明日に向けて

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明日に向けて(1837)感染症対策「森を見る」思考を―何が日本と欧米を分けたのか―新型コロナの影響を民主主義的に越えるために(30)

2020年06月30日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1701~1900)

守田です(20200630 23:30)

新型コロナウイルス感染症の第一波が収まり、緊急事態宣言が解除され、都市間の移動自粛要請もなくなりました。
感染は小規模ながら相変わらず続いていており、油断はならないですが、すぐに第二波が起こるとは言えなさそうです。
この時期に第一波の経験からの学びを行うために、一時期、中断していた新型コロナに関する連載を再開していきたいと思います。


専門家会議が編み出した戦略はやはり妥当だった!

今回掲げたタイトルは、外務省発行の外交専門誌『外交』Vol.61の巻頭によせられた押谷仁さんへのインタビュー記事のタイトルです。分かりやすいのでそのまま使わせていただきました。
以下よりご覧になれます。読み応え抜群ですのでぜひご一読ください。今回はこれをてがかりに話を進めます。

外交専門誌「外交」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/gaikou/vol61.html


外務省webサイトより

新型コロナウイルスへ感染症対策が良かったのか、悪かったのか。これを「死者数」でみることに大きな抵抗を感じる方がおられる点に配慮し、これまで論じることを躊躇していたのですが、しかしこの間、この点に注目が集まっているのも事実です。
とくに4月ごろに、専門家会議を中心とした日本の新型コロナ感染症対策を、「古すぎる」「世界のトレンドから遅れている」「竹やりで突入するようなもの」などと語っていた方たちから「ファクターX」などという言葉が出てきています。
自分たちの予想が全く当たらなかったので、「感染症が広がらなかったファクターX」を探し出しているのですが、なんとも誠実さがないなあと思います。渋谷健司氏など「東京はもう手遅れ」と危機を煽りまくっていたことの捉え返しも行わない。

しかし世界のトレンドとは何ったのでしょうか。欧米のやり方だったのでは。そしてそれでは感染拡大を抑えられなかったのではないでしょうか。痛ましい死者の拡大が起こってしまったのではないでしょうか。
やはり専門家会議の打ちだした戦略が妥当だったのでは?この捉え返しが大切なのでは?日本の対応を「時代遅れ」と語っていた方たちは、この点に踏み込もうとしません。自らが間違っていたことになるからでしょう。
しかしそれでは何が正しかったのかを検証できません。そればかりか今回、せっかく効果があった対応方法を次の感染症対策で手放すことになりかねません。

今後も感染症に立ち向かっていくためには、優れた経験に学んで継承することが大事です。
安倍政権が、専門家会議をひどい形で解散することで、政権と専門家会議に大きな隔たりがあったこともより鮮明になったいま、ぜひ公平な目で学びを深めたいです。


何が日本と欧米を分けたのか

これまでこの点を、専門家会議の方があまり明確に語ることはなかったように思いますが、今回、押谷さんは鮮明に語っておられます。引用します。

感染症対策「森を見る」思考を
http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2020/06/Vol.61_6-11_Interview_New.pdf

***

「データを見れば、欧米諸国と日本でどちらが有効な対応なのかは明らかです。両者の違いは、感染拡大を止める戦略にあります。ひと言でいえば、日本の戦略は「森を見て全体像を把握する」ことで、ニューヨークをはじめ欧米諸国は「木を見る」方法だと言えます。
欧米諸国は、感染者周辺の接触者を徹底的に検査し、新たな感染者を見つけ出すことで、ウイルスを一つ一つ「叩く」ことに力を入れてきました。しかし、日本だけではなく各国のデータから、接触者の陽性率は非常に低いことがわかっています。
一方で、通常の方法では見つからないような軽症例や、無症状の感染者からも感染が起こり得ます。したがって、そのような対応は感染拡大阻止にはさほど有効ではない上に、たいへん非効率な消耗戦となってしまったのです。
一方、日本の戦略の肝は、「大きな感染源を見逃さない」という点にあります。われわれがクラスターと呼ぶ、感染が大規模化しそうな感染源を正確に把握し、その周辺をケアし、小さな感染はある程度見逃しがあることを許容することで、消耗戦を避けながら、大きな感染拡大の芽を摘むことに力を注いできたのです。
そのような対策の背景には、このウイルスの場合、多くの人は誰にも感染させていないので、ある程度見逃しても、一人の感染者が多くの人に感染させるクラスターさえ発生しなければ、ほとんどの感染連鎖は消滅していく、という事実があります。」

