントを得たらしい。

大和の建造計画が金で揉めたかもしれないという発想は面白いものの、現実には金額の問題ではなく、
巨艦主義か、航空主力主義かの論争だったと思われる。

第二次大戦以降の巨大戦艦の役割は戦艦対戦艦の撃ち合いによる海戦を制することではなく、
いわゆる艦砲射撃により上陸部隊を支援、あるいは沿岸地域の敵を撃破することが主目的になった。
しかし、これは制海権を掌握し、攻撃地点の射程範囲まで航行できることが前提。
制海制空権を持たず、物量に勝る航空機による攻撃を受ける場合、巨艦は大きな的になるだけ。

ただ、大きな的になるのは航空母艦も同じ。
空母自体の防御力は逆に戦艦などよりも劣るため、空母を主力とした艦隊、
すなわち空母と巡洋艦、駆逐艦、潜水艦などを連携した攻撃群を編成して運用される。

帝国海軍においては、真珠湾奇襲攻撃でアメリカ軍艦隊を航空機によって破壊したにもかかわらず、
空母はあくまでもわき役と考え続け、巨艦主義からの脱却はならなかったようだ。

また、大和は単独の艦ではなく、大和級、あるいは大和型として、2番艦、武蔵も造られているし、
3番艦、4番艦の建造計画もあったようだから、一つの艦だけの価格の問題ではない。
海軍の軍事費全般にかかる配分の問題。



大和を沈めることで戦意を削ぎ、逆に国家滅亡を防ぐとの考えは一見まともだが、
それを自国軍の中枢が意図していたとしたら、それはそれで悲惨だ。

結局のところ、思っていた内容とかなり違った。
監督が描こうとしていたものはかなり矮小化してしまったのではないかとさえ思う。



戦艦大和がなぜ作られたのか、大和は作られるべきだったのか、乗組員の悲劇、戦争の悲惨さなどには
一切関係なく、今なお人々を魅了するその姿は美しい。
大和ミュージアムには、なんと1/10(全長26.3m)の模型があるそうだ。

現在は戦艦はすべて退役しているが、軍事オタクでなくても戦艦に魅せられるのは、
洋の東西を問わないようで、近代兵器が太刀打ちできない宇宙からの敵を記念館となっている
戦艦ミズーリをもう一度動かして撃破するハリウッド映画がある。
(2012年の「バトルシップ」)

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