守田です。(20151231 14:00)
高浜原発再稼働の動きに対する分析といかに対処すべきなのかの提案の最後に、これまでも繰り返してきた原発事故への備えについて語りたいと思います。
これまで見てきたように、政府と原子力村が原発の再稼働や輸出に走ろうとしていることの背景には、東芝や三菱の大苦境が横たわっています。
このままでは原子力産業が倒れるばかりか日本の基幹産業の危機にも発展しかねない。そのことを背景に再稼働や輸出が連動しながら強行されようとしています。
しかしこの危機は、あまりに危険で制御しきれない原子力エネルギーに固執しているがゆえに生まれた危機であって、脱原発こそが実は経済的にも最も合理的な選択です。
高浜原発の固有性について触れるならば、この原発も一足先に再稼働を強行した川内原発と同じ、三菱重工製の加圧水型原発です。したがって同じ弱点を持っています。
この中で最も大きいものは蒸気発生器がトラブルを続けてきたことで、実際に美浜原発ではギロチン切断と呼ばれた一次冷却水の配管の完全切断事故が起こりました。
加圧水原発の一時冷却水は150気圧に加圧され、300度の高温で回っているため、配管が破断すれば冷却水は一気に外部に漏れていきます。
このためこのときも冷却剤喪失によるメルトダウンまで寸前のところまで事故が進展しました。
三菱重工はこの構造的欠陥に対して、点検時にピンホールがあいたり、摩耗して薄くなったりした細管に栓をする対処を行い、一定期間が過ぎると交換をするようになりました。
しかし蒸気発生機の交換はもともとの設計仕様になかったことであり、交換時には気密性と耐圧性が問われる原子炉格納容器に大きな穴をあけなければならなくなりました。
またこの危機につながる配管も一旦切断し、再度、接合しなければなりません。これらを放射線値の高い環境下で行わなければなりません。
この蒸気発生機の交換の様子を記したビデオクリップがネットにあがっていたので紹介します。(残念ながら出典は分かりませんでした。)
美浜原発蒸気発生器交換について
http://www.dailymotion.com/video/x2e3gaw_%E8%92%B8%E6%B0%97%E7%99%BA%E7%94%9F%E5%99%A8%E4%BA%A4%E6%8F%9B_tech
まず問題なのはこのような交換は設計時に想定されていなかったのですから、明らかな設計ミスであり、この段階でプラントとしてはアウトだということです。
実際、先にも述べたように格納容器は内部の大型機器の交換を前提に設計されていません。このため本来ならば蒸気発生器がトラブルを起こした段階でこの炉は使用を中止すべきなのです。
どうしても原発を稼働させたいのであれば、少なくともこの蒸気発生器の欠陥をきちんとクリアして、交換など必要のない加圧水型原子炉を再度、設計しなおすべきなのです。
蒸気発生器の交換は小手先の対処であり、耐久性の問われる格納容器や主要配管を自ら切断して行うのですから、安全性を著しく損なうものでしかありません。
さらにより決定的なことは新しく交換した蒸気発生器でも不具合や事故が起こってしまっていること。三菱重工が技術的限界をいまだに超えられていない事です。
このため2009年、2010年に相次いでこの機器を三菱重工製の新型に変えたアメリカのサンオノフレ原発3号機で2012年1月に一次冷却水漏れ事故が発生。
すぐに原発を緊急停止させて新型で運転していた2号機、3号機双方を点検したところ、配管の異常な摩耗等が15000カ所も見つかりました。運転後わずか1年と数ヶ月でです。
アメリカ原子力規制庁が徹底した調査を行う中で、問題は修理などによっては克服できないと判断され、同原発は廃炉になってしまいました。
このことで三菱重工は、原発の所有者であるサザンカリフォルニアエンジン社から9300億円の損害賠償訴訟を起こされています。
川内原発再稼働強行に続く、高浜原発再稼働の動きは、直接的にはこうした苦境にある三菱重工救済の位置性が高いと思われます。両原発ともに三菱重工製だからです。
トルコのシノップへの輸出が狙われているのも同じく三菱重工の原発です。再稼働も原発輸出も、東芝のみならず三菱重工の苦境へのサポートの位置を大きく持っている。