とても重要な点だと思います。
世界のトレンドだとして、例えば児玉龍彦氏などが強調していたのは検査の徹底です。「感染者周辺の接触者を徹底的に検査し、新たな感染者を見つけ出すことで、ウイルスを一つ一つ叩く」のです。しかしそれは「非効率な消耗戦」になってしまった。
なぜか。大事なポイントは「このウイルスの場合、多くの人は誰にも感染させていないので、ある程度見逃しても、一人の感染者が多くの人に感染させるクラスターさえ発生しなければ、ほとんどの感染連鎖は消滅していく」点です。
多くの方が感染を絶対にしないさせないとピリピリしていた時には、明示的に言えなかったように思えますが、「ある程度見逃して」も良いことは、とても重要なのです。欧米ではこの点が把握できなかったので、あまりに非効率に医療資源を消耗させてしまいました。

これは地道な追跡調査で分かったことでした。感染者10人のうち実に8人は誰に感染させてなかった。残りの2人のうちの1人も1人にしか感染させていなった。しかし最後の1人がクラスターを作ってしまっていた。
それがどうしてなのかを分析して得られたのが、クラスターが特定条件下で起こることでした。こうして編み出されたのが「3密を避ける」戦略でした。欧米各国はこの方法に至れなかった。ぜひクラスター対策を摂り入れて欲しいです。
日本はだからこそ、厳格なロックダウンも行わず、欧米から比べたらかなりゆるゆるの「自粛」で乗り切ることができたのです。ウイルスを「一つ一つ叩く」方策を採らないことが懸命だったのです。


『外交』Vol.61より

アジアは戦略を共有している

さてこのように書いてくると、感染拡大を上手におさえ、死者数を少なく抑えられたのは日本だけではない。韓国や台湾の方が、人口当たりの死者数が少ないと言うご指摘がでてくるのではと思います。
まったくその通りなのです!その点で優れているのは日本の専門家会議だけではありません。アジア各国の戦略が優れていたのです。
どうしてなのかというと、ベースに同じ戦略を共有しているからです。Field Epidemiology Training Program(FETP)です。

日本は1999年より始めていますが、タイ(1980年)、台湾(1984年)、フィリピン(1987年)などで日本よりも早くFETPが設置されている国があります。
韓国(2000年)や中国(2001年)もこれを設置しており、それぞれの担当者が国を越えたネットワークを形成してきて、SARS,MARS,新型インフルの経験を共有してきたのです。その中でクラスターを追跡し、感染を抑えこんでいく戦略が研ぎ澄まされてきた。
今回、どれだけ情報交換が行われ、互いの戦略を学びあったのかのリアリティまでは分かっていないのですが、これらの戦略を有している国の新型コロナ対応が、どこでも比較的うまく感染を抑えこめたことは事実です。

その点でも専門家会議は、安倍政権の枠に収まらないスケールを持っていました。20年間にわたる感染症対策の経験を、各国の専門家とともに共有してきたからです。
しかし安倍政権ならず日本の歴代政権は、この意義をまったく理解せず、感染症研究会や保健所の予算や人員を大幅に削ってきました。検査体制も伸ばそうとはしませんでした。
その逆風の中でも、これらの方たちが研究と実践的トレーニングを連綿と積んできたことが、今回、大いに役立ちました。ぜひここに注目して欲しいです。

「FETP」をご存じですか?
日経メディカル 20100427
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kansen-j/201004/514877.html


日経メディカルの記事より

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#新型コロナウイルス #専門家会議 #押谷仁 #クラスター対策 #ロックダウン

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