守田です(20240325 23:30)
『福島第一原発事故の「真実」』(講談社文庫)の読み解きの続きです。
3月10日のJR奈良駅前スピーチでもこれに触れています。8分30秒~16分50秒ぐらいです。
前回は、1号機が冷却できないままメルトダウンに至り、危機を進行させてしまったこと、その際、イソコンという冷却装置に吉田所長らが翻弄されたことを見てきました。
さらに吉田所長の奇策として始まった消防車注水が、まったく成功しておらず、12日間も冷却できずに核燃料が格納容器に落ちてダメージを与え、損傷させてしまったこと。そのまま破局には至らなかった原因が未解明なことを見てきました。
今回、さらに1号機は津波による電源喪失より先に、地震で配管損傷していたのではないかという重大な点を論じます。なおこれは『福島第一原発事故の「真実」』では取り上げられていない点です。
● 田中三彦さんが指摘する配管損傷による冷却材喪失
東電は福島原発事故を深刻化させたものを津波としていますが、これをひっくり返す上述の指摘が事故直後よりなされていました。
行ったのは元日立の圧力容器設計者でサイエンスライターの田中三彦さん。2011年3月26日に原子力資料情報室の記者会見で発表されました。僕はこの時「明日に向けて」に田中さんの見解の要約とノートテイクを載せたのでご紹介します。
明日にむけて(5)冷却材喪失事故=大事故の可能性が隠された? 2011年3月28日
https://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/c587a4b12542da359d0ea03a16079ab4
原子力資料情報室の記者会見で講演する田中三彦さん 2011年3月26日 JUNS STUDIOより
田中さんが注目したのは、運転時には70気圧もあった原子炉圧力容器が、12日午前2時45分に8気圧まで落ちていたこと。代わりに格納容器の圧力が通常の1気圧から8気圧にまで上がり、危機を感じた吉田所長がベントを決断しました。
同時に吉田所長は消防車を使った注水を試みましたが、この際、1号機に特徴的なのは、2号機、3号機では苦労するSR弁を開けて圧力容器内の圧力を下げる作業がなかったことです。
それでどうして圧力が急激に下がったのか。田中さんはそこで「原子炉から出ている幾つかの配管のどれかが損傷し、冷却材喪失が起きた可能性がある」と指摘されたのです。
これは重大な問題を含んでいます。地震による配管損傷で冷却材を喪失した事実は、原発の耐震性が足りてないことに直結するからです。全ての原発の見直しが必要であり、耐震性を上げて作り直した原発以外は動かしてはならないことになります。
後に国会事故調に参加し原発の耐震性の問題を明らかに IWJ 20130302 より
原子力発電の問題点とこれからを考える 田中三彦氏・後藤政志氏講演 | IWJ Independent Web Journal
● 『福島第一原発事故の「真実」』にも配管損傷の可能性が垣間見えている
今回、NHKの書を読み込んでも、残念ながら田中さんのこの重大な指摘が反映されてないのですが、しかし同書にはこんなことも書かれています。
「中央制御室では、1号機の原子炉圧力低下のスピードが速すぎると思っていた。原子炉の温度低下のペースも速かった。マニュアルでは、イソコンを作動させた後、1時間あたり55℃以上のペースで温度が下がる場合は、停止することになっていた。急激に冷やされることで鋼鉄製の原子炉や周囲の金属が収縮して部材に悪影響を与えるのを防ぐためだった。」(『同書』ドキュメント編32ぺージ)
一方この少し先にこんな記述が出てきます。「原子炉停止から、40分後。およそ300℃だった原子炉の温度は、180℃まで下がった。原子炉は、順調に冷却されていた」(同33ページ)
おかしくはないでしょうか。先に「1時間あたり55℃以上のペースで温度が下がる場合は、停止することになっていた」はずなのに、40分で120℃も下がりながら「順調だと思っていた」というのです。矛盾しています。
さらに『同書』検証編には、こんな記述が出てきます。「圧力計を見ると、およそ8気圧だった。原子炉圧力は11日午後8時台は69気圧だった。原子炉圧力を下げる措置は何もしていなかった。いつの間にか、69気圧が8気圧へと大幅に下がっていたのである。吉田は首をひねった」(『同書』検証編 142ページ)
これもおかしい。本当に吉田所長は「首をひねった」だけだったのでしょうか?圧力が急激に抜けた要因として「配管損傷」を思いつかなかったのでしょうか?
『福島第一原発事故の「真実」』にも1号機原子炉の急激な圧力低下への現場の戸惑いが記載されている
続く
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