この判断はまったく間違っています。アメリカ規制庁が正しくも判断したように、三菱重工には蒸気発生器の問題を超える事はできていないのです。だからこんなことを強行したらさらに危機も拡大するだけです。
さらに私たちが腹をくくって見据えておかなければならないのは、このように原発の再稼働も輸出も、瀕死の状態の原発メーカー救済策として強行されようとしているからこそより危険だということです。
原発への関わりをめぐってリーマンショック以来、すでに7年もの間、不正会計という経済犯罪を続けてきた東芝や、それを見抜けなかった経産省や監督官庁に、原発の安全な管理などできるわけがありません。
また三菱重工も、アメリカ原子力規制庁の調査の中で、実は事前に不具合を知りながら運転を強行した事が指摘されています。だから廃炉にされてしまったのです。
東芝も三菱重工もこれまで原発の稼働において誠実な態度をまったくとってきませんでした。いつも問題の隠蔽を繰り返してきました。それが捉え返されずになぜ誠実な関わりが期待できるでしょうか。
これまでも危険性を無視し、科学的知見を何度もねじ曲げて運転を強行してきたのが原発メーカーです。これを容認し、それどころかかばい続けてきたのが歴代政権です。
このような人々が瀕死の状態で、目先の利害だけ考えて再稼働を強行しようとしているが故に、もはやこれまで以上に危険である事を私たちはしっかりと認識すべきです。
その上、高浜原発も川内原発と同じく4年以上も止まっていたのであって、その点からだけでも再稼働にリスクがあることが付け加わります。
これまで世界で4年以上止まっていた原発が再稼働されたのは14例しかなく、その全てで稼働後に大小の事故が発生していると言われているからです。
この事態を前に、私たちがなすべきことは第一に原発再稼働反対の声をこれまで以上に高める事です。高浜の再稼働を許さない運動、川内をもう一度止める運動が必要です。
それと同時に、第二に原発災害に対する市民側からの対処、原発から命を守る知恵と体制を積み上げていく事が今こそ必要です。
多くの人々が原発の危険性を語っている訳ですが、しかしそのリアリティを深めるために、もはや原発に反対する全ての人が最低限、安定ヨウ素剤を手にし、災害時のパーソナルシミュレーションを持って欲しいと思います。
またそのための論議をあちこちで巻き起こしていただきたい。災害対策ならば原発賛成・反対をひとまず横においておいて話ができるからです。
原発に反対しているみなさんにぜひ呼びかけたいのは、原発に賛成している多くの人々とこうした会話を行える場を積極的に設けて欲しいという事です。
端的に言って、賛成している人の過半は政府と電力会社に騙されています。過酷事故の可能性が十分にあることをしっかり自覚しながら原発賛成を唱えている人等ほとんどいません。
このためもし事故が起こったらこの方たちが一番、被害を受けてしまいます。適切に逃げる事等できないだろうからです。僕はそれも避けたいと思うのです。そのもとには多くの子どもをはじめ、判断主体ではない人々もたくさんいます。
一方でもしそこまで考えて賛成を唱えているのならば、その方とは即時、実効性のある対策の積み上げ、避難対策の策定などで合意できるはずです。
だからこそ、より広範に原発の危険性と向きあえる可能性を持つものとしての原発災害対策、原発からの命の守り方をみんなで広げていきたいと思います。
しかもこの知恵は、現に福島原発事故で飛び出してしまった放射能からの身の守り方にも直結しています。
さらに災害心理学や災害社会工学の知恵を援用する事で、水害や土砂水害など、災害全般への対処能力をも同時に向上させていく事ができます。
多くの人々が命を守るすべを身につけていく事、命を守る力を向上させていく事、ぜひこのことに一緒に取り組みましょう。
本年10月末に上梓した『原発からの命の守り方』に、僕はそのエッセンスを詰め込みました。
これ自身はまだまだたたき台だと思っています。多くの方とさらに知恵を練り上げてバージョンアップしていきたいですがまずはぜひこれを広めて下さい。
同時に僕が関わっている兵庫県篠山市では2016年1月末から、安定ヨウ素剤の住民への事前配布を開始します。ぜひこの篠山方式を全国に広げていただきたいです。
そのために僕は来年もこの領域に、持てる力のすべてを投入して奮闘します。核のない世の中の実現のため、すべての命を放射能から守るため、ともに歩みを進めましょう!