守田です(20170525 23:30:00)
前回に続いていわゆる「8000ベクレル問題」についての整理をさらに進めたいと思います。
5、8000Bqが出されてきた根拠を探る
まずこの数値が出されて来た根拠を探りたいと思いますが、そのためには放射性物質に関するこれまでの規制法をおさえておく必要があります。ここで問題にすべきものは以下の二つです。
核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32HO166.html
放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32HO167.html
原子力規制委員会のホームページではこの法律が以下のように説明されています。
https://www.nsr.go.jp/activity/ri_kisei/kiseihou/
「放射線障害防止法は、放射性同位元素や放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によって汚染されたものの廃棄などを規制することによって、放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的に制定された法律です。なお、放射性物質の規制は、同法のほか、原子炉等規制法、医療法、薬事法、獣医療法等においても行われています。」
ここでおさえておくべきことは、この法律では、放射性物質ごとに管理対象となる総量と濃度の双方が規定されており、その値を越えると管理すべき放射線同位元素とするとされていることです。具体的なことは「放射線を放出する同位元素の数量等を定める件」で規定されており、セシウム134と137に関しては10000Bq/kgベクレル以下のものは「放射線同位元素」とみなされないとなっています。
放射線を放出する同位元素の数量等を定める件
端的に言って、この「10000Bq」という規定との整合性をつけるために、それ以下の数値としての「8000Bq」が出された可能性が濃厚です。
6、8月に発表された16都県の焼却場データの重要性
続いてみておくべきことは、2011年8月に環境省が放射性物質が大量に検出されている16都県の焼却場の灰に含まれる放射能汚染データを公表していることです。まずはこの重要なデータを示しておきます。
16都県の一般廃棄物焼却施設における焼却灰の放射性セシウム濃度測定結果一覧
https://www.env.go.jp/jishin/attach/waste-radioCs-16pref-result20110829.pdf
なぜこの時期に発表されたのでしょうか。前回、述べたように東京都はすでに3月の段階で汚泥のものすごい汚染を把握し始めていました。当然にもこの事実は環境省に報告されていたはずです。しかし環境省はこの段階では動きませんでした。なぜでしょうか。推論されるのは、2011年3月に東北・関東の焼却場で日々作りだされている焼却灰の放射線値を測ったら、恐ろしい数字が出てしまう可能性があったことです。ヨウ素131をはじめ、半減期の短い核種が廃棄物の中にまだ大量に存在していたからです。この時点できちんとした調査を行えば、焼却そのものが続けられなくなるようなデータが各地から出てきてしまったでしょう。そして各地に処理のできない膨大な廃棄物が生まれ、社会的混乱が生まれ、それだけで原子力政策は完全に命脈を絶たれたでしょう。
このため環境省はすぐに都道府県に焼却灰の放射線値を測ることを指導しなかったのだと思われます。そして事故から80日以上が過ぎて、放射性ヨウ素131が1000分の1以下に減衰した6月になって初めてこうした指示を発したと思われます。この後、8月24日までに16都県に焼却灰に関するデータを提出させています。ではなぜ反対にこの時期に測ったのかというと、まだまだ大量に残留しているセシウム137は半減期が30年ですぐには減衰しないこと、同時にセシウム137は放射性物質の中でも例外的に測りやすいものであり、政府が測らずとも市民放射能測定所などによって計測されてしまうため、対処が必要とされたからでしょう。
ただこれらの経過を考察すると見えてくるのは、政府は各地の焼却場の焼却灰のリアルな計測をすることなしに8000ベクレルという規制値を先んじて決めざるを得なかったのではないかということです。すでにセシウムの汚染が社会的に見えて来ていたので、対応を急がねばならなかったからです。しかし8月24日に出そろったデータを見てみると、各地で8000ベクレルを大きく超えてしまう焼却灰が出てきてしまいました。環境省にとっても深刻な事態であったと言えます。
この事実の重要性に関しても僕は記事を発しました。
明日に向けて(443)岩手県における放射能汚染の実態(がれき問題によせて) 2012年4月3日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/8bfff14a348072520dd72985df1ab067
明日に向けて(462)東日本全域で放射性物質が大量に燃やされ、濃縮されている!その1 2012年5月2日
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/fb16143656f0bffe1a9ebaf9b29f4bc2
後者の記事の中で僕は焼却の恐ろしさを以下のように指摘しました。
「このところ、連日、「がれき」問題の分析を深めてきましたが、その中でみえてきたのは、「がれき」にとどまらず、ゴミの収集、運搬、焼却という現代社会が作り出したシステムが、まるまる人為的な、放射能の濃縮過程になってしまっているというとんでもない事実です。すでにこのことに気づいていた方には、何をいまさらと指摘されてしまうかもしれませんが、これは本当に、もの凄く、大変なことです。
とくに日本のように生産力が高く、それだけに日々、大量の廃棄物を発生させ、そのために、ゴミの収集、運搬、焼却、(灰の)埋め立てという巨大な処理システムを作りだしてきた「先進国」にとっては、広域汚染事故の恐ろしさの第一に数え上げられるものの一つともいえるのではないか。なぜならこの濃縮は、自然の中での生態濃縮などとは較べものにならないスピードで進むからです。何せ近代化の中で高められてきた生産力そのものによって濃縮しているからです。」
ぜひこのことをリアルに捉え、次のように考えていただきたいのです。まず東北・関東にお住まいの方は、先にあげた16都県の焼却場データに着目してください。何よりみていただきたいのはご自分のお住まいの周りにここに書かれた焼却場がないかどうかです。ある場合は近ければ近いだけ、これまで、長期にわたって高濃度の放射能を浴び続けてきた可能性があります。ここに書かれたデータはある一日の焼却に関するものですが、実際の焼却は365日×6年以上、続けられて来ているわけです。どんなに膨大な放射能が濃縮して発せられて来てしまったかが見えてくると思います。
この場合、もっとも危険性の高いのは、焼却場の職員の方です。もしこの記事を読まれている方にこうした施設の職員の方のお知り合いがおられる場合は、ぜひ健康診断を受けるように進められてください。とくに心臓検診を重視されてください。心臓の病は死に直結するので一番怖いですから。
次に危険性の高いのは焼却場の近隣に住まわれている方です。煙はやはりその多くが周辺に落ちます。このため焼却灰の濃度の高い焼却場の周りに住まわれている方には、いまからでも避難移住されることを強くお勧めします。この場合、放射性被曝は少しでも減らした方が有利ですから、とりあえず焼却場から離れるだけでも効果があると思いますが、被曝が長期間、継続してきたことを考えるならば、やはり西日本に向かわれるのがベストです。
「放射性廃棄物」問題を考えるとき、私たちはすでに相当量のものが焼却され、人々の上に降り注がれた事実に着目しなくてはなりません。膨大な量の放射能を浴びせられてしまった人々の心身をいかに守るのか、その上でこうした被害を今後いかに防遏するのかが、やはりこの問題の最重要ポイントなのです。「放射能汚染防止法」もこうした観点の上に築かれる必要があると僕には思えます。
しかしこの国の官僚達はそのようには考えなかった。8000ベクレルを「軽く」越えてしまう焼却灰など、新たに設けたゆるゆるの規制値ですら追いつけない大量の放射性廃棄物が出て来てしまったからです。
このため政府は2011年8月30日に制定した「放射性物質汚染対処特措法」を見直さざるを得なくなったのですが、実はもともとこのことは織り込み済みであったことも伺えます。この法律自体に「3年経った後の振り返り」を行うことが書き込まれていたからです。かくして2015年3月31日に「放射性物質汚染対処特措法施行状況検討会」の第一回会合が開かれましたが、ここでなされたのもまたしてもこの法律の矛盾の拡大でしかありませんでした。被曝の放置はなんら是正されず、より踏み込んだ容認がなされました。そしてこの中で、8000ベクレル以下の原発汚染土を公共事業などで使用するという新たな方針への布石も打たれたのでした。
続く
今回も5月28日の学習研究会の案内を貼り付けておきます。
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放射性廃棄物拡散問題第8回学習研究会
場所 市民環境研究所(京都市左京区田中里ノ前21石川ビル305)
主催 NPO法人・市民環境研究所
呼びかけ 石田紀郎(市民環境研究所代表理事)
守田敏也(フリーライター・市民環境研究所研究員)
参加費 若干のカンパをお願いしています。
連絡先 090‐5015‐5862(守田